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観月の暴走、再びにつき

再び、大通りへと戻ってきた俺たちは立ち並ぶ屋台へと立ち寄ることにする。

我らが腹ぺこ聖女、観月たんのお腹に供物をお供えするためだ。



「んふんふ!ふふ!おいひー!おいひーねー!」


「そりゃ、良かったですね、観月さん。ちなみに、残りのお金は大丈夫だろうな?」


「ん!大丈夫!まだ、余力はあるよ!全然、食べれる!」



手に十本ばかりの串焼きを手にした観月は、隣に並ぶ屋台に、そのままスライドした。



「そうじゃねーよ!お腹の心配じゃなくて、お金の話!」



既に串焼き十本で、300Gが消えていた。

こいつまさか・・・また、ナガミ村の悲劇を繰り返す気か!?



「お金・・・なら、うん。大丈夫。この辺りの屋台は制覇できるよ!」


ー えぇ!?

ーこの辺り、全部回る気か!?


さすがに、驚いたのは、串焼き屋のおばちゃんと、目の前の麺屋の店主。


おばちゃん、十本渡した時は、俺たちで分けるのかと思ってたもんな。

その後に俺が、十本追加した時に、目を丸めてたもん。


気持ちは分かる・・・。

でもね、おばちゃん。その十本、三件目に行く頃には無くなってます・・・。



「焼きそばかな?いや、これなんだろう・・・似てるけど少し違うなー。焼きナポリタン?んー。食べてみないとわかんないね!十皿お願いしまーす!」


ーじゅっ・・・あ、あいよ!

ー ない!?ウチの串焼きがもうない!?



「あ、三件目に入る前だったか・・・。暴食レベルが上がってるなー・・・。」



こいつ、新たな魔王になるかもしれん。

俺が色欲の魔王なら、観月が暴食の魔王になる日も、そう遠くないだろうな・・・。

って!浸ってる場合じゃねぇ!!

それだけは・・・それだけはなんとしても、防がなければ!

いい加減、サカエハーレムの家計簿が真っ赤に染まっちゃうよー!!



「み、観月!!程々にな!?オークみたいになったら、さすがにハーレム追放だからな!」


「太ったら追放・・・するの?」


「え?しないよ。する訳ない!多少太っても、俺の愛が消えるわけないだろう!?・・・って、しまったー!?」



空になった串焼きの袋を握りしめ、観月は今にも泣きそうな顔で俺を見上げる。

女の子の涙にめっぽう弱い俺は思わず、否定を挟むが、それはこの場合において、一番の悪手だった。



「そっか、よかった・・・。」


「ぐ!か、かわいい!」



ほにゃっと、笑う観月に思わず見とれると、無情にも次の料理が観月の前に置かれた。


ーあいよ!お待たせぇ!


「わー!ありがとうございます!いただきまーす!」


「くそ!くそおぉぉー!!」



暴食を止めようとするも、この子の笑顔を守りたいという気持ちが、それを簡単に上回ってしまう自分の甘さに思わず地面に突っ伏してしまう・・・。


なんで、なんで俺は、こんなにも女の子の涙に弱いんだ・・・。



「うま!うま!これ、トマト風味の焼きそばだ!これは美味しいよ!ね!食べてみて、ユーちゃん!」


「というか、食べたことなくて、分からないものなら、それは試食だろう?なんで、試食が十皿なんだよ!!おかしいだろ!十皿はおかしいだろ!?」


「んー!おいひー。あ、お隣さんはお野菜かな?焼きもろこし・・・んー。わかんない!すみません!十本くださーい!」


「お前さん、十しか数字知らんのですか!?なんで、十なんだよ!一だろ!?試食は世間一般的に、一なんだよ!!」



隣を覗いて、そのままスライドする観月・・・。

そのままの勢いで、間髪入れずに次の商品を注文する。


手の中のトマト焼きそばは・・・半分になっていた・・・。



「ユーちゃん?いいことを教えてあげる。“他所はよそ。ウチはうち”だよ♡」


「だよ♡っっっじゃねえぇよおぉー!!頼む、やめてくれよぉ!せめて、一にしてくれ!せめて、一にしてくれ!大事なことだから、二回言っちゃったけど、次、口にするのは“一”にしてえぇー!頼むからー!お金無くなっちゃうよおぉー!」


「むー。わかったよ・・・じゃあ、今並んでるの、全部まとめて“一”セットしてくださーい!」


ーあ、あいよ!


「ちくしょおおーっ!!セットってなんだよおぉー!!そんな、アンハッピーセット聞いたことねーよおぉー!!十セット超えてるよ!軽く見ても、三十はあるよおぉー!」



ウオォーン!と俺は、地べたにぺたりと座ると、うわんうわんと、鳴き声をあげる。


『う、う・・・。』


そんな俺を慰めるように、そっと、シルクが串焼きを差し出して、背中を優しく撫でていた・・・。



結局、その後、観月は二十近くある屋台をすべて周り、各十個ずつ、完食していった。


暴食の観月!見事、ディケーナを制覇した瞬間である!



「アイス食べたい!あっちいこう!」



しかし、彼女の暴走はまだ止まらない・・・。


頼むから・・・もう勘弁してください・・・。


「はぁ~美味しかった!ご馳走様でしたぁ!満足満足!」



そりゃ、ようございましたねー。と、観月に恨めしげな視線を送りながら、俺は観月から取り戻した皮袋の中を見る。



「リライアたん・・・計算してくれないか?」


▷現在、観月さんの財布は6,750G。マスターの財布には14,050G入っています。



「くっ!早くも、ごっそりと減らされた!何たる食欲!ありえないだろ!」


「有り得るんだなーこれが。観月ちゃんのお腹にかかれば、これくらい造作もないことだよ。なんなら、おかわりいけるよ?」


「待て待て!ほんと、やめてくれ!装備を整える時間も金も無くなる!」


「えー・・・?」



再び屋台に向かおうとする観月の肩を掴むと、ぐるりと回して、元のルートへと歩みを戻す。

これ以上、暴走するようなら、ロープで縛りあげることも考えないといけないかもしれんな。


俺が女の子に話しかけるような感覚で、観月も自然な流れで食べ物屋に並ぶのだ。

これ以上の注文は何としても阻止するべきだ。


俺はブツブツと文句を並べる観月の手を引くと、ある場所に向かった。



「メイさん、ただいまー。」


「お。お早いお戻りだねー。無事にギルド登録はできた?」



通りを抜け、メイさんの店に戻ってきた。

預けた金の矢を受付の横に飾り付けていたメイさんは振り返ると、にっこりと笑い、俺たちを出迎える。



「うん、できたよ。それで、今から依頼をこなすために、準備をしようと思うんだけどおすすめの道具ってあるかな?」


「おー、やる気満々だねー。どんな依頼するの?探索?採取?討伐?」



メイさんは感心したように頷くと、俺たちをテーブルに招いた。



「討伐・・・というより、殲滅?というか、壊滅かな?ゴブリンの巣を破壊して来いって、ギルマスから特別依頼をもらったよ。」


「ゴブリンの巣!?ゴブリン単体の討伐は聞いたことあるけど、ゴブリンの巣ごとの討伐依頼を受ける人なんて聞いたことないよ。しかも、リアっちのお父さんからの依頼って、期待されてるんだねー。未来の旦那様は将来有望だ。ふふ!」



すごいすごい、とメイさんは驚きながらも喜んでくれる。

まるで、旦那の昇給が決まった奥さんが、一緒になって喜んでくれているようだった。



「そんな褒めてくれるとやる気倍増だな!メイさんは、いい奥さんになれそうだね。」


「え?も、もう、どうしたの急に。でも、自炊はしてるから、私をハーレムに入れてくれたら、苦労はかけないと思うよ?なーんて、なんで、宣伝始めちゃったんだろ。にしし・・・。」



照れたように笑う彼女も可愛い。



「あー、可愛いな。メイさん、チューしよう!」


「えぇ!?い、いきなり、そんなこと言われちゃうと、びっくりしちゃうよ。でも、まぁ、サカエくんだと悪い気はしないのが不思議だよね。しし・・・!」



真っ赤になったメイさんは、パタパタと手で扇ぐと、笑みを浮かべる。

ハーレムに入ったら、いつでもするよ?と、茶目っ気を忘れないのは、彼女なりの気遣いか。

ちゃんと、その気があることを伝えてくれるだけでも、俺の心は歓びに華やいだ。


ほんと、いい人と巡り会えたもんだ。

リアさんに、感謝しないとな。



「そうそう。悪い気がしないって話で、思い出した。また、サカエくん、誰かちょっかいかけたでしょう。」


「え?誰だろ?今日も、沢山の女の子に話しかけてたから、分からないな・・・。」


「にしし!まぁ、それが君らしいから、それでいいんだけどね。さっき、リアっちから手紙が来てたんだけど、リアっちの古くからの友人とも出会ったらしいよ?すごく、サカエくんのことを気に入ったらしくて、是非、ハーレムに入りたいんだって。」


「へぇー・・・!どの娘だろ?俺も会いたいなー。」



今日出会った女の子たちを、一人一人思い出し、その時の反応なども思い返す。



「今は事情があって会えないらしいけど、準備が整ったら向こうから会いに来てくれるらしいよ!よかったね!実質、ハーレム介入の予約だよね。これって。」


「嬉しいなぁ。そう言ってくれる人がいてくれて。でも、ちゃんとみんなとの出会いも、大切に思っているよ?もちろん・・・。」



一歩、メイさんに近付くと、その細い腰に手を回してしかと抱きしめる。

驚いたメイさんは俺を見上げて、目を丸めていた。



「メイさんとの時間も、大切に思ってる。」


「っ~・・・!も、もう、ダメだよ?リアっちと一緒じゃないと・・・。私だけ抜け駆けしたら、怒られちゃう。」



そう口では抵抗しつつも、メイさんは素直に抱きしめ返すと、俺の胸に顔を埋め、大きく深呼吸をした。



「んん・・・!はぁー・・・。出会った頃から思ってたけど、サカエくんの香りって、すごくドキドキするの。女の子として惹かれちゃうんだ・・・。やばいなー。これ以上はダメなのに・・・離れられないよぉ。」



困ったな困ったなと呟きながら、メイさんはより強く抱きしめると、ぴったりと身体を合わせる。


女性らしい柔らかくも熱を帯びた肢体が、抱き合う俺にももちろん伝わってきていた・・・。



「メイさん・・・。」


「・・・サカエくん。あの・・・当たってる・・・かな///」


「うん・・・あ、え!?あ、すみません!」



メイさんの柔らかな感触と花の香りような女の子の香りを堪能していると、体は正直なもので、知らぬ間にムクムクと、俺の小魔王が起き上がってきていた。



「ふふ・・・。すごく体の熱が伝わって来たよ・・・。私、そっちは経験ないからサカエくんに呆れられないように、少しは勉強しとかないと。にしし・・・!」


「メイ・・・」


「サカエくん?・・・ん・・・んく・・・」



腕の中で、照れた笑みを浮かべたメイさんが愛しくて、俺はたまらず、その頬に口付けを贈ると、小さく甘い吐息を漏らして、ふるる・・・とメイさんは身体を震わせた・・・。



「もう・・・これ以上は、我慢できなくなっちゃうから・・・。」



やんわりと俺の胸に手を置くと、名残惜しみつつ身を離して、身嗜みを整える。


「ごめんね?でも、リアっちと一緒に準備が整ったら、必ず、あなたに全てを捧げるから。絶対・・・。」


「うん・・・・・・待ってるよ。」



俺はグッと拳を握ると、己の中で渦巻く色欲に蓋をするように、少し間を開けて、深く頷く。


ここで彼女に言葉に反して、情動に任せて押し倒すこともできる。

彼女もそれは受け入れてくれるだろうし、全力で抵抗することはしないと思う。


だけど、彼女の中で、何か一つでも引っ掛かりがあるのなら・・・ここでは、恐らく、友人の顔がチラつくというのなら、無理に関係を推し進めるべきでは無いだろう。


お互いがお互いに、なんの憂いもなく全力で向き合える。そのために準備が必要だと、彼女が考えるなら、俺はそれに口を挟むなんて自分勝手なことはするべきではない。


黙って・・・女の子の身と心の準備を待つ。

これもまた、紳士の条件なのだ。



「にしし!本気で、私のこと好きになってくれたんだね!すごく、我慢してくれてるのが伝わってくるよ。でも、それが、うん。すごく、すごく、嬉しいよ・・・。」


「我慢ならいくらでもするよ。メイさんとリアさんのためならね・・・。」


「ふふ・・・ありがとう・・・。サカエくんに出会えて、本当によかった・・・。」



そんなに思ってくれて、すごく幸せだと、彼女は胸に手を当て微笑む。そんな素敵な笑顔を曇らせるわけにはいかんわな、男として。


俺は大きく息を吸うと、自身の色欲にぴったりと蓋をして、やっと、メイさんに笑いかけることができた。



「俺も・・・メイさんに出会えて良かったよ。」


「ふふ・・・。」


「はは・・・。」



お互いに少し照れくさくなり、顔を見合わせて笑いあうと、メイさんは店の入り口に目を向ける。



「・・・と、ところで、ミツキちゃん、どうしたの?」


「観月・・・こっち、おいで。」


「・・・ぷい!」



隣の観月はぷっくりと頬を膨らませて、入り口の横で体育座りしていた。白いパンツが見えてるよ、素敵だね。


でも、いくら呼びかけても、顔を背けるばかり。


先程のやり取りも、観月の目の前で、行われていたことだが、珍しく観月が止めに入る様子もなかった。


どうやら、暴食を怒られたことが、お気に召さなかったらしい・・・。



「ユーちゃんが、ハーレムを作るの許してるのに、私はご飯食べちゃダメなの?おかしいよ。」


「にしし・・・。まぁ、たしかに、ミツキちゃんだけ、我慢するのは変かもね。」


「何も、全く食べないでって、言ってるわけじゃないだろ?限度ってものはあると言う話で・・・。」


「ハーレムだって!限度があるよ!私、シルクちゃん、リライアちゃん、魅玖ちゃん、リアさん、メイさん、あと、あの黒い女の子も入れるんでしょ!?もう、街一つ移動しただけで、七人だよ!?そっちだって、限度超えてるよ!」


「う・・・。それを言われると・・・。」


「まぁーまぁー、二人とも。お互いの言い分は分かるけど、それぞれのモチベーションに繋がるのなら、そこはお互いに大目に見るべきところなのかもしれないよ?」


「「う〜・・・。」」



メイさんに諭され、俺たちは互いの顔を見やると、たしかに言える立場でないことは、お互いが分かっていた。



「ごめん、観月。」


「・・・私こそ、ごめん。一度は許すって言ったんだもん。それを撤回するようなこと言っちゃダメだよね。」


「俺の中で、観月のツッコミありきで、このハーレム勧誘も成立すると思うんだ。やっぱり、観月が居ないと、なんか締まらないしな。ほんと、観月は俺のハーレムにとって、大事な存在なんだ。だから、あまり、暴飲暴食をして、身体を壊して欲しくない。観月には、ずっと側にいて欲しいから・・・。それに、好きな人には、やっぱり、いつまでも綺麗でいて欲しいんだよ。」


「う、うぅ・・・。すみません。」



手を地面について項垂れた観月を、俺は抱きしめると、ゆっくりとその小さな背中をさする。



「観月、好きだよ。その顔もすごく可愛い。スタイルもすごく素敵だ。いつも、側で支えてくれる面倒見の良さも魅力だ。天真爛漫なところも、怒りっぽいところも、全部好きだ。だから、ずっと側にいて欲しいから、身体は大切にしてください。お願いします。」


「・・・う、う、うぅぅぅー・・・!!ごめんなさーい!!」



観月は俺に強く抱きつき返すと、声を上げて泣き始める。本当は自分にも非があることは分かっていたけど、言い出せなかったのだろう。


とはいえ、俺の方にもたしかに非はあったわけで、一概に観月を責めるようなことはできない。


メイさんの言う通り、こればかりは、お互いに大目に見るべきところなのかもしれない。



「うぅ!これからは、二十軒連続ハシゴ十皿オーダーはやめて、二十軒一皿オーダーで我慢します!!ほんと、ごめんなさい!」


「うん、うん。ありがとう・・・観月。」



観月の宣言を聞いて、俺は何度も頷くとその背中をポンポンと優しく撫でる・・・。


メイさんはそんな俺たちに近付くと、俺たちの頭に手を置いて、にっこり笑った。



「にしし・・・しし・・・し。いや、二十軒ハシゴ十皿オーダーは、さすがにやりすぎだと、私も思うよ?むしろ、我慢すべきだよ、それは・・・。むしろ、二十軒一皿ずつでも多いくらいだわ。頭、壊れてんの?ミツキさん。」


「ぴえん・・・。」



頭に血管を浮かせて、メイさんは奥歯をギリリと食いしばると、ドスの聞いた声で観月に笑いかける。


第三者視点からの忠告には、流石の観月も堪えたようで、それを機会に過度な暴飲暴食はなくなった・・・。(サカエの許可があった時は解除されたらしい・・・)


この約束は彼女が他界するまで、ちゃんと守られたという・・・。


メイさんに相談するも、特にこれといって必要な魔法はないと首を振られてしまった。

それというのも、俺たちが規格外な魔法、無詠唱魔法を既に使用可能な状態であるためスクロールの必要性がなかったのだ。



「無詠唱魔法ねー・・・。魔法使いには、夢のようなスキルだよね。ほんと、羨ましいよ。」



この世界の魔法使いたちは詠唱に慣れてしまっているので、簡単には詠唱を脱却することは難しいそうだ。



「隠しても仕方ないから、言っておくと・・・多分、メイさんのお師匠さんは、俺たちの魔法のお師匠さんだと思うんだよねー・・・。」


「うん。たぶん、アスミさんだよね?私たちの前では別の名前だったけど。」


「えぇ!?本当!?たしかに、あのバケモノから指導されてたなら、無詠唱魔法くらい簡単にできて当たり前かもしれないね。あの人も、普通に使ってたし。知識も凄かったもん。」



さらりと、バケモノ扱いしてるけど、後で怒られないのだろうかと心配になったが、まぁ、俺たちの頭にある沢山の書物の原本をその頭に抱えてるのだ。


一概に間違いとは言えないので、苦笑するしかなかった。



「師匠、元気にしてた?相変わらず、無茶苦茶してたでしょ?」


「うん、すごく手加減知らずの人だよね。でも、その思い切りの良さは、すごく魅力的だと思うんだ。」


「にしし・・・!うん!師匠はすごく、魅力的な女性だよ。伊達に百年も生きて・・・あ。」



不味ったという顔をしたメイさんは慌てて口を噤むが、もう手遅れ。


俺たちが驚きの視線を送ると同時に、メイさんの頭の上に黒い綿あめが現れた・・・。



「し、しまったあぁー・・・!?」


「「へ?」」


ーピカッ!ドオォーン!!


「ぴぎゃああぁー・・・!!」



一瞬、黒い綿あめが光ったと思えば、目の前でメイさんに落雷が落ちる。


綺麗な閃光の柱がメイさんを直撃すると、小さな雷雲は風に掻き消えるように、すっと霧散した。


後には、物言わぬ焦げた屍が、机に突っ伏していた。


なるほど。アスミさんには、年齢の話はタブーっと。


心のメモ帳にしっかりと書き記し、俺と観月は尊い犠牲となったメイさんに手を合わせた。



「じゃあ、魔法での討伐は諦めるか。」


「そうだね・・・。でも、どうするの?五十体以上いるんだよね?さすがに、武器を振るだけじゃ、追いつかない気がするよ?しかも、私たちしかいないわけだし。」


「そうだな。一気に数を減らせれば・・・せめて半分くらいにできればいいんだけどな。」



強さでいえば、先日倒したグリーンスパイダーなど比にならないだろう。


なんだかんだ、スパイダーは本能で行動していたから、動きは単調だったし。


しかし、今回の殲滅対象であるゴブリンたちは、子供程の知性はあるはずだ。

無論、それ以上の知性が備われば、それに比例して討伐は困難になるはずだ。



「・・・いっそ、そうなるように、考えてみるか?一気に過半数を殲滅するように、想定して動けば・・・あるいは・・・。」



俺は顎に手を当て、思考を巡らせる。

観月は俺の顔を見あげると、小さく息を吐いてぼーっと眺め始める。



「(あぁー・・・真剣に考えてる姿、かっこいいなぁ・・・。ユーちゃん、日に日にかっこよくなっていくなー。どうしよう。キスしたいなぁー。さっき、お預けとか、我慢せずに思いっきりしちゃえばよかったなー。)」


「観月?どうした?ぼーっとして。疲れた?」


「え?うんうん!なんでもない!大丈夫だよ!」


「そう?」



観月は我に返ると、パタパタと手を振って、立ち上がる。



「必要なのは、巣の壊滅でしょ?なら、いっそのこと、巣ごと破壊したらいいんじゃない?」


「・・・なるほど、妙案にして名案。となると、必要なのは、これだぁ~。」



俺は陳列棚に歩み寄ると、一つの白い粉の入っ小瓶を手にして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた・・・。




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