勇者、悪夢にうなされた果てにつき・肆
ー チュン!チュン!チチチ・・・!
「ん、んんー!あー・・・ダル重・・・。」
窓から差し込む明かりに目を覚ますと、身体の火照りと共に僅かな倦怠感を感じる・・・。
昨日は早く寝たつもりだったが、どうやら、疲れは取れていないようだ。
「でも、なんだろ・・・。すごく・・・いい夢だった気はする。あとなんだろ・・・。すごく、目が覚めてからサカエくんの顔がチラつく・・・。」
「うー・・・?」
起き上がったミラに反応して、スライムが、布団の上に乗ってくる。
「あ、おはよう・・・。スライムちゃん。」
「うー・・・。」
頭を指先で撫でると、スライムは気持ちよそうに目を細めたが、なにかに気付いたのか、うにょーんと、手?を伸ばしてミラの額に置いた・・・。
「うぅー?うー?うーうー?」
「え?何?もしかして、熱があるのかな?」
自分でも、手を額に当てると、いつもよりも熱い気がする。
どうやら、風邪を引いてしまったようだ・・・。
「えー・・・。風邪なんて何年ぶりだろう・・・。子供の時は、身体が弱くて、よくひいたみたいだけど。」
「うー・・・。」
「あはは・・・大丈夫だよ。あまりにいい宿だったから、少し気が緩んだだけさ。また、戦闘に戻って気を引き締めれば、治る治る!」
ゲンキー♪と両腕で力コブを作ってみせると、ミラは布団を抜け出し、布団を軽く畳むと、身支度を整える。
身支度を整え終えた頃、襖から声がかけられ、外から仲居さんが顔を覗かせた。
「おはようございます、勇者様。お食事の時間ですが、お支度を・・・あら?大丈夫ですか?お顔が赤いようですけど・・・。」
仲居さんはミラの顔を見ると、瞬時に体調不良を見抜き、心配そうに駆け寄ってくる。
さすが、接客のプロ。接客で磨かれた観察眼は伊達じゃない。
「あ、あはは・・・。少し気が緩んでしまったようです。」
「大丈夫ですか?よろしければ、もう一泊されませんか?」
「いえ、仲間が王都で待ってますので、出立します。道中でも、この子を送って行かないと行けないので・・・。」
「そうですか・・・。あまり無理されないでくださいね。体調が悪化しそうなら、直ぐにでも、休まれてくださいね?」
「えぇ。そうさせて貰います。」
仲居さんの心配に、できるだけ心配をかけないように笑顔で頷くと、食事の準備をお願いした。
荷物をまとめ、チェックアウトを済ませると、ミラはスライムを頭に乗せて、テクテクと坂を降りる。
「勇者様、元気なかったわね・・・。朝ご飯も残されてたし。無理やりでも出立を止めるべきだったかしら。」
頬に手を当て、仲居さんは心配そうに、少しふらつく背中を見送っていた。
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少し歩いて、村の中央へとやってくると、リアとアダンが足湯をしながら、話していた。
「おはよう、ミラ。」
「あ、勇者様。おはようございます。宿はどうでしたか?サカエさんが泊まった宿に向かったんでしょう?」
「二人とも、おはよう。宿も食事もとても良かったよ。」
二人に近付き、二人の横に腰を下ろすと、小さく息を吐く。
「宿から出てきたばかりだというのに、お疲れみたいですね?慣れない場所で寝つけませんでしたか?」
「顔も赤いけど、大丈夫?」
「少し気が緩んだだけだよ、大丈夫。それより、アダンさん。お話していた聖剣ですが。」
「あ、聖剣の調整ですよね。分かりました。お預かりしますね。今、朝方なので、昼前には仕上がると思います。」
二人の心配に笑顔で頷くと、話題を変えようと背中の聖剣をアダンに手渡す。
聖剣を受け取ったアダンは、足湯から抜け出すと、聖剣を両手に店へと帰っていった。
「昼前か・・・。それまで、少し、辺りのモンスターを討伐してこようかな。」
「聖剣がなくても大丈夫か?体調も悪いみたいだし、少し私の家で休むといい。寝るだけでも、あんたの場合は回復しちゃうでしょ?」
「大丈夫・・・とは正直、言い難いんだよね、実は。サカエくんが泊まってたと思ったら、色々はしゃぎちゃった・・・。今、すごく眠いよ。」
「まるで、初めて恋した少女のようなことを言うな・・・。友人ながら、心配になるぞ。とりあえず、家で休め。」
足湯から出たリアは、タオルで足を吹き上げると、ブーツに履き替え、家へと誘う。
「私は今から、街の警邏と共に、魔王の遺跡の調査をしてくる。先日の黒い少女に破壊されてから封鎖しているが、人気の無くなったところを盗掘者が狙ってくるかもしれない。」
「魔王の遺跡かぁ。そこも見に行きたいなぁ。」
「今はスライムの巣になっているがな。あぁ!そうだ、そういえば、アダンから面白い話を聞いたぞ。体調が戻ったら、話そう。」
「うん。」
部屋は好きに使えと、手を振り部屋を後にするリア。
リアを見送ると、水筒を取り出し、中身に口を着けた・・・。
「うぅー?」
「あはは・・・大丈夫。ただのお茶だよ。お湯の話は冗談。」
水筒を眺めていたプチシルクに、苦笑を浮かべると部屋のソファに腰を下ろす・・・。
「なんだろ・・・。本当、身体が熱いなぁ。それに、なんだろ。すごく、お腹の奥がジンジンする・・・。まるでそこになにかあるみたい・・・。」
下腹部を抑え、顔を火照らせたミラは虚ろな表情で天井を見上げる。
あの宿を訪れてから何か変だと、感じていた。
風邪と言うにはそれとは違う気なにかが身体の中で起きている気がする・・・。
身体が熱くて仕方ない。おまけに、さっきから、サカエの顔がチラついて仕方がない。
「そう・・・。ずっと、サカエくんのこと考えちゃうんだ・・・。勇者なのに・・・頭の中がずっと、魔王や民のことよりも先に、サカエくんのことを考えちゃう・・・。どうしよう。こんなの、勇者失格だよぉ・・・。」
深くため息を吐きながら、ミラは天を仰ぐ。
「うぅー・・・?」
ぴとりと、プチシルクが首の周りに巻き付く。
「あー・・・ひんやりして、すごく気持ちいいよ・・・。ありがとう、スライムちゃん。」
「うぅー♪」
まるで、水袋を首に巻いたような感覚に、ミラは目を閉じ、身を任せる。
「どうしよう・・・少し眠くなっちゃった。」
ミラはソファに、ことりと横になると、クッションを頭に敷いて目を閉じる・・・。
そのまま・・・ゆっくりと・・・ミラの意識は眠りの中へと落ちていった。
「う?う・・・。」
ミラが眠ったことに気付いたプチシルクは、ミラから離れると、ベッドにハネ乗り、薄手の毛布を手繰り寄せる。
そのまま、ズルズルと、毛布をミラの元に持ってくると、器用に毛布でミラを包み込んだ。
「う、う、う、ふぅー・・・。」
まるでオカンのようだった・・・。
そのまま再び、ミラの額に張り付くと、そのままぼーっと、天井を見上げていた・・・。
プチシルクの看病の最中、ミラの意識は夢の中へと落ちていく・・・。
そこで初めて、自分の中で何が起きているのか、それを彼自身知ることになった・・・。
ー ピコン!
▷アスモデウススキル【 淫夢 】が発動しました。
Lv1を達成。Lv2へ移行します。
〈 Lv2 対象に淫らな夢を見せる。術者は内容を指定できる。指定がない場合は、より理想に近い淫らな夢をみせることになる。中確率で覚えていることがある。 〉
「・・・う、うう!?はっ!・・・はぁはぁはぁ・・・!」
「う?」
ガバリ!と起き上がると、さっきまで見ていた夢の断片を思い出す。
「なんか、すごい夢をみた気がする・・・。断片的だけど・・・サカエくんが居たよ。すごく、優しかった・・・。微笑んでくれて、手を取ってくれて・・・。すごく、すごく・・・その、素敵だった・・・///」
毛布にくるまったまま、自身で自身の身体を抱きしめるようにミラは丸まると、夢で感じた感触を思い出すように、全身をその小さな手で触れていく。
しかし、触れれば触れるほど、現実の感覚は、夢の感覚を上書きし、もどかしさと、虚しさだけが残るばかりだった・・・。
「う、うぅ・・・サカエくん・・・。会いたいよぉ・・・サカエくん・・・。夢みたいに、私を見つめて・・・。優しい声で話しかけて・・・。その指先で、私に触れてほしいよぉ・・・。」
名残惜しむように、ギュッと、毛布を抱きしめて、ミラは息を殺して、夢で見た光景に悶える・・・。
「・・・んん!身体が熱い・・・。お腹の奥がキュウキュウする!」
ギューッ!と、力いっぱい、毛布を握りしめると、心配そうにプチシルクが覗き込み、力を込める手を撫でる・・・。
「ん、んん・・・。ご、ごめんね・・・大丈夫だよ。心配させちゃったね。」
「うー・・・。」
手を伸ばし、丸っこいプニプニボディを撫でると、全身を襲っていたゾクゾクとした感覚が薄らいでいく。
どうやら、目の前のスライムに触れていると、少し和らぐようだ・・・。
「ごめんね。少し、抱きしめさせてね。」
「うー。うー。」
「あー・・・ひんやり・・・気持ちいい・・・。」
眠ると変な夢を見ると気付いたミラは、それから、お昼まで仮眠をとることもできず、悶々とした時を過ごすのだった・・・。
ーピコン!
▷Lv2を達成。Lv3へ移行します。
しかし・・・ー
まだ、アスモデウスの悪夢は終わらない・・・ー




