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勇者、悪夢にうなされた果てにつき・壹

ミラウェイド=アクタシア


言わずと知れた今代の勇者である。


その実力は、単身でも現魔王に警戒されるほどの戦闘力を秘めており、まさに人類最強と大陸中の者たちから謳われる存在である。


また、人望も厚く、貴族や平民からも大変に慕われており、彼が立ち寄るだけで、村や街はお祭り騒ぎになるほど。


一見して、順風満帆のように見える彼だが、そんな彼にも、誰にも打ち明けていない悩みがあった。



「・・・はぁー。またしても、盛大に歓迎されてしまった。」


「あはは・・・。まぁ、お前は女神様も認める勇者なんだ。人類の希望なんだから、皆が諸手を挙げて歓迎するのは仕方ないよ。」



深々とため息を吐いて、机に突っ伏した勇者ミラウェイドに苦笑を浮かべたリアは、お茶を置く。



「盛大にもてなしてくれるのは、ありがたいけど・・・正直、申し訳ない気持ちでいっぱいなんだよ、私。接待のために、時間とお金を消費しなくちゃいけないって、迷惑がられてるんじゃないかって、すごく申し訳なくなるんだょー。はぁ〜・・・。」



おおよそ、大陸の誰も目にしたことのないであろう気の抜けた姿で、ぐったりと疲れた様子のミラは呻きを漏らす。


目の前に腰掛けたリアは、自身のコップに入ったコーヒーに口をつけながら一息つくと、小首を傾げていた。



「何を気にしているかと思えば、そんなことか。別に皆が好きでやってるからいいんじゃないか?現に、お前が立ち寄った後は、観光客が増加する傾向にあるんだ。商人や村人たちも、それを見越して歓迎しているだから、むしろ、お前は適当に楽しんでいればいいさ。」



お前を招いて、損だと思う人間はいないよ、と小さく笑うと、コップを置いて窓の外を見る。


窓の外では、未だにお祭りムードで盛り上がっていた。


武器屋のアダンも嬉しそうに浮かれているのが見える。



「ふふ・・・。アダンめ、さてはミラに武器を紹介しようと狙ってるな?宣伝になると思って、“また”、押し付けようとしてるのか・・・。」


「私はこの聖剣一振りあれば十分だよ。この子は万能にして最強だからね。」



脇に立てかけられた聖剣を撫でて、ミラはほくそ笑む。

ふと、撫でていた手を止める。



「いや、居たな。私を招いても、損だという人間が一人。」


「へぇーー・・・珍しい。そんな人がいるのか。なんだ?誰か怒らせたのか?」


「怒らせた・・・というより、純粋に拒絶されたよ。今までにないほど、完膚無きまでに拒否られた。二度と会うこともないだろうとまで言われたんだ・・・。かなり、ショックだった。だけど、それも仕方ないと思う。私はいつも、周りの目ばかり気にしてしまう小心者で、自分の意志をハッキリと示せないんだ。そんなところが、彼には伝わっていたのかもしれない・・・。」



勇者というものは、人の期待を裏切ることをとても怖がる生き物なのさと、聖剣を撫でながら、ミラは自嘲気味に小さく笑うと、リアに目を移す。



「こんな姿は、幼なじみの君と、君のお父さんしか知らないだろうけど、わかる人には分かっちゃうんだろうね。」


「いや、お前の外面の良さはもはや一種の才能だぞ?未だかつて、お前のそのマイナス思考を見抜いた人間は、見たことがない。パーティメンバーも知らないんだろ?」


「うん。まだ、バレてないかな。」


「パーティ組んでもう長いのに、まだ、バレてないのが不思議だけどね。」


「ほんと、何見てるんだろ。」


「その女の子みたいな顔だよ・・・たぶん。あはは!」


「むうぅー!ひっどい!気にしてるのに!」



からかうリアを、ぷっくりと頬を膨らませて、ミラは睨むが、睨まれたリアは詫びる様子などなく、面白そうにミラの頭をポンポンと撫でる。

はたから見れば、まるで姉と妹のようだ。



「あ・・・。」


「ん?どうした、目を丸めて。」



急に頭を抑えて、撫でられた頭を再度自身でなぞると、ミラは目を丸めて、リアを見た。



「いや。そういえば、彼にも頭を撫でられたな、と思って。」


「へぇーーーーー。全力で拒絶してる割に、グイグイ来るね、その人。ほんと、何者?ていうか、彼?って、男の人なんだね。はは!また、女の子に間違われたんだ。」



ミラ自身も慣れたことなのだが、とにかく、その容姿から少女と間違われることが多いため、こうして、愚痴を聞くのもリア自身、何回、何十回目か分からないほどだった。


だが、今回は珍しくミラは首を振る。



「うんん?私が男だってことは、出会って速攻でバレてたよ。頭を撫でられたといっても、颯爽と現れた彼が、交代を申し出る時にサラッと触られたくらいだから。」


「へぇー?あんたが、ピンチになるなんて、珍しいねー。」


「その時の手の温かさと、大きさ、その背中の安心感・・・。どれをとっても、素敵な人だったなぁ・・・。」



その時の光景を思い出したのか、ミラは遠い目で空を眺め、ほぅ・・・///と少しばかり頬を染めて目を細める。



「え・・・?その表情はなに?ちょっと、待って?相手、男だよね?一般人ないし、冒険者だよね?どうした、ミラウェイドさん?まさか、男相手に惚れたなんていうんじゃないだろうな!?」


「・・・え?あ、いや!ち、ちが!そんなんじゃないって!ただ、いつも守る側の私が、こうして、誰かの背中に守られるなんて、なかったから、少し・・・その、いいなぁ・・・って思って・・・。ね?・・・うん、それだけで・・・それだけでだよ・・・うん。たぶん・・・。」


「・・・まじかよ。」



頭を抱えて、リアは苦笑を浮かべると、ふと、そんな場面を自分も体験したことを思い出す。



「・・・その男の名前は分かるの?」


「うん。たしか、サカエさん?だったかな?」


「サカエ・・・あー・・・そう。ふ、ふふ・・・うん。確かに、アイツなら、諸々納得だな。ふふ・・・あはははっ!なんだ、サカエかぁ。」


「え?え!?な、なに!?リア、サカエさんのこと知ってるの!?」


「あぁ・・・。」



リアは大いに笑うと、驚くミラに向かって微笑みを浮かべる。

少し、頬を染めコクリと頷くと、リアはまっすぐにミラを見つめ一言、こう続けた。



「彼は・・・私の未来の旦那様だ。」


「はぁ・・・旦那様・・・。」



これには、流石の勇者ミラウェイドも、予想の斜め上をいっていたのか、間の抜けた返事を返すことしかできなかった・・・。


「旦那様・・・。旦那様って・・・あの旦那様?」


「え?あ、うん。その旦那様で、合ってると思うけど・・・旦那様だよ。」


「・・・・・・え?えええーー・・・?」



ミラは呆然と照れた顔のリアを見つめ返すと、二の句も告げれないまま固まった・・・。



「彼とはこの村で出会ったんだ。私でも手に負えない化け物が現れてね。助太刀してもらったんだよ。」


「次期ギルドマスターのミラが、手に負えな化け物って、相当やばいね。」


「はは!私もまだまだだったというわけだ。そんな時に、助けてくれたのがサカエなんだよ。彼の女の子は傷付けさせないという信念へのまっすぐさと、距離感のとり方、それとちょっぴりスケベなところが一緒にいて、とても心地よかった・・・。なんだか、こう、彼がそばにいると自分が“女”だと、嫌でも自覚させられるんだ。」


「女か・・・。」



少し照れた笑みを見せながら、サカエのことを語るリアの表情に、ミラは思わず惚けてしまう。


幼い頃からの昔馴染みであったが、日頃から鍛錬漬けの毎日を送っていた二人は、色恋とはまったく無縁だった。


そんな二人だからこそ、その心境の変化には、突然、ドラゴンが目の前に現れたくらい驚かされたのは、言うまでもない。



「ミラ・・・すごく、今、綺麗な顔してるね。」


「ど、どうした藪から棒に!?」


「うんん。きっと、サカエくんと出会ったことで、女としての本能が目覚めたんだろうね。なんか、いつも感じる冒険者としての荒々しい気迫より、女性らしい慈愛に満ちた柔らかな雰囲気を感じるよ。」



久しぶりに会って、何か違和感を感じると思っていた理由が分かってスッキリした様子のミラは満足げに頷いた。



「そ、そうか?自分では、よく分からないな・・・。」


「うん。女の子の顔してるよ、とっても。かわいい。」


「ちゃ、茶化すなぁ・・・。」



コツンとミラの頭を小突くと、リアは空になった二つのコップに再びコーヒーとお茶を注ぐために、手に取る。



「あー、ギルドに登録するつもりだったみたいだけど、リアの所を案内したんだね。」


「あぁ。父上と受付嬢に宛て、紹介状も書いておいた。あと、父上には将来の旦那になることも書いておいたよ。ビシビシ鍛えてくれと、文言も添えてな。」


「ビシビシ・・・ねぇ?うぅ~。殴られた思い出しか、ないや。」


「まぁ、それも僅かな時間だったけどな。ゲンコツなんて、久しく受けてない。」


「恐ろしく早かったよねー・・・。リアパパのゲンコツ。あれを楽に避けれるようになったら一人前だよ。ほんと。」



ゲンコツの衝撃を思い出したミラは、頭に手を当てると、つい撫でてしまう。トラウマというやつか?


過去に受けたトラウマは簡単には拭えないものだな、とミラは苦笑すると、リアも笑って頷く。



「ふふ・・・。だが、サカエなら二度目は喰らわないと思うんだ。」


「だと思うよ。サカエくんの身体能力は異常だもん。言ったっけ?私が対峙したバケモノの話・・・。」


「そういえば、聞いてないな。どんなモンスターだったんだ?」


「モンスターじゃなくて、“人”だったよ。」


「人?」



ミラは頷くと、襲われた黒い塊の説明を、なるべく伝わりやすいように噛み砕いて話していく。


一切の主観は交えず、事実だけを淡々と説明していくと、聞いていたリアは顔をどんどんと曇らせた。



「サカエさんと黒い塊の少女は、再戦を約束して、その場はとりあえず、何事もなく終わったんだよ。」


「その黒い塊は、村に現れたモンスターと同じヤツだな。さっき話した、私が手に負えなかったヤツだよ。」


「そうなんだ・・・。確かに、あれは相手にできないね。いくら武器で攻撃しても通用しないし、魔法もすぐに耐性を獲得されちゃうし。まさに、バケモノだよ。もしもまた戦うことになったら、一撃で機能を停止して、拘束しないと、どんどん強くなっちゃうよね。」


「・・・黒い塊の少女は、サカエに再戦を誓ったんだよな?」


「うん。たぶん、近いうちにまた、来るんじゃないかな?」


「ふむー・・・。」



あごに手を当て、リアは考え込む仕草を見せると、やがて目を閉じ、小さく息を吐いた。



「何か手を打たないと、いずれサカエは死ぬな。」


「え!?急になに!?」


「考えてもみろ。サカエがその少女を傷付けると思うか?女の子は絶対に守るべきものだと豪語している男だぞ。いくらバケモノ級に強くても、相手が女なら一切の暴力は振るわないのが、彼のいい所であり、弱点だ。相手がそこに気付いたら、全力で女であることを利用して、襲ってくるに決まってる。」



本気でサカエを倒すつもりなら、私はそうすると、リアは真面目な顔で、驚くミラの顔を見つめ返す。


相手の弱点を突くことは、卑怯などではなく、戦闘においては、当然のことだ。


近接を得意とする相手に、近接で挑むのは素人中の素人。

普通なら、弓をもって、遠距離から狙撃するのが、普通だろう。



「戦う度に学び、対策をして帰ってくる。それを延々と続けていたら、流石のサカエもいつかは、あの黒い手に八つ裂きにされる未来も来るかもしれないぞ。」


「・・・そんなことさせないよ。私が彼女を倒す。彼は私の恩人だからね!」



聖剣を手にしたミラは、聖剣を掲げるとフンス!と鼻を鳴らして、肩に力を込めて意気込むが・・・すぐに、シュンと肩を落としてしまう。



「・・・でも、そんなことしたら、後ろからグッサリと矢を射られそうだ。」


「あはは・・・。それは、間違いないね。特に男であるアンタが、サカエを止めることはまず無理。共に戦うことすら、許されないだろうね。」


「うぅ~~・・・!!一体どうしたらいいんだぁ~!」



どうにもならない状況に頭を抱えたミラは、声を上げて叫ぶと、机に再び突っ伏すのだった。




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