始まりの村、出立につき
村に戻った俺たちを出迎えるように、数人の村人達と共にアダンさんたちが村の入り口に立っていた。
「サカエさん!?どうでした!?」
「あぁ、アダンさん!大丈夫です!無事に敵は撤退しましたよ!」
「おぉー!やはり!私の目に狂いはなかった!さすが!さすがだ!」
アダンさんは俺には飛びつくと、健闘を称えるように、俺の背中を音がなる程バシバシと叩いた。
少し痛かったが、労ってくれていると思えば、悪い気はしなかった。
「とりあえず、武器、ありがとうございました。」
「いえいえ!我が店の武器を使って、村の脅威を追い払ってくれたとなれば、むしろ、こちらが感謝したいくらいですよ!ははは!」
俺から矢筒を受け取ると、『これで、私の店にも箔が付く~♪』と実に嬉しそうに、矢を数える。
一矢も打ってないから、なくなってはいないはず・・・大丈夫だと思うけど・・・。
あれ・・・?
そういえば、何かすごく、念を押された気がするようなー・・・?
「私も弓の威力は気になってまして。なんせ、作ったはいいが、弓の張り具合があまりに強すぎて、誰も引けないと先代も嘆いていた代物ですから。しかも、弓だけでもバカみたいに重いですし、とても、実践には不向きだろうと言っていましたからね。」
「おい!まさか、サカエが持っていた弓は、先代が遺した、【 邪龍のアギト 】か!?なんて物を・・・。」
「粗大ゴミとは失礼な!あれは先代より預かりし、家宝なんですよ?使いこなせれば、聖剣や魔剣と同等の力を手に入れられると、先代も太鼓判を押していた超逸品なんですから!そこらの弓など、話にならない“Sクラス”の剛弓です!」
「そんなもん、引けなきゃ意味無いだろ!?ギルドAランクの私でも、まともに引けなかったんだ。誰が引けるっていうんだよ!」
隣で話を聞いていたリアさんが、驚いた顔で、俺の手にしている弓と、アダンさんが持つ矢筒を何度も見やる。
そんな、不便な物を渡して来てたの?
リアさんでも引けないって、もしかして、俺が弓使ってたら、闘えなかったんじゃないか・・・?
「ふふーん!サカエさんなら、できると信じてましたよ!それより、何矢で倒したんでしょうね?渡した時と変わってないように見えるってことは、まさか三矢で倒しちゃったんじゃないですかー?いやー。さすが、邪龍の素材!剛弓過ぎるでしょ~!・・・ん?」
ふと、数えていた手を止めると、アダンさんは再び一から数え始める・・・。
今度は最後まで数え終えると、俺をゆっくり見上げて、にっこりと笑って首を傾げた。
「サカエさん?矢が一本も減ってないようですが?」
「あー、弓は使ってないからな?今回の敵は素手で倒したから。」
「はああぁーっ!?」
「え?え?」
「そういえば・・・。アダンさん、武器を使えって念押ししてたね。すっごく・・・すーっごくしてた。」
「あ・・・。」
観月の言葉に、武器を渡されたときのことを思い出し、思わず固まる。
まずいと、思った時にはあとの祭り。
気がつけば、俺の顔面目掛けて、矢筒が振り下ろされていた。
ーバシッ!
「ぶっは!?」
「なにしてんだ、てめぇ!やる気あんのか!?あぁん!?せっかくのチャンスを棒に振りやがって!」
べ、別人・・・。
「い、いや・・・でも、無事に倒せたし・・・。相手はそもそも、リアさんの弓が通じてなかったし・・・だから、素手で・・・」
「関係ないねえぇー!ウチの店の武器を使って倒す!それが、一番の宣伝になると思って、武器を渡したのに、一矢も使ってない!?はぁ?はぁ?意味わかんない!意味わかんないんですけど!?じゃあ、あれか?その武器は、お飾りで戦場に出ただけってことか!?陽の光に、晒して天日干ししただけか!?はぁ!?邪魔じゃん!ただ、邪魔しただけの弓じゃん!」
「邪龍の弓と、邪魔な弓?あはは!うまいなー!」
「じゃかわしいッ!全然、かかってないわ!謝れ!謝れよ!俺に謝れ!先代に謝れ!宣伝できなくて、すみませんって、謝れよぉー!」
「痛い!痛い!や、やめ!痛い!」
矢筒でバシバシと殴って、アダンさんが暴れ始める。
怖かった・・・。大人ってキレると本当に怖いってことがよく分かった瞬間だった・・・。
「あんな荒れてる姿は、初めて見たな・・・。相当、期待してたんだろなぁ・・・。ほ、ほら、アダン。この弓はお前の作ってくれた弓だぞ?これで、ちゃんと戦ったんだ。これがなかったら私は今はここにいなかった。ちゃんと、この弓のお陰だぞ?」
「わ、私の使った槍もアダンさんの槍ですよ?」
「致命傷は与えられましたか?トドメを刺したのはお二人ですか?」
「「うぐっ!?」」
リアさんも、観月も武器を手に庇おうとするも、笑顔で振り返り質問してくるアダンさんに口ごもってしまう・・・。
「ほらねー!!?だと思いましたよおぉー!」
予想通りだと半狂乱で叫びをあげると、アダンさんは再び、俺を矢筒で殴り始めた。
こちとら、Lv3の身体強化持ちなのに、マジで痛い!
なにこれ、どういうこと!?
「・・・ふー!ふー!」
やがて疲れたのか、肩で息をしたアダンさんは、やっと矢筒を下ろすと、ぐったりとなったまま俺をギンギンの目で睨みつける。
「よーし・・・分かった。そういうことなら、こうしてやる!」
「ひっ!?」
最後に一発くるかと!身構えていると、俺の胸にずい!っと、矢筒を押し付けて来た。
「ふー・・・。その矢筒と矢、そして邪龍の剛弓、全部、“貸します。”そこらの弱い武器を下手に買うより、全然、そちらの方がお得でしょう?だから、サカエさんは、これから色んな所で、この村と私の店を宣伝してください。それで、此度の件はチャラにします。しっかりと、武器を使い、宣伝してください!」
「あ、あい・・・。」
俺はビクビクと震えながら矢筒を受け取ると、肩に担いで頭を下げた・・・。
適当に流布して、あとは弓は普通のを使っていこう・・・。
「もしも・・・適当な仕事したから・・・世界の果てまで追い掛けて、その喉、掻っ切るからな?いいな?」
アダンさんは笑顔でニコリと笑うと、どこから出したのかミスリルダガーを手にして、俺に振り返った・・・。
「は、はい・・・。」
俺は何度も頷くと、武器を持ち直し、大切に大切に扱うと心から誓った・・・。
ブレスレットへ弓と矢筒の登録を済ませた俺は、アダンさんに『店の名前を広めるまで帰ってくんな!』と半ば蹴り出されるように店を出た。
観月もシルクも、オマケでブレスレット型のアイテムボックスを“貸してもらって”いる。
観月は槍を貰ったけど、シルクにもいつか、装備を揃えていった方がいいのかな?
なんてことを考えていると、店の外で待っていたリアさんが近付いてくる。
「三人は、このまま旅立つのか?」
「うん。まずは、リアさんのいう街に行ってみるよ。ギルドの登録もしたいからね。」
効率よく軍資金を貯めたいなら、ギルド登録。これは、鉄則だからな。
あとは、トレジャーハンター?
なんにせよ、情報も少ないし、ギルドで情報を集めないと。
「では、【ディケイナ】を目指すといい。ギルドには、私の紹介で来たと言えば、それだけですんなり登録できるはずだ。二人が着く前に、紹介状も出しておこう。」
「何から何まで、本当にありがとう。リアさん。」
「ふふ・・・気にするな。もしも、私の気が変わったら、サカエハーレムに入れてくれるんだろ?なら、借りは作っとかないとな!」
カラカラと笑い、リアさんはなんて事ないと、頷いてみせる。
別に借りなんて作らなくても、リアさんならいつでも大歓迎だけど、まぁ、こういう性格だ。
何か理由がないと、動けない質なのかもしれないな。
「あぁ。いい宿を教えて貰ったし、ギルドも紹介してもらえた。これは、大きな借りができてしまったよ。もしも、リアさんが来てくれるなら、諸手を挙げて歓迎する。約束するよ。はは!」
俺は頷き返すと、リアさんに手を差し出した。
「ふふ!その時が楽しみだ。だけど、私がお前の元に行く頃には、A級になっていてくれよ?強いのは知ってるが、形にしてくれた方が私も安心できる。」
「あぁ。努力するよ。貴女を迎えられるように、誰からも文句を言われないような男になるつもりだ。」
「ふふ!うん!期待してる!」
グッ!と二人で握手を交わすと、リアさんを見上げていた観月に目を向ける。
「うぅ・・・リアさん、お元気で。」
「ミツキもな。これからの旅も色々と大変だろうが、“素直でいる努力”は決して忘れないようにな。喧嘩も大いに結構だが、それでも、決して素直さは絶やさぬように。自暴自棄にも、ならぬように。ゆっくりと頑張っていくといい。」
「うぅ・・・リアさぁん・・・。」
まるで、姉が妹を見送るように、観月の頭を撫でながら、リアさんは優しく微笑みを浮かべていた。
観月も何度も頷くと、別れを惜しむように涙を零す。
「シルクちゃん。」
『う?』
「一時の別れだ。最後にギュッとさせてくれ。」
『う!』
リアさんは最後に、しゃがみこむと、シルクに向かって手を広げる。少し目を丸めたシルクは、にっこり微笑むと、リアさんの胸に飛び込んだ。
『ぅ!』
「ふふ・・・。やっぱり、子供は可愛いなぁ。宝そのものだよ。二人に大事にしてもらえよ?」
『う。』
「もしも、二人がピンチの時は、助けてあげるんだぞ?シルクちゃんには、シルクちゃんにしかできない役割りがあるんだ。大丈夫。きっと、女神が見てる。キミを護ってくれるはずだ。」
『う。』
わしゃわしゃと、シルクの頭を撫でながら、リアさんはシルクを抱きしめつつ、語りかける。
どれくらい伝わったか定かではないが、リアさんのシルクを思う気持ちはきっと伝わっているはずだ。
そして、その温もりは、きっとシルクの中に新たな芽生えを残してくれることだろう。
「女神の加護を・・・。」
『う・・・。』
最後にキュッと抱きしめると、シルクから離れてリアさんは皆を見る。
これで、本当にお別れか。
少し、寂しい気持ちになり、隣の二人の手を取る。
「それじゃあ、行こうか。まずは、【ディケイナ】だっけ。」
「あぁ。そうだ。困ったことがあったら、街の魔法屋に行ってみろ。幼なじみが運営してる。・・・・・・ハーレムは諦めろよ?彼氏持ちだからな?」
「・・・・・・だ、だから~。」
「はは!冗談だ。では、皆の旅の平安無事を心から願っている。」
「ありがとう。リアさんも元気で!」
「リアさん!またね!」
『うーぅー!』
「ふふ・・・!あぁ、また!」
最後にリアさんに大きく手を振ると、俺たちは次の街を目指して、歩み出した。




