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その話、違和感がありにつき

夢から覚醒するように、周りの音や香り、瞼越しの光の刺激を受けて意識が呼び起こされる。

目を開けると、瞑想に入ったころと変わらない視界が広がっていた。



少し視野が狭く感じるのは、鎧兜を被っているせいだろう・・・。



左手に慣れた温もりと感触を感じた俺は、横に視線を向ける。

そこには、心配そうに俺の手を握る観月の姿があった。



「・・・ユーちゃん?大丈夫?」


「あぁ・・・。少し、頭がぼーっとするけど・・・。多分、図書館で暴れたから、その影響だと思う。」


「暴れたって、中で戦ってたの?」


「あぁ、前魔王とね。」



俺は観月の手を離すと、手首にある紋章に触れながら、「武装解除」を唱える。


すると、全ての鎧の留め金が解除され、自由に取り外しができるようになった・・・。



「はぁ・・・疲れた。正直、頭の中で暴れられるのはもう、懲り懲りだ・・・。」



鎧を全て外して、元のように防具を並べると、周りを見渡す。


先程まで居た店主の姿が見えない。



「アダンさんは?」


「今、店の奥で解呪の方法を探してくれてるの。もう戻って来ると思う。」


「そっか・・・。心配させちゃったな・・・。」



俺は苦笑すると、兜に手を置いてその外装を撫でる。

せっかくの店主の協力も徒労に終わると思うと、更に申し訳ない気持ちになった。



「もう、大丈夫だ。魔王はもういない。」


「・・・ごめんね、ユーちゃん。」


「ん?なんで、観月が謝るんだ?」


「だって、アダンさんも止めてたし、ユーちゃんも嫌がってたのに、私が無理に着けさせたから・・・。まさか、こんなことになるなんて、思ってなかったの・・・。本当、ごめんね・・・。」



観月はポロポロと涙を流し、肩を震わせて服を握りしめる。

いつもの元気な姿はなく、安易な考えで俺を危険な目に合わせたことを後悔しているようだった。


「んー・・・。」


「うぅ・・・ごめんね・・・ごめんね、ユーちゃん。」



俺は観月の頭に手を置き、小さく息を漏らすと綺麗な髪をぐしゃぐしゃともみくちゃにする。



「これは、俺がやったことだ。別に観月が気に病む必要はないよ。」


「でも!」


「私のせいで?ふふ、違うだろ。断ることもできる状況で、やめないのは本人の責任だ。例えばダイエット中に、ケーキを勧められて、食べるのは、勧めた人間のせいにはならないだろ?そういうことだよ。」



それでも食いさがろうとする観月に、俺は笑顔で向き合うと首を振って答える。


話は終わりだというように。


実際、この話はこれで終わりなのだ。


いくら観月に謝られても俺は今回の件を後悔などしてないし、ましてや恨むことなんてしない。


むしろ、アダンさんの提案を飲んで、あそこで売っていたり加工して、リンクを切っていたりしたら、“自信過多な魔王に会うことも、“自信不足の女の子”にも会えなかったことになるわけだ。



「むしろ、俺は感謝してる。ふふ・・・。観月ちゃん、持ってるわ。これからも、どんどん無茶を言ってくれ。きっとそれが、よりいい道を生み出してくれると思うんだ。」


「え?どういうこと?」



背中越しに振り返ると、観月は涙を零しながら、キョトンした顔で俺を見る。

振り返り、指先で観月の涙を拭ってやると、目線を合わせて微笑み、話を変えることにした。



「それより、約束、忘れてないよな?」


「え?約束?」


「何言ってるんだよ、約束だよ?お前と俺は今夜、一線を超える。覚えてるだろ?」


「あ・・・あぁ、あの・・・そ、それは・・・。」


「・・・いいね?俺、本気だから。」


「・・・・・・うん///」



俺と交わした約束を思い出したのか、観月は顔を真っ赤にすると、俯き・・・小さく頷いた。



「イヨッシャー!!!観月と一線を超えるぞ!仲のいい幼なじみを脱却だ!これからは、ラブラブな幼なじみだあぁー!!」


「も、もう!そんな、大声で言わないでよぉ!恥ずかしいから!」



両手を上げて絶叫する俺に、観月は顔を真っ赤にして飛びつくと、口を塞ぐべく、両手を伸ばす!

俺はサッと、観月の腕を掻い潜ると、クルクルと店内を逃げ回る。



「はは!無駄無駄~!俺と観月はイチャイチャラブラブします!約束ですからねー?」


「もう!もう!もおぉー!やめてよぉー!」



魔王を倒したことで、レベルが上がったのか、観月の動きが幾分か見えるようになっていた。


今更だけど、665人の魂と魔王の核を相手に戦ったって、すごくないか?


それを思うと、かなりレベルが上がってる気がする・・・。

そもそも、レベルって概念があるかは知らないけど。


「おぉ!無事に戻られたんですね。まさか、魔王の呪いに打ち勝つとは・・・。」



店の奥から本を抱えて、店主であるアダンさんが戻ってくる。

『初心者にもできる!解呪の方法』となんとも怪しげな表題の本だ。それ、ホントに効くのだろうか・・・。

まぁ、何とかしようとした気持ちは十分に伝わってきたので、あえて、ツッコムことはしないでおこう。



「一歩遅かったね、アダンさん。ねぇ、それより聞いて!俺、今夜、観月と大人の関係になるんだぜ!」


「な、なんで言っちゃうのー!!?ユーちゃんのデリカシーは、どこに行っちゃったのかなぁ!?もしかして、故郷に忘れて来てるのかな!?そうなのかな!?」


「あぁ、デリカシーくんかい?アイツなら、観月の部屋の白い高級タンスの一番下で眠ってるよ。最後に見たアイツの顔は色とりどりの布生地に包まれて、とても、安らかな顔だったな・・・。惜しい奴を亡くしたよ。」


「それ!私の下着があるとこ!やっぱり、見てたの!?開けないでって、言ってたのにぃー!!」



デリカシー氏を偲び、胸に手を当て、哀悼の意を表す俺の胸をポカポカと殴り、観月は顔を真っ赤にして絶叫をあげる。


ちなみに、遊びに行く度に、隙を見て、鑑賞してました。


いやー、あの下着の並ぶ姿は、どんな宝石箱よりも美しかったな。


まさに、『うわー・・・!パンティーの宝石箱やぁ~!』だ。


また、拝みたいもんだね。



「観月?人は開けるなと言われると、開けたくなる生き物なんだぞ?かの有名なパンドラさんだって、その言葉がなければ、絶対にあの箱は開けなかったと、俺は思うね。」


「パンドラの箱とか、関係ないでしょー!?もおぉー!変な話で、はぐらかさないでよー!」


「人類最初の魔女の話ですか。確かに、神々が口酸っぱく開けるなと言っていたそうですが・・・まぁ、開いたものは仕方ないですよ。結果として、“アレら”が出てきてしまったのですから、我々人間は、戦うしかないんです。サカエさんも油断大敵です。拾った武器で戦うのではなく、ご自身の身に馴染む武器をお探しください。 」


「・・・・・・んー、そうだよね。早く良い武器を見つけないと。あと、軍資金。」


「私も、槍よりやっぱり薙刀の方が慣れてるや。」



二人で頷くと、店の中を見回す。

買うにしても、先立つものがないと、なんにもならない。



「まずは、お金集めだな・・・。」


「お二人はギルドには登録してますか?まだでしたら、リアさんにお願いして、推薦状を書いてもらうといいですよ。この村にはギルドはありませんが、少し離れた街のギルドで登録すれば、クエストを受けて、お金も効率的に増やせるはずです。」


「ありがたい。ちょうど、それは考えていたところだよ。」


「では、私からもリアさんには、口利きしときます。また、お金が溜まりましたら、是非、当店もご利用ください。少し、安くしときますよ。」



商売人らしい営業スマイルで頷くと、お買い物割引券を差し出した。


この人、今後も絡んできそうだな。


全く、商魂逞しい人だ。


俺は苦笑しながら、割引券を受け取ると鞄にしまった。


さて、用も済んだし、帰ろうか。



「防具はどうします?」


「持って帰ります。前の魔王から、大切にして欲しいと頼まれたので。」


「頼まれたとは・・・。人の敵である存在が、心を開いたということですか。つくづく、変わった方だ。それなら、少し防具をお僅かりしても?所有者の変更が行われているかの確認と、一つ、機能を付け加えたいと思います。大丈夫。決して悪いようにはしません。」


「へぇ?何が付け加えられるか、楽しみだ。お任せします。」


「ありがとうございます。明日にはできますので、出立前にお立ち寄りください。」


「えぇ、よろしくお願いします。」



俺と観月は店主に、別れを告げると、店を後にする。


店を出てすぐに、俺たちは顔を見合わせると、首を傾げた。



「なんか・・・変な話が出たな。」


「うん。私も気になった・・・。パンドラの箱の話だよね?」


「うん。とりあえず流したけど、パンドラはこの世界では、魔女扱いされてたな。しかも箱を開けて、何か・・・抽象的なものじゃなくて、“形のある何か”を解き放ったような言い方だった。」


「パンドラの箱って、具体的な話は覚えてる?悪い物が出てきたことは覚えてるけど・・・。」


「正確には“すべての悪と災い”だって言われてる。それが、どんな形になって、俺たちの前に現れるのか分からないけど、しっかりと準備してから挑んだ方がいいだろう。」


「そうだね。私も防具、探そ。」


「というと思って、観月にはオススメの防具があるんだよ。」


「そうなの?私、詳しくないから、そこはユーちゃんにお願いしたいな。」


「うん!任せたまえ!観月に良く似合う防具だ。アダンさんの店にはなかったから、街の防具屋さんに期待だな。」


「ふふ。楽しみだな!」


「あぁ。観月に《《良く似合う》》と思うよ。」



俺は嬉しそうに跳ねる背中を見つめ、にっこり笑う。


あぁ。きっと観月に似合うと思う。

是非、世界のみんなにも見てほしいよ!



後に俺は、この防具を巡って観月と一悶着起きるのだが、それはまた別のお話・・・。




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