街道は皆のモノにつき
しばらく街道を駆けていたが、案の定、観月がペースを乱しまくって、ヘロヘロになったので、道端で一休みすることに。
こうしている間も、目の前を商人の馬車が何台か通り過ぎていった。
「はは!飛ばしすぎだよ、お嬢ちゃん。」
「うぅ~・・・!後で絶対、追いつきますから!」
「あはは!分かった。一足先に街で待ってるよー!」
「お姉ちゃん、頑張ってぇー!」
「お、おぉ・・・。」
俺たちが休んでいると、その光景を見ながら苦笑を浮かべ商人の馬車何台も通り過ぎていく。
実はどの馬車も、この街道で出会い、俺たちが駆け足で抜いて行った馬車なのだ。
この光景もかれこれ、何回目か分からない。
その度に、皆、差し入れだと、お裾分けをくれるもんだから、観月の鞄の中には、果物やお菓子、飲み物や食べ物ばかり入っていた。
もはや、簡易の冷蔵庫だ。
「もぐもぐ・・・。うぅ・・・不甲斐ない・・・。」
もりもりと、バックからサンドイッチを取り出し食べながら、観月はランチョンマットに腰を下ろして街道を眺めていた。
これも、何度目やら。
俺は水筒に口をつけ、手元の地図に目を落とす。
「地図とコンパスだけじゃ、いまいち、場所が分かりずらいな・・・。グーグルンマップの偉大さを再確認したぞ。リライアくん、この地図をグーグルンマップのようにできないかね?」
▷あはは・・・。お気持ちは分かりますが、さすがに、そこまでは・・・。まぁ、目的の街までの距離とおおよその時間は予測できますよ?
「だよなー・・・って、それ!それで十分だよ!」
▷あ、てっきり、グーグルンマップのように、オススメのお店やレビューも所望かと思ってました。現在地と目的地と所要時間程度なら、表示できますよ。えーっと・・・はい、どうぞ。
リライアの声と共に、マップに赤い玉が浮き上がる。恐らくここが現在地。
目的地もピンが差してあり、その横には距離と予想時間が浮き出て見えた。
「3Dー!ヤフー!ハイテクウゥゥ!さすが、できる秘書は違うなぁ。愛してるよ。」
▷も、もう・・・///サラッと恥ずかしいこと言わないでください!もう、切りますね!何かあったら、また呼んでください。
「あぁ、ありがとうね。お礼にハレンチするから。」
▷し、しなくていいです!
照れた声と共に、リライアの声が止む。
本当、照れ屋さんの可愛い秘書さんだなぁ・・・。
ご褒美のハレンチ、たーんとあげようねー。
▷っ!?うぅ・・・。
「さて、リライアちゃんのハレンチは決定として、どうするかな?この調子だと、一日はかかりそうだ。野宿も想定しとかないとな。」
「意地はらず、行商人さん達の馬車に乗せてもらえばよかったよね・・・。ごめんね、ユーちゃん。」
しょんぼりと、コップを持って観月が落ち込む。
行商人さん達も厚意で馬車に乗るように言ってくれてたけど、観月は全部、ダイエットのためだと、断ってたもんな・・・。
まさか、こんなことで、ダイエットをけしかけたことを後悔することになろうとは。
あんまり、観月に体重の話はしないようにしよう。
▷それ以前に、女の子に身長や体重、体型の話をして気にしない子の方が少ないですからね。デリカシーの問題ですよ、マスター。
「たしかに。これは、俺も悪い。ごめんな、観月。ちゃんと付き合うから。最後まで、みんなで歩いて行こうぜ!みんなで行けば、楽しいし、あっという間に着くさ。」
「ユーちゃん・・・。」
少し驚いた顔を見せたあと、コップをキュッと握り、観月は少し笑顔を取り戻すと、強く頷いた。
「もう少し休憩したら、出発しよう。それまで、各々好きなことしていいよ。俺は後回しにしてた武器とか諸々、鑑定するわ。」
「あ、私もアダンさんから借りてる武器、鑑定しとこ。」
観月の横に腰を下ろし、武器をアイテムボックスから引っ張りだす。
改めて見ると、ごっつい弓だな・・・。
邪龍の素材を使ったって言ってたけど、まるで、邪龍そのものにも見える。
「怖い見た目だよね・・・。鎧と合わせたら、本当に、新魔王爆誕だね。」
「勘違いだけは避けたいよ、本当・・・。魔王が二人になったなんて広まったら、方々から色んな奴が喧嘩売ってきそうだ。そうなったら、ハーレムどころじゃない・・・。」
「私には、大助かりだったり?ユーちゃんを、独占できるもん・・・。」
コトンと肩に頭を乗せて、観月が甘えてくる。
本当、一線を超えてからというもの、観月はかなり素直になったよな。
とても嬉しいことだけど、逆に少し、心配にもなる。
ハーレムが大きくなった時に、観月はどう思うのか・・・。
その気持ちが離れてしまうのではないのか・・・。
その怖さは、絶えず俺の胸を締め付けていた。
「ハーレムが大きくなるのは、嫌か?」
「・・・うん。でも、仕方ないとも思ってるよ。だって、ユーちゃんだもん。とってもエッチで、スケベで女の子好きで、だけど、本当に女の子を大切に思ってて、お人好しで、カッコよくて、優しくて、素直で。こんなに一緒に居て、気持ちいい人、絶対に他にいないもん・・・。だから、ユーちゃんの魅力に気付いた人が、たくさん、集まって来るのは仕方ないと思う・・・。」
武器を持つ俺の手に、手を重ね、観月は俺を見上げると、強い眼差しで口元に小さく笑みを浮かべる。
「それでも、私は絶対、退かないよ。ユーちゃんの一番のお嫁さんは、私がなるから。絶対。」
「っ~!愛してるよ!観月!」
「ふふ・・・!うん!私も愛してる!」
観月の眼差しと、一途な気持ちを乗せた言葉に、俺は堪らず、観月を抱きしめる。
ギュッ!と強く抱きしめ、その可愛らしい耳に、気持ち一杯の“愛してる”を叫んだ。
そっと、抱きしめ返し、観月もまた俺の胸に顔を埋めると、大きく息を吸って・・・優しく“愛してる”と返してくれる。
相手の愛の強さを疑ってしまった自分を恥じつつ、もう一度、抱きしめなおす。
この子の温もり、香り、感触、息遣い、声、こころ、全てを俺自身に記憶させるために。
もう、迷うな。疑うな。彼女を信じろ。
いつも、隣で手を取りあり、同じ想いで同じ風景を見るのだと、今までも、これからも、ずっと、彼女と一緒なのだと、心の奥深くに記憶させろ。
「ふふ・・・ユーちゃん、私のこと本当に大好きだね。」
「ん?」
「ドキドキ・・・すごいよ。こうして抱きしめ合っていると、大きなユーちゃんの心音が聞こえてきて、とっても安心する。」
ー とくん、とくん・・・
それは君も同じだよ。ずっと、さっきから君の音も感じてるんだよ、俺も。
「観月もね。」
「ふふ・・・うん。だって、大好きだから。」
観月は身を離すと、照れた笑みを零して、俺を見上げる。
「ユーちゃん・・・キスしたい。」
「・・・俺も。」
ー チュ・・・。
唇を触れ合うほどの軽いキスをすると、再び視線を絡め合い、小さく息を吐いた。
たった、一回のキス。それだけで、温かい気持ちが胸いっぱいに広がる。
「へへ・・・照れるね・・・。」
あぁ・・・この笑顔だ。絶対に幸せにしよう。
そう固く胸に誓ったところで、周りの空気が変わっていたことに気付いた・・・。
『うー・・・。』
「じー・・・。」
「キャ~!」
「大胆だね~最近の子は・・・。」
「お姉ちゃんたち、何してるの?」
「しっ!今いい所だから!」
「おいおい・・・。こんな、人通りもあるところで、堂々と・・・狩られたいのか?」
「だ、ダメよ!邪魔しちゃ!今は二人だけの時間よ?狩るなら後で!」
「ポール!私たちも負けてられないわ!」
「もちろんだよ!エメラルダ!」
何やら周囲に騒がしさを感じた俺たちは、辺りを見渡す。
たくさんの人々の視線が、道端に腰掛ける俺たちに注がれていた。
・・・あ、行商人の皆さん。それと、ほっとかれてたシルクさん。あと、通りがかりの冒険者の御一行。イチャイチャカップルのポールエメラルダ。
たくさんの皆さんが俺たちを見て、顔を赤らめながら、続きを今か今かと待ちわびている。
「っ!?〇×△□〇~~ッ!?」
「え!?お、おおぉおおぉーー!!?」
『う!?』
周囲の状況に気付いた観月は、顔を真っ赤にすると、俺から俊敏な動きで離れて、荷物をまとめ俺とシルクの首根っこを掴んで、一目散に駆け出した。
後に取り残された人々は、一様に苦笑を浮かべると、幸せそうな二人に目を向けて、大声で冷やかしの声援を送る。
「「せ~の・・・お幸せに~!」」
「っ~~!!?」
「あはは・・・!ありがとー!皆さんにも、幸多からんことを~!」
『うー!うー!』
背後からの声援に、さらに真っ赤になった観月は速度をあげる。
首根っこを掴まれて引きずられる俺とシルクは、離れていく皆さんに手を振って、別れを告げた。
二人の休んでいた場所は、噂が広まり、後に【幸せ街道】と名ずけられた。
ここでキスをした二人は久遠に結ばれると、いうことから、この街道は一大デートスポットの仲間入りを果たしたそうだ。
ちなみに・・・歴史書にもこの記載はあり、この時代にデートスポットがあちらこちらで増えていったのは、この二人のせいだという見解が専門家の間では噂になっていた。




