そのオババ、不思議な雰囲気がありにつき
ギルドに登録して、軍資金稼ぎ。
情報収集して、女神さんをハーレム勧誘~♪
そのためにも、まず目指すは、街道を道なりに行った先にあるという街【ディケイナ】。
さーて、ディケイナはどっちかな~・・・。
「はっ!あー・・・あ~ぁ~・・・やらかした・・・。」
「え?どうしたの?」
「忘れてたわ・・・。地図ないじゃん。あと、テント。」
「あ、そうだったね。どうしよう、戻る?」
街道に続く道に出たところで、ハタと思い当たったが、今更戻るのも気が引ける。
さすがに、出戻りはカッコ悪くないかな?と思うが、二人の安全を考えると草の上で野宿もなかなかに恐ろしい。
せめて、テントは必要だ。
「はぁ・・・ハーレムの安全のため、戻るしかないか。あと、観月のご飯も買わないと。」
「・・・しゅ、しゅみましぇん。」
細いお腹を押さえて、観月は真っ赤になり小さく丸まった。
本当、その細いお腹のどこに、飯が入るのか、お兄さん謎過ぎて仕方ないよ?
「もし・・・よかったら、うちの商品を買ってくかえ?」
いざ、村に戻ろうとした時だった。
振り返った俺たちの後ろに、大きな鞄を背負ったヨボヨボのお婆さんが立っていた。
すごく、プルプルしてる・・・。
わざとじゃないかと思うくらい、プルプルしてる・・・。
「湯治に来たが、長居しすぎてねぇ。帰りの駄賃が心許ないだよ。良ければ、ウチの物を買わんかえ?」
「ほう・・・。何があります?」
「聞こえてきたけども、必要なのは、テントと地図だったねぇ?それなら、ちょうど仕入れたばかりのもんがあるよぉ。」
お婆さんは鞄をゆっくりと下ろすと、中から三本の柱とロープ、そして、大きな布を取り出した。
テントの骨組みと、カバーだろうか。
「このテントは“スライムの擬態糸”を使用して作られてんだぁ。入り口を閉めると、風景に溶け込んで、周りの獣に気付かれない優れ物さね。お買い得だよ。300Gでどうだろうね?」
1200(売却益) - 450(宿代金) - 100(観月の食事代) = 手持ち650G だったよな。
「あとそうだねー。夜は冷えるから、毛布もいるねぇ。三枚で150Gで、どうだろうね?」
「ふむふむ・・・。」
「あと地図だねぇ。これは100Gでいいよ。」
「ふむふむ・・・。」
「コンパスは必要なさね。50Gだね。」
「ふむふむ・・・。」
「あとは、女神の加護を乗せたペンダントだ。これをつけてれば、悪い気を払うことができるよ。無駄な戦いは避けた方が、効率的に動けるだよ。値段は25Gだね。」
「ふむふむ・・・。」
「あとは、お嬢ちゃん。おやつ程度にしかならんが、温泉饅頭だ。25Gであげるよ。」
「ふむふ・・・む!?」
「わーい!ありがとうございまーす!」
お婆さんの手から、観月は紙袋を受け取ると、ウキウキと嬉しそうに、紙袋の中を覗いた・・・。
「わぁ!五個も入ってるよぉー!ありがとう!」
「ふふ・・・!いいんだよ。どちらにせよ、私には重いからね。」
と、お婆さんはお腹を撫でて顔をしかめた。
確かに、饅頭五個は胃に来そうだ。
でも、あと一時間もしないうちになくなります、たぶん・・・。
「じゃあ、全部買います・・・。おいくらですか?」
「650Gだねぇ。」
「・・・くっ!村を出て早くも無一文じゃないか!」
俺は涙を飲んで、お金がピッタリ入った袋を差し出すと、お婆さんは中身を確認して頷いた。
「いずれは、必要になるもんだからねぇ。今のうちに買えといてよかったよ。賢い買い物だった。」
お婆さんは何度も頷くと、俺たちを見送るように、近くの岩に腰を下ろす。
「どれ、私はまた、足湯でもして帰ろうかねぇ。二人は街に向かう途中かえ?なら、気を付けなさい。特に、この先に現れる中型モンスターにはね。」
「中型モンスター?」
「あぁ、オオカミ型のモンスターさ。群れで狩りをすることが多いだぁ。子犬一匹でも、油断しないようにねぇ。」
「はぁ・・・。強いですか?」
「・・・あんた達なら、大した敵にならんさ。ただ、二人とも戦い慣れしてないんだ、油断しないに越したことはない。奇襲されても、返り討ちにできるくらいの警戒はしておくといいだよ。」
プルプルと震えながら、お婆さんは杖を街道に向けて頷いた。
ん・・・?この婆さん、なんで俺たちの強さや、戦闘経験が分かってるんだ・・・?
これも、商人の勘というやつだろうか。
「・・・気をつけるよ。行こうか、二人とも。」
「お婆さん!ありがとう!」
『うぅー!』
俺は頷くと、観月とシルクの背中を押して、道を進むことにした。
「あぁ・・・気をつけてなぁ。運が良ければ、女神の導きで、また巡り会えるさね。」
「・・・ふむ?」
俺は岩に腰掛け手を振る婆さんに、何度か振り返ると、軽く頭を下げて先を急いだ。
気にはなったが、隣の街まで、どれくらいかも分からないし、今は先を急ぐべきだろう。
テントはあるけど、まだ慣れない世界での野宿は、怖さもある。
できるだけ、安全は確保しておきたかった。
特に、俺の大切な女の子達だけは、絶対に危険な目に合わせるわけにはいかないからな。
「運が良かったね!ちょうど、欲しかった物も手に入れられて良かったよー。これも、ユーちゃんの幸運体質のお陰かな?」
「・・・ふむ。」
俺はもう姿の見えなくなった婆さんに今一度振り返る。
「都合が良すぎる・・・。あの婆さんは、なんか、普通とは違う気がする。」
「違う・・・?」
「まぁ、予想だけど、これからも何度も出会うだろう。それが、女神の導きなのかは知らないないけど、あの婆さんには、何かあるのは感じ取れた。」
「ふーん。なら、またお饅頭が買えるね!やったー!」
「・・・呑気なやっちゃなぁ~。あんまり食べてばかりだと、自分がお饅頭になるぞ?」
「・・・・・・だ、大丈夫だよ。私、我慢できるし。」
と、自身のバックの中に伸びていた右手を、何事も無かったように引き抜くと、大手を振って歩き出す。
からかい半分のつもりだったが、まさか、本当に饅頭に手を伸ばそうとしてたとはな。
恐ろしい“腹ぺこミツキちゃん”だこと。
「さぁ!ユーちゃん!隣町まで、駆け足で行こう!少しでも、早く着かないと!」
「おいおい・・・急に動きが活発になり始めたな。もしかして、体重のこと気になりだしたか?」
「べ、別に!?そんなことないよ!?」
突然、走り始めた観月に、俺は苦笑を浮かべると観月に倣って駆け足で街道を走り始めた。
『う!うぅ・・・う・・・う~~!』
トテトテと、シルクも頑張って走ってくるが、そこまで早くない。せいぜい、子供の足では一生懸命に走っても、限界はあるだろう。
「観月!シルクを代わる代わる、おんぶして街に行こうぜ。」
「ふふーん!いいよー?んじゃ、私が先に、シルクちゃん、おんぶしてあげるー!」
『うー!!』
ぽすん!と、軽いシルクを背中に乗せて、観月はかけ出す。
すげー。そんな普通と変わらない速度でよく走れるな。
身体強化のおかげか?
「こらこら、あんまり飛ばすと、すぐバテるぞー?」
「大丈夫~!ほらほら、ユーちゃん!置いてくよー!」
『ぅ、う~~!!?』
ビューン!と、風が起きそうな程の速度で、観月が街道を駆けていく。
背中のシルクは必死に捕まっているが、あまりの速さに半泣きだ。
俺は苦笑しつつ、ペースを守り、二人の後に着いて行く。
日はまだ登り始めたばかりだった・・・。
ーーー
ーー
二人を見送ったお婆さんは、岩からゆっくりと立ち上がると、懐にしまったお金を取り出す。
「うふふ・・・本当、慌てん坊さんなんだから。まさか、テントと地図を忘れるなんてね。RPGなら、絶対に必要な物なのに。でも、さすがにあからさま過ぎたかな?すごく、気にしてたもんね・・・。気をつけないと。」
先程とは打って変わって、急に流暢に喋り出したお婆さんは、にっこりと微笑むと、遊助達が駆けていった街道を眺める。
しっかりとした足取りで歩きながら、荷物を背負ったお婆さんは、まるで、先程とは別人のような雰囲気を漂わせていた。
「さーてと、私もまた隠れようっと。あんまり、姿を見せてると、お姉ちゃんにバレちゃうわ。」
急に、お婆さんは着ていたローブを翻して、大きく踵を返すと、街道とは反対の方角へと踏み出した。
その姿は老人の姿ではなく、美しくも妖しい女性の姿になっていた。
始まりの白い部屋で、栄咲遊助と観月にチカラを渡した女神アスモデウス だ。
「さぁ、これからだよ。私は制約で直接的に手は出せないけど、手助けはできるから。君だけに辛い想いはさせないからね。ゆー君。」
声だけを残し、女神アスモデウスは姿を消す。
後には何も無かったように、草木を揺らすそよ風だけが吹いていた・・・。
彼女はどこに行ったのか・・・それは誰にも分からない。
気配も痕跡も何も、そこには残っていないのだ。
歴史書にも、彼女の登場は一文も記載されていないことから、彼女の存在はそれほど重要視されていなかった・・・もしくは、巧妙に隠されていたと思われる・・・。
それが誰の手によるものなのか、それもまた、誰にも分からない・・・。




