その武器、規格外につき
混乱状態の観月を落ち着かせつつ、街道をしばらく走っていると、やがて、日も登りきっていた。
そろそろ昼頃だろうか。
「一旦、足を止めないか?あれから、結構、走ってきたんだけど・・・。」
「いや!まだ、走るもん!まだまだ、遠くに行かないと、みんなに追いつかれちゃうよぉ!みんなに追いつかれて、また、ヒュー!ヒュー!言われるの、恥ずかしすぎるうぅー!」
ヒューヒュー・・・って、結構な死語だな。
今どき、そんな冷やかし方してる奴、なかなか見ないと思うが。
この子、本当に俺と同い年だよな?
「大丈夫だろ。結構、離れたと思うよ?」
「ううぅ・・・。わかった・・・。」
観月の手を取ると、少しブレーキをかけて、歩くように促す。
あんまり、一時の感情で行動するのはオススメできない。
特に、初めての異世界なら、尚更だ。
「それにしても、モンスターが全然出てこないな。」
お婆さんの言ってたオオカミ型のモンスターどころか、スライム種すら出てこないし。
そういえば・・・今更ながらに、オオカミ型って、変じゃないか?
オオカミって、この世界にいるのだろうか。
こういう場合、ウルフ型って言うんじゃないか?
あの時は不思議に思わなかったが、今思えば、違和感しか感じない。
「ふむ・・・。」
「歩きながら、考え事?危ないよ?走りながら、考えた方が安全だよ!さぁ!走ろう!逃げよう!」
「何から、逃げるんだよ。しかも、歩きが危なくて、走りが安全って、どんなトンチだって話しだっつーの。いいから、止まれって。武器の鑑定が終わらないと、使うに使えないだろ?」
「うぅー・・・分かったよ。でも、人来たら逃げるからね。」
「もうそれ、心配レベルのコミ障だからな。」
渋々といった様子で足を止めた観月は、今日、何度目か分からないランチョンマットを取り出すと、街道の脇にそっと敷いた。
「昼飯食べたいなー。」
「鞄に山のように食材が入ってるでしょ?俺はいい加減、鑑定するから。」
「ええー・・・。一緒に食べようよー。一緒に食べたら、もっと美味しいよ?」
鞄から林檎を取り出し、俺に手渡す。
「気持ちだけ、受け取っとくよ。」
「むー。」
受け取った林檎を脇に置いて、俺は弓を取り出すと、しげしげと眺める。
やっぱり、迫力あるよなー、これ。
こんな見た目で、どんな力が秘められているんだろう。
武器に期待の目を向けていると、それを面白く思わなかったのか観月は俺の横にピッタリとくっついて、ジトリと俺を見上げる。
「私にも構ってよ、ユーちゃん!」
「はいはい。一緒に見ようよ、観月。《鑑定》」
俺は近付いてきた観月の肩を招き寄せると、弓に向けて鑑定を行った。
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【 邪龍のアギト 】
ランク S
攻撃 500
防御 0
魔力 0
特性
異常強化(大)/装填速度アップ/攻撃力強化(倍化)/ スキル強化
備考
かつて、数多の国々を滅ぼした邪龍の素材を使って造られた剛弓。その一矢は、天より星を落し、地を割る力があるという・・・。
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「やっぱきたー、チート武器!防具に続いて、なんで、こんな冒険の序盤に、Sランクが手に入るんだっての!そんな、序盤に化け物が待ち構えてんの?魔王とか勇者とか、実は目と鼻の先で待ち構えてんの?ってくらい、揃い踏みなんですけど。」
「またー、そんなこと言うと、本当になっちゃうよ?次の街で、早速勇者さんと闘うことになっても知らないよ?」
「ちょっと、観月の武器も見たいんだけど。」
「うん。私もみたいな!《鑑定》。」
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【 青龍偃月刀 】
ランク A
攻撃 300
防御 0
魔力 0
特性
異常強化(小)/攻撃力強化(倍加)/ スキル強化 (小)
備考
剣舞の達人にのみ使用ができる武器。
龍の瞳に光が宿る時、真の武神が戦場に舞い降りる・・・。
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「だと思ったわ。どおりで見たことある形の武器だと思った・・・。」
「知ってるの?」
「青龍偃月刀。中国の武神と呼ばれた人が使ってた武器だね。恐らくは、本物じゃなくて、同じ製法で造られたレプリカだろうけど、レプリカだとしても、本物と決定的に違うわけじゃないから。同じ性能と思っていいんじゃないないか?」
だいたい、こういった世界っていうのは、素材が揃えば、同じ物は作れるはずだ。
恐らくは、店主のアダンさんか、先代さんが、造ったものだろう。
槍と言うよりは、大刀の部類に入るものだが、この世界では、そこら辺の区別は曖昧なのだろうか。
まぁ、見た目でいえば、薙刀に近いから、観月にしてみれば、使い易いかな?
「ふーん。じゃあ、これを振れば、私も武神になれるんだね!」
関羽雲長様の槍捌きをイメージして、観月が偃月刀を手にブンブンと素振りをする。
恐ろしい程、似合っていた。
まるで、本物の武神が宿ったかのような動きに、思わず息を飲む。
ー ちらっ・・・ちらっ・・・!
うむ・・・白ショーツ、ごちそうさまです!!
俺は動き回る観月ちゃんの、今日のパンチラ♡を堪能しながら、うむうむと唸っていた。
「装備すれば、武器の効果もちゃんと反映されるんだな。観月の攻撃力は、たしかに、素手の時より二倍になってるよ。」
「とすると、基礎体力を上げれば、それに比例してスターテスも向上するんだね!」
「筋トレとか走り込みとかね。あながち、今の状況も無駄ではないってことだな。」
歩いて、隣街まで向かう俺たち。
到着は明日の昼前くらいになるだろうが、それだけの距離を歩いて進むのだ。
体力がつかない訳がない。
まぁ、身体が強化されてる分、逆に疲れにくい体になっている点は注意が必要になるが。
強くなれば、レベルが上がりにくくなるのは、RPGでもよくある話だよな。
「俺たちの場合、尋常じゃないくらい負荷をかけないと、強くなるのは難しいだろうけどな。」
▷そういうことでしたら、【重力魔法】を習得されてはどうでしょう。
「重力魔法って、生活魔法の一つだよな?」
▷はい。店主さんも使っていたものです。
「使ってた?」
思い返しても、全然、該当する出来事に思い至らない。
そもそも、呪文を唱えている所を見たことがなかったと思う。
▷マスターの持っている弓は大変に重かったでしょう?それこそ、身体強化Lv3でも重く感じたはずです。普通なら、持ち上げることすらできない代物なんですよ、その弓は。
店主が執拗に箱を持っていたのは、あの箱自体に、軽量化の加工が施されていたからです。
この世界の人たちは、生活魔法を体得していて、様々な場面で使用しているんですよ。
「へー・・・軽量化が必要なほどなんだね。実際、一体、何キロくらいあるんだ、コレ。」
▷約 150キロです。
「え!?はい!?150キロ!?ツヴァイハンダー三十本分!?いやいや!そんな、バカな!?これ、本当に武器なの!?飾りじゃないの!?」
※ここでシルクの横路
ご主人様の言っているツヴァイハンダーは知ってる人は知ってる武器ですね。
ここでは、ドイツ発祥の両手持ち大型剣を指します。
16世紀の神聖ローマ帝国の傭兵団が使用したことで有名となりました。
長さは2m前後で、最大の特徴は刀身の根元のリカッソと呼ばれる部分が非常に長いこと。
本当に大きな武器なので、使う人を選ぶ武器となってます。
・・・ちなみに、元魔王の話、『聖剣』も『魔剣』もこのツヴァイハンダーであるそうです。さて、ということは・・・?
聖剣・魔剣、三十本分を片手で扱っているご主人様の異常さ、理解して頂けるでしょうか?
おしまい 。
▷祭具用ではなく、紛うことなき、武器です。ただ、これを使ったら、否が応でも威力はそこら辺の弓など非になりませんので、ご注意ください。
龍の外皮くらい、軽く貫きますよ?
「え?もう、そこまで行くと、弓じゃないよね?これ、実はバリスタじゃないの?」
▷はは・・・。否定できない威力が、予測されているので、なんとも・・・。
※さらにシルクの横路
バリスタとは、攻城戦における攻城兵器、それらからの防衛に使われ、軍船に搭載することもあった超巨大な据え置き式の大型弩砲です。
矢も、石や金属の弾、極太の矢(あるいは矢羽のついた槍)を装填して発射していました。
ここでポイントなのは、あまりに大きなために、据え置き式だったということです。
それが弓兵と同じように、自由に動き回り、対城級の威力の弓を放ってくると思うと恐ろしくてたまりませんね。
おしまい。
ーーーー
ーー
それならばと、俺は弓を構えてみることにする。
・・・あれ!?よく見れば、矢がおかしい!
普通の木製の矢ではなく、鉄製の少し太い矢だ。
それが二十本程、矢筒に入っているではないか。
▷あ、矢筒自体に、軽量化の魔法が使われていますね。だから気が付かなかったんですね。これ・・・矢だけでも、50キロありますよ。
てことは、弓と矢を持っただけでも、軽く200キロあることになる。
「やだー!体重計に乗ったら、振り切っちゃう!お相撲さん超えちゃうわぁ!って、そうじゃないよ!重ければ、それだけ、リスクは上がるでしょうに。簡単に動き回ることも難しいぞ?」
▷そもそも、持つこともできませんよ、普通なら・・・。矢が勿体ないので、土魔法で石の矢を造られて見てはどうでしょう。
「あ、そうだね。確かに。えーっと・・・んー・・・。【|Earth Arrow《大地の矢》】。」
左手に鉄の矢を持ち、それを石で作るイメージをして、地面に手を着くと、呪文を詠唱してみた。
結果・・・
はい、砂!あーもう!面倒だな!
まぁ、分かってたけどね!!
▷あはは・・・。まずは矢の構築から、できるようにならないといけませんね。
リライアは苦笑すると、頑張ってくださいと話を切り、念話は終了する。
矢ができたら呼んでくれってことかね。
俺はヤレヤレと、肩をすくめると、矢の作成は諦めて武器をしまった。
「あれ?矢は射ないの?」
「今日の夜でも、作り置きするよ。今はとりあえず、道を進もう。いざとなったら、鉄の矢で戦闘できるし、最悪、鎧を着て、拳で戦うことにするよ。」
俺はブレスレットを撫でて、中の甲冑を確認する。これ単体でも、相当なバフが期待できるのだ。拳で戦闘しても、なんら問題はないだろう。
「お!ついに、戦闘デビューなんだね!高まるぅ~!私も、コレを使いこなせるように、早く慣れないとね!」
観月は偃月刀を振るうと、肩に担いでにっこりと笑う。
もう、十分に自身の手足のように扱えているように見えるのは、気のせいだろうか?
俺は苦笑して、荷物をまとめると、シルクをおんぶして、立ち上がった。
「それじゃあ、先に進むか。少しでもモンスターを倒して、魔石集めもしないとね。」
「そうだね!お金貯めて、美味しいものいっぱい食べるぞー!」
「観月の防具も忘れないようにしないとね。」
「楽しみ~!」
観月はルンルン♪と嬉しそう、街道へと踏み出す。
俺もその後ろに続くと、肩越しに背中のシルクに目を向けた。
「シルクも防具くらいは着けといていいかもしれないな。子供の見た目だといっても、モンスターや野党からしたら、そんなの関係ないしな。」
『うー!』
シルクはドンと来い!と言わんばかりに、力こぶを作ってみせる。
まー、細くて可愛い腕だこと。
「シルクも魔法は使えるみたいだし、それを磨くのもありだぞ?一緒に鍛錬しような?」
『う!』
一緒、という言葉が嬉しいのだろう。シルクはウキウキと俺の背中で楽しそうにはしゃいでいた。
ほんと、可愛い子だ。
危険な目には合わせない。
必ず、観月もシルクも俺が守ってやるからな。
「ユーちゃん!見て見てー!真っ二つになっちゃった!」
少し先を歩いていた観月が、何を思ったか、木を横凪に切りつけると、大木が真っ二つに切れて轟音を立てて、地面に倒れた。
守る必要ないかもしれない・・・そう、ちょっと思った瞬間だった・・・。
「ちょ、おまっ!?バカなの!?何してんの!?何してんの!?」
「ひぅ!?」
観月の切り倒した木に駆け寄ると、状況を確認する。
観月の言う通り、綺麗に真っ二つになった木が街道にかかるように横たわっていた。
「だ、だってー。なんか、この木から変な気配がして、気になったから斬ってみたら、こんな風になっちゃったんだもーん。」
「気になったら、斬るの!?キミ、サイコパスなの!?知らなかったー!知りたくなかったー!あー!やだ!こんな相棒、怖くて一緒に旅できないよ!?なんでって!?気になるもの、全部、斬りつけるからだよ!ほんと、何してんの!?」
「そんな、怒らないの。カルシウム足りてないよ?食べる?」
にっこりと笑い、観月さんが差し出して来たのは、先程、横に置いたリンゴだった。
俺はリンゴを観月の手から奪い去ると、むしゃりと食べて目の前で確認してやる。
どっから、どう見ても、リンゴ!
どっから、どう食べても、リンゴ!
うん!ただの、リンゴ!!
「リンゴに、カルシウムは入ってないんだよ!一グラムも入ってないんだよおぉー!!なんでって!?リンゴだからだよ!!果物にカルシウムなんて、入ってないんだよおぉー!!」
「おぉー!元気!元気!それだけ元気なら、大丈夫だねー!さぁ!行こう!街を目指して、レッツらゴー!」
「コイツッッ・・・!?」
俺は目を釣り上げると、アイテムボックスから“邪龍のアギト”を取り出す。
矢を番えると、観月に向けて、矢を射った!
「お前ちょっとくらいは、反省の色みせんかい!コルァー!!」
ー ギリギリ・・・!ビュン!
「にゃ?うわっ!?」
ードカーン!!
「避けんなあぁー!!」
「よ、避けるよ!だって、それ、対お城用の武器なんでしょ!?当たったら、大怪我だよ!」
「大怪我しない!お前は身体強化3だ!かすり傷すらない!」
▷さすがに、それは・・・。当たったら、ヒビくらいは入りますよ。あと、矢が勿体ないですよ・・・!?
「ほらー!やだよ!痛いのや!」
「待てこらッ!」
俺から逃れるように、木々を盾にしたり、林を逃げ回ったり、偃月刀で抵抗してきたり、その度に木々が何本も倒れていく。
『うー・・・。(環境破壊だ・・・。)』
荒れ狂う二人の攻防を眺め、シルクが遠い目で壊されていく林を眺めていた。
この二人はおふざけでも、こんなに周りを破壊できるのか・・・。まるで天災だ。
どうやって、二人を止めようかと考えていると、気がつけば、辺りの木々はすっかり丸裸にされてしまっていた・・・。
「いい加減ッ!当たっとけ!!」
「や!は!やーだよ!べろべろべーっ!」
「・・・かっちーん。もう許さん!」
『う、う!?うーー!!』
さすがに、これ以上はやばいと、怪我を覚悟でシルクはユースケの腰に飛びつく。
「なっ!?止めるな、シルク!コイツはここで、みっちりと教育しとかないといけない!なんでも、かんでも、手を出したら、いずれ、痛い目を見ることなるんだ。人に迷惑がかかる!」
『うーう!うー!うぅー!!(いやいや!周り見てみて!?目も当てれないくらい、今まさに、傍迷惑な状況になってますよー!!)』
「「え?あ・・・。」」
シルクが周りを指さして見せると、ようやく自分たちの状況に気付いたユースケと観月が固まった・・・。
綺麗に整備されていた木々は荒れ、土は抉れ、林の影からは怯えた様子の動物たちがこちらの様子を伺っていた。
あ、鹿だ。すげー。普通の動物もいるんだ。
そこでハタと我に返る。
「っ~~!もう知らん!逃げる!」
「え?あ、ま、待ってよ!!」
結局、同じことをしてしまっていたことに気付いたユースケは頭を抱えると、荷物をまとめ、シルクを小脇に抱えると一目散に駆け出した。それを追いかけるように、観月も荷物を担いで駆け出す。
嵐の去ったあとに残された動物たちの視線が、二人の背中に刺さる。
その表情はとても、物悲しい顔をしていた・・・。




