その野営、トラブルホイホイにつき
▷三本の骨木を縛って、上に布をかければ、テントの形になります。
「あー、なるほど、大体の形が見えてきた。三角錐になるんだね。これは・・・三人で寝たら超密着の予感・・・。ムフフ・・・。」
▷あはは・・・。少し、窮屈に感じるかもしれませんが、まぁ、大人二人と子供一人なら、身を寄せ合えば十分に寝れると思います。
「寝れるかな・・・?スライムの擬態糸を使ってるから、他のモンスターから見つかりづらいらしいけど、本当かな?」
▷多少のモンスター避けは、できるようですよ。とりあえず、組み立てみましょう。
「うん。やってみるか。」
それから、何度か失敗しながらも、何とか一人で立てることができた。
完成したテントを見上げ、一息着く・・・。
正直、疲れた・・・。
一番苦労したのは他でもない。
テントの骨木を立てる作業だった。
あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。
ロープの繋がった柱たちを一人で操作するのは難しい。
次は、誰かに手伝ってもらおう。
「あー、やっぱり、身体強化がなかったら、無理だったね。結構、重かったわ。」
▷これで、テント作成のスキルが習得できました。次は、少し楽にできると思いますよ。
「だといいけど。さて、あとは二人を待つだけ・・・だけど遅いな?」
▷迷われているんでしょうか・・・。二人の位置を地図に表示します。探しに行きましょう。
地図を取り出し、開いて見ると、自分のいる位置から、500メートルほど林の中で、シルクと観月の反応がある。
しかし、二人は別々の場所にいるようだ。
「・・・何かあったか?別々に木々を探すにしても、離れすぎてる気がする。」
俺は、ポインターの打たれている場所を目指して、林の中へと突入して行った。
林の中に入ってしばらく、木の下で楽しそうな声が聞こえる。
『うー!うぅー♪うっ!うーっ!』
「あ、シルクだ。」
近付いてみると、そこには、地面に腰を下ろしたシルクが楽しそうに、花で冠を作っていた。
近くには、集めた枝と枯葉もある。
途中で花の群生地を見つけたようで、気を引かれ、足を止めたようだ。
「楽しそうだな。」
『うっ!』
できたばかりだろうか。花冠を頭に乗せて、シルクは嬉しそうに微笑む。
叱るべき・・・90%
可愛いので許す10%
ですが、10%に『下半身の代弁者』が含まれているので、90%の叱るべきは否決されました。
なんたる、絶対王政・・・。世知辛いよなぁ。
「うんうん・・・似合ってるよ、可愛いね。」
『う~///』
照れたように、頬に手を当てたシルクは俯いてしまう。
彼女の照れる笑顔に、『叱るべき・・・90%』も、皆さん寝返った瞬間だった・・・。
初心な反応に俺は微笑み、頭を撫でると、周りを見渡す。
「ところで、観月を見なかった?」
『うー・・・・・・うっ!?』
途端にシルクは立ち上がると慌てた様子で、周りを見る。
途中ではぐれたようだ・・・。
まぁ、子供ならよくあることだな。
「よし、じゃあ、観月を探そう。」
『う!』
シルクが集めてくれた、枯れ枝と落ち葉をバックに入れると、地図を見る。
さて、ここから、また二百メートルほど奥に反応がある。
「シルクはテントに戻ってもらった方が安全か?」
『・・・うーう。(フルフル)』
シルクは俺の提案に首を振ると、俺の手を取った。
着いて行くと。うむ。
まぁ、女の子が近くに入れば、能力は三倍になるからいいか!(根拠なし)
「じゃあ、行こうか・・・。」
『う!』
頷くシルクの手を引いて、俺は反応のある場所まで、トコトコと向かって行く。
「観月ー!」
『うー!』
夕方に差し掛かって薄暗くなり始めた林の中は、少し不気味だ。
獣は夜行性と言うし、早いところテントに戻りたいところだが・・・。
「観月ー!・・・んー、反応が無い。もう近くなのに。」
地図では、ポインターはもう目の前を指している。
しかし、そこには誰もいない。
あるのは、大きな木と枝に引っかかった見覚えのあるカバンだ・・・。
「カバン!?あれ、観月のじゃないか!?」
『う!』
シルクはカバンに糸のようなモノを伸ばして、カバンを巻きとると、枝に引っかかったカバンを引き寄せた・・・。
まるでスパイダーウーメンだ。
可愛いだけじゃなくて、かっこいいとか、素敵だぞ、シルク!
「スライムの糸って、これのことなんだー・・・。」
『う。』
カバンを手にしたシルクは、俺に差し出すので、確認してみると、やはり、観月のカバンだった。
「あぁ、間違いない。観月のカバンだ。これに反応してたのか?」
▷マスター。反応はカバンではありません。観月さん本人から出てるものです。必ずそのポインタの場所に、観月さんはいるはずですよ。
「って、言われても、どこにも姿が見えないんだけど・・・。」
俺は観月の居場所を探して、大きな木の近くをグルグルと回る。
ポインタは確かに、目の前の木を指していた。
目の前に居ないってことは、上だろうか?
俺は上を見上げて、絶句した。
「ん!んーー!」
「なっ!?人の女に、なにしてんだお前!?」
見ると、糸でグルグル巻にされた観月が、必死の形相でこちらを見ている。
〈 シャー! 〉
ー カサカサ!
その傍らには、巨大な節足動物が、口を大きく開けて、威嚇していた。
「おい!マモン!なんで、外に出てきてんだ!?」
▶︎ へっ!?えぇー!?わ、私じゃないですよ!?あれは、モンスターです!【グリーンスパイダー】ですよ!糸や牙、爪を使った戦闘を行います。巣は作らず、獲物に静かに近付いて、一気に糸で巻きとる、木の上のハンターですよ。よく、木々や葉っぱに擬態しています!
「なんだ、勘違いか・・・。対象方法は?」
▶︎眉間に急所があります。腹は絶対に傷付けないでないでください!毒袋が破けたら、辺り一面、毒が降り注ぎます。
「毒振り撒くとか・・・えげつねわー・・・。」
俺は弓を持つと、矢をつがえて、敵の眉間に狙いを定める。
「【一矢一殺】我が前に・・・屍を晒せ!!」
ーシュッ!スコーン・・・ー!
〈 ギッ! 〉
ードサッ!
狙い通り、放たれた矢は、見事にグリーンスパイダーの眉間に命中すると、そのまま絶命したのか、ぐらりと大きく揺れると、地面に落ちる。
俺の目の前に落ちた蜘蛛は、ピクリとも動かない。
「倒したか?」
▶︎ 生体反応なし!お見事!
魅玖の嬉しそうな声が、頭に響く。
その様子に、戦闘は終わったのだと安堵すると、観月に向けて視線を向ける。
「んー!んんー!」
ん?どうした、そんな必死の形相で?
▶︎いやー。まさに一矢一殺。見事な射でしたね!《《この調子でドンドンいきましょう》》!!
「へ?」
ー ガサガサ!
「んんー!んんー!!」
ジタバタと暴れる観月に視線を送っていると、背後から気配が。
振り返るとそこには、先程より少し小さめのグリーンスパイダーが、ワラワラと蠢いていた。
小さめと言っても、子供くらいの大きさだ。
それが見える範囲でも十以上。
その背後にも、気配は感じられた。
ーガサ!ガサ!
〈ギッ!ギッ!〉
しかも、上にも何体かいる。
完全に囲まれているようだった。
「くっ!こんなの、すぐに矢が尽きるぞ!」
俺はとりあえず、近寄ってきた蜘蛛の眉間に一矢、打ち込むが、すぐにぞろぞろと、蜘蛛が林の奥から迫ってくる。
「くっ!いっそ、焼き払うか!?」
▶︎火はダメですよ!焼かれた死骸の腹部が次々に破裂して辺り一面、毒の池と化します。しかも、蒸発した霧にも毒が多量に含まれて、呼吸困難に!
「そういえば、俺たち、異常耐性あるけど!?」
▶︎シルクさんにありません!最悪、死にますよ!
『う!?う~!!』
ジリジリと、寄って来る蜘蛛に、シルクは木の枝を手に取って、必死に抵抗している。
「くっ!この数の中、一人で二人を護るのは、難しいな!観月!行くぞ!」
「んんっ!?ふーっ!」
観月に向けて、矢を構えると、意図を読み取った観月は縛られた身体を少し揺さぶる。
ブラン!ブラン!と振り子のように揺れると、観月を吊り下げている糸が見えた。
「必ず、受け止める!衝撃に備えろ!」
「ん!」
ーシュッ!ブチッ!
「ん!んん!んーー・・・!」
大きく揺れた瞬間、放たれた矢は見事、糸を切る。
弾みで、観月は投げ出されるように飛んだが、先回りした俺の腕へと落ちてきた。
「セーフ!大丈夫か!?」
「んー!」
目を輝かせ、腕の中で観月は嬉しそうに俺を見上げると、何度も頷いてみせた。
とりあえず、怪我はなさそうで、安心した。
周りから見れば、何も状況は変わっていないように見えるかもしれない。
だが、観月の帰還は、俺にとっては大きな一手だ。
「観月!行くぞ!」
「っ・・・。」
カバンから、取っておいた剣を抜き出すと、観月を縛っていた糸を切り裂く。
「ん~!はぁー・・・!」
やっと解放された観月は、大きく伸びをすると、ゴキゴキと片手の指を鳴らして、じっくりと目の前の敵を眺める。
「節足動物の分際で・・・私の旦那様を食べようとしてんの?アンタら、全員、覚悟できてるんだろうな?」
「・・・・・・シルク、こっちおいで。」
『う?』
「いいから、こっちおいで。死にたくなかったら、すぐにこっちおいで。」
『うー!』
「動くなよ、節足動物。」
〈ギッ!?ギギギ・・・。〉
シルクを手招きすると、棒を振って抵抗してしていたシルクは、棒を投げ捨てて俺の胸に飛び込んできた。
蜘蛛もシルクを追いかけようと、かけ出すが、観月のひと睨みで、脚を止めて後ずさっていく・・・。
知らないうちに、威圧スキルを使いこなしてらっしゃる・・・。
「み、観月・・・程々にな?あと毒袋には、気をつけて。」
「うん♪大丈夫、聞いてたよ!ユーちゃんには爪一本、牙一本、糸一本すら触れさせないよ♪今の私、すごく・・・怒ってるから。」
「うん、だろうね。そうだろうね。」
俺は何度も頷くと、観月の背後に腰を下ろす。
今この時だけは、手を出さない方がいいと、本能で分かっているからだ。
「・・・蜘蛛。逃げるなら今のうちだぞ?」
〈ギ!ギギ!〉
俺の言葉を挑発と受け取ったのか、蜘蛛達は一気に、ざわめき立つと、次から次へと突っ込んできた・・・。
文字通り、自ら地獄へと脚を踏み入れてきたのだ・・・。
「ふふ!あはは・・・!!みーんな、一撃でバラしてあげる!」
まさに修羅と化した観月は、槍を武器箱から抜き出すと、迫り来る蜘蛛の頭を貫く。
「あはは・・・!」
〈 ギッ!?〉
近くにきた蜘蛛は全て、観月の流れるような槍裁きで、頭だけを綺麗にかち割られて、次々に地面に倒れ伏していく。
〈ギ・・・ギッ!〉
「脚を止めてて、大丈夫か?俺もいるぞ?」
近寄れば、不味いと悟った者も何体か居た。それは全て、俺の弓の餌食となる。
近ずけば死。離れても死。
逃げるしかない・・・そう判断した聡い蜘蛛も居たが、それらは全て・・・
『う~!【女王の大号令】』
〈 ギッ!?〉
ー プルン!ププルンッ!
ージュワワワ・・・!!
・・・シルクの呼び出したスライム達の溶解液の餌食になった。文字通り、スライムのご飯にされていく。
スライム相手では、糸も爪も牙も、役にはたたないのだから、蜘蛛はただ、集まったスライム達に食べられるしか無かった・・・。
気がつけば、外堀はスライムに取り囲まれ、内側からは、観月ミキサーがバラバラに切り裂いていく。
戦況は完全に入れ替わっていた。
すっかりと、夕日も沈んだころ。
俺と観月とシルク以外、動く影は無かった・・・。
「はぁ、はぁ、ふぅ・・・。終わったー・・・。ユーちゃん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。さすが、観月だな。全て、寸分の狂いなく、頭だけかち割るとは。」
「それは、スキルの影響が大きいかな。普通なら、やっぱり、倒せなかったと思うし。何よりも助けられたのは、ユーちゃんの援護射撃と、スライムちゃん達の包囲網だね。」
「あぁ。ありがとう、シルク・・・。」
『うー!』
三十余りは居たグリーンスパイダーは全て駆逐され、全ての死骸は、スライムの餌になってしまった。
ープルン!
『・・・う?』
「あ。それ、魔石だな。売れば、お金が手に入るよ。ありがとう。」
シルクが、近くのスライムから受け取った物を確認すると、その手には魔石が握られていた。
俺は、シルクの手から魔石を受け取ると、カバンにしまった。
『・・・う。う~!』
ープルン!プルン!
シルクは何かを思いついたのか、周りのスライムに呼びかけると、周りのスライムたちは一斉に返事を返し、あちこちの死骸へと群がった。
何をしているのかと眺めていると、一匹のスライムが魔石を持ってきたのを皮切りに、次々とスライムたちが、魔石を集めてくるではないか。
ープルン!
『うー!』
魔石をシルクの前まで、運んで来ると、ご褒美なのか、シルクはスライムの頭を撫でる。
そして、嬉しそうに茂みへと帰っていくスライムたち。
最後のスライムをシルクが見送った時には、シルクの前には山のように魔石が積まれていた。
「三十体分の魔石が、目の前に・・・。」
「あっという間だったね・・・。」
俺と観月が、積まれた魔石を眺めていると、シルクは振り返り、魔石を差し出す・・・。
『う!』
「みんなで、集めてくれたんだな・・・。ありがとう、シルク。」
俺はシルクの頭を撫でると、シルクは嬉しそうに俺の手に頬を擦り付け、気持ちよさそうに目を細めた。
「シルクちゃんにとっては、ユーちゃんの手が一番のご褒美なんだね。」
『う~~!』
シルクは観月の言葉を肯定するように何度も頷きながら、頬を手に擦り付ける。
「この手から、何か出てるのかな?」
「んーー・・・マイナスイオンかな?」
頬に手を当て、観月は苦笑すると、分からないくもないと呟き、魔石をバックに詰め始めた。
全部、入れ終えたところで、観月は周りを見渡す。
「んー・・・凄いね。夜になった途端、急にモンスターたちが、活発になってる。」
「あ、観月も気付いた?」
観月に倣い、周りを見渡してみれば、すっかりと暗くなった林の中のあちこちから、獣やモンスターたちの気配がヒシヒシと感じられる。
やはり、モンスターのほとんどが、夜行性なのだろうか。
昼間には感じきれなかった気配と共に、様々な鳴き声も、夜風に乗って、俺たちの耳に届いて来る。
「とりあえず、移動しよう。これ以上、ここにとどまっても、襲われるだけだ。」
「賛成~!」
『う~!』
シルクを背中におんぶすると、観月の手を引いて、林の外へと向かって歩き出す。
街道の開けた場所に、テントは立ててある。
そこで火をおこせば、獣もモンスターも迂闊には寄ってこないだろう・・・。
俺たちは、早く林を抜け出したい気持ちを堪えて、慎重にゆっくりと林の中を戻って行った・・・。
「あ、あれだね!」
「ふぃー・・・やっと、到着だな。」
『はふぅ〜・・・。』
その後、三回の戦闘を乗り越え、俺たちはやっと街道へと辿り着く。
少し離れた場所には、俺たちのテントが見えた。
よかった・・・。帰ってきて、倒れていたらと、少し心配になってたぞ。
「さ。戻って、火を起こ・・・えぇー・・・マジ?」
「え?なに?テントがどうしたの?」
『うう~?』
テントに近付くと、違和感を感じた俺は足を止め、驚嘆する。
俺の様子に、二人もテントに目を凝らすと、異変に気付き、固まった。
「熊がテントを漁ってるね・・・。」
「あぁ。熊がテントを漁ってる。」
『・・・うー。』
俺たちは頭を抱えると、武器を手にして、本日何度目か分からない戦闘へと踏み出した。
戦闘を終えて、ようやく薪に火を付ける頃には、時間も夜中に差し掛かっていた。
「つ、疲れたよ~・・・。」
「熊が終わった思えば、騒ぎを聞きつけたウルフたちが、襲ってくる始末。本当に、夜になって好戦的になりすぎだろう、モンスターめ。」
「でも、火をつけたら、林の中で蠢いていた気配が引いていったね。やっぱり、こっちの世界でも、モンスターや獣は火が苦手なんだ。」
目の前の焚き火を眺めながら、観月は膝を伸ばして一息着いている。
シルクは、ひと足早くテントに潜り込み、中の毛布にくるまって眠っていた。
スライム達も動かしてくれたし、疲れたよな、さすがに。お疲れ様、シルク。
そして今日、一番の功労者は、言わずもがな、今日はずっと走りっぱなしの観月だ。
朝から動きっぱなしで、体力も限界だったろうによく頑張ってくれた。
「お疲れ様、観月。今日はありがとう。」
「ユーちゃんも、お疲れ様。矢の残数は大丈夫そう?ギリギリに見えたけど・・・。」
「それが、シルクとスライムたちが、集めてくれたんだ。矢はこの通り。全部、帰ってきちゃった。」
「ホントだ!よかったね。これで、また戦闘になっても、一安心だね。」
矢筒を取り出すと、中には二十本近くの矢が入っていた。
この戦いで放った矢だけではなく、なんと村を出てすぐに観月に向けてイタズラに放った矢まで帰ってきていたのだ。
気の利くスライムたちだと思ったが、きっと、これもシルクの指示だろう。
気がつけば、矢が何本も足元に転がっているのだ。正直、初めはすごく驚いた。
しかもだ・・・。
ー カラン・・・。
ー プルン!
今も絶賛、回収中だったりする。
林の中に落ちていた他の人の矢まで、持ってきてるもんだから、俺たちのテントの横には山のように矢が集まって来てるわけですよ・・・。
もう多分、普通の木製の矢は、今ので五十本は超えてると思う・・・。
しかも、中には珍しい矢もチラホラあるんだ。
木はもちろん、鉄や銅、石や宝石、更には、金や鉛の物まで・・・。
矢一本でも、色んな種類があるなーと、観察して楽しんでいたのも、先程まで。
今では延々と増える、増え続ける矢に、俺はどうしようかと頭を悩ませていた。
もういい。もういいんだよ、スライムさん・・・。
おかげで、嫌でも矢のイメージはできるようになったから、土魔法を応用して“ストーンアロー ”は瞬時に作れるようになりました・・・。
無事に矢の問題は解決したわけだけど・・・。
ーカラン・・・。
ープルン!
それでも、回収は止まない。
もういいんだって!!
こんな、大量の矢、もはや、邪魔にしかならんよ!?
「あー、さっきから音がしてたの、スライムさんが集めてる音だったんだ・・・。寝ないのかな?」
それは・・・知らない・・・。
たぶん、シルクが『集めてきてー♡』と言ったのなら、『ありがとう、お疲れ様♡』と言うまで、続くんじゃないだろうか・・・。
そして、その絶対的な権利を持つ王女様はというと・・・。
『 スー・・・スー・・・。う・・・。』
テントの中で、可愛らしくぐっすり眠っているんですよねー・・・。
どうしよう、ほんと・・・。
「今日の戦いで、弓では、長期戦や接近戦は不利なんだってことを、痛感させられたよ・・・。」
「ユーちゃんの援護もすごく助かったけどね?中長距離は、やっぱり、ユーちゃんの独壇場だと思うけどなぁ。」
たしかに、短期での中長距離なら、弓が圧倒的に有利だ。だけど、もしも、矢が尽きたら?MPが尽きたら?弓が壊れたら?
何も出来ないまま、目の前で観月が、敵の牙に爪に、切り裂かれるかもしれない。
そう考えると、恐ろしくてたまらない・・・。
拳を握りしめ、嫌な想像を振り払うように頭を振ると、俺の想いに気付いた観月がそっと、手を重ねる・・・。
「・・・ユーちゃんが、背後を守ってくれるなら、私はどれだけでも、頑張れるよ。とても、心強いの。」
「うん・・・それは、戦闘中伝わってきてたよ。でも、もしもの時に備えて白兵戦も鍛えておこうと思うんだ。剣や短剣は、それほどだけど、拳なら先輩に叩き込まれた、八極拳があるから。良ければ、この世界でも、格闘家を探して、弟子入りしたいくらいだ。」
「篭手をつけて、闘うの?」
「さぁ、どうかな?篭手だけでも、スターテスの増加があるなら、着けてもいいかもしれないけどね。」
「そっかー・・・。弓もカッコイイけど、篭手を着けて闘う姿もカッコイイだろうなー。ふふ。惚れ直しちゃうかも・・・。ふふ・・・。」
観月は微笑みながら、火に枯れ枝を焚べる。
パチパチと燃える焚き火を眺めながら、俺はどうかな?と苦笑を浮かべた。
実際にまだ、防具を着けての戦闘はしたことがない。今日は、弓を使用したので、その威力は十分に確認できたが、同様に《 スターテス倍加 》のスキルが付与された鎧で放つ拳が、どれほどになるのか、俺自身も定かではない。
これは実際に試してみないと何も言えない。
その以前に、問題は『装備と解除』が防具全てに反映されていることだ。
篭手や具足だけなど、部分的な装備ができないのが難点だ。
明日にでも、リアさんの幼なじみさんに相談してみよう。
とりあえず、今、俺たちに必要なのは休息だ。
ちらりと観月を見れば、火に当たる彼女の肌には小さな傷と痣が見えた・・・。
こんなにも、怪我をして・・・。
綺麗だった肌に、傷が・・・。
俺は観月の腕の切り傷に手を伸ばす・・・。
「痛む?」
「え?あ、うんん!痛くはないよ。大丈夫。」
「すまない・・・。」
「ふふ!なんで、ユーちゃんが謝るの?この傷は、油断してたからできたものだよ?ユーちゃんは悪くない、悪くない。」
触れた手を取ると、観月は微笑みを浮かべて責任の所在は決して、俺ではないという。
そんなことあるわけない。
俺がもっと強ければ。
俺がもっと、多彩な戦闘方法を持っていれば、こんなに傷を負うこともなかったんだ。
「すまない。」
「・・・それじゃあ、はい。」
再び謝る俺に、観月は小さく息を吐くと、手を伸ばし立ち上がる。
「くっついて、寝よう。そしたら、私、元気になるし。あと・・・キスしてくれたら、もっと、元気になるよ。ね!ふふ!」
「観月・・・。ありがとう。」
俺は観月の手を取り立ち上がると、誘われるように、テントの中に入る。
入口を閉めると、中ではシルクが眠っていた。
広げられた毛布に包まると、観月は毛布を羽織ったまま、両手を広げる・・・。
「来て、ユーちゃん。」
「観月・・・ありがとう。」
「ふふ・・・!」
観月に誘われるまま・・・俺は観月の胸へと飛び込んだ・・・。




