その宿、破格につき
「申し訳ないけど、案内ついでに、この辺りにおすすめの宿はあるかな?できれば、安価だと助かるんだけど。」
「では、最後に教えておこう。この道の突き当たりにある宿双子庵に行くといい。値段もいいが、各部屋に設置された露店風呂が人気だ。名前の通り、双子が運営しているが・・・諦めろ。二人とも男だ。」
「・・・・・・いやいや!待って!?流れるように、釘を刺さないで貰えますかね!?なんで、宿主さんを狙う前提で話が進んでるのかな?別に会う人会う人、みんなに、声掛けてるわけじゃないからね?」
「違うのか?」
ハテナ?っと、リアさんは首を傾げつつ、観月とシルクに目を向ける。
「おいいぃー!?こっち向いて聞いてくれ!なんで、二人を見るのかな!?」
「違うみたいですね、初めて知りました。」
『う、う。』
二人も本当に驚いた顔を俺に向けてくる。
驚いて頷いてるシルクさんは、まだいいよ?
出会って間もないから、俺の事をよく知らないと思うし。
でもね!?
「あなたは知っててもいいでしょう!?観月さーん!?」
「あはは。ごめんね?なんか、すぐに否定できなくて。庇ってあげたい気持ちもあるんだけど・・・やっぱり、日頃の行いじゃないかな?」
「は、はい・・・肝に銘じます・・・。と言いたいけど、できないことを口にしないのが、俺のモットー!これからも女の子に、幸せを振りまいていくぞぉ!おー!」
俺は少し頭を下げてから、すぐに上体を起こすと、反り返るほどに胸を張り、高らかにハーレムへの勧誘活動はこれからも継続していく旨を宣言する。
「そういうところだよ、ユーちゃん。少しは、自粛しなよー。」
「はは・・・いいね。うん。私も最初は驚いたけど、君の人となりを知れば、きっと、賛同してくれる人もいるはずさ。世界は広いしね。その勢いで、王都の古臭い考えも・・・おっと、これ以上はやめておこう。」
うっかり、といった様子で何かを言おうとしたリアさんだったが、口に手を当てると、小さく苦笑して首を振った。
「ん・・・?」
「ん?」
『う?』
俺たちはリアさんの様子を不思議に思ったが、言えない何かを察した俺たちは、そのまま頷いて話を切った。
リアさんの言葉は、神様の言葉と似たところがある。
たぶん、リアさんもこの世界のあり方に疑問を持ってる人なのかもしれないな・・・。
まぁ、まだ、全てを知ったわけじゃないし、早計かもしれないが。
少なくとも、俺たちの目指すものがなんなのかまだハッキリとは見えていない中でも、目の前の人は信頼してもいい人だということは 、何となく分かった。
本当、いい人と出会えてよかったよ。
「それじゃあ、また明日!三人とも!ゆっくり、休めよ!」
「リアさん、ありがとう!」
「リアさんもゆっくり休んでくださいね!」
『うー!うー!』
リアさんと足湯で別れ、そのまま、教えて貰った道を真っ直ぐに進んでいく。
目線の先にはまだまだ、ゆったりとした登り坂が続いていた。
いやー・・・、長くね?
「足湯で疲れが取れたといっても、やっぱり、ご飯とお布団がなくっちゃ、体力は戻んないよねー。というか・・・うぅ・・・お腹減ったぁ・・・。」
「そういえば、ずっとご飯食べてないな、俺たち。何か、食べながらいくか?」
「・・・いや!大丈夫!この際だから、宿のご飯食べたい!絶対に、美味しいから!宿のご飯なら、絶対に!美味しいから!」
道中、買い食いの提案をしてみるが、観月は少し考えて、腹の虫とも協議を行った結果、宿飯を選択する。
たしかに、ここまで一切の食事なしできた腹のことを考えると、美味しいものをより、美味しく食べたくなる気持ちは分かなくもないが・・・。
ー ぐぅぅ~・・・ぐぅぅ~・・・
なにぶん、隣から聞こえる腹の虫たちの抗議の声がうるさい。
協議したんじゃないの?さっきにも増して、音が大きく感じるんですけど・・・。
もしかして、観月の腹は民主制ではなく、絶対王政なんだろうか?
少しだけでも、お腹に入れて、腹の虫を落ち着けとけばいいのに・・・。
「はぁ・・・。じゃあ、少し駆け足で行くか?」
「うん!負けた人、一品献上ね。」
「って、言ってもご飯が食べれるかも分からないぞ?お金も足りないかもしれないし、そもそも、料理のない宿かもしれない。寝るくらいしかできない場合もあるんだからな?」
「・・・その時は、ユーちゃん。そのハイスペックを活かして、私にご飯を恵んでくださいお願いします。」
観月は深々と頭を下げると、空の両手を差し出した。
ほんと、昔からご飯だけは素直なんだから、この子は・・・。
「はぁ・・・分かったよ。最悪、魚でも捕るか。」
「さっすがー!ユーちゃん!鮎の塩焼き、お待ちしてます!」
「鮎って・・・こんな、異世界にいるのかよ・・・。」
『うー?』
どちらにせよ、ご飯が確定したことに気を良くした観月は、足取りを先程よりも断然軽くして、坂道を登り始める。
まったく・・・。この育ち盛りの女の子には、困ったもんだわ。
その嬉しそうな背中を見て、俺は小さく笑みを零した。
しばらく、道なりに歩いていくと、日が向こうの山にかかりそうなところで、ようやく、目的の宿らしきものを見つける。
宿屋らしい大きな門に、これまた大きな提灯が両側にかけられ、薄暗くなり始めた道をぼんやりと照らしている。
とても、趣きのあるいい雰囲気の宿だ。
シルクの背丈ほどある大きい提灯には、 双子庵と書いてあるので、ここが目的の宿であることは明白であった。
提灯に近付いて、目を輝かせたシルクが興味深げに観察している。
「ぅ・・・なんか、お高そうだね。」
「俺たちの財布事情を知ってるリアさんの紹介だし、大丈夫だとは思うけど、ちょっと、雰囲気がありすぎるよな。」
俺たちが入口で、二の足を踏んでいると、中から着物を来た男性が出てくる。
「あのー・・・。皆様は、サカエ様御一行で宜しいでしょうか?」
「え!?あ、はい。」
「あー、よかった。無事に到着されたようで。リアさんから、事前にご連絡は頂いてました。ささ、どうぞ、中へ。」
男性は手で中を示しながら、案内してくれる。
リアさん、連絡しててくれたのか。
少し怖いが、ここはリアさんのご好意を信じるしかない。
最悪、あまりにお高ければ、皆が寝てる間に魔石を売りに行って金稼ごう!それでも、足りなきゃ、この辺りのモンスターをハンターして、魔石集めだ。それしかない!
俺のハーレムに入ってくれた女の子たちに、苦労なんかさせられるか!
「よし!腹くくった!いこう、二人とも!」
「う、うん・・・。ぁー・・・怖いなー。絶対、 私たちの世界だと、高級宿の仲間入りしてそう。」
「いうなよー・・・。思わず、考え直しそうだ・・・。」
未だに入口でモタモタとしていると、宿屋の男性は首を傾げて待っていてくれる。
「あ、あのー・・・。宿主さん。」
「はい?如何しました?」
「この宿、俺たちにはとても、敷居が高くて・・・。資金もこれくらいしか、ないんですが・・・。」
素直に、手元の布袋を宿主に差しだす。
「あはは・・・それだけパンパンの袋なら、大丈夫です。お金の心配なら不要ですよ?この宿、この村でも格安ですからね。一泊三名様で、300Gでどうでしょう?お食事付きなら、三名様分で450Gで結構ですよ。」
店主の話では、ギルドからの補助もあるので、この値段で運営もできているとのこと。
「450G!?結局、防具やら売って今、1200Gだから、全然大丈夫だ!なんて、良心的な宿!」
「やったー!ご飯だぁー!ご飯だよー!学園にいた時から、お腹ぺこぺこで、死にそうだったんだよー。」
「はは・・・。大層、空腹なんですね。では、急いで準備させましょうね。」
こちらへと、宿主さんが再度、案内を再開してくれたので、着いていくことにする。
門を抜け、庭に敷かれた石畳を通って、これまた、木造の建物が現れた。
玄関の脇を見れば、両側に俺たちを出迎えるように、右手を挙げた招き猫が二つ並んでいた。
・・・両方《《右手》》なんだな。
経営者が双子だからかな?
「では、中で受付を。あと、こちらでお預かりする、お荷物はありますか?」
「あ、これしかないので、このままで・・・。」
「そうですか。貴重品は手元から離されませんようお願いします。一応、お部屋にも金庫はありますので、そちらもご利用ください。」
「分かりました。」
フロアにて簡単な手続きを済ませると、宿主さんに案内されて、一室へと通された。
い草のいい香りのする和室だ・・・。
しかも、広い。寝床は布団・・・。
「では、お食事までごゆっくり。お過ごしください。」
「ありがとうございます。」
襖を閉めて、宿主さんが居なくなったところで、俺たちはようやく腰を下ろして、大きく息を吐いた・・・。
「はぁー・・・。いやいや、絶対嘘でしょ、ここまでくると宿じゃなくて、普通に高級旅館だからね。それを、450Gで提供って・・・。いやいや!」
「凄いねー!こんなお部屋、修学旅行以来だよ。」
「小学校での、京の都見学だろ?」
「そうそう。あの時は、なんにも考えてなかったから、広いくらいの印象しかなかったけど、今はすごく緊張するよー・・・。」
『うー・・・。』
観月と同じように落ち着かないのか、シルクは座椅子に腰を下ろした俺の膝に頭を乗せて、甘えるようにスリスリと顔を擦り付けて来る。
モンスターでも、圧倒されるこの旅館の雰囲気はやばいでしょ。
シルクの頭を撫でて、落ち着かせようと試みるが、どうしても畳の感触が苦手なのか、ついに俺の上に乗って、ダラりとくたびれていた。
お願いだから、そのまま溶けないでね?
『うぅ・・・・・・。』
「シルクちゃん、大丈夫?」
「い草は呼吸するっていうし、敏感なシルクにとっては、畳に違和感を感じるんだろうな。まぁ、もう少しすれば、緊張も解けて自然体になると思うよ。」
ポンポンと抱きつくシルクの背中を撫でていると、少しずつ、うつらつうらとし始める。
なれないことが多かったもんな・・・。
疲れてるのも分かるよ。
「寝ちゃいそうだね、シルクちゃん。」
「一応、布団出しといて貰っていいか?寝たら、移動させよう。」
「うん。」
部屋の襖を開けて、中から布団を出すと、部屋の角に布団を敷く、観月。
「あはは・・・。布団まで一緒だぁ。まるで、異世界から、そのまま持って来たような旅館だね。」
「だな。」
布団を整えながら、観月は苦笑する。
もしかして、俺たちの他に転生者が来て、日本文化を広めたのでは無いか?と思うほどの、類似性に思わず首を捻らずにはいられなかった。
それか・・・この世界を創ったとされる神様が何か関与しているのか。
それは今の段階では、分からない。
それからも、ゆっくりと二人で話していると、うつらとしていたシルクが、突然ムクリと起き上がる。
『ぅー・・・スンスン・・・。』
両手を握りしめ、その可愛い鼻をひくひくとさせながら、シルクは部屋の入口を見ていた。
次第に目はキラキラと輝き増していき、ついに・・・
『う・・・うぅ・・・ペロリ・・・。』
舌なめずりが出た・・・。
廊下への襖に意識を向けると、カチャカチャと食器の音が聞こえる。
なるほど、これが聞こえていたのか。
「・・・あぁ、料理が来たんだな。」
シルクを落ち着くように諭すと、隣に座るように促す。
シルクは隣に腰を下ろすも、身体は真っ直ぐに入口を見ている。
開いた瞬間、飛びかからないよな・・・?
頼むから、やめてくれよ?
俺はぎゅっと、シルクのワンピースの裾を掴むと、シルクは俺の顔を見て、首を捻げる。
「落ち着け、シルク。人間の作るご飯は逃げないから。ちゃんと、待ってれば、食べられるからね?」
『うー・・・。』
「あはは!シルクちゃんてば、食いしん坊だなぁー、もう。」
ぐー・・・!ぐー・・・!
「観月は静かにしなさい。さっきから、腹の虫が大合唱してるぞ?あと、料理も来てないのに、箸をカチャカチャしないの!御行儀悪いですよ!」
観月はちゃんとテーブルで待っているのだが、その腹はグーグー!!と大きな音で響いている。
更には、どこから持ってきたのか、箸を握って摘む動作を繰り返していた。
「え?・・・はっ!?む、無意識だった・・・。」
「マジかよ・・・。お前、凄いな。」
本当に無意識だったのだろう、手の中の箸を見て小さく驚きの声をあげると、ゆっくりと箸を置いて恥ずかしそうに、丸まった・・・。
「失礼します。お待たせいたしました。今から、料理のお支度を致しますね。」
襖を開けて、宿主が仲居さんと共に入室してくると、テーブルの上に次々と料理が運ばれてくる・・・。
肉料理、魚料理、お野菜、焼き物、練り物、鍋物、炊き込みご飯、吸い物・・・。
正直、目眩がした。
そんなわけない・・・。そんなわけない。
これが一人、50G?
50G?あれ?この世界の量産品の剣って、いくらだった?たしか、300Gだったよな。
古い剣は売れば、50G。
豪華な食事 = 古い剣 だと?
50Gで出てくるものなんて、良くて、ご飯と味噌汁、煮魚程度だと思っていたのに・・・。
嘘だろ?ギルドが補助してるにしても、これはあまりに量がありすぎる。
しかも、パッと見ても、肉は間違いなく霜降り和牛の従兄弟。
魚は金目鯛の親戚だ。
野菜の中には紛れて、密かに松茸の兄弟まで乗っかってる。
どこからどう見ても、そんな安価なわけが無い。
この世界の食料事情はどうなってんだよ!!
「以上です。すみません、今日は一品小鉢が少ないんですよ。本当にすみません。サービスで、氷菓子をお風呂後にでもお持ちしますので、何卒、ご容赦ください。」
本当に申し訳なさそうに、そう、宿主は言っていたが・・・いや、小鉢とか以前の問題ですよ!?
「宿主さん!?無理してませんか!?いや、無理してるでしょう!?いくらなんでも、50Gで、三人でも、150Gの食事内容じゃないですよ!?」
「あぁ・・・!?すみません!足りませんよね!?本当に申し訳ございません!すまないが、新しく食材を買い出しに行ってきてくれ!」
「は、はい!ただいま!」
俺の剣幕に驚いた宿主さんは、何を思ったのか、仲居さんに買い出しの追加を依頼し始める。
更には仲居さんも、一大事とばかりに、なんの疑問も持たずに、部屋を飛び出そうとするではないか!
「待て待て待て待って!!?違うの!そうじゃないの、宿主さん!仲居さん!逆なの!多すぎるの!150Gで、この量は破格ですよ!?いくらなんでも、原価割れしすぎでしょう!?」
「あ、あぁ、そういうことでしたか・・・。あまりに血相を変えられて叫ばれるので、驚きましたよ。あははは・・・。では、ごゆっくりとお過ごしください。」
「うおぉーい!?この村の人間は人の話を聞かないな、本当に!リアさんもそうだけどさ!いいですよ、分かりましたよ!この料理は、頂きますけど、代金はきっちりとお支払い致します!本当はおいくらなんですか!?」
「えー・・・過不足なく、150Gで、間違いありませんよ?ねぇ?」
「え、えぇ、この宿は食事宿泊込で、おひとり様、150Gです。三名様で、450G。この辺りでは安価である自信はありますが、そんなに驚かれると・・・ふふ、なんだか、嬉しくなってしまいますね!」
「そうだね!うん!こんなに喜んでもらえるとは、宿屋冥利に尽きるというもの!これを励みにもっと、頑張っていかないとな!」
「はい!そうですね!あなた!」
俺の言葉に、宿主さんと仲居さんは手を合わせ、ルンルン♪と本当に嬉しそうに喜んでいた。
「・・・・・・あぁ、お二人とも夫婦だったんですね。よくお似合いです・・・。」
俺は何から突っ込むべきか、もう分からなくなり、真っ白になる頭で、席に着いた。
そして一口、料理に口を付ける。
「ん、美味いな・・・。美味い、美味いんだよなー・・・。しかも、美味すぎるんだよー、この料理は・・・。」
まずいなら、何とか、理由もこじつけられたものを・・・。やっぱり、味もとても美味しかった。
もう、考えるのはやめようか・・・。
「「わーい♪」」
俺の漏らす食事の感想に、宿主夫婦がこれまた嬉しそうに小躍りしながら、部屋を出ていく。
その姿を眺めて、俺たちは小さく息を吐くと、三人で食事の乗っているテーブルを眺めた。
「美味しそうだね・・・。」
「うん。冷める前に頂こうか・・・。」
「うん。」
『う。』
俺たちは席に着くと、食事に箸を伸ばした。
「「美味しいんだよねぇぇー・・・。」」
『うぅ~~!』
何とも不思議な話に、俺たちは首を傾げつつも、並べられた料理に舌鼓を打つのだった・・・。




