正体不明の敵、襲来につき
「強力な魔力?」
「ん?なんだか、外が騒がしいね?」
リライアの焦りが何から来るものなのか、見当がつかず首を捻っていると、窓から様子を確認した観月が、外を指さす。
「外?一体、何が・・・。」
弓を箱に戻して、俺は観月とシルクと共に店の外に出た。
「きゃああぁー!!バケモノよ!!」
「 みんな、逃げろおぉー!!」
「ポール!手を離さないで!」
「もちろんだよ、エメラルダ!」
村中の人々が山の方を何度も振り返りながら、逃げるように俺たちの前を通り過ぎていく。
ちっ!最後のヤツら、イチャイチャしやがって・・・。
村人たちが見ているのは、俺たちが遺跡から降りてきた方角のようだ。
見ると、山の方から木を倒すような轟音と共に、もうもうとした土埃があがっている。
「すまない!あそこで、何が起きてるんだ!?」
目の前を走り抜けようとした男たちの前に、躍り出ると、何が起きているのか問い質した。
「魔王の遺跡があった場所に、バケモノが出たらしい!遺跡が破壊されただけじゃなく、そのバケモノはまっすぐに、この村に向かってきてるそうだ!」
「きっと、魔王の配下が送られてきたんだ!そうに違いない!このままじゃ、ここも危ない!リアさんが食い止めてる間に、君たちも早く逃げなさい!」
「な、なに!?あそこに、リアさんが居るのか!?」
山の方から駆けてきた男たちを捕まえ、話を聞いてみると、早口に何があったかを説明してくれる。
あの場所で、リアさんがバケモノと対峙しているだと?
「バケモノって・・・」
ー バキバキ!
「ひっ!?に、逃げろ!早く!」
もう少し話を聞こうとした時だった。
再び、山から木々が折れる音が響いた。
音に驚いた二人は、我先にと足早に逃げ去ってしまった・・・。
「ユーちゃん・・・!」
観月は俺の服を掴むと、小さく息をのみ、大きく頷く。
「いこう!ユーちゃん!リアさんを助けに!」
「あぁ・・・!」
俺は拳を握りしめると、問題の場所に向かおうと踏み出そうとした瞬間だった・・・。
「へーいっ!?ちょっと、待たんかーい!」
ー バンッ!
背後で音がしたと思ったら、勢いよく店の扉が開き、目を釣りあげたアダンさんが出てきた。
「ア、アダンさん?」
「どんなバケモノかも分からないのに、武器も持たず、出ていったって、餌になるだけですよ!?ほい!ハゴロモさんは、ウチ一番の自慢の槍!サカエさんは、当然、コレ!」
「え!?えぇ!?こんな高そうな槍、お借りしていいんですか?」
「いいんです!いいんです!ほら!サカエさんも、これ持って!!」
ズイッ!と観月に槍を押し付けると、俺には箱入の弓を突き出してくる。
「お、おう・・・。ありがとうございます・・・。」
なんて気迫だ・・・。
思わず、受け取ってしまった。
「うん!よく似合ってる!さぁ、お二人さん!サクッ!とやっちゃってください!お二人の力なら、どんなモンスターだろうと、秒殺できるはずでしょ?隠してたつもりでしょうが、私の目は誤魔化せませんからね!」
山を指さし、やっちゃえ☆と素敵な笑顔で、頷く店主アダンさん。
なんとなんと、どうやら、俺たちの異常なスターテスは等に見抜かれていたらしい・・・。
「上手く隠してたつもりだったんだけどなぁー。」
「あはは・・・だねぇ。」
『うー?』
俺は苦笑すると、隣の観月も小さく笑う。
一人、シルクだけは呆れた顔で、俺たちを見上げていた・・・。
『(隠してるつもりだったんだ・・・。)』
って、顔だなそれ・・・。
つもりでしたよ?一応。
悪目立ちして“お姉さん”にバレてもやだし、魔王や勇者に目をつけられるのも、御免だったからね!
何より、俺のハーレム計画には隠密性も重要なんだよ。
手当り次第に、女の子に飛びついてるなんて、“誤解?”されたら女の子のガードが極端に上がるじゃないか!
それじゃダメなんだよ!
女の子はみーんな、俺の手で幸せにしないとな!
「ユーちゃん?なんか邪なこと考えてるでしょ?」
「・・・・・・いえ?そんなことはありませんが?」
「じー・・・。」
「さ、さぁ!行くぞ!くっちゃべってる場合じゃない!リアが危ないんだ!」
俺は隣からの視線を手で遮りつつ、通りに踏み出した。
「皆さん、ウチの店の武器を存分に振るい、平穏を脅かすバケモノを、懲らしめてきてくださいね!ウチの店の武器を存分に振るって、ですよ!!魔法はダメ!武器です!武器を振るって!」
矢筒を手渡しながら、アダンさんは念を押すように、武器を使って正体不明の敵を倒せという。
あー、なるほど、つまりはこの戦いで自身の店の武器を宣伝するつもりのようだ。
「はぁ・・・。ほんと、商魂逞しいな、アダンさんは。」
「ふふ!でも、おかげで、武器も貸してもらえたし、大助かり!今は、その商魂に感謝だよ~♪」
槍をギューっと握って、観月はニコニコと笑う。俺も小さく笑うと、握りしめた弓を見て頷いた。
持った感じ、いい武器なのは間違いない。
こりゃ、負けたら、何を言われるか分かったもんじゃないな。
「では、皆さん、ご武運を!」
「「応っ!!」」
『うー!』
俺たちは、店主の熱い熱い視線と激励を受け、山へと続く道を駆け出した。
前から逃げてくる住人たちを躱しながら、しばらく走り続けていると、やがて、木々や草木が覆い茂る山に入り込んだ。
ひたすらにバケモノの暴れる音のする方へと駆けていくと、辺りに土埃の香りが漂い始める。
気配が近い・・・そう感じた瞬間だった。
ードオォン!
風を切る音と共に、大木が自分たちの前方へと降ってくるではないか。
俺たちは武器を構え、戦闘態勢に入ると、大木の先で蠢く影を凝視した。
「・・・黒い影?いや、なんだアレ・・・。」
見ると、黒い塊が林の真ん中に鎮座していた。
『口にするのもはばかれる、黒い巨大マリモのようなモノ。』からは、何本もの腕のようなものが伸び、目の前の標的を捕えようと何度も突き出される。
「あ!あそこで応戦してるの、リアさんじゃない!?」
「あぁ!間違いない!」
視線の先には、弓を構えつつ、伸ばされる腕を逃れながら縦横無尽に駆け回っているリアさんがいた。
リアさんは隙を見つけては、黒い塊に対して、矢を放っている。
黒く長い髪を靡かせ、悠々と相手の攻撃を避ける姿が・・・なんと、美しいことか!
是非とも、この戦いに参加したい!
共に肩を並べて、戦いたい!
そう思わせるほど美しい、彼女の姿に、俺は思わず弓を握りしめた。
「とりあえず、合流しよう!」
「シルクちゃんは、周りに逃げ遅れた人が居ないか、確認して!見つけたら、村に逃がしてあげて!」
『う!』
それぞれに、配置を決めると、一目散に駆け出した。
「シッ!・・・これ、効いてるのか?」
矢を放ち、すぐさま場所を変えるリアさんだが、その顔には焦りが生まれていた。
放たれた弓は、黒い腕に阻まれ、本体に到達しきれていないようだった。
矢は確かに、腕に当たっているが、まるで亀が首を引っ込めるように黒い玉へと戻ると、再び伸びてきた腕には、刺さっていたはずの矢が無くなっているのだ。
キリがない・・・そう呟き、リアさんは大きく距離を取り、矢筒から矢を抜き出す。
距離を離したせいか、攻撃は無くなり、うようと蠢く腕だけが、リアさんを手招きしていた。
「バケモノのくせに挑発とは、馬鹿にしてくれる・・・。」
苛立ち始めたリアさんの元にたどり着くと、静かに近づき、俺は後ろから抱きついた。
「ナイスバディが、お留守だぜ?お嬢さん。」
ーモミモミ・・・!
「へ?あんっ・・・!」
ちゃっかり、そのお胸はモミモミさせて頂きました。
助けに駆けつけたお駄賃だ。
安いくらいだろう?と勝手に解釈しておりやす!ニヤリ・・・!
「んんー!いい胸だ。どうだい?ウチのハーレムに入らないか?リアさん。」
「そ、それはもう断っただろう!?・・・って、サカエか!?なんだよ、もう・・・脅かすなよ~。」
ビクリ!と震え、リアさんは振り返るが、犯人が俺と分かると、胸を撫で下ろし苦笑を浮かべる。
僅かに、緊張が解け、リアさんの怒りも収まったようだ。
僥倖、僥倖。
やっぱり、怒りは一番、手元を狂わせる最大の敵だからな!
「リアさーん!おはよう!今日も綺麗だね!」
「はぁ・・・。相変わらず、元気なヤツだな、キミは。」
「元気、元気!綺麗なリアさんの戦いを見たら、もっと元気になったよ。ありがとう。」
「綺麗って・・・もう、バカばっかり言って・・・///」
照れた笑顔を見せるリアさんの隣に並ぶと、敵を見据えつつ、武器を構える。
観月は槍を軽く振ると、俺達の前に出て、注意を引き付ける役割を買って出てくれた。
「それより、二人ともなんで、ここに?村にいたんじゃないのか?」
「可愛い女の子が闘ってるのに、男が指をくわえ黙ってみてるなんてありえないだろ?ご一緒させてもらうよ。」
「ありがたい申し出だが、二人は村のお客さんだ。ここは私に任せてもらっていいぞ?」
「まぁまぁ、ここはみんなでぱっぱとやっつけて、お昼行こうよ!私、お腹ペコペコ!」
一足先に槍を振って、一撃離脱を繰り返していた観月が共闘を申し出る。
「待て待て!さっきまで、朝ごはん食べてたでしょ!?観月さん!?」という、俺のツッコミも華麗にスルーされてしまう。
こいつに、財布は絶対に持たせられんな・・・。
そんな俺の思いなど知らないように、観月は槍を振るい続ける。
単調に繰り出される黒い手から逃れるように、身を捻り、その反動で黒い手を槍で切り落とした観月。
黒い塊は黒い手が切り裂かれたことなど気にせず、一度手を黒い塊に引っ込めると、また別の黒い手を出現させて、観月を殴ろうと拳を突き出した。
それを躱し、観月は再び斬り付ける。
これを何度も繰り返していた。
「・・・これ、効いてるのかなー?うーん。」
やはり、観月もリアさんと同じ反応で、首を傾げながら、槍を振るっていた。
「わからんだろ?当たってはいるが、叫びをあげるわけでもなく、ただ黙々と拳を突き出してくるんだ。もしや、幻覚かとも思ったが、ちゃんと周りの物体はダメージを受けているし、正直、わからん。無限に再生する腕など相手にしていては、やがてこちらが押し負けてしまう。矢も心許ないのに・・・。」
「ふむ。少し、覗いて見るか。Observation《観察》》」
「オブ・・・なんだそれ?」
初耳だったのか、首を傾げたリアさんに、俺は苦笑すると、後で説明することを約束し、目の前のターゲットに集中した。
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Name:実験体27号
状態:健康
種族:人間
クラス:魔導実験体
HP 3000 / 3000
MP 500 / 500
補足 》物理攻撃無効。状態異常無効。
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「・・・はぁ!?これ、人間なのか!?」
「人間だと!?」
「え?これが、人間なの!?明らかに、モンスターだよ!?」
俺の驚く様子に、観月達にも動揺が走る。
人間?この、目前の黒い塊が?
「人間か・・・。もしや、魅玖と同じで、周りに何かが取り巻いているだけ・・・とか?そうなると・・・くふふ・・・。」
「サ、サカエ?どうした急に、笑いだして・・・。」
急に含み笑いだした俺に、観月とリアさんは訝しげな目を向けてくる。
「人間・・・。人間か!そうか!そうか!」
“観察”は確かに、人間を示していたのだ。
なら、間違いなく、あの黒い塊の中には人間がいる。
その確証が、俺にはあった・・・。
「リライア!」
▷はい!マスター!
「あの中にいるのは、人間で間違いないな?ゾンビや幽体でもなく、亜人でも、スライムの擬態でもない人間がいるんだな?」
▷えぇ、そのようです。観察で、『人間』と出たのなら、間違いなく人間です。
「・・・もっと知りたいな。できれば・・・顔を拝み、たい!」
「サ、サカエ!?」
「ユーちゃん!?」
弓を手に駆け出した俺に、二人は驚嘆の声をあげて止めに入ろうとするが、“実験体”は観月とリアさんに拳を突き出し、接近を阻む。
「うふ、うふふ!にんげーん!にんげーん!」
俺にも当然、拳が突き出されるが、俺は軽々とそれを、スキップと鼻歌を交えながら易々と避けていく。
やっぱり、マモンとの対峙で、かなりスキルが磨かれたようだ。
かなり、目の前の敵の動きは見えている。
「なんて、バカげた動きだ・・・。無駄だらけの動きに見えるのに・・・全然、当たる様子もない・・・。バケモノか、サカエは。」
驚きに満ちたリアさんの声が聞こえたが、俺は気にせず前へと進む。
「ふふん♪フン♪女の子かな?女の子かなー?女の子だといいなぁ?女の子だよねぇ?ねぇ?キミ!よかったら、俺と村の屋台めぐりしませんかぁ~?」
ぴょんぴょんと跳ね回り、突き出される拳を躱していくと、気がつけばもう目の前まで黒マリモは迫っていた。
六本以上の手が、俺を掴もうと伸ばされるが、どれもかすりもしない。
どれもむなしく、空を切るばかりだった。
「ユーちゃん!危ないよ!みんなで、行こう!」
「待て待て待って、観月ちゃん!俺は大丈夫だから!これくらいの速さじゃ、俺は捕まらないから。とりあえず・・・俺と女の子がデートするとこ、そこで見てなさい!邪魔したら、お父さん、怒るからね!!」
「デ、デートって・・・そんな場合じゃないでしょ!?速さだって、結構な速さになってるよ?気付いてる!?」
観月の言う通り、確かに突き出されるスピードは格段に上がっている。
だが、空を切って戻すスピードは格段に落ちていた。
恐らくは、突き出すスピードに力を込めすぎて、反動で戻す力に影響が出ているのだろう。
でもそんなの、知ったこっちゃない!
「ふふん!ふん!ふん!女の子!女の子!」
「ユーちゃん・・・。これ、中が女の子じゃなかったら、大暴れするだろうな・・・。」
少し離れたところで、呆れた顔をした観月は、俺よりも中の人を心配し始める。
女の子ならいいが、男だった場合は恐らく、この辺り一帯が焦土と化すくらいの覚悟は必要かもしれないと、観月は心の中で本気で考え始めているようだった。
まぁ、概ね、正解です!!
中が男なら、この山ごと焼いてやるよ!!
「おや~?おやおや~?疲れてきたのか~い?引っ込める力だけじゃなくて、突き出す力も弱くなり始めているよぉ~?そんなんじゃ、ほ~ら。」
ーガシッ!!
少し速度の落ちた腕をがっちりと掴むと、俺はニヤリと笑った・・・。
「っ・・・!?」
「捕まっちゃうでしょ~?さて?さてさてさて、今から、全力で振り回しますので、皆さん、離れて下さぁーい!」
ーグイグイ!ズルズルルズルルッ・・・!
腕を掴んだまま、俺はグイグイと引っ張って、足場を固める。ちょうど、地面は固めの地面だ。これは好都合。
実験体は何が起きるのか、予期できていないのか、それとも引き摺られることに慣れていないのか、混乱したように、必死に地面に腕をつけて、這いつくばっている・・・。
「・・・・・・やめ・・・て。」
マリモから声が・・・聞こえた・・・。
間違いなくそれは・・・。
それはそれはそれはそれはそれはァァァー!!
【女の子の声】!!!!!
その声を聞いた瞬間、俺の鼓膜は歓喜に震える!
「なんて、なんて!なんて!なんて!可愛らしい声なんだ!!嗚呼!声だけで、俺の心臓はフル稼働だ!血潮がめぐる!細胞が興奮している!お前を見たい!観たい!視たい!と叫んでいる!!いいか!?いいよな!?いいんだよな!?お前から手を出したんだ!お前が悪い!お前が俺の前に立ったからああぁー!!お前は俺の糧となるんだよおぉー!!フハハハハ・・・!」
「「もはや、狂気だ・・・。」」
俺の絶叫に、リアさんと観月はドン引きして、さらに距離を取る。
周りの視線?評価?そんなの知ったことか・・・!
俺は、俺の矜恃で動く!
「三度の~!飯より~!女の子おおぉ~!!剥いて剥いて綺麗な女の子おぉ~!!輝く果実に口付けし~!咲き誇れぇよ~女の子おぉ♪」
ズルズル・・・ファッ・・・!
「な・・・に・・・これ?」
引き摺られていた実験体の必死の抵抗も虚しく、ついに遠心力に負けたのか、フワリとそのデカい図体が持ち上がった。
「なんで・・・?・・・浮いてる・・・?目・・・まわる・・・。」
「知ってるかい?これは俺たちの地域では、“ジャイアントスイング”っていう、超特大の大技なんだぜ?とくと味わえよ、実験体。そして、目が回りきったら!ゆっくりとその外皮を剥がして、綺麗な果実を取り出して・・・あ・げ・る♪」
「や・・・やだ・・・やめて・・・離して・・・。」
「ダ~メ!この手は絶対に離さない!キミが心を開くまで!その姿を見せるまで!俺はどれだけでも、回し続ける!もっと、もっと!回れ!回れ!押し開かれる花弁の如く!散り晒せ!お前の女の子!見せてくれえぇぇー!!」
「うううう・・・うあああ・・・気持ち悪い・・・。」
ーブォン!ブォン!ブォン!ブゥオオオー!!
さらに速度をあげて、回転を加えていくと、俺たちを中心に竜巻まで起き始める!
恐らくだが、無意識に俺の起こす風に呼応して、風魔法も発生したに違いない・・・。
少し回るだけで、勢いをさらに増すように、俺たちに風がまとわりついて来るのだ・・・。
『きゃははは!たのしー!』
風に乗って別の女の子の声が聞こえた気がした・・・聞いた事がない声だ。
それも気になる、だが!今は、この手に掴んだ、女の子!!
「ふ、伏せて!リアさん!」
「あ、あぁ!」
ついに立っていられない程の強さになった風圧に耐えきれなくなった観月とリアさんは、遠くに伏せて、身を守る。
「っ!もう、そろそろ・・・イクぞ!イクぞ!イクぞおぉー!!」
「う・・・うぅ・・・うぁ・・・や・・・ああぁー・・・・・・!?」
ーヒュー・・・!
勢いを乗せたまま、俺は最後と言わんばかりに、強く足を踏ん張ると、真上に向かって黒い塊を放り投げる!
高く高く!上がった黒い塊は、空中で身動きが取れないのか、そのまま為す術なく、遠くの方へと飛んで行った。
「し、しまったあぁー!!?勢いつけすぎて、女の子が、飛んでいっちまったあぁー!!?」
俺は頭を抱えると、その場に肘から崩れ落ちてガックリと項垂れる。
「あれだけの巨体を軽々と、吹っ飛ばすなんて・・・。どれだけ、力があるんだ・・・キミは。パワーだけでみたら、余裕でAランクはあるぞ。」
「リ、リアさーん!女の子、逃がしちゃったあぁー!」
「お、おう・・・よしよし・・・。だが、なんにせよ、サカエのおかげで、村は助かったんだ。ありがとう・・・。」
歩み寄ってきたリアさんの腰に抱きつくと、スリスリと、その細い腰に頭を擦り付け身体全体で悔しさを表す。
そんな俺の頭に手を置いて、慰めるようにリアさんが頭を撫でてくれる・・・。
「うぅ・・・。女の子、逃がした・・・。不覚・・・。不覚だぁー。せめて、顔が見たかった。いや、せめて!!パンティを拝みたかったあぁー!!うわあああぁーん!!」
「本気泣きなのが、凄いな・・・。」
「ユーちゃん、恥ずかしいから、やめなよ・・・。」
俺の様子に苦笑するリアさんと、俺の服を掴んで引き離そうとする観月・・・。
「はぁ・・・。まぁ、サカエも頑張ったしな。褒美になるか分からないが、これで、我慢してくれ。」
「ぐす・・・どれ?」
俺の手を逃れると、ゆっくりしゃがみこんだリアさんは俺と視線を合わせると、にっこりと笑う。
そのまま、俺の頬に手を添えると、目を閉じ・・・。
ー チュッ・・・。
リアさんが、甘い口付けを施してくれた・・・。
「ん・・・はぁ・・・。助けてくれて、ありがとう、サカエ。かっこよかったぞ。ふふ・・・!」
「あ・・・うん。リアさんの照れた顔、すごく・・・綺麗で可愛いよ。」
「い、いうなよ!私だって恥ずかしいんだから!初めてなんだぞ?こんなことするの!」
今まで、のらりくらりとかわしていたリアさんの突然のキスには、流石の俺も面食らってしまった・・・。
「ふふ・・・そうか!じゃあ、大事にするよ。」
「あ、あぁ・・・。貴重だぞ?ずっと、覚えてろよ?」
胸に手を当て強く頷く俺に、リアさんは照れた笑みを浮かべると、すくりと立ち上がる。
「さ、さて!村の皆に、解決したことを知らせないと!二人のことも、話していいよな?」
「・・・いや、よければ、リアさんが追い払ったことにして欲しい。俺たちは、あまり目立つことは好きじゃないんだ。人の目を気にしないで、ゆっくりと楽しみながら、旅をしたいから。お願い!」
「キス・・・キスしたキスしたキスキスキス・・・。」
キスシーンを目の前で見せつけられ、完全に思考が停止した観月の肩を抱き寄せると、俺はリアさんに小さく頭を下げる・・・。
「そうか・・・。残念だよ。では、此度の件は、内々で処理しておこう・・・。あと、なんだ、その・・・ミツキ、ごめん。」
「キスキスキスキス・・・。」
俺たちの意向を汲んでくれたリアさんは、下手に噂は広めないことを約束してくれる。
ちらりと、放心した観月に目を向けると、深々と頭を下げる。
「え?あ、いえ!大丈夫ですよ!こればかりは仕方ないので・・・。納得するしかありません・・・。ユーちゃんが、頑張ったご褒美に、キスした。それだけですから。」
と疲れた笑顔で微笑むと、観月は槍を手に俺に振り返る。
「ね?だから、ユーちゃんがここで、バラバラになるのも、仕方ない・・・仕方ない・・・。ね!」
「ね!じゃないでしょ!?納得してない!全然納得してないし、納得するつもりないよね!?」
「何言ってるか、分からないよ、ユーちゃん。」
ーヒュ!
ニコリと困ったように笑って、観月は槍を構えると俺に向けて突き出して来た。
「あっぶね!?やめろ、観月!刺さるよ!」
「刺さるようにしてるのに、変なこと言わないで?ね?リアさんのキスは避けないのに、私の槍は避けるの!?変だよ!おかしいよ!大人しく、バラされてよ!うわあああーん!!」
「おかしいのは、お前の頭だぁ!!や、やめろ!こっち、来んな!」
「うわああぁーん!ちねー!ゆうすけえぇー! 」
ついに、ブチ切れた観月はブンブンと槍を振り回して、俺に斬りかかってくる。
俺は転がるように槍を避けると、そのまま村へと向けて駆け出した!
「はは・・・。元気だな、二人とも・・・。」
村へと戻る俺たちに続くように、リアさんも苦笑しながら、後について歩き出す・・・。
ーーーー
ーーー
ースッ・・・
「・・・いいデータが取れた。実験体を回収し、本部に戻るとしよう。次はもっと、楽しませてあげるよ、“S”。」
木の影から、そんな俺たちを見つめる目があるなど・・・その時は誰も気が付くことはできなかった・・・。




