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その旅人、変わり者につき

リアさんの案内で、俺たちは温泉の豊富な村、【ナガミ村】を散策していた。


シルクも初めて人里に降りてきたのか、初めて見るものばかりで興奮しているようだった。


俺の隣に居たかと思えば、あちらの露天商を覗いたり、戻ってきたと思えば、こちらの装飾品を観察したりと、忙しそうだ。



「はぁ・・・。子供はいいなー。純粋無垢で、一生懸命で。あ!そっちは危ないぞ、シルクちゃん!こっちを見ようね!」



その度に隣のリアさんは、シルクの後を追いかけ、一緒になってはしゃいでいた。


案内役が、完全に仕事を放棄している・・・。


まぁ、先程、スカートを捲られたことは頭から抜けてくれてるようで何より。


これで、またパンチラチャレンジに挑めるというもだ。


シメシメ・・・。



「ねぇ、ユーちゃん。村に入ったのはいいけど、どうするの?私たち、お金持ってないよ?」


「心配すんな。こういう場合は、大抵、俺たちが既に持っている物が助けてくれるってことで、相場は決まってる。」


「私たちが持ってるもの?」


「こーれ。」


「あ、バックか。」



自身の下げているバックを叩いてみせると、観月も意味が分かったのか、下げているバックを開けた。



「遺跡で手に入れた沢山の武器や防具、それに魔石やアイテム。それらを売れば、それなりに小金になるだろう。」


「なるほど!さすが、ユーちゃん!」


「ふふーん!お前を路頭に迷わせるなんてことはしないぜ!(キラーン!)てなわけで、さっそく、売りに行くか。」


※注意 ▷ ちなみに全部、人の物です・・・。


「そだね。高山さん、あるかな?」


「高山質屋探してる?いや、ないでしょ。ここ、異世界。売るなら、BOOK・ONでしょ。」


「それ、本でしょ。本なんて持ってないよ?」


「BOOK・ONは、今は本だけじゃなくて、服も買い取るらしいぞ?この防具くらい買い取ってくれるんじゃないか?」


「いやいや、防具や武器を持ってこられても、お店の人も困るでしょ。」


「そうかな?彼らならやってくれると、俺は信じてる。なんたって、BOOK・ONだからな!」


「そのBOOK・ONに対する絶大な信頼はどこから来るの・・・?」



二人でバカを言い合いながら、足湯を眺めるシルクに寄り添うリアさんに歩み寄る。

ちなみに、BOOK・ONも当然、ありません。



「リアさん。この辺りに、防具か武器を買い取ってくれる場所はないかな?実は旅の途中で、資金が尽きてしまって。余った物を売りたいんだ。」


「それなら、あの武防具屋はどうだ?小遣い程度なら売れるだろう。」


「そっか。なら、観月と行ってくるよ。悪いけど、リアさん、シルクのことお願いできます?」


「あぁ!任されよう!」


『う?』


「リアさんと仲良くな。すぐに戻るから、あまり遠くに行かないでね?」


『う!』



すぐに戻ると告げ、シルクの頭を撫でると、シルクは頷き、散策へと戻って行った。



「武防具屋か。武器と防具が一色単にされてるんだな。」


「珍しいの?」


「まぁ、珍しくはあると思うよ?でも、ゲームや本の知識だからな。あてにはならない。現実的に考えても、こっちの方が効率的で助かる。」


「そうなんだ。でも、武器専門店、防具専門店、っていう方が品揃えもそれぞれ多そうだよね?」


「大きな町なら・・・んー、あるかもしれないな。」


「見てみたいね!そんなお店!」


「だな。壮観だよ、きっと。」



俺たちは話をしながら、店の扉を押して中へと入っていった。


その背中を遠くから眺めていたのは他でもない、リア=フレイムだ。



「お金が無くなって・・・武器や防具を売るという発想になるのは珍しいな。余っていると言っていたが、まず、余るほど持つことが珍しい。つくづく、変わってるな、あの二人は。」


「う、うっ!」



首を傾げるリアさんに、気付いたシルクは手を引いて足湯を指さす。



「ん?足湯に興味があるのか?行ってみるかい?」


「うー!」



笑顔で頷くシルク。


しかし、その内心はバクバクだった・・・。


まさか、そんなことで主人の正体を怪しまれるとは思ってなかったからだ。


何とか気を逸らそうと、リアの気を引くことに専念するシルクだった・・・。




観月と共に店の中に入ると中には予想通り、防具と武器が綺麗に陳列されていた。


真正面にはカウンター。


その上には店主の直筆だろうか、『真心』と書かれた横断幕が額に入れられ飾られている。

む、無駄に目を引くな・・・。



「ぃらっしゃい・・・。」



カウンターには、男性が一人。


目を線にして、眠そうな男性は椅子に寄りかかりながら、半ば夢現で、声をかけてきた。



「すみませんが、店主さんですか?」


「はぃ・・・わたしが・・・ふあぁ~!んむんむ・・・店主ですよ・・・ぐー・・・。」



起きようとして、すぐに寝てる。

すげーな。



「すみませんが、武器を買い取って貰えませんか?」


「ふぁ~ぁ・・・!いいですよ・・・?でも、うちは見ての通り、小さな店ですから、大層な物は買い取れません。・・・路銀の足し程度に考えてくれると・・・助かります。」


「えらく、はっきり言うね、この店主は。」


「そりゃ・・・先代からの言いつけですから・・・。」



と、うつらうつら、船を漕ぎながら自身の上を指さした。



そこには、『真心』と書かれた横断幕。



「真心か・・・。じゃあ、その心意気を信じて。すみませんが、これお願いします。」



バックから、剣を一振り取り出すと、目の前に置いた。

置かれた剣を手に取ると、しげしげと眺めて、こくりと頷いた。



「ふむー・・・量産品ですねー・・・。新しい物なら300Gですかね。でも、正直、かなり古い物なので50Gが相場です。うとうと・・・同じのをお持ちでしたら、五本から60Gで買い取りますよ?五本で300G。いい、値段だとは思いま、ぐー・・・。」


最後で力尽きたな・・・。


「ふーん。じゃあ、それで。」


俺は観月と二人で五本を合わせると、武器とお金を交換した。


銀貨三枚だ。一枚で100Gの価値があるのか?と思ったが、ちゃんと、刻印に100とあったので、とりあえず受け取ることにする。



「むにゃむにゃ・・・それより気になるのは、そのバックですね?それ・・・ふぁあ~!大きいですが、結構なお値段だったでしょう?」


「あぁ、これは旅の途中で、拾ったもんです。ダンジョン、探索してたら、落ちてました。」


「ふむにゃふむにゃ・・・。それは、運が良かったですね。恐らく、それは軍用のバックでしょう。買うとしたら、3万Gはくだらないですよ。」


眠そうな目を擦りながら、男はバックを見てほくそ笑む。



「そうなんです!このバックが手に入った時は本当に嬉しかったんですよ!」



観月はウキウキと、嬉しそうにバックをみせると、ウンウンと店主も頷いた。

やっぱり、軍用だからそれなりに価値はあるものだったんだな・・・。



「んんー・・・はぁ!運もまた実力ってね。余程の神様の加護が着いているんでしょう。これからも、良い商品をお待ちしてますよ。私はアダンと申します。今後ともいい取引を。」



大きく伸びをしたアダンさんは、手を差し出してくる。眠そうではあるが、先程よりは、幾分か目は覚めているようだった。俺たちも頷くと、手を握り返す。



「俺はサカエ。こっちは、ハゴロモです。よろしくお願いします。」


「サカエさん、ハゴモさん、お二人とも珍しい名前だ。珍しい名前は縁起がいいとウチの先代言ってましたから、丁重におもてなし致しますよ。これからも、どうぞ、ご贔屓に。」


「ハゴモ・・・?え、あ、あの 」


「縁起がいい、か。ふふ・・・。なら、そのおかげで、このバックも手に入ったのかも知れないな。」


「かもしれませんね・・・。ところで、300Gでは、宿に一泊すれば無くなってしまいますが、大丈夫ですか?もっと品があるなら、受け取りますよ?」


「あの・・・私、ハゴロモ・・・。」


「そうか。それなら、もっと見てもらおうかな。ね!ハゴモちゃん!」


「むーー!!ハ・ゴ・ロ・モ!!」


「ははは・・・!失礼しました、ハゴロモさん。」


「ごめん、ごめん。冗談だから。」


「むーーーー!!!」



ぷっくりと頬を膨らませ、観月は腕を組むと、ぷいっとそっぽを向いてしまった。


俺たちは苦笑すると、改めて謝罪と訂正し直し、その他の品の鑑定をアダンさんにお願いすることにした。


とりあえず、俺と観月はバックをひっくり返し、中の物を粗方出すことにした。



「こんなにあるとは・・・あはは。眠気も飛びそうですね・・・。」



そこから、アダンさんが、買い取れる物、買い取れない物、街でなら価値が高くなる物など、事細かに仕分けしてくれる。



「魔石も買い取れますが、値段でいえば、アクセサリ屋と魔法屋がいいでしょう。あちらは、魔石を材料にしているので、良質な魔石を常に欲していますから。」



なんで、そんなに良くしてくれるのかと、聞いて見ると、『ここで、取り入れば、大金を招いてくれる匂いがしたから。』らしかった。


なんだかんだ、商売人らしい理由に俺たちは笑ってしまったが、下手に誤魔化したり、言い訳しないその素直な態度に、むしろ好感を覚える。


この人なら、信じてもいいだろう。



「じゃあ、アダンさんを見込んで、最後に一つ査定をお願いしたい物があるんだ。」


「お、ついに出ますか?とっておきが。実は、そんな気はしてたんですよ。まだ、とんでもない物が、出てきてないような気が・・・。」



俺のバックを見て、目を細め小さく笑うと、今か今かと見るからにワクワクしながら、身を乗り出す。



「じゃあ、はい!遺跡でモンスターが着てた鎧です!」



取り出したのは、他でもない。


始まりの遺跡の最深部で、シルクが着けていた漆黒の西洋甲冑一式だ。


呪いとかあっても困るし、見た目だけでも威圧感が尋常じゃなくあるので、着けるのも躊躇う逸品。【煉獄の鎧】だ。


かつて、魔王が着けていたというこれは、ランクSの防具だ。


最悪、ここで売れなくてもいい。

正直、持て余していた俺は、相談できる相手が欲しかったのだ。



「なっななな・・・!!?」



案の定、鎧を目にしたアダンさんは、眠気など吹っ飛んだように目を丸めると、ワナワナと震えていた。


ま、まさか・・・怒ってないよな?

確かに、シルクを倒した時の戦利品ではあるが、もしかしたら、これは、遺跡から持ち出してはいけない物だとか言われたりしないだろうか・・・。


もしそうなら、かなり、浅慮なことをしてしまったかもしれない。


まずいな・・・。最悪、憲兵みたいな人達に突き出されたりして・・・。



「あ、あの、確認したいのですが、サカエさんは人間ですよね?魔族では、ないですよね?」


「俺はれっきとした人間だよ?むしろ、まだ、魔族にもあったことがないし。もちろん!魔族のお姉さんがすごく美人だというなら、間違いなくハレンチするつもりだけど!・・・痛っ!?急になに!?」


「ユーちゃん。ほんと、一回、死んだらいいのに。」



胸を張って答えると、隣の観月が真っ赤になって横腹を殴ってくる。



「すみません、アダンさん。コイツ、こういう奴なんです・・・。女の子が大好きで、すぐに周りに迷惑ばかりかけて、ほんと、お恥ずかしい・・・。お気を悪くしたら、謝罪します・・・。すみません。」


「いや、あはは!大丈夫ですよ。今ので十分、知りたいことは分かりましたから。この防具が、本当に戦利品なのか知りたかったんです。」


「というと?」


「いえ、あまりに珍しい逸品だったので、個人の私物かと疑ってしまったんですが、本当に戦利品だったとは・・・。驚きましたよ・・・。これは、どこで手に入れたんですか?」



防具を指さし、首を捻るアダンさん。先程より、防具から少し離れているように見えるのは気のせいだろうか?



「これは、近くの遺跡です。スライムが沢山いて、最深部に居たモンスターを倒したら、手に入りました。」


「近くって・・・魔王の居た遺跡ですか!?あそこは、スライムだらけで探索は困難を極めるし、しかも、そのスライムがバカみたいに強いことで有名なんですよ!?しかも、その中を切り抜け、最深部に到達して、【魔王の亡霊】を倒したんですか!?」



ありえない!と、アダンさんは何度も首を振ると、ついに耐えきれなくなったのか、逃げるようにカウンターの裏へと隠れてしまった。



「え、えー・・・?そんな、逃げなくても・・・。」


「いやいや!逃げたくもなりますよ!!だって、A級のハンターでさえ、しっぽ巻いて逃げるようなダンジョンを、たった二人で攻略してしまったんですか!?かつてない異常事態だ!!・・・・・・あ!?じゃ、じゃあ、先程の武器も遺跡で手に入れたってことですか!量産品が多いのも、魔王に挑んだ軍隊の物を貰ってきたってことですよね!?そんな【化け物の亡霊】に挑んで、よく無事でしたね!?」


「えー・・・。そんな、強かった?」


「・・・いやー。そこまでは。」


慌てふためき、質問が湯水の如く溢れ出てくるアダンさんに、俺たちは首を傾げながら答える。


実際、そんなに【魔王の亡霊】と呼ばれたモンスターは、強くなかったはずだ。


威圧感は確かにあったが、別に動きがすこぶる早いわけでもなかったし。


むしろ、タコ殴りで倒せたわけだから、強いか強くないかで言えば、強くなかったと思う。


その正体はスライムなのだから、仕方ないか。



「あ、あの・・・ちなみにお二人の魔法ランクは?」


「えっと、私が1で。」


「俺が2だな。」


「・・・え?冗談ですよね?そんな、私と変わらないくらいの魔力で、魔王に挑んで・・・倒したんですか!?」



そんなバカな・・・と、へなへなとアダンさんは崩れ落ちると、地面に手を着いて首を振るばかりだった。

相当、ショックみたいだな・・・。



「でも、俺たちって、亡霊相手に魔法は使ってないよな?」


「うん。使ってないね。槍と剣で戦ってたから。」


「物理攻撃ですか!?・・・・・・亡霊相手に?いやいや!亡霊ですよ!?効くわけないでしょう!?」


「え?そう言われても、実際に倒したわけですし・・・。」


「・・・・・・あー、分かった!そういうことか!」



アダンさんの様子に違和感を感じていた俺は、やっと意見の食い違いに気付いた。


恐らく、アダンさんと俺たちの間では、この甲冑についての前提について大きな相違がある。



「【亡霊】の正体が、まだ、調査されてなかったんだな。ハンターも、闘わずに帰ったって、リアさんが言ってたし。」


「え?正体?正体も何も、あれは魔王の亡霊でしょう?」


「はは・・・。あれは亡霊じゃありませんよ。中にスライムが入って動かしてたんです。人間の行動を見て学習したんでしょう。」


「スライムが!?スライムに、そんな器用なマネができるんですか!?」


「アイツは器用ですよ?人間に擬態することもできますし、何より、学習能力が高い。しかも、その学習能力は成長するごとに高くなっていく。特に注意すべきは、キングやクイーンになったスライムです。彼らのひと鳴きで、遺跡中のスライムが集まり、集団で襲ってくることもありえますから。」


「スライムが王権を・・・。それだけ、あの遺跡の中には沢山のスライムが居たってことですか。」



俺は苦笑すると頷き、遺跡の内部でのできごとを話していった。

普通のスライムに関しては、魔法が有効だったこと。

知恵のあるスライムは奇襲や、徒党を組むこともあること。

また、クイーンの入っていた鎧には、そもそも、魔法は効き目が薄い恐れがあったことなどを伝える。



「なるほど・・・。つまり、どう足掻いても、魔法で挑めば、負けていたと。その場に落ちていた武器で、討伐ねー・・・。どちらにしても、前代未聞の珍事だ。うむうむ・・・。」



腕を組んで、アダンさんは無理くりでも納得したようと、頭を巡らせているようだった。


どうしたって、目の前に、魔王の鎧がある事実は変わらないのだから、納得せざる負えないのだろう。



「それで、こちらの防具はいくらくらいになりそうですか?」


「あ、そうですね。値段は5Gです。正直、 防具としての価値はありません。」


「・・・・・・へ?魔王の鎧でも?」


「魔王の鎧だから、ですよ。当然、魔王とは忌むべき存在。鎧ひとつからでも、復活する恐れがあるのが、魔王です。即、破棄することをおすすめします。または、加工し直し、所有者を登録し直すか、ですね。そうすれば、前所有者である魔王との繋がりは絶たれるので、復活の心配はないかと。」


「加工し直す場合、手数料は・・・。」


「そうですね・・・。魔石が百個と金貨一枚が必要になります。」


「じゃあ、即、破棄で。」


「え!?いいの!?結構、いい物じゃなかったの?」


「え?だって、アダンさんが無価値って言ったんだから、破棄でいいでしょ。」


「えー?だって、防具としては使用できるでしょ?勿体ないよー。しかも、Sランクだし。」



観月は篭手を手にして、勿体なさそうに、俺と店主を見る。

まるで、捨てるのが決定したケーキを、どうにかできないかと、渋る子供のような様子に俺と店主は苦笑を浮かべて首を振る。



「ハゴロモさん。これは、人間には使用できない鎧なんですよ。着けたら、呪われる危険があるんです。最悪、精神を魔王に乗っ取られたり、するかもしれませんよ?」


「えー?でも、スライムは使えたんだよね?」


「魔王もスライムを本体には選びたくなかったんだろ。言ってしまえば、モンスターカースト最下位にはいる存在だからな。」


「はは・・・!それは面白い理屈ですね。確かに、転生するにしても、スライムは遠慮したいところです。性別もはっきりしませんし。」



確かに、スライムは分裂して増えるしね。

シルクも見た目は女の子だが、はっきりと女の子とは言えないし。

もしかしたら、明日にはパンツの下にゾーさんがいるかもしれん。



『ううぅうー!!(そんなことあるかー!!)』



なにやら、外からお怒り気味のシルクの声が聞こえた気がしたが、空耳だろう。



「とにかく、安易に着けることはお勧めしません。」


「・・・・・・ぶぅー。」



篭手を持った観月はブラブラと篭手を振りながら、つまらなそうにする。

かくん、かくん、と動く篭手も、少し寂しそうに見えた。


しかし、どんなにブスくれてもだめ。


使えないのなら、即処分は鉄則だ。


これは、現実世界でも、ファンタジー界でも、共通の決まり事と言っても過言ではない。


断捨離は整理整頓に、とても大切な要素といえるだろう。



「じゃあ、最後に一回だけ着けてみて・・・?」


「・・・・・・お前、人の話聞いてたか?」



お願い♡っと、可愛らしくおねだりする観月に俺と店主は呆れた顔を向けるしかなかった。



「だって、かっこいいもん、この鎧・・・。なんか、強さ十倍!!みたいで。」


「そりゃ、魔王の鎧だからだろ?威圧感が出るように作ってあるんだよ、きっと。」



篭手を置いて、兜を手にし直した観月は、兜と見つめ合って、目を輝かせる。


あ、ダメだ。コイツ、完全に虜になってる。



「ユーちゃん、似合うと思うなー。かっこいいんだろうな・・・。惚れ直すと思うなー。」



兜を片手に持って、観月は目を輝かせて俺に詰寄る。


本当に、コイツ、話を聞いてなかったんじゃないか?


それを着けると、魔王に身体を乗っ取られる恐れがあるんだっていってんだぞ?


この子、バカなの?


俺は頭を抱えると、深く息を吐いて、店主に向き直る。


いつまでもこうしてても仕方ない。


さっさと、店主に破棄のお願いをして手続きしてしまおう。



くいぃー!っと、最後と言わんばかりに観月は俺の服を引っ張る。



「もう、なに!?服が伸びるでしょ!?」



振り返ると、観月が兜を抱えて、顔を真っ赤にしていていた。



「じゃ、じゃあ、さ・・・。全部着けてくれたら・・・今夜、私の事を好きにしていいよ・・・?」



真っ赤になり、服を掴む少女が、少し視線を落としながら呟いた・・・。

この顔は、長年一緒に連れ添ってきたから知ってる顔だ。本気でお願いする時の観月の顔だ。


「い、いや、でも、さすがにヤバいですよ?サカエさん。これは、着けたらかなり危険な鎧で・・・下手すれば、呪いのアイテムの中でも最上級クラスの精神書き換えの恐れが・・・。」


「分かってますよ・・・。」



店主は俺の答えに胸をほっと撫で下ろす・・・。


さすがに、精神乗っ取りの恐れがあるアイテムを身につけるなど、いくら変わり者の人間でもそこまでのことは・・・。


声の主に目を向けると、店主は驚愕した。


青年は目を輝かせ、鼻息荒く、赤面する女の子を見つめていたからだ・・・。


「まさか・・・まさかまさか・・・!!?ちょっ!待ってください、サカエさん!?」


「観月、言ったからな!?今夜、俺とお前は、結ばれることになるぞ!?男女の関係だぞ!?いいんだな!?」


「っ~!!?口に出して、言わないでよ、恥ずかしいから・・・///」



顔を真っ赤にして両手で、顔を隠した観月はそれから静かに小さく、コクリ・・・と頷いた。



「うおおおおぉー・・・!!!よっっしゃあぁー!!やったらあぁー!!」


「え、えー・・・?サカエさん?」



俺は手当り次第に防具を引っつかまえると、全ての装備を装着していく!


ガチャン!カチャカチャ!スルッ!ガチャ!



『ウオオオオオアアアーーーーァァァ!!どうだァァァ!!着けたぞ!着けてやったぞォオー!』



呆気に取られていた店主と、期待に満ちた目を向ける観月の前で、あっという間に着替え終えた俺は二人を見る。



「わぁー!やっぱりカッコイイね!うん!よく似合ってるよ!怖いくらいの迫力があって、すごくいい!!」


「うわー・・・本当に着けちゃったよ・・・。」



嬉しそうに手を合わせて、俺の周りを回る観月と、少し離れて引き気味の店主。


その真ん中には、言わずもがな・・・。


欲求に素直に、踊らされる哀れな変わり者が、そこには居た・・・。


我こそは、変態にして紳士!

紳士の中の紳士!

女性の涙は俺が拭う!!


栄咲 遊助(サカエ ユウスケ)です!



以後お見知りおきを !!!




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