魔王は勇者(男)に興味なしにつき
手首を動かして、俺は遠くで傍観していた観月たちの元へと戻る。
まぁー。あの一足で大分と離れたね・・・。
あ、そういえば。
肩を貸すのかと思ったら女の子らしからぬ、“肩に担ぐ”という暴挙に出てたな。
大の男なら心折れてるぞ。
「ユーちゃん、大丈夫?」
俺が手を動かしていたことが気になったのか、観月が心配そうに俺の手を取る。
「ん?あ、あぁ・・・大丈夫。少し、戦闘の感覚が残ってただけだよ。でもまぁ、黒い球の中身も拝めたことだし満足満足♪」
「もぅ・・・すぐそうやって、誤魔化して。本当に痛くない?」
俺の手を握りながら、気持ちばかりのマッサージをして、観月は苦笑を浮かべつつ労ってくれた。
「あ、あの・・・。」
「ん?あ、キミか。悪いね、横取りしちゃって。」
「い、いや、大丈夫。むしろ、助けられたよ。ありがとう。」
観月の後ろから、西端な顔立ちの人物が覗いて来た。
ニナに絡まれていた冒険者だな。
「助けたつもりはないな。キミの目には闘志が宿ってたからね。奥の手か、必死の足掻き見せて、あの手を抜け出すことくらいワケなかったはずだ。」
「はは・・・。買いかぶりすぎだよ。本当に危なかったんだ。」
「どうだか・・・。」
「ほんと、ほんと!」
ふふ・・・!と無邪気に笑うと、クリクリとした大きな目で興味深く俺を見上げる。
改めて見ると、背は俺より少し低いくらいのようだ。
手足も長く、全体的に身体も細い。
露出もほぼ無い簡素な装備を着けているし、防具はしっかりしたものを着けているので冒険者で間違いないだろう。
髪の毛は背中くらいのセミロングで、ウェーブのかかった金糸が特徴的だった。
とても整った容姿なので、きっと多くの人に大事にされてきただろうが、それと同時に冒険者しとして、影でたくさん苦労してきたに違いない・・・。
「(わぁ・・・綺麗な笑顔・・・。綺麗と可愛いの間みたいな人だな・・・。抱えた時も凄く軽かったし・・・。これはまた、助平さんが、小躍りしそうな女の子が現れたなぁ・・・。)」
「ん?どうした?」
「じー・・・。」
「んはは・・・。どうした?疲れたか?」
隣の観月が見上げてくる視線を感じたので、そちらに目を向けると少しの間、互いに見つめ合っていた・・・。
何が言いたいのか分からず、反応に困って微笑み返していると、観月は眉を寄せて小首を傾げた。
なに、その反応・・・?
「あ、あれ・・・?」
「おい、どうしたんだよ、本当。あ、もしかして、食べ過ぎたか?だから言ったでしょ!?あんな貰ったもん、片っ端からバクバク食べるからお腹痛くなるんでしょうが!」
「ち、違うよ!勘違いしてるよ!?私、お腹痛くないよ!?」
「え?なんだ、てっきり、腹痛でトイレに行きたいのかと・・・「乙女の制裁!」・・・危なっ!?殺す気か!」
「デリカシーの欠片も無い発言する方が、悪いんだよ。ふん!」
ブォン!と音が聞こえるほど俺の顔面目掛けて拳を振り抜いた観月は、俺の言葉など聞く耳持たずにそっぽを向いてしまう。
運良く躱せたからいいものの、当たっていれば間違いなく顔面骨折は免れなかっただろう。
こいつ、ツッコミの度に力を上げてきてるな・・・。
身体強化Lv3の状況に慣れてきたか?
このままじゃ、いつか身内にツッコミで殺される日が来るかもしれない・・・。
せめて、シルクが普通に生きていけるだけのお金は遺しておかないと・・・。
「って、シルクは!?そういえば、さっきから姿が見えないけど!?」
「シルクちゃんなら、林に隠れてもらってたよ。そうじゃなくて、ね?話聞いてよ、ユーちゃん。」
「シルクー!!」
「う?うー・・・!」
「おぉ!俺の愛しい癒し子!」
「ちょっと、ユーちゃん!話、聞いてってば!」
「う~~!///」
林の中に隠れていたシルクが、俺の呼び声に応えて飛び出すと、トテトテと懸命に走り胸に飛び込んでくる。
めいいっぱい抱きしめ、頭から背中、お尻と満遍なく撫で回すと顔を真っ赤にしてシルクは胸の中で顔を隠して丸まった。
あー・・・可愛い・・・。
恥じらいがあるっていいなぁー・・・。
「さてと、可愛いシルクも見れたし、実験体27号ちゃんにも会えたし、そろそろ、行こうか。」
シルクの持ってきたカバンを肩からかけて、シルクを抱っこした俺は颯爽と街に向かって歩き出す。
急がないと、日が暮れるなーと思った矢先、ぐぃッ!と強めに服を引かれ危うく転倒しそうになった。
「ちょっと、無視しないでよ!ユーちゃん!」
「んもう!さっきからなに!?どうしたの!?」
「どうしたは、こっちだよ?ユーちゃん、調子悪いの?」
「なんで?」
本当に心配するように、俺を見上げた観月は自身の背後を指さして見せる。
そこには、助けた冒険者が苦笑を浮かべて手を振っていた。
「え・・・なに?俺、急いでるんだけど・・・。」
「正気!?こんな可愛い見た目も華奢な子なんだよ!?笑顔も人懐っこくて、声もさえずる小鳥みたいに可愛くて、虫も殺せないような子を、こんな街道の真ん中に置いていくの!?せめて、街まで送っていこうよ!」
「あ、あはは・・・。さすがに、そこまで言われたのは、初めてだなぁ・・・。」
「だろうね・・・。」
「う・・・。な、なに?その目・・・。」
ジトリとした視線を俺に向けられ思わずたじろいだ観月は、助けを求めるように背後の人物に視線を送る。
俺はため息を吐いて、シルクを下ろすと冒険者に向かって少しキツめに視線を送る。
「はぁ・・・。キミも少しは否定してくれないかな?」
「あはは・・・。あまりに慣れてるので、いちいち説明するのも、面倒になってて・・・。」
「にしてもさぁ?こうして、“勘違い”して迷惑かけられる俺の身にもなってくれよ・・・。この後、夫婦喧嘩になったら、キミのせいだからね?ぶっ飛ばすからね?マジで。」
「あはは・・・。それは、怖いなぁ・・・。それじゃ・・・。」
小さく頭を下げると、ようやく真相を明かすことにしたのか、姿勢を正した。
「私の名は【ミラウェイド=アクタシア】。こんな女の子の見た目をしてるけど、正真正銘の男だよ。」
「ほーら!ユーちゃん!この人、こんな可愛い見た目で男の子だって!こんな可愛い子、守ってあげないなんて、ユーちゃんらしく・・・ない・・・。こともないなー・・・うん。え、えー・・・?だって、えー・・・?あなた、男の子なの・・・?」
ほれみたことか!と勢いづいて、俺を攻め始めた観月だったが、だんだんと意味を理解してきたのか、最後はガタガタと震えながらミラウェイドを指さし固まった。
「こらこら、人様を指ささないの。あと、男の子ってのも失礼だよ?彼は俺たちと同い年か、それ以上だと思うから。」
「え?あ!す、すみません・・・。」
「あはは・・・。いいよ、よくあることだからね。」
やんわりと観月の手を抑えると、観月はしゅんと頭を垂れる。
ミラウェイドも慣れたものなのか、無礼な態度を取った観月を攻める様子もなかった。
これが誇り高い騎士様とかだったなら、今頃、真っ二つにされても文句は言えないな・・・。
「でも、あなたも、よくわかったね?ほとんどの人が、出会って必ず、私を女の子だと勘違いするのに・・・。」
「はっ!俺の“ハレンチ力”を舐めてもらっては困る。男と女くらい見分けられないで、何がハレンチ王か!」
グッ!と拳を掲げて、俺は威風堂々と目の前の青年に己のハレンチ能力を誇示する。
青年は面白そうに口元に手を当てて笑うと、手を差し出してきた。
「あはは・・・!本当に面白いね、君は。しかも、とても強い。他の人とは一線を画すものを感じるよ。うん!キミみたいな人と私は巡り会いたかった!是非、お友達になりたいな♪」
「え・・・いや、いいです。男友達とか、考えただけで恐ろしいので。鳥肌たつので。もうできれば、会いたくないです。」
「え・・・?あ・・・そ、そんな・・・え?」
「ちょ、ちょっと、ユーちゃん!?」
差し出してきた手を俺はやんわりと押し返すと、踵を返してシルクを抱っこし直す。
そのまま歩き出そうとすると、またしても、ぐいぃーッ!と服を掴まれ引き戻された。
「あっぶな!あーもう!今度はなに!?」
「へぇっ?え?ち、違うよ、私じゃないよ?・・・あ。」
振り返って観月を睨み付けると、観月は手を振って自分は犯人ではないと首を振っていた。
そのまま視線を俺の前に向けると、口元に手を当て驚いた顔を見せる。
「なに?」
観月の視線を追い目の前に視線を向けると、そこにはミラウェイドが胸の前に手を組んで俯いていた。
「ぐすん・・・。あ、あの・・・私とお友達になってください・・・。」
「嫌です。」
「ひぅっ!?う、ううぅ~!ぐす!うぅ!」
あっさりとお願いを断れたミラウェイドは、ぶわっ!と涙を流すと、そのまま両手で顔を覆い隠して号泣し始める。
なんだよ、こいつ・・・めんどくせなー。
「ゆ、ユーちゃん。それは、あんまりだよ~。お友達くらいなってあげてもいいじゃないかな?」
「あのねー。何度も言うけど、俺は男が嫌いなの。蕁麻疹が出るくらい男が嫌いなの。観月も知ってるだろ?見てみろ。少し話しただけで、こんなにプツプツが出始めてる!男友達なんて命に関わるわ!」
自身の腕を捲ってみせると、観月と泣いているミラウェイドに見せつける。
男アレルギーの俺。普通に話す分には問題ないが、“ある一線”を超えたと分かった瞬間に、俺の防衛本能が叫びをあげ始めるのだ。
ある一線とは、つまり・・・友人だ。
学園でも、友人は作っていない。
あくまでクラスメイト。
知り合い程度に考えている。
こんな身体になったのは他でもない。
目の前の女の子・・・観月が関係していた。
「男の子がダメなのは知ってるけど・・・この際だし、克服してみたら?」
「無理だね。するつもりもないし、必要も無い。俺は女の子がいれば、それでいい。女の子以外、近付かないで欲しい。馴れ馴れしく話しかけないで欲しい。どこか遠いところで消えて欲しい。」
「ぅ、うう・・・!私も、ですか?」
「君はいい人そうだから、消えなくてもいいけど、今後一切、話しかけないで頂きたい。」
「うぅ!!私が女の子だったら・・・。」
「タラレバは好きじゃないけど・・・もしも君が女の子なら、むしろウェルカムだね。友達どころか俺のハーレム一直線。天にも登る気持ちにさせてやるZe☆」
俺は、ミラウェイドに向けて、親指を立て、キラーン!と、歯を見せて微笑む。
「天にも登る・・・気持ち・・・ボッ///そ、そそそ・・・それって!まさか、キ、キスを・・・。」
「はん!お子様か・・・。それどころか、唇はもちろん、『ピピー!』や、『ピッピー!』まで、全て俺色に染め尽くしてやるよ。それでも足りないなら、『ピピー!』を『ピーッピ!』して『ピピピー!』して『ピーッピー!ピーッ!』してやるよ・・・。なぁ?観月?」
俺の隣で、ハレンチ警察がホイッスルを吹いて、肝心な場所を笛の音でかき消した。さすが長年、隣で過ごしてきただけはあり、手馴れてらっしゃる。
「“ピピーッ!”え、エロスケ!た、逮捕だ~!逮捕ー!」
右手に手錠を掲げて、俺に詰め寄ってくる婦警姿の観月さん。
俺は観月婦警を捕まえると、ぎゅっと抱きしめその頬を撫でる・・・。
「逮捕?何故だい?全て、お前にしてやりたいことなのに・・・。なぁ、観月・・・。(イケボ)」
「(ボッ!)・・・へ、へんたいぃ~!タイホだよ~・・・。」
「いいよ・・・?取り調べ室で、存分に話し合おうじゃないか・・・。俺と、お前の一対一で、じっくり、ねっとり、“性活指導”してくれよ。(イケボLv2)」
「ぅ~ッ///」
「あうあうあう・・・!(ボボボッ!!)」
俺と観月の絡みを見て、ミラウェイドは顔を真っ赤にすると頬に手を当て目を回す・・・。
ミラウェイドのお子様みたいな想像力では、俺の具体的かつ生々しい説明はあまりに刺激があり過ぎたようだ・・・。
よかったな。何事も勉強だよ、ミラウェイドくん。
「はは・・・!どうしたんだい、ミラくん?これくらいで、音を上げるなんて、経験値が足りないんじゃないかい?」
「き、キスくらい知ってるよ!!赤ちゃんを呼ぶ儀式でしょう!?」
腕を振りながら、ミラウェイドは俺と観月に抗議の声をあげる。
『キスで赤ちゃんができちゃう』なんて、可愛いこと言っちゃって、まぁまぁまぁまぁ・・・。
俺は苦笑すると、ミラウェイドの頭を撫でて、その目を見つめ返す。
「まぁ、少年には難しいかな。大切な人が見つかったら、ゆっくりと頑張れ。だけど、そうだな・・・。なにか、まかり間違って、君が女の子になったら・・・いや、なれたなら・・・。」
「あ・・・///」
頭から、髪を撫で、頬に手を添え、そのままその顎を指先で持ち上げる。
まるで、今からキスをするように、熱い視線をミラウェイドのその潤んだ瞳に向けると小さく微笑んだ。
「俺のところに来い。責任取って、俺のハーレムに迎えてやるよ。ただ、その時は・・・朝まで寝かさないぜ?(イケボLv MAX)」
ー ウー!ファン!ファン!ファン!(ハレンチ警察総出動)
「んん・・・!は、はひぃ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」
最後にトドメとばかりに、ミラウェイドの女の子のようにぷるんと潤った唇を指先で優しく撫でる。
フルル・・・!と身を震わせて、ミラウェイドはへたりと腰から地面に尻もちをついた。
▷ スキルが発動しました。
「(ん?何かスキルが発動したみたいだな?なんだろ。)」
▷ ・・・・・・。
「(? まぁ、いいか・・・。)」
本体の声が聞こえたが、それ以上の説明が出ることはなかった。
俺はミラウェイドに最後に微笑を送ると、この場に刺さってる矢を見る。
シルクが視線に気付いて、矢を引き抜くと俺の元に持ってきてくれた。
「うっ!うぅ~!」
「ありがとう、シルク。・・・さて、それじゃあ、俺たちは行くけど、君はどうする?」
「き、キミは・・・?どこに行くんだい?」
「街に向かって、ギルド登録だよ。冒険者になって稼ぎまくるぜ!ハーレムのために!」
「ギルド登録?えぇ!?君ほどの強さで、ギルド登録は勿体ない!冒険者じゃなくて騎士にならないか!?」
「え?嫌です・・・。」
「ま、またぁ!?今日、何回、拒絶されたんだろう。こんなの人生で初めてだよ!」
「お!初体験か?おめでとう!だって、騎士は一箇所に留まらなきゃならないだろ?俺は世界を巡って、女の子たちを幸せにするんだ♪」
「・・・ぶ、ブレないなぁ。」
「これが、いい所であり、悩みでもあるんだよねぇ。」
全ての勧誘を断られ、シュンと落ち込むミラウェイドと慣れた様子で苦笑する観月。
▷マスター。そろそろ移動しないと、野宿確定になりますよ?
「むっ!?野郎に大分、時間取られたな!」
「ゆ、ユーちゃん!?また、そんな言い方して!」
「男に割く時間はない!これで、女の子との出会いを、二つほど逃したかもしれないんだからな!もったいない!それじゃあな、ミラウェイド!もう会うこともないだろう!」
「ガーン・・・!う、うぅ・・・そんな拒絶しないでよぉ!ここまで、ショックを受けたのは初めてだよぉ・・・。」
「もう!こら!ユースケ!ほ、本当、ごめんなさい!アイツには、後でキツく言っときますから。本当、すみません!すみません!」
ミラウェイドに手を振り、駆け出すユースケと、それを何度も振り返りながら謝罪する観月。
やがて、二人の姿が小さくなった頃、ミラウェイドはハッ!我に返り立ち上がる。
「こんなにも、私を拒絶する人間がこの世界にいるなんて。魔王ならいざ知らず、人にこんなにも拒絶されたことは無かったな。こんなにも、人と関わりたいなんて思ったことはなかった・・・。きっと、うん。彼は特別な人なんだ・・・。ふふっ!なんだか・・・熱くなってきちゃったぁ・・・。」
普通、ここまで拒絶されたら誰でも不快に感じ、近付くことをやめるだろう。
だが、ミラウェイドはむしろ、それを歓迎するような素振りを見せて、頬に手を当て恍惚な表情を浮かべ笑った・・・。
その視線は、熱く熱く・・・。
ユースケの背中に向けられていた・・・。
ーーーーー
ーーー
ーー
ー ぞくっ!?
「う・・・。」
「どうしたの?どっか痛いの?」
「いや、なんか悪寒がした・・・。」
急に立ち止まり、背後を振り返るユースケに観月は駆け寄ると、心配するように覗き込む。
「大変!風邪かな?少し休もうよ。」
「うーん。風邪じゃないと思うけど、なんか嫌な予感はする。リライア、街までどれくらい?」
▷まだ、半分も来てません。到着は夜中になる可能性がありますよ。
「そうか・・・。宿代も稼げてないし、ここらで野営の準備しようかな。初めてだから、時間かかると思うし。」
「そうだね。初めての野営だし。夕方前に準備しておきたいよね。私、枝とか葉っぱとか集めて来るよ。」
「うッ!」
「シルクちゃんも、手伝ってくれるの?ありがとう。」
「フンス!」
やる気満々のシルクに笑う観月。
なら、二人に焚き火の用意は任せて、俺はテント張りをしようかな。
「俺はリライアと二人でテント作るわ。」
▷分かりました。テントの作り方を探してきます。
俺たちは少し開けた場所に野営を決めて、準備に取り掛かることにした。




