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そのギルド、豪胆につき

中央通りを経由して、門の前を通りかかると、肩で息をする人を見かける。

遠くから見てみると、あの強面の兵隊さんだ。

んー。何かあったのかな?



「だ、大丈夫ですか?隊長ー・・・。」


「ぜぇ、ぜぇ・・・。あの三人、どこにも居ないんだが・・・。ギルドに行くって言ってたよな?ギルド近くにも居ないし、見かけた人も居ないし。まったく、どこいったんだよ。」


「あー・・・。もしかしたら、先に買い物してるのかもしれませんよ?」


「はぁー。ギルドに行く前に装備を整えに向かったのか。まだ居るかもしれん。聖剣通りに行ってくるか。」


「行ってらっしゃい。・・・あ、こんにちは。こちらの街には観光ですか?」



誰かを探しているのか、強面の隊長さんは駆け足で、聖剣通りの方角へと走って行った。

メイさんの店の方向だな。

隊長を見送った憲兵は再び、仕事に戻っている。



「誰か探してるのかな?」


「んー、落し物を届けようとしてるんじゃないか?」


「そうだとしたら、すごく優しい隊長さんだね!こわい顔なのに。」


「人は見かけに寄らないっていうぞ。顔で判断してやるな、顔で。まぁ・・・たしかに人殺してそうな強面だけど・・・。」


「ユーちゃんも、結構失礼なこと思ってたんじゃん・・・。」


「いやー、あの強面が追いかけてきたら、犯人も全力で逃げるわ。こわいもん。」


「だよねー。でも、あんまり風紀を乱すと、ユーちゃんも追いかけられるかもねー?」


「いやー・・・。それは、確約しかねるなー・・・。」


「いや、確約しなくてもいいから、ハレンチを自重するだけだし・・・。あと、浮気。」


「もうそれは、自重しかねるな!あっははは!」


「胸張るなよ、バカスケベ。」


「バカスケベ・・・。最近、俺の扱い酷くないかい?実は俺のこと嫌いだろ・・・。」


「何言ってんの。世界の誰よりも愛してるよ。」



観月はふわりと笑顔を浮かべると、さり気にギルドがあるという方向へと足を向けた。

照れることなく、さも当たり前のよう自然なトーンで答えてくれる観月さん。


・・・きゅん!・・・お、俺も好きだあぁー!



「どうしたの?行こうよ、ユーちゃん。」


「お、おう・・・。」



差し出された手を取ると、観月と共に歩き出した。



「うーうー・・・?」



観月の横でシルクが目を細めニンマリと笑う。その表情から、『お?照れてんのか?照れてんのか?』と聞こえてくるようだった。


観月は、たまにこういう不意打ちしてくるから困る。


本当もう・・・素敵だよ。


通りを歩いていると行き交う人たちにも変化が訪れる。


ギルドが近くなって来たためか、武器や杖を持つ人々が増えてきたように見えた。



「ほーほー・・・。おぉ!?可愛い女の子発見!こんにちは~!お姉さんたち~!良ければ、お茶でもしませんか~?俺、この辺り、初めてでー。」



ー ふふ・・・!こんにちは〜!

ーどこから来たの~?



「あ!?こらー!言った傍から、このエロスケは!!」



可愛い女の子冒険者たちを見つけては、可愛いねー!綺麗だねー!と声をかけて周り、残された観月が怒りながら追いかけてくる。


そんなことを繰り返して、歩みを進めていたら、気がつけば、ギルドらしい建物の前にたどり着いた。


兵隊さんの言う通り、入口の横にはギルド長が討伐したと云われる“水神の骨”が飾ってある。


大の大人など軽く飲み込んでしまいそうな、大きな頭骨だ。



「わぁー!!大きな骨だね!」


「あぁ!これは大きいな・・・。こんなのと対峙して、さらに、倒すとなると相当の度胸と実力がないと難しいだろうなー・・・。」


「こんな大きなモンスターを討伐しちゃうなんて、すごい人もいるんだねー。絶対、私たちより強いよね!きっと!」


「あぁ!楽しみだなー!そんな人が運営するギルドって、どんなギルドなんだろう!」



二人で入口の骨を眺めながら、ワイワイと盛り上がっていると、中から冒険者の男女三人組が出てきた。



「・・・なにをギルドの前でワイワイ騒いでやがんだ?このガキ共は。見せもんじゃねーぞ?田舎モンは消えろ。」


「ちょ、ちょっと、ワイスナー!初対面の子に向かって、威圧的な態度とらないでよ!」


「・・・ふふはは。こんな場所で騒いで、ガキだ。ガキ。」


「ミルナンも!人を指ささないの!失礼でしょ!」



俺たちを見つけて開口一番、目付きも顔つきも口も悪い二十代くらいの男性が、俺と観月を睨みつけながら毒を吐く。


ミルナンと呼ばれた少女も、俺と観月、そして、シルクを指さして小馬鹿にしたように大笑い(でも、笑顔が可愛い)。


その真ん中で、纏めた葵色の髪を肩から前へ流した女性が、二人を注意していた。



「す、すみません。あまりに立派な骨だったから、興奮しちゃって・・・。うるさかったですよね、本当、すみません。」



観月が軽く頭を下げると、慌てた様子で、女性は手を振った。



「あ、いいの!いいの!この二人のことは、気にしないで!この二人、バカだから。とりあえず、喧嘩吹っかけたり、煽ったり、そんなことばかりしてるバカだから。」


「んだと!?うるせぇから、うるせぇって注意しただけだろ、こらぁ!」


「別にうるさくないでしょ?アンタの方がうるさいよ。」


「・・・あはは!うっせぇ!バーカ!ワイスナーはバーカ!」


「はぁー!?お前に言われたくねぇ!うちで一番バカのお前に言われたくねぇわ!」



指をさされて、煽られたことに腹を立てた男性は、煽った女の子の頬をつまんで引っ張る。


あれ、よく観月にやられるけど、痛いんだよなー・・・。



「いひゃ!いひゃ!いひゃい!」


「いて!?蹴ったな!?いて!?殴ったな!?もう、許さん!」


「それはミルナンの台詞だ!バーカ!」



案の定、女の子は涙目で、男性の腹を殴る蹴るの仕返しを始めた。


次第に、喧嘩は大きくなり、傍観する俺たちを他所に、殴る蹴るの仕返し合戦が始まる。



「はぁ・・・。なんで、あんた達はいつもそう・・・。」



一人、まとめ役と思われる女性は頭を抱える。見るからに苦労人みたいだな。



「喧嘩するのも仲良い証拠だよ。うん。・・・まぁ、手が出るのは、やり過ぎな感はあるけど。」


「(私をぶっ飛ばしたことがある人がそれ言う・・・?)」

「(毎度、殴る蹴るしてくるお前に言ってるんだよ、後半のは・・・。)」

「(ぶー・・・。)」



チラリと視線で会話すると、観月は不満そうに、ぶーたれた。


俺は取っ組み合う二人を横目に見つつ、苦笑を浮かべて女性に手を差し出す。



「俺は栄咲遊助。仲間と共に旅をしてるもんだ。」


「私はイヴェルニー。イブって呼んで。冒険者よ。この二人は、私のパーティメンバー。ワイスナー!ミルナン!挨拶くらいしなさい!」



握手を交わし、紹介しようと他の二人に振り返るが背後の喧嘩はさらに悪化していた。

大丈夫か?一回り小さい女の子に男が、ボコボコにされてんぞ?



「いって!いってっ!このガキ!」


「ガ!キ!言う方が!ガキだ!バーカ!」



それどころではなさそうなので、とりあえず、俺たちだけでも、と挨拶を交わすことにする。

二人に視線を送ると、観月とシルクはイブさんに歩み寄る。



「私は羽衣観月。この子は、シルクって言います。」


「う!」


「ふふ・・・初めまして、ミツキさん、シルクさん。可愛いらしい子だね、サカエさんも幸せ者だなー。」


「うん。幸せ者ですよ。毎日、HAPPY!LUCKY!絶好調!」



互いに握手を交わすと、俺たちは背後に再び目を向ける。



「うっ!うぅ!ごめんなさい!ごめんなさい!」


「許さんし!許さんし!このボケ!このボケ!ふふはは・・・アハハ!」



完全に勝敗は決まっていた。女の子の目もキマッていた・・・。クスリでもやってんのか・・・?


もう、話しかけるのも怖いので、こちらで話を進めよう。



「え、えっと、三人は観光に?」


「いえ。ギルドに登録しようと来ました。」


「へぇ!冒険者になるんだ!頑張ってね!登録なら、中の受付でできるよ。詳しい話は受付の人に聞いてね。」


「う、うぅ・・・!ぐすん!イブチン!こいつ、パーティから追い出そうぜ!もうやってらんねーよ!」


「なんで、負けるって分かってて、いつも挑むのよ。あなた、魔法使いでしょ?その子、格闘家なんだから素手で勝てるわけないって、いつも言ってるでしょ。」



ん?あの子、格闘家なのか?

たしかによく見れば、カンフー使いそうな見た目してるな。カンフー少女か・・・可愛いな・・・。



「コイツが、煽ってくんだよ!勝てるって分かってるやつ見るとすぐに、煽ってくんだよ、コイツ!」


「もう!ミルナン!たとえ、自分が強くても人をバカにしちゃだめ!強いなら強いなりに、立ち振る舞いを身に付けなさい!」


「ふふはは・・・!弱いのが、悪い~!バカなのが、悪い~!」


「こいつうぅッ・・・!」


「ふはは!もう、バカの相手はいいや・・・それよりもー・・・。」



ミルナンはワイスナーを指さして、盛大に笑うと、くるりと俺たちに向き直る。


じーっと俺たちを品定めするように見つめると、俺に焦点を合わせてニヤリ・・・と笑った。



「あ、やっば・・・!ご、ごめん!三人とも、今日はここで失礼するね!また、どこかで!」


「んん!?なにすんだ!離せ!ミルナンはその男に話が!」


「うっさい!出会ったばかりの子に何考えてんの!バカ!」


「あ、あぁ!?待て、こら!話は終わってねーぞ!俺を置いてくな!」



ミルナンの顔を見たイブさんは、慌てた様子で小脇に抱えると、何度か頭を下げて逃げ去るようにどこかへ走っていってしまった・・・。


随分と慌ててたな・・・。

「・・・ユーちゃん、狙われてたね。」


「んー・・・。“魅了”の効果のせいもあるかもな。この能力も善し悪しだ。変な輩も招き入れてしまう。・・・まぁ。」


「「そんなことは、関係ない。女の子というだけで、むしろ、ウェルカム。」でしょ?はぁ・・・。将来、メンヘラに刺される未来が見えるよ・・・。」



俺の考えを先読みしたのか、声を揃えて観月は答えると、頭を抱えて深く息を吐く。



「その時はその時。女の子の胸で死ねるなら、それは、それで幸せだねー。」


「そうなったら・・・すぐに、その女も殺して、ユーちゃんにもトドメさすよ。」


「は?え?違うやん。そうじゃないやん?」


「ダメ、決定。ユーちゃんの最後の瞬間すらも、誰にも渡したくないもん。私が・・・ずっと・・・イッショ二・・・イテアゲルカラ・・・ネ?」



黒い笑みを浮かべて、観月は俺を見上げる。

頬は染まっているが、目がイッていた。

恍惚な表情を浮かべて、舌なめずりなんてしながら、俺の胸に指先をトントンと当てる。

心臓・・・狙われてるっしょ、コレ!?



「お母さーん、助けてえぇー!ここに居た!ずっと隣にメンヘラが居た!今日命日!俺、今日命日だ!」


「ふふ・・・!神様でも時間でもない、運命でもない、最後の瞬間を自分の手で決められるなんて・・・それはそれで素敵だね♡」


「あかーん!拗れてる!コイツの愛、拗れとる!!大体、回復使えるんだから、助けてよ。」


「あ、そうか。回復しながら、ゆっくりゆっくり、なぶればいいんだよね。」


「回復の使い方のくせがすごいぃ!そうじゃないでしょ!?」


「ほら、吊り橋効果だよ。死の恐怖に直面すると人は恋に落ちやすいって・・・。だから、最高の瞬間で、グサリと行くね。」


「恋に落ちたら、命も落とすのね。もったいないね!ほんと、これからが楽しいだろうにね!」


「私の胸で生き続けるといい・・・。安らかにおやすみ。ユーちゃん。愛してるよ。」


「勝手に殺すなっての!だけどまぁ、結局、お前と俺は死ぬまで一緒だろうな。たぶん。ヨボヨボの爺さん婆さんになって、沢山の孫に囲まれて、俺たちは看取られながら死んでいくんだろう。同年同月の絆もあるしな。意外と同時にぽっくりするかもよ。」


「・・・最後の瞬間も手だけは繋いでたいな。」


「・・・ふふ。あぁ・・・。そうだな。」



俺は手を握ると、観月を抱き寄せる。

何度でも、何度でもこの手を握り合おう。

最後の瞬間まで。



「まぁ・・・熱々だわぁ。」

「ふふ・・・。こんなところで大胆ねー・・・。」

「互いの将来を想い、語り合うなんて、なんて初々しいカップルなのかしら・・・。」

「うー・・・。うー・・・。」


「「っ・・・///」」



等々、恒例のチャチャが入ったところで、俺たちは真っ赤になって離れると手を繋いで、俯きながらギルドの門をくぐった・・・。


ほんと・・・いい雰囲気になると周りが見えなくなるクセ、いい加減どうにかしないとな・・・。


背後からの視線から逃れるように、そそくさと中に入ると、俺たちの前に無言で何者かが立ち塞がった。


見ると、二メートルは超えるだろう、屈強な大男が腕を組んで俺たちを見下ろしている。


あ、もしかして、受付の人かな?

なわけねーか・・。

とりあえず、目的が分からないので相手の反応を待つことにする。



「ん〜・・・。」


「・・・・・・。」


「ん〜・・・・・・。」


「・・・・・・。」


「ん〜・・・・・・!んっ!!」



一向に喋らない俺たちに、業を煮やしたのか男はずいっ!と顔を近付けると俺たちを威圧するように睨みつけた。


こっちは威圧スキルをOFFにしているから相手には伝わらないかもしれないが、正直全然怖くない・・・。


圧倒的に戦闘モードの観月の方が怖い・・・。


つまり、そんな脅しレベルの威圧感を放ったところで、何も変わらん・・・ということだ。



「ふふ・・・。」



俺は小さく笑みを浮かべると、男に一歩歩み寄り手を差し出す。



「こんにちは。俺は栄咲遊助。リア=フレイムさんの紹介でここに来ました。ギルドへの登録を行いたいのですが、受付はどちらですか?」


「・・・・・・。」


「んー・・・。」



ダンマリ、か。

握手すらもしてくれないし、本当にこの人、一体なんなんだろうか。


周りを見れば、ロビーには机やソファが用意され、そこに4、5人の集団が居た。


他の冒険者パーティか?


あと・・・階段を登れば、二階もあるようで、そこには三人程の気配も感じる。


誰も口出ししない・・・。

見て見ぬふり。我関せずと、ちびちびと酒を煽って、話にふけっている。


なるほど、気にするほどもないほど、いつもの、光景なのね。


俺は小さく苦笑すると、さらに一歩踏み出し、男を見上げる。



「もしもーし、聞こえてませんか?もう一度、言いましょうか?」


「ふん!」



ニコリと笑うと、見下ろす顔を下から、逆に覗き込む。


男は脅しにあまり効果がないと分かったのか、露骨につまらなそうに鼻を鳴らすと、俺から一歩後退る。


やっぱり、手は握ってはくれなかった。

まぁ、握られても嬉しくはないけどね。



「うるせぇなぁ。聞こえてるよぉ〜。お前みたいなヒョロっちいのが、あの女の紹介だってぇ?おいおい、冗談は寝てからにしろよぉ〜?」



ヒョロっちい・・・はいいとして、リアさんを・・・あの女呼ばわり・・・。

明らかに、リアさんを見下したような態度に俺は内心、苛立ち始める。


うん、あれだな。俺、この男キライだ。

まぁ、男ってだけで、キライだから。

もう、なんていうか、めっちゃ大嫌いだ。



「・・・あれ?紹介状、来てませんか?栄咲遊助、羽衣観月、両名を紹介して頂ける話になってたんですが?」



俺は明らかに舐めた態度の男に対して、内心、苛立っていたが、そうした態度はおくびにも出さないで、努めて紳士的に対応する。


ここで、ことを荒立てても仕方がない。

ヘタなことをすれば、ここを紹介してくれたリアさんの顔に泥を塗ることになりかねないしな。

ここはグッと我慢だ。我慢。我慢の子・・・デス!



「(ユーちゃん・・・。)」



拳を後ろに隠し、グッと力を込めて握りしめると、努めて明るい声で、大男に話しかける。



「紹介状?そんなの来てたか?オレェは知らねえ〜な〜?」



男は眉を釣り上げ、また鼻で笑うと、受付だろう方へ振り返る。


そこでは、オドオドとした様子で女性が、俺たちと大男を見ていた。


介入したいが、できない。そんな様子だった。


あ、つまり、この人は俺たちに嫌がらせをしてるだけなんですね?

野郎を相手にするだけでも、無駄な時間だというのに・・・まったく面倒な・・。



「お〜い、リアから推薦状きてるかぁ〜?」


「え?リアさんから推薦状ですか?す、すみません。すぐに確認しますね!皆さん、お掛けになって、お待ちください。」


「あ、ありがとうございます。」


「おっと・・・?どうした?」



受付嬢さんは、手で俺たちをフロアの机で待つように促すが、目の前の男は脇をすり抜けようとする俺たちの前に移動して再び立ち塞がる。


明らかに、邪魔をされたな。



「まったくよぉ〜。お前、いつも仕事が遅せぇんだよなぁ〜?」


「つかぬ事をお伺いしますが。よろしいですか?」


「あぁ?なんだぁ〜?ガキが喋んじゃねぇ〜よ。質問はオレェがするからよぉ〜。おめぇは黙ってろよぉ〜。」



大男は露骨に嫌な顔をすると、俺の問いを聞く気はないようで、耳をほじりながら、舌を打つ。



「・・・はぁ。まったく、こんなガキが、あの女の紹介なわけないだろぅが・・・。どうせ、ギルドの中を遊び感覚で、覗きたくなった輩だろ?まったく。嘘つくなら、もっとまともな嘘つけよな〜。」


「ふふ。嘘じゃないですよ。本当の話です。」


「あ〜はいはい。うそうそ。すぐにバレる嘘つくなよな〜。」



俺は露骨な嫌がらせに、奥歯を噛み締めながら、拳を握りしめて耐える。



「ぐっ・・・!『観月。』・・・っ!?ユーちゃん・・・それ!!?」




後ろで黙って聞いていた観月だが、男の態度に堪忍袋の緒が切れたのか、今にも飛びかからんと一歩踏み出した。


俺は笑顔を向けると、やんわりと手で制する。


俺の顔と、制する手を見た観月は絶句する。

俺の手は、苛立ちを抑えるために強く握られていたため、爪がくい込んで血が滲んでいたからだ・・・。



「大丈夫だから。大丈夫。」


「ユ、ユーちゃん・・・。」



俺の意を汲んでくれたのか、観月はグッと手を握り、唇を噛み締めると元の位置に足を戻す。



「なんだ、お前。その目。気に入らねぇな。女のクセに、いきがってんじゃねぇぞ?チビのドブスが。だいたい、なんだ、その格好は。短いスカートにうっすい服来て。娼婦の方がまだいい格好してるぞぉ〜?そんな安い格好で、そんなヒョロ男に媚び売って、恥ずかしくないのか〜?アバズレがぁ〜。」


「ぐっ・・・。」



観月をチラリと見て大男は卑下た笑いを浮かべると、最後にトドメとばかりに鼻で笑って、踵を返し受付嬢に歩み寄る。


その言葉に、俺の顔からはつくり笑顔は無くなった。

大男の背中を見つめ、拳を握りしめ続け、今にも飛びかかりそうな身体を必死に押さえる。



「ユ、ユーちゃん・・・。いいんだよ、私のことは・・・。だから、そんなに怒らないで。」


「っ・・・!!」



いいわけあるか・・・。


目の前で、俺の女を・・・最高の女を侮辱されたんだ・・・。


許せるわけが無い・・・。許せるわけが無い・・・。

許せる・・・わけが無い・・・。



「まだかぁ〜!?だから、ねぇんだろ!?無いもの探したって、あるわけねぇ〜よ!こんなガキどもの嘘に利用されて、天下のリア=フレイムさんもバカだよな〜?まったく。これだから、親のコネでギルドに来た甘ちゃんはよぉ〜・・・。」


「くっ!」



コイツ・・・また!また!リアさんを侮辱したな!?

俺の宝を・・・女の子たちを・・・侮辱しやがって・・・。


もう・・・いっそ黙らせるか・・・。

目の前のこの男が、息を吐くことすら、煩わしい。



▶︎マスター!落ち着いてください!

あまりお怒りになると、感情に感化されてスキルが発動してしまいます!

落ち着いて!落ち着いてください!



「ユーちゃん!落ち着いて!」


「ぐ、くっ!うぅ・・・!」



歯を食いしばり、拳をめいいっぱい握りしめたせいで、俺の手からは気がつけば、血が垂れる程に流血していた。


それでも、俺の怒りは治まらない。


こんな傷の痛みより、彼女たちの心に、俺の大切な女の子たちが受けた侮辱の方が何倍も、何倍も!心に傷をつけたに決まってる!



「あ!ありました!確かに、今朝方、リアさんからお手紙が届いてます!」


「はぁ〜?宛名は〜?どうせ、父親にだろう?近況報告とか、そんなもんだろ〜?」



チラチラと、俺の様子を見ていた受付嬢は、手紙をようやく発見したのか、ほっと胸を撫で下ろす。



「いえ、これは・・・私?」


「・・・内容は?」



大男にせっつかれ、受付嬢は封筒を開けると、中の手紙を広げ、大男と俺たちに目を向ける。


「読みます・・・。」


ーー 前略、ナターシャ殿。バケモノ級に、すごく強い旅人が、ギルド加入を検討していたので、そちらに送らせた。男の名は“サカエ ユウスケ ”。女の名前は“ハゴロモ ミツキ”。あと、可愛い女の子の三人連れだ。特にサカエは己の信念にまっすぐひたむきで優しい男だ。私の認める今までにない最高の男だ。是非、加入させて欲しい。一度、戦闘を見たが、実力は恐らくB級以上はあるだろう。本気を出せば、A級の素質はあるはずだ。きっと、 ーー



「との事です・・・。A級の素質・・・。凄いですね・・・。リアさんにそんな風に言ってもらえるなんて、すごく名誉なことですよ?」


「・・・あ、ありがとうございます。」



怒りに燃えていた心は、リアさんの手紙を読まれている間にだんだんと落ち着きを取り戻していく。


そうだよ。俺、何しに来たのか、思い出したわ。


ギルドに登録して、依頼をこなして、お金を貯めてハーレムに来てくれた彼女たちを幸せにするために来たんだ。


決して、こんな無礼な男に腹を立てる必要も、ぶん殴る必要も、ない。

そもそも、相手にする必要もない・・・。価値もない・・・。



「ふー・・・。あー、リアさん・・・。ありがとう・・・。貴女のおかげで、落ち着きを取り戻せたよ。自分の道を思い出せた。ありがとう、本当にありがとう、リアさん・・・。」



俺は天を仰ぎ、目を閉じ大きく息を吐くと、二三度深呼吸をして心を落ち着かせる。

平静を取り戻したところで、肩越しに観月に振り返ると、ニコリと微笑みを浮かべる。



「・・・ふふ。最高の男だって。よかったね。」


「あぁ・・・。でも、お前も最高の女だよ、観月。最高の男が、保証する。」


「も、もう。私のことはいいってば///」



観月もリアさんの手紙で落ち着きを取り戻せたのか、その表情は少し柔らかな笑みが浮かんでいた。


リアさん・・・。手紙ひとつで俺たちを救うなんて、すっげーな!



『 はは!そうだろ?ブイッ! 』



頭の中のイメージだが、リアさんがにっかり笑った。それすらも、素敵だ。

もう、今すぐ戻ってキスしたいくらいだわ・・・。



「B級以上ぉ〜?A級の素質ぅ〜?はぁ〜〜〜!?あの女、頭、大丈夫かぁ〜?やっぱ、女はダメだな〜?見る目がないよな〜?こんなヒョロガキに、何ができるって?スライムくらいしか倒せんだろぅ〜?それも、何時間もかけて、二人でチクチク攻撃しかできんだろうに。見てみろ、このほっそい身体。カカシの方が逞しいわ!」


「・・・はは!カカシの方が逞しいと。分かりました。お見せしましょう?」



俺は腕を組んでウンウンと頷くと、ぐるりと周りを見渡して、手を広げる。



「さぁさぁさぁー!皆さま、お立ち会い!!」



ーざわ

ーざわ



突如、叫び出した俺に向けて、周りで楽しく飲んでいた冒険者達は何事かと視線を送る。



「今から実に面白いものをお見せしましょう。そこのお姉さん、そこのお兄さん。酒のつまみにどうか見ていってくださいな。あと、上の階の御三方?よければ覗いて見ませんか?このギルドのリア=フレイムさんが、推薦した男の実力を今、ちょっとだけ、お見せしましょう。」


「お、おい?どうした〜?気でも触れたかぁ〜?」


「気が触れた・・・。いやいや、違う違う違う違う・・・。気に触ったの間違いでしょう・・・?俺はもう・・・怒り心頭、怒髪天をつくほどに、貴方の態度には初めから最後まで気分を害され続けてますからね〜?ガキだ、ガキだと、俺を罵る蔑む、侮辱するまではよかった・・・。だけど・・・俺の女と、俺を信じてくれたリアさんを侮辱したことだけは許せない・・・。許さない・・・。絶対に・・・。」


「あ?なんだ、オレェとやろうってか〜!?おもしれぇ〜。我慢なんてせずに、初めから、そうすりゃいいんだよぉ。そうすりゃ、女も侮辱されずにすんだんだぁ。お前が悪い。ぜぇーんぶ、お前が悪い・・・。」



大男はポキポキと腕を鳴らすと、俺の前に仁王立ちで立ち、口元を釣り上げて笑っていた。



「あぁ・・・分かってるよ。だから、俺がその責任を取るんだ。彼女たちを傷付けた詫びは、俺がする。お前をぶっ倒してな。」



拳を男に向けて突きつけると、俺も口元に笑みを浮かべて、おまけとピン!と中指を立ててやる。



「ふぁっく!!

キルゆぅぅううーー!!

じゃ!!!

ボケえぇーーーーーーーーーー!!!!」


「「 Boo~~! 」」


後ろでは、観月とシルクも中指を立てて、俺の真似をしている。しかも、両手!


ごめん、正直、笑いそう・・・!www



「くっ!?バカにしやがって・・・!いきがるのも大概にしろや、ヒョロガキ!!」


「まぁ、待てや。筋肉ダルマ。言っても、ここはギルドの中。ギルドのルールに則って勝負しようぜ。そうすりゃ、皆さんも、納得するだろ?どっちが、TUEEEE(強者)か、ハッキリさせようぜ。」


「ふん!いいだろぅ〜・・・?なら、恒例のアレだ。」



大男は酒樽を指さすと、ガキでも意味は分かるだろぅ?と卑下た笑いを浮かべる。



「だろぅ・・・?あ〜!!そうか!今わかった!リアさんに喧嘩売ったのお前か!?大剣使いの負け犬!!」



ーくすくす!

ーあはは!そんなこともあったなー!



「ぶっちーん・・・!だああぁ〜〜れが、負け犬だあぁ!!もう許さん!二度と舐めた口がきけないように、コテンパンに叩きのめしてやる!」



男は頭に血管を浮かせるほど、怒りに任せて怒鳴り散らすと、ズンズンと酒樽に向かって歩み寄り、両手で酒樽を担いで帰ってくる。


俺の前に、音を立て酒樽を下ろすと、俺を見て腕を組む。



「このギルドの慣わしだ。強さを図る上で、腕っぷしも重要な一つ。オレェを倒せば、お前のランクは、一気にオレェより上になるぜぇ〜?ちなみに、オレェはB級だぁ。」


「あ、そうなの?ラッキー。じゃ、勝ったら、B級からスタートだな!」



ウキウキと、勝負を始めようと樽の前に立つと、周りを見渡す。

誰か合図をしてくれないかと、待っていると、階段を降りてくる音が聞こえた。


ーカツン!カツン!カツン!



「リアさんの秘蔵っ子とは、実に興味深い・・・。その勝負、私が見届けさせてもらうよ。」



前髪をサイドに流したブロンドヘアの女性が、笑みを浮かべて、俺たちの前に歩み寄る。


アスミお姉さん(アスモデウス)のような、落ち着いた雰囲気の美しい女性だ。

薄紅色のぴっちりとしたドレスに身を包んだ姿はまさにエロスの女神。

エロオオオォ〜!



「ちっ!面倒な奴が降りてきたなぁ〜。サーシャさん。悪いが、ここは受付嬢と変わって貰えませんかね?」


「あら、私じゃ不満?」


「不満じゃなくて、不安なんですよぉ。やるならやるでいいですけど、頼みますから、横槍はやめてくださいよぉ〜?ここでは、魔法は厳禁ですからねぇ〜?」


「分かってるよ。普通に、見てるだけさ。キミもいいかい?この勝負は、純粋に腕力の勝負。スキルはいいけど、魔法は不可だよ?身体強化魔法もだめ。単純なパワーで勝負するんだよ?」


「あぁ!なんて、美しいんだ。まるで、殺伐とした戦場の中に突如、落ちてきた華を見つけた時のように、俺の胸は思わず震えた・・・。良かったら、今夜、食事でもどうですか?」


「え?あ、ふふ・・・ありがとう。それより、勝負しないの?」


「勝ったら、ご褒美とかありますか?よければ、パンツ見せてくれませんか?あとは、おっぱい揉ませてくれませんか?」


「パッ!?え?パンツ!?お前、何言ってんだ!?相手はA級だぞ?殺されるぞッ!?」



俺の発言に目を丸める大男をよそに、俺は女性に微笑みかけると、一瞬驚いた顔を見せた女性は口元に手を当てて笑う。


あぁ、笑顔も綺麗だな。



「ふふ!こんな私でいいなら、いつでもいいよ。ただし!オーガンに勝って、私と戦って勝ったらね?」


ーざわ!?

ーざわ!?


「よっしゃ!ハレンチに一歩近付いた!それだけで俺は・・・昂ぶるううぅぅー!もー!モウレツ〜!ヤフ〜!」


「サーシャさん相手に、なんて、失礼なことを・・・。な、なんだ、こいつ・・・頭おかしいだろぅ〜。」



両手を握りしめ、バタバタとはしゃぐ俺を引き気味で見ていた大男だったが、俺が樽に肘を置いたことで我に返ると、樽の上で手を組んだ。


「まぁ、オレェが勝てばなんてことはねぇ〜。A級の逆鱗に触れる心配もねぇ。おめぇの夢は夢で終わりだぁ。田舎に帰って、ママのおっぱいでも、飲んでな。」


「いや、俺のママ、マジで綺麗だよ。オッパイもめっちゃ綺麗。今でもよく、俺とも姉弟と間違われるんだ。でも、そんなこと言った日には、パパンがマジで怒るからやめといた方がいいよ。マジで、パパン怖いから・・・。」


「いや、真面目か!?お前の家庭の事情なんて、知らねぇーよ!!」


「ほんと、ユーちゃんのお母さん、綺麗だよねー。この前、買い物帰りに会って、一緒に歩いてたら普通に姉妹と間違われたもん。」


「あぁ、俺の自慢の母親だよ。そういう、観月のお母さんも綺麗だよな。観月の将来が楽しみだ。」


「わぁ!そう言ってもらえて、嬉しいな。ありがとう!」


「和むなぁ〜!!イチャイチャすんなぁー!!今の状況、分かってんのか!?今から勝負すんだよ!今、シリアスな場面なんだぞ!?分かってるかぁ〜!?」


「お前こそ・・・分かってるのか?」


「ぐっ!?」



俺はギリッと、握っていた手に力を込めると今までのおちゃらけた雰囲気をぴたりと止め、大男の顔を見据える。



「(こいつ・・・雰囲気が変わった・・・?)」


「ふふ・・・。さぁ!始めよう!Are you ready?」



女性は組まれた俺たちの手に手を重ねると、互いの顔を見やる。



「あ、あぁ・・・。」


「できてるよ・・・。」


「・・・・・・FIGHT!!!」



口々に準備完了の合図を送ると、女性は頷き、グッと力を込めて・・・・・・手を離した!!



「シッ!」


「なっ!?うおぉぉおおー・・・!!?」


「「えぇっ!?」」


ーバコンッ!!



女性が手を離した瞬間、俺は力を込めて、全力で大男の手を樽に打ち付ける!


それだけでは飽き足らず、樽は粉々に砕け、そのまま大男を引き倒すような形で地面に男の手を押し付けた!


男は理解が追い付いていないのか、キョトンとした表情で、寝転んだ床と手を見ている。

その光景を目の前で見ていた女性を含め、周りのオーディエンスも絶句した。



「ま、まさか、樽が壊れるとはね・・・。確かに、リアさんの言う通り、見所はありそうだ。」



ふと、我に返った女性は、俺に微笑む。



「あ、あれ?オレェ・・・なんで、寝てるんだ?あ、そうか・・・樽が壊れて・・・。あ!?樽が壊れたのか?そ、そうか!劣化してたんだな!?なしだ!今のなし!」


「はぁ・・・。往生際が悪いぞ、オーガン。お前は負けたんだよ。圧倒的な差でな。」


「い、いや、待ってくれよ、サーシャさん!だって、樽が壊れたんだぞ?勝負のやり直しを要求する!」


「ふむふむ・・・。樽が壊れたから負けたと。それじゃあ、やりましょう?アンタが納得いくまで・・・何度でも。」



俺は店中の空樽という空樽を集め、さらには、まだ中身の入った未開封の樽まで集めてくる。

さらに足りないならと、観月に頼んで、近くの酒屋から樽を貰ってきてもらった。


それを並べ、並べて樽十個。

それを背に、俺は腕を組んで仁王立ちで見下ろす



「さぁ!ステージの準備は整ったぞ、オーガン!!怒涛の如き、十番勝負!すべて、お前を地面になぎ倒してやる。もちろん、骨が砕けようが、肉が裂けようが、関係ない。十発全部、地面に捩じ伏せてやるぞぉー!!」


「ひっ・・・!?」



ゴキゴキと片手を鳴らして、俺はオーガンに、向けて、伏せていた威圧スキルを解放した。

オーガンはヘナヘナと、腰から崩れ落ちると、俺を見上げて放心してしまう・・・。



「己の傲慢を振りかざして、まだ続けるのか!!?非礼を認め、勝負を止めるのか!?さぁ!!どっちだッ!オーガン!!」


「た、大変・・・申し訳ありませんでしたぁ〜・・・!」



俺のドスの聞いた脅しに、オーガンはビクリと肩を震わせると、ヘタリと地面に手をついて、深々と頭を下げる。



「ふふ・・・。勝者、サカエユウスケ!」


「・・・・・・ふぅ。」


ーおおぉー!!

ーおおぉー!!



俺の手を取り、皆に示すように女性は掲げると、ギルド内は大いに沸いた。


「うるせぇぞ!オメェらぁ!!何騒いでやがる!」


ーバターン!!



戦いの熱も冷めやらない空気の中で、突如、耳をつんざくような怒号と共に、ギルドの扉が開け放たれる。


ゴトン!ゴトン!と重い足音を響かせながら男性が中に入ってくると、少し長めの髪の間から、ギロリと騒いでいた周りを睨みつけていた。



ーオ、オヤジだ。今日、帰ってきてたのか?

ーやべぇ・・・。居ないと思ってたから騒いでたのに・・・。



「おぉーい!サーシャ!なにやってんだ!?こんなところに酒樽なんて並べてるしよぉ!?しかも、みんな、うるせぇしよぉ!?ガキは居るしよぉ!?オーガンは死んでるしよぉ!?」


「あ、あはは・・・。ごめんなさい。いつものやつですから、気にしないでください。」


「オヤジ、殺さないでくれよぉ。オレェ、生きてるよぉ〜。」


「お前は一回死んどけ!毎度毎度、新人いびりやがって!!ウチの品格が落ちるだろうが!まぁ!そんなものは、元からねぇがな!!」


「ひ、ヒドイ・・・。」



無精髭のおっさんが、目を釣りあげて、倒れた大男を指差しながら、罵声を浴びせる。

そのまま、大男を蹴りつけると、どっかりと近くの椅子に腰を下ろした。



「だいたい、お前もお前だ!サカエ!」


「え!?俺!?」


「お前以外にサカエがいんのか!?あぁ!?舐めてんのか!?ぶっころすぞ!?」


「あ、はぁ、すみません・・・。」


「ったく!これ以上、俺様の血圧あげたら、血管切れる前に、お前の生命線をぶっちぎるからな!サーシャ、ボサっとするな!茶ッ!オーガン!腕立て百回!」



ーパチンッ!


「ひゃ!いった〜・・・。」


「えー・・・。オレェ、腕まだ痛てぇよぉ〜。」


「口答えは了解だ!三百に増やしてやる!ありがたく思え!」


「ひぇ・・・。」



もう、既に何本か切れてるのではと思うほど、おっさんは叫ぶと、サーシャさんのその丸いお尻をペチンと叩いて、オーガンにも怒号を飛ばす。


う、うらやま・・・じゃなかった。

なんなんだ、この人は・・・!?


A級のサーシャさんのお尻触ってたぞ!?・・・じゃなかった。


荒れたおっさんが乱入してきたかと思えば、どうやら、A級よりも格上の人物なのは間違いない。


まぁ、言わずものがな。


この人が、このギルドマスターで間違いないだろうが、なんで、俺の事を知ってるんだろう?



「俺のこと知ってるんですね?」


「サーシャ!茶と菓子もってこい!子どもがいるだろうが!もてなしの心がないぞ!?もてなしだ!子供は大切にしろよぉ!未来の宝だ!あと、茶だ!血管切れるぞ!あぁーん!?」


「は、はーい。ただいまー。」


「聞いてないし・・・。」



受付嬢からバスケットに入ったお菓子と、お茶を載せたお盆を受け取ると、慌てた様子でおっさんの元に戻ってくる。



テーブルの上にお茶とお菓子を置くと、そそくさと、サーシャさんは二階へと戻って行った。



「んでえぇー?流れは見れば分かるが、オメー達は何しに来たんだ?サカエとミツキと・・・シルクだったか?」



ギロリと視線を巡らせ俺たちを眺めると、おっさんはテーブルに肘を着いて、お茶を手にする。


グイッと中のお茶を煽ると、音が響くほど強くお茶をテーブルに置いた。



威圧感はこの場の誰よりもあるのだが、決して、悪意のあるようなものではなく、単に何をしに来たのか、本当に分からないから聞いている、といった感じだった・・・。



「ギルドに登録したいと思って来ました。リアさんからの紹介で。」


「それは聞いてる。お前、リアのお気に入りなんだろ?リアから全部、聞いてるよ。俺が分からねぇーのは、なんで、そのお前が、まだギルドに登録をしていないのかって、話だ。」


「いや、そこの男性が・・・。」


「そんなものは、無視すりゃいい!おめーは強いんだ。力だけなら、A級なんだろ?しかも、力だけなら、リアより強いって聞いてるぞ?」



ーえ!?リアさんより!?

ー嘘だろ!?あの細身のどこにそんな力があんだよ・・・。


ギルドマスターの言葉に、周りで聞いていた冒険者たちは青い顔をして渦中の俺を見つめる。



「リアより強い・・・?マジかよ・・・。」



床で悶絶していた大男は、頭を抱えると深く息を吐く・・・。納得はいかないが、納得せざる負えない状況を目の前に並べられて、困惑しているようだった。



「周りが納得するかしないかは、どうでもいい・・・。大事なのは、現実だけだ。おめーが強いって事実だけで十分。俺の決定で、お前は今日から俺のギルドの一員だ。オーガンに勝ったんなら、B級からスタートでいいだろう。だが、そこで終わりじゃねぇ。結果を残して、A級になって、リアと肩を並べて、《《俺を納得させろ》》。でなきゃ、リアは嫁には、やらん!わかったか!?」


「「よ、嫁えぇぇーー!!?」」


「あ、は、はい・・・。それ言っていいんですか?」



ギルドマスターの言葉に、周りから一斉に叫びが上がる!

そんなに、驚くことかは知らないが、それ、本人より先に口にしていいものなのだろうか?



「今のは、リアの父として、勢い余った結果だ!!とりあえず、リアが気に入った男なら、こんなところで足踏みしてる場合じゃないだろって話だ。早いところ、登録済ませて、依頼をこなしてこい!!わかったか!」


「は、はい!!」



ビシっ!と強い口調で言い渡され、俺と観月、シルクは思わず背筋を伸ばして、強く頷く。

それが、気に入ったのか、口元に少し笑みを浮かべると腕を組んで俺たちを見回した。



「よし!返事の良さは了解だ!特別にギルドマスターから依頼をだしてやらー!これをクリアしたら、駄賃をやる!5,000Gだ!」


「「5,000G・・・。」」



依頼の相場からみても、破格なのだろうか。

皆、ゴクリと喉を鳴らして、俺とギルドマスターを見ている。



「あ、ありがとうございます・・・。」


「おうッ!気にすんな!依頼先で死ねば、それで終わりな話だからな!かーっははは!」


「え?えぇ!?死・・・って、えぇ!?」



最後にグイッと茶を仰ぐと、立ち上がる。



「俺の目が黒いうちは、リアはやらん!依頼を達成するまで、帰ってくんな!!あと!持ってる魔石は全部、売っとけ!ちまちま、小出しにせずに、豪快に売れ!持ってても、仕方ないからな!ナターシャ!ギルドで買い取ってやれ!」


「は、はい!」



受付嬢に手続きと、買取を言付けると、話は終わりだと、踵を返して、ドス!ドス!と足を踏み鳴らして、二階へと上がっていく。


魔石のことまで知ってるし、本当、何もんのだよ、この人。



「こぅおらー!!お前らあぁー!!こんな汚して、何してんだ!?いつも綺麗にしとけって言ってるだろうがあぁー!!急にお客さんが来た時に、困るだろおぉー!?」


「「ご、ごめんなさーい!!」」


「ご、ごめん・・・。」



二階でも、A級に対して憤慨していた。

あ、あはは・・・。なんか、嵐みたいな、歩く火山みたいな、凄い人だ・・・。



「あはは・・・なんか、凄い人だね。」


「さすがに、毒気も抜かれたわ。豪胆すぎるだろ。」



俺と観月は苦笑を浮かべると、ギルドマスターに一礼して、登録のために受付へと歩みを進めた。


その隣では・・・。



「ひぃー!30!31!な、なんで、オレェが!33!34!こんな目にぃ〜〜・・・!」



ぐしぐしと涙を堪えながら、オーガンが腕立てを始めていた。


同情はせんよ・・・?お前は今後も許さん。

逐一、嫌がらせしてやる。


俺は土魔法を行うと、“観月に怒られて、反省中のシルクの石像”を創り、オーガンの背中に無言で、乗せた・・・。



「おっ!?おもっ!!?なに!?なに!?急になに!?」


「お前は、許さん。リアさんと、観月を傷付けた分、きっちりと返してやるからな!!」


「あ、あはは・・・。もういいのに・・・。」


「う、うぅー!すみませんでしたぁ!」


「ほら!止まってるよ!ギルドマスター、来ちゃう!」


「ひいぃー!!」



腕立てを続けるように促すと、俺は気を取り直して、観月と共にギルドの登録を済ませるのだった・・・。









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