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厚意は頂くべきにつき

砕けた紫水晶を片付け終えた俺たちは、皆でもう一度、お茶を飲むことにした。


どうしても、お礼をしたいと申し出てくれる彼女の誘いを断ることができなかったのだ。



「・・・それにしても、サカエくんの弓の威力は凄かったね。鉄の矢だとしても、石を砕くなんて、普通の威力でもありえないよ。」


「あー、たぶん、弓のせいだね。」


「にしし・・・。アダンさんのとこの弓だっけ?リアっちでも引けない弓なんて、頭おかしいよねー。」


「まぁ、女性がまず、持てる重量じゃないからね。」


「あ。それ言うと、リアっち、拗ねるよ?負けず嫌いなとこあるから。それのせいで、ギルドの腕相撲大会なんて、開かれることになったんだから。」


「う、腕相撲大会・・・?」


「うん。“弓を使うのに、腕力はさほど必要ないだろぅ~?やっぱり、豪快な斬撃を放つ大剣の方が、ロマンがあるんだよぉ~。”って言われて、リアっち怒っちゃって・・・。」



急遽、ギルメンや全国の猛者を集めて、大々的に腕相撲大会を開いたそうだ。


大きな樽の上で、腕相撲大会をやって行って、最終的に・・・リアさんが優勝したらしい・・・。


『あっははは!どうだー!見たかー!』


トロフィー片手に豪快に笑うリアさんが目に浮かぶなぁ・・・。


う~ん!素敵だ!



「リアっちに引けない弓ってことは、少なくとも、この辺りで、引ける人はほとんどいないってことになるね。まぁ、勇者なら、引けるかもしれないけど・・・。」


「元は、先代の勇者に渡すつもりだったらしいけどね?」


「勇者なら、ちょうど、この街に来てるらしいよ?」


「いや、この弓は俺が使うよ。この弓、実は気に入ってるんだ。」



ージャキン!


立ち上がり、弓を構える。


ー グオォォー・・・!


弦を軽く弾くと、まるでドラゴンの唸り声のような声が響いた・・・。



「邪龍とはいっても、こいつもこいつなりの矜恃で生き抜いたんだ。勇者に倒されはしたが、きっと、強い想いがそこにはあったと思う。漢だよ、こいつは・・・。最高にクールでイケてるヤツだ。」



ドラゴンの皮をそのまま貼り付けたような外殻を撫でて俺は笑みを浮かべると、弓は呼応するように、再び『グオォ・・・。』と唸った。


共振だろうか?

弓を撫でたら、弦から音が響くなんて不思議な話だ・・・。



「まるで、まだ生きているみたい・・・。ドラゴンが側にいるようなが威圧感が、弓から伝わって来るよ。」


「道具には魂が宿るっていうしね。もしかしたら、ドラゴンさんの魂が、その弓には宿ってるのかもしれないね・・・。」



二人は俺の弓を眺めて、ほぅ・・・と吐息を漏らす。



「うんうん!やっぱり、かっこいいね!その弓!邪龍だった頃の姿が想像出来るくらい、カッコイイよ!きっと、龍だった頃は、すごく大きくて、硬くて、強かったんだろうね!」



なでなでと、観月が弓の外殻を撫でると、『グルル・・・!グルッ!』と少しくすぐったそうな、褒められて嬉しそうな、そんな龍の声が聞こえる・・・。


おいおい・・・。本当に生きているんじゃないだろうな?


俺は苦笑を浮かべると、【邪龍のアギト】をしまい、席に腰を下ろす。



「“邪龍のアギト”・・・。Sランクの強力な武器か・・・。アダンさんは家宝って言ってたけど、それを託すほど、サカエくんには期待してるんだろうね。にしし・・・!うん!それなら、私も、君に期待を込めて、これを送ろう!今回、助けて貰ったし!」



メイさんは指を振ると、カウンターの奥から、手の平に収まる程の小さな箱を呼び寄せる。


フワリと舞い降りた箱を手に取ると、メイさんは箱の中から指輪を取り出した・・・。



「指輪だ・・・。」


「そう!これは値打ちものだよ。私の師匠が作った一級品。残念ながら、効果はイマイチ分かんないんだけどね・・・。」


「分からない?」


「うん。半分くらい、情報が隠されて。だから、売るに売れなくてね・・・。見えない部分に呪いとかついてたら、あとが怖いし。」



・・・・・・んー?つまり、また俺は、何か分からない物を押し付けられようとしているのかな?

なんだろう、最近、こんなんばっか。


俺は箱ごと指輪を受け取ると、まじまじと眺める。


透明な丸い石が四つ付いた綺麗な指輪だ。



「・・・鑑定しても?」


「おえぇっ!?鑑定できるの!?サカエくん、鑑定人のスキルまで持ってるんだね、驚き。」



メイさんがどうぞ、と手で指し示すと、俺は受け取った指輪へ手をかざした・・・。


「《鑑定(Appraisal)》」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


【 精霊の宿 】


ランク S


攻撃 0

防御 0

魔力 0



特性

精霊の宿/属性強化(大)/精霊契約可


備考

かつて、数多の精霊と心を交わした者が、創った指輪。精霊が心を許した時、キズナを表す光が指輪に宿る。


ーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふむふむ・・・毎度おなじみ、Sランク。それはいいとして、精霊契約?この世界の精霊と契約できるってことか?」


「え!?ホントに、鑑定できてるじゃん!ていうか、精霊契約!?その指輪で、そんなのできるの!?」



指輪を眺めていると、メイさんが驚いたように目を丸めると、俺の手から指輪を奪い、光に透かす・・・。



「くーっ!やっぱり、鑑定スキルが弾かれるっ!師匠めー!わざと鑑定されないように、ロックかけてるでしょこれ!ホント、あの人って意地悪なんだから!」



指輪の外を眺めたり、中を覗いたりしても、何も見えなかったのか、ついに諦めたメイさんは俺の手に謝罪と共に指輪を返す。



「ロック、かかってます?普通に見れますけど・・・。」


「特殊なロックなんだよ。たぶん、それについては、サカエくんとミツキさんしか、全てを鑑定できないんじゃないかな?もしかして、サカエくん達って、師匠の知り合いだったりする?」


「いや、知りませんよ。俺たち、こっちに来たばかりなんで。」


「そっか・・・。でも、正直、二人の魔法の使い方って、師匠とそっくりなんだよねー。“魔法はイメージが大切だから。想像力を働かせて!”って、よく言ってたもん。んでもねー?はいそうですねって、普通そんな想像なんてできないってば!」



キー!っと悔しさ全開で、メイさんは両手を握りしめて腕を振る。師匠さんとの修行は相当、苦労したんだろうな。


この頭の中の数多の魔法書がなければ、何ひとつとしてできなかっただろう。

俺たちは、読んで理解して、想像しながら実践するだけ。

ホント、お手軽なんだ。

お姉さんの知識に心から感謝だな。



「ちなみに、師匠さんのお名前って?」


「【アスミ=モデゥース】だよ。」


「・・・・・・そう、ですか。」



俺と観月は口に手を当てると、思わず含さかみ笑う。


いやいやいや、まんまやん。

少し捻っただけで、まんまやん。


お姉さんでしょ!?お師匠さんって、これ、アスモデウス姉さんでしょう!?


てことは、この指輪も、アスミ姉さんが創ったってことか?


じゃ、見れて当然だわ。


だって、同じ【アスモデウス】の称号持ってるんだもん。


ロックなんて、すり抜けるわけだわ。



俺は苦笑すると、指輪を試しに指にはめてみる。


中指がちょうど抜けないかな。


綺麗に指にハマったところで、指輪を掲げてみる。



『うわぁ~・・・。綺麗な指輪だね~?だね~?魔王くんに似合ってるね~!かっくいい~!』



指輪をつけている手に、羽根の生えた小さな女の子がピトリとくっついて、モノ欲しげに眺めている。



「ん・・・んんー・・・。」


『あ、これ凄い~。お部屋になってるんだ~。なーるほど。契約を結ぶと、この指輪に住めるってことなんだね?・・・てことは~、魔王くんとずっと一緒に遊べるかな~?』



口に指を加え、ちらりと羽根の女の子は振り返ると、俺の顔を見てにっこりと笑う。



『それいいな!それいいな~!魔王くんとずっと遊べるなら、楽しそう!』


「・・・・・・。」



きゃっ!きゃっ!とはしゃぎ、恐らく、妖精かと思われる女の子は俺の手をクルクルと飛び回ると、指輪をつけている指にキュッと抱きつき・・・


ー chu♪


指先にキスをした。


その瞬間、指輪にハマった宝石の一個が、透き通るような深いエメラルドグリーンの光を放つ。



「え?あ、ちょ、ちょっと!サカエくん!?何したの!?指輪が!指輪が!!」



俺の手を取り、マジマジと指輪を見つめるメイさん。


柔らかな女の子の手の感触に、俺は思わず二ヘラと笑みを浮かべた。

だって、可愛い女の子が不可抗力とはいえ、手を握ってくれたんだ。

柔らかいし、温かいし、いい匂いするし・・・。

あぁ、幸せ・・・!



「ユーちゃん?そんなに手を握ってほしいなら、私が握ってあげようか?うん!ほら、ギュー・・・!」



俺の様子を見ていた観月は、にっこりと微笑むと右手を取り、力一杯に握りしめる。

左手の感触に集中していた俺は、右手が怪力ゴリラに拘束されたことに気付くのに遅れてしまう。


気付いた時にはもう遅い・・・。

めいいっぱい、力を込めて、嫉妬にかられた観月は俺の手を握りしめた。



「え?は?あ!!や、やめ・・・ンギャアァー!!?」


ーボキンッ!ボキボキン!



まるで、かりんとうを砕くような音が響き、激痛にのたうち回ったのは言うまでもない。


右手にヒール(聖女の癒し)を施しながら、観月は口を尖らせていた。



「すーぐ、浮気する。あー、ヤダヤダ。」


「浮気じゃないだろ?手を握られただけじゃないか・・・。」


「やーだ。ユーちゃんの手は私だけのものなの 。そんなに、他の子にデレデレするなら、その左手、ちょん切っちゃえばいいのに。あ、それいい。ちょん切って、新しいの生やそう。欲に穢れた左手なんて、この際捨てて、清廉潔白の左手を生やそうよ!」



急に立ち上がると、俺の左手に向けて、偃月刀を押し当てる観月。

急にサイコパスなこと言い始めたぞ!?

清廉潔白の左手ってなに!?『封じられし右手』みたいな、痛い設定は俺の手にはありません!



「んなトカゲのしっぽみたいなこと、できるか!俺は人間なの!バカ言ってないで、治療に集中してくれ。」


「・・・あ、そっか。別に生やさなくてもいいんだ。両手両足を切り落とせば、誰にも手出しはできないよね。」


「いやあぁー!!?た、助けて!リアさん!メイさん!ここに、頭おかしいのがいる!頭おかしいのがいるー!!?」



俺は左手を庇うように、胸の前で抱きしめると首が痛くなるほど振って観月の提案に異議を唱える。



「やーめーてー!?このお手てが無くなったら、観月にもハレンチできなくなるんだぞ!」


「浮気性な手なら無い方がいい。他の女に触れた後に、ハレンチされても私は嬉しくないよ。あ、そういえば、ユーちゃんキスしてたね。唇と頬だっけ?じゃあ、頭もいらないや。大事なのは心だよね?うん。胸だけあればいいよ。」


「サイコパス!サイコパス!コイツ本当、アタオカだ!や、やだ!!こっち、こないでえぇー!」



俺はガタガタと震えて、店の隅に亀のように丸まり身を守る。


俺に近付いた観月は、無防備な俺の背中に偃月刀を突きつけ困ったように、頬に手を当てた。



「ユーちゃーん、退いて?その首と腕が切れないよ。」


「何いってんの、この人!?腕も頭も俺だよ!五体満足揃って、俺だよ!切られたら死ぬの!俺、死んじゃうの!なぜって!?人間だからだよ!人間は、大きな傷を負ったら死ぬんだよ!出血多量でね!」


「ほんま、いっぺん死んだらええのにー。」


「急な関西弁!どないしたん?頭おかしなったんかー?あ、それは元からか。」


「なんでやねん!」



でんがな、まんがな、と俺たちが互いを罵りあっていると、見かねたメイさんが止めに入ってくる。



「あ、あの・・・せっかく、人払いの呪いが解けたのに、店内でそんな物騒なことされたら、また人がいなくなっちゃうから、やめて欲しいな。そうなったら、リアっち呼ぶよ?」


「「あい、すみませんでした・・・。」」



事故物件になって、人が来なくなると、それはさすがに、本末転倒なので俺たちは素直に謝罪するとそれぞれの席に戻る。



「それで、その指輪って何が起きたの?急に無色透明から、エメラルドグリーンに変わったよね?」


「あー、これですね?」



俺は指輪を掲げて苦笑を浮かべると、二人の前に、指輪をはめた指輪を見せるように、差し出した。



「綺麗な色だね。不思議と、魔力も感じるよ。さっきまで、ただの指輪だったのに。」


「でも、なんで、色が変わったの?ユーちゃん、何かした?」


「俺が・・・というより、“この子が”、かな?」


「この子?」


「指輪?」


『・・・え?』



俺は手の上に乗った女の子を指さすと、二人は首を捻った。


ただ、指をさされた妖精だけは、手の上で俺の顔を見上げて、目を丸めていた。


妖精は俺の顔をジーッと見つめると、口元に手を当てクスクスと笑い始める。



『って、見えてるわけないっか~。だよね~。そうだよね~。あー、ビックリビックリ。』



何がおかしいのか、ひとしきり笑うと、ゴロンと人の手の上に大の字に寝っ転がって足をパタパタと動かして遊び始める。



『あ~・・・!魔王くんの魔力は気持ちな〜♡』



お!妖精さんと侮っていたが、ちゃんとパンツ履いてるじゃないか!

足が振られる度に、薄い緑のパンツがチラチラと見える。

女の子してるね。なんて素敵なんでしょ♡



「じー・・・。見えない・・・。」



観月はそう呟くが、俺にはしっかり、パンツが見えている。


もとい、葉っぱの髪飾りをつけたショートカットの女の子が、これまた葉っぱの形をモチーフにしたようなワンピースを着て、俺の手の上で遊んでいるのが見える。



「二人には見えないのかー・・・。可愛い女の子なのに。」


「女の子・・・サカエくんの妄想じゃなくて?」


「妄想かー。かもしれないな?観月が俺の頭を殴ったり?ぶっ飛ばしたり?折ったり?砕いたりするからねぇー?いよいよ異常が出はじめたかもしれないなー?あー、どう責任取ってくれるのかなー?」


「それは・・・。」



メイさんの心配するような声に俺は顔上げ、観月をジトリと睨みつけると、ぱっ!と明るい顔で俺を見つめ返した。


あ!違う、その表情は違うこと考えてるよね!!?



「それは、とっても魅力的な話だね!もちろん、私が生涯をかけてお世話するよ!ユーちゃんの身の回りのことは全部してあげる!ユーちゃんは家に居て?家から一歩も出ないで?お金も私が稼いでくるから!大丈夫!私、ユーちゃんのこと大好きだから!ユーちゃんのためなら、なんでも喜んでやるよ!」


「急に愛が重い!嫌だよ、この歳で介護させれるなんて!」


「あはは!介護なんて、お爺さんじゃないんだから。私はただ、家から出て欲しくないだけだよ。誰ともお話して欲しくないの・・・出会ってほしくないの・・・。私だけを見ててね?だから、私のお家に来て?結婚しよう?」



どこから出したのか、ロープを握しりしめ、スパン!と音が鳴るほど張った向こうでは、観月の黒い笑顔がこちらを見つめていた。



「介護じゃなかった!監禁だったね!?嫌だよ!もっと、人間としての自由をくれよ!」


「運動?お部屋の中は好きに走っていいよ?」


「それは室内犬と同じ扱いってことかな!?完全に家の中に閉じ込める気満々だよね!?長い余生を家の中でしか過ごせないなんて、気が狂うわ!なしなし!責任取らんでいい!来んな!こっち来んな!」


「えー・・・残念。気が向いたら、いつでも言ってね?私はいつでも、心の準備しとくから。笑いの絶えない幸せな家庭にしようね!」


「笑ってんの、監禁してるやつだけ!監禁されてるやつが笑いだしたら、もう、狂乱家族だわ。やだ!そんな家!」



ノーサンキュー!と、にじり寄る観月を手で制するように構えると、観月は本当に残念そうにロープをバックにしまう。


そのロープ捨ててくれ・・・頼むから。

安心できんのよ、それがあるとーー。


「でも、妄想や幻覚じゃないとすれば、指輪を着けたことで見えたってことかな?精霊の指輪だし、光が灯ったってことは、え?もしかして、精霊が宿ったの!?」


「精霊なのかな・・・?どうだろ。俺には、小さな可愛い女の子にしか見えないけどね。」



俺の手を再び凝視して、メイさんは目を丸めると、魔石を鑑定していたルーペを取り出した。鑑定は跳ねられるんじゃなかったっけ?



「鑑定はできないけど、属性だけに焦点を当てれば覗き見れるはず・・・・・・あっ!?」



ルーペで指輪を覗くと、驚いた声をあげて俺の顔を見る。



「やっぱり!さっきまでなかった“風”の力が付与してる。間違いない。風の精霊が宿ったんだ・・・。」


「へぇー。じゃあ、この子が風の精霊なんだ・・・。」


『そうそう!私が風の大精霊シルフィで~す!イエーイ!この世界の風はぜ~んぶ、私が管理してるんだよ~?すごいでしょ!ふふーん。』



寝転がったまま、精霊は自慢げにほくそ笑んでいる。



「四大元素を司る精霊の中で、一番強力な力を持っているらしいけど、気紛れで、契約者もいないって、魔道士たちの間でももっぱらの噂なんだよね。」


「気紛れか・・・。てことは、いつかはいなくっなっちゃうのかな。」



この可愛さを愛でれなくなると、思うとなんか寂しいな、と精霊の女の子の頭を、優しく指先で撫でると・・・



『ん、ん、ん!な、なに?頭、触られ・・・なななな・・・!!?』



びっくりした表情で俺を見上げて、精霊は飛び上がった。

俺も急な動きにびっくりして、思わず身を固くしてしまう。



『ま、魔王くん!?私に触れるのぉっ!?ていうか、見えてるの!?』


「触れるし、見えるし、声も聞こえてるよ。大きい声出すなって。びっくりして、一瞬心臓が音を忘れたぞ。」


『ご、ごめん・・・。』



目の前にフワフワと浮かんでいる精霊に、俺は注意するように指で示すと、シュンと肩を落として精霊は俯いた。



「本当に見えてるの、ユーちゃんだけなんだね。ユーちゃんの反応からして、色々話したり、動き回ってるのは分かるけど、全然、私たちは見えないや。」


「うぅー!!気になるうぅー!女の子って?どんな見た目してるの!?他の精霊は姿を表すけど、風の精霊だけは姿を現さないんだよね?」


『・・・現さないんじゃなくて、私のことが見える人がいないんだよ!いつも、そばにいるのに。他の象徴みたいに、形があるわけじゃないから、見えてないの。それでも、私はここにいるよ!いるんだよぉー!』



精霊はくしゃりと顔を歪ませると、フラフラと降下して、机の上に降り立ち泣き始める・・・。



「そうか・・・現さないんじゃなくて、みんなが気付かなかったんだな。司る対象が風だから。風には色もなければ、形もない。仕方ないとはいえ、辛かったよな。誰にも気付いてもらえなくて。」


「そんな、まさか・・・。」


「むしろ、精霊さんから歩み寄ってくれてたんだね・・・。」


『うぅ!色々試したよ。一生懸命話しかけたり、触れてみたり、それでも風のイタズラって、済まされて、他の娘たちみたいにうまくできないんだよぉ・・・。だって、風には形がないもん!気の所為にされて、それで終わっちゃうんだよぉ!』



俺の泣いている女の子の背中を優しく撫でながら、真摯に耳を傾ける。


永年、彼女が頑張ってきた軌跡を共になぞるように、彼女の奮闘と、それにより感じた無力感を共に分かち合うように・・・俺は目を見て、しっかりと耳を傾けた。



『私と契約したい?そんなの無理だよ!私の姿は見えないじゃん!声も届かないじゃん!私が触れても気付かないじゃん!だから、何もできないんだよ!助けられないの!』


「そっか・・・。助けたいけど、できない。それが一番、悔しかったんだね。」


『う、うぅ・・・。ごめん、愚痴言っちゃった。本当、ごめんなさい。魔王くんには見えてるから、つい、今までの事を聞いて欲しくて。こんなこと言われても、困るよね。ごめんなさい。』


「あぁ・・・。分かってるよ・・・大丈夫。」



女の子を両手で掬い上げるように、抱き抱えると小さく微笑む。


その体は本当に小さく、手のひら程しかないが、その胸に秘めた悲しみや虚しさ、孤独は計り知れないものだ。


女の子・・・。どんな小さくても、女の子が泣いてるんだ。


なら、俺、栄咲遊助がやることは一つ。


女の子の涙を拭うのは、男の役目だろ?



「そんなツラい想いを抱えていても人々を助けたい、協力したいと思ってくれてるんだな。君は本当に優しい子なんだね。・・・うん!君のことを幸せにしたくなった!俺のハーレムに来いよ!シルフィ!」


「え、えぇー!?精霊までハーレム勧誘の対象になるの!?どれだけ、寛容なの君は!?」


「はぁー・・・。だと思った・・・。」



俺の突然の告白に、メイさんは素っ頓狂な声をあげ、観月は頭を押さえてため息を吐いた。



『えっと・・・ハーレム?って、何の話?』


「俺の嫁に来いってことだな。」


『ええぇーーっ!!?』



ーヒュー・・・


飛び上がるほど驚いた精霊のせいか、微かに店内に風が流れる。換気のために開けられた窓から吹き込んだ風はすぐに収まったが、少し温かさを感じた。



しゅぅ~!と頭から湯気を出した精霊は、フラフラと俺の手に戻ってくると、ペタリと座り込み泣きそうな顔で見上げてくる。



『わ、わか、分かってる?精霊と契りを結ぶって、どういうことか。』


「知らん。そもそも、精霊を嫁さんに欲しいんじゃない。シルフィというイタズラ好きで、とても優しい女の子の“キミ”が欲しいんだ。」



『精霊の力じゃなくて、私自身を・・・///(ズキューン!)』



クラっと目眩がしたのか、ペタリと両手をついて精霊は俯く。

その耳も頬も真っ赤に染まっていた。



『よ、よろしく・・・お願いします・・・。』


「うん!俺からも、よろしく頼むよ!お嫁さん。」


『お、お嫁さん・・・。わ、私・・・契約通り越して、お嫁さんになっちゃった・・・///』



リライア ▷はぁ・・・。精霊の加護(嫁)を獲得しました。


魅玖 ▶︎並びに称号【風王】を獲得しました。やってしまいましたね・・・。 これは、一大事ですよ・・・。


少し、呆れた秘書二人の声が俺と観月の頭に響く。



「ほーら、怒られた。浮気ばっかりするから。」


「え・・・?なんかした?」



▷精霊と契約するならまだしも、嫁にもらうなんて、大問題以外の何物でもありませんよ。相手は風の精霊ですよ!?風魔法が、精霊レベルに跳ね上がるんです。【 《Trick Wind(風の悪戯)》 】一発でハリケーンが起きて、女の子が吹っ飛びますよ!?

世界を救うどころか、世界を崩壊させかねません。



「なんとっ!?愛用予定の《Trick Wind(風の悪戯)》が、災害級の威力に!?そんな!?これからどうやって、パンチラを拝めばいいんだ!!」


▷▶︎「そうじゃないでしょ!!?」



一斉に、周りからツッコミを受ける俺。



「ふふ・・・。みんな、息合ってるなぁー。心がひとつになるほど、俺の事を好きなんだな。あ、もちろん、俺も愛してるぜ。」


▷▶︎「ばかっ・・・///」



グッと観月に代表して親指を立てると、顔を真っ赤にして俯いてしまう・・・。


メイさんは何が何やらといった感じで、観月と俺を見ていた。



「メイさんも、俺のハーレムに来るんだろ?待ってるよ。」


「にしし・・・!リアっちが、行く時に、私も着いて行くよ。その時はよろしくね。」


「うん!待ってるよ。」



俺は立ち上がると、指輪を入れていたケースを受け取ると、バックに入れる。


なんか、貰ってばかりじゃ悪いな・・・。



ここでは、精霊のお嫁さんとも会えたし、将来、お嫁さんになってくれると言ってくれる女の子とも出会えた。


何か感謝のお返しを送りたいなぁーと、想っているとふと、頭に囁き声が聞こえる・・・。


▷贈り物ですか。マスターらしくて素敵です。微力ながら、お手伝いしましょう・・・。えーっと、確か、マスターたちの世界に矢を飾る文化がありましたね。悪い気を跳ね除ける効果があるとか・・・。


▶︎主様の魔力を込めれば、このお店くらいの見張りはできるんじゃないですかね?


▷あ、え?それは色々と・・・。



「なるほど、破魔矢か。確かに、彼女とこの店を護るなら、それがいいかもな。」



俺は武器ボックスから、少しでも見栄えのいい黄金の矢を取り出すと、金ピカの矢に向けて、想いも込めて、魔力をめいいっぱい込める。



「メイさんが笑顔でいられますように!」


「え?にしし・・・どうしたの?急に・・・。」



これでもかと、めいいっぱいの魔力を込めた矢を、メイさんに手渡す。



「うわっ・・・見てるだけで伝わる、すごい量の魔力・・・。これは?」


「俺たちの地域に、願いを込めて矢を飾る習慣があるんだ。それにちなんで、矢を贈るよ。きっと、悪い気を払ってくれる。」


「そうなんだ・・・。にしし・・・!ありがとう、サカエくん。すごく嬉しいよ。この矢を見てると、とっても温かくて、優しい気持ちになるね・・・。」



俺から矢を受け取ると、大事そうに抱きしめて、メイさんは微笑む。



「それじゃあ、そろそろ行くかな。落ち着いたら、また来るよ!」


「うん!待ってるよ!サカエくん!本当、いっぱいありがとう!」


「どういたしまして!」



そう、出ようとした時だった。



「うー。」



今まで、店内をウロウロと見て回っていたシルクが駆け寄ると、俺の服の裾を引く。



「ん?どうした?」


「うー?」


「んー?」



逆に、お前がどうしたのかと、いうようにシルクも首を傾げると、トコトコと歩いてメイさんの目の前に立つ。



「うー・・・・・・。」


「にしし・・・?どうしたのかな?忘れ物?」



近くにきたシルクの頭を撫でて、メイさんは微笑む。まるで、姉と妹だ。



「・・・なんだろう。すごく嫌な予感がするんだけど。」



そう、隣の観月がぽつりと呟いた瞬間だった。



ーバッ!



シルクは突如、両手を上げて、無遠慮にメイさんのスカートをめくり上げるではないか!!



「・・・へっ?」


「「情熱の・・・赤・・・。」」


「ふー・・・!う!」



ピラリめくれた黒いロングスカートの向こうには、情熱のレースが迸っていた・・・。


その隣で、ひと仕事終えたように、満足気な顔のシルクが汗を拭って微笑む。


めくれたスカートの滞空時間、見えるショーツの角度と面積、そして、シルク自身の立ち位置。全てが計算された見事なスカートめくり。


もはや、職人と呼ぶに相応しい見事なスカートめくりだった・・・。



「うー?」


「見事な技だ。パンチラ職人、ここに誕生せりだな。」


「う!(ドヤッ!)」



シルクに向けて親指を立てると、シルクも達成感に満たされた顔で親指を立てて返す。



「また、シルクちゃんが変なこと覚えちゃった・・・。はぁ・・・。」


「(・・・プルプル!)」



対して、隣の観月は呆れた声をもらし、スカートをめくられたメイさんはというと、顔を真っ赤にして、今更遅く、スカートを押さえて俺を睨んでいた。



「もう!絶対、お嫁行けない!サカエくん!責任取って、私のお婿さんになりなさい!分かった!?」


「・・・は、はい、喜んで。」



俺は笑みを浮かべて頷くと、メイさんも小さく笑い手を振る。



「ふふ・・・約束、だからね♡」


「あぁ!約束!」



メイさんに笑顔で手を振り返すと、俺たちは店を後にした。


この時の笑顔とパンチラはきっと忘れないと、心に誓って。



「メイさんの笑顔とパンツ!頂きました!やふー!」


ー ざわ!?


突如、叫んだ俺に周囲はザワついた。

この後、観月からめっちゃ怒られたことは言うまでもない。




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