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その鑑定、規格外につき

意識が覚醒し目を開けると、青い瞳をクリクリとさせてシルクが俺の顔を覗き込んでいた。



「うー・・・。」


「ふふ・・・心配してくれたのか?何分くらい目を閉じてた?」


「うー!うー!」



サラサラの髪を撫でると、気持ちよさそうに目を細めたシルクは胸に顔を擦り付けて甘えるてくる。



「十分もなかったと思うよ?」



俺の隣で腰を下ろしていた観月は、俺が帰ってきたことに気付くと立ち上がり俺の差し出す手を取った。


ビリ・・・と俺たちの間で静電気が走ると観月はコクリと頷く。



「うん。ありがとう。私も鑑定できるようになったよ。」



今やったのは、魔法のコピー作業だ。


対象が許可を出していればコピーできるという、とてもお手軽な魔法である。


許可も簡単で頭の中で『この魔法を教えたい』と思うだけで、相手に教えることができるのだ。


つまり、お姉さんや神様がやっていた一部の奇跡は、これが大元になっていたようだ。



「十分か。俺の感覚では、向こうに一時間は居たと思ったけどな。やっぱり、向こうとこちらでは時間の流れが違うみたいだ。」


「その分、沢山、勉強できるからいいよね!静かだし。困った時は、天の声のサポートもあるから分かりやすくて助かるもん。」


「・・・あぁ、そうだな。確かに分かりやすいよ。マンツーマン授業みたいで。(てことは、観月の方は肉体はないってことか。)」



観月は天の声止まり。


俺の方は、声はもちろん、性別とそれに伴い肉体まである。

ムチムチの太ももと、それが映える可愛い制服まで着ている。


・・・スカートか。あ、おパンツ様も見れるじゃん。

よし、ハレンチしよう。絶対しよう。


俺の専属秘書にハレンチするぞおぉー!!



「・・・ん?どうしたの?なんか、楽しそうだね?」



観月は俺の顔を訝しげに覗き込む。


“あー、疑問・・・、やー、疑心・・・、しー、疑惑・・・”とその瞳には、疑いの色が色濃く浮かんでいた。


ははは・・・信用ねー。


これは、日頃の行いを改めたほうが・・・いや、そういえば無理なことは口にしない主義だったね!俺。


早々に改心を諦めると、観月に首を振って答える。



「いや、早く、《Appraise(鑑定)》を試したいだけさ。」


「ほんとー?」


「はは・・・ほんと、かな?さて、どうだろう?」



俺は詰め寄る観月の頭を撫でると、小さく笑って椅子から立ち上がる。



「むー。また、そうやってはぐらかすー。」


「それが、俺のスタイルさ。それじゃあ、始めよう。せっかくだ、この部屋全てを《鑑定》してみようじゃないか。」



俺は部屋中に置かれた武具を見回し俺は両手を広げ、この部屋全ての物を鑑定したいと告げる。


当然ながら観月は目を丸め、周りの武具と防具を見回す。



「え?この部屋全て?剣だけでも、軽く五十は超えてるよ?それに槍や杖も。防具も合わせたら、百は超えてくるよ?」


「だからいいのさ!魔法は使えば使うほど、強くなる。やるぞ、観月。なに、あの部屋の本たちに比べれば、大した数じゃないさ。」


「比較対象が、悪すぎるよぉ。千か万かも分からない本と比べられちゃ、この全ての物は比較にすらならないもん・・・。でも、分かった。ユーちゃんが一緒ならできると思うし。」


「そう言ってくれると、やる気も万倍だ!俺も観月がいれば、不可能はないって思えるよ。」



苦笑を浮かべつつも、観月は頷くと手に持った槍を小さく掲げた。


俺も傍らに刺さった剣を手にして、微笑むと鑑定デスマーチを始めた。


部屋を動き回るのは勝手が悪いので、俺と観月の元にシルクが武器を集めるという作戦にした。



「《鑑定(Appraisal)》。んー・・・。なんか、量産物が多いな。」


「《鑑定(Appraisal)》。うん、そうだね。何かを討伐するために、ここに沢山の人が来たってことかな?」


「・・・・・・え?それって、まさか、シルク?」


「状況的に見れば・・・。」



遠くで、せっせと武器を集めるシルクを見ながら、俺たちは思わず息を呑む・・・。



「・・・いや、いやいや。」


「・・・うん、ないない。」



俺たちは苦笑すると、手を振ってその考えを否定した。


戦ってみた自分たちが一番、分かってる。

お世辞にも、シルクはそんなに強いとは言いがたかった。


動きもヨタヨタとして、心もとなかったし。


恐らくは、この朽ちた遺跡で大きな討伐作戦があって、沢山の犠牲が出たが、それが放置され・・・または、墓として封じられ、そこにスライムたちが住み着いたと考えるのが妥当だろう。


それで、強いスライムのシルクが女王になったってとこでいいかな?



「シルク・・・。思ったんだけど、さ、シルクって女王なんだよな?」


「うー?」



剣を持って近付いて来たシルクに、俺は問いかけると、首を傾げて武器を手渡してきた。



「てことは・・・女王蜂みたいな存在ってことだよな?」


「・・・・・・・・・ちょっと!?ユーちゃん、何を聞こうとしてるの?」


「いや、だって、女王だぞ?しかも、ここはスライムの巣だった。てことはさ?ここのスライム、全部、シルクの子供だったんじゃないかって・・・。」


「・・・・・・うぅ。考えないようにしてたのに・・・。」


「うー!」



シルクは空の手を差し出すと、俺たちに見せてくる。

シルクの手を見ていると、徐々に手の中に水の雫が集まり・・・



『ぷるん!』



一匹のスライムが現れた。

スライムはクリクリした目で、俺たちを見つめる。

シルクもそのまま青い瞳をクリクリとさせて、俺たちを見ていた。



「・・・シルク、お母さんになったんだな。早い巣立ちだ。うぅ・・・!!」



娘の門出を不本意ながらも祝福する父のように、目の前の少女を見つめ、俺は目頭を押さえて悲しみを堪える。



「ちょっと・・・パパ・・・泣かないの。」


「うぅ・・・母さん・・・。娘が、よくも知らない男の子を連れてきたんだ・・・。」


「仕方ないよ。好きになっちゃったら、それは、誰にも止められない。それは、私たちが一番、分かってるでしょ?」


「うん・・・うん・・・。シルク・・・幸せにな!相手の男に何かされたら、すぐに連絡しろよ!」


「シルクちゃん!何かあったら、すぐに帰ってきなさいよ!」


「う、うー?うー?」



互いを支え合う熟年夫婦。

娘の巣立ちを心から惜しむ二人に娘は、静かに頷いた。



「う、うー・・・。(なんだ、この小芝居は・・・。)」



呆れたような声と共に、冷めた目で、二人をシルクは眺めていた。



「うー!うー!」



シルクはぷっくりと頬を膨らませると、地団駄を踏みながら、腰を下ろしていた俺たちに飛びついていた。


意図しない反応に、不服の色が見え隠れしている。


まだ、巣立ちは早いらしい。



「あはは、分かってるよ。スライムには本来、性別はないんだろ?」


「え?そうなの?」


「うー!」


「確か、そうだよ。アメーバみたいに、分裂して増殖するんだ。こんな見た目をしているのも、自分を護るための防衛本能がそうさせたんだろ。まさに、擬態だ。」


「じゃあ、シルクちゃんはその・・・ハレンチ対象にはなれないってことだね?よかった!ユーちゃんの毒牙にかかる心配はないんだね!」


「うー?」



いや、毒牙ってひどい言われようだな。

俺は皆の幸せのために、誠心誠意、真心を込めてハレンチしているというのに・・・。


観月はほっと安心したように、胸を撫で下ろす。

対して、シルクは首を捻っていた。


そもそも、分裂して増える生物に、生殖機能も何も無いんだから、それを隠す必要もないわけで、それに対して、恥じらいがあるわけもない。


だから、パンツも履かなければ、スポブラすらも、つけてないのだ。


だいたい、相手がモンスターなのにそんなことを心配すること自体どうなんだ?


モンスター相手に、ハレンチなマネをするヤツなんているわけないだろう。


と、普通の人なら、考える。

否、考えるべきだ。

そんなこと、普通ならあるわけがないのだから。


だが、観月は違う。


本気で、スライムを心配していた。

本気で、モンスターの身の安全を心配していた。


なぜなら・・・そう。


俺が・・・栄咲遊助が、普通とはまったく違う感性を持っていたからだ。


俺が生粋の助兵衛(スケベゑ)だと、頭が痛くなるほど悩み、知っているからだ。


なぜなら俺が・・・俺こそが・・・全男性の期待と希望を背負っていると常に自負している紳士であることを、幼なじみである彼女はずっと見てきたのだから!!



「いやいや、申し訳ないが、見た目が女の子なんだ。もちろん、ハレンチさせていただきますとも。せざるを得ないし、そうするように世界が望む限り、俺は女の子へハレンチをし続けるさ。」


「うぅ・・・どんな歪んだ使命感を持ってるの?変態すぎて、いよいよ、無機物にすらハレンチしそうで怖いよぉ。」


「はは!するね!してみせるね!相手が可愛い女の子の見た目なら、いくらでもハレンチするよ。ガーゴイルの女の子がいたら、その子ですらハレンチしてみせるね!あぁ!可愛い女の子ならみんなハレンチ対象だ!」


「この変態・・・いつか、エスカ(擬餌状体)に誘われて、モンスターに食べられそうだね・・・。」


『うーうー。』


※ここでシルクの横路(ロード)


エスカ(擬餌状体)”とは、身体の一部が変化して、餌をおびき寄せる突起物のことを言います。例えるならチョウチンアンコウの頭にある光るワームのようなアレです。シルは擬態して餌に近付き、捕食するので、これには含まれません。おしまい。



観月の言葉に、シルクは頷くと、一人浮かれる将来有望な『餌』を生暖かく見つめる。


まぁ、彼の場合、可愛いければ、エスカすらハレンチ対象になるだろう。


本当、その無限に湧き起こる色欲ごと、食われてしまえばいいのに・・・と観月とシルクは心から思った。



「ん?なんか、言った?」


「いーえー?」


「うーうー?」



二人は深くため息を吐くと、鑑定作業を再開するのだった。


「さてと、残りはこの一つだな。ゴロゴロと、掘り出し物がある中、異様に存在感を放つ、この黒い西洋甲冑のご登場だぁ~。」


「武器の殆どはBランクだったけど、十分、戦える装備だよね。」


「まぁ、いくつか、貰って帰っていいだろう。あと、思いがけない戦利品といえば、これだー!」


「そう!待望の“かばーん”だよぉ~!」



二人で、わあぁーい!と鞄を掲げて小躍りする。

部屋を探る中で、鞄が落ちていることに気がついたのだ。


それもありがたいことに、回復薬や携帯食糧、おまけに魔石もゴロゴロ入っていた。


このまま、担いで冒険に行けるレベルの豊富な内容だ。


これは本当に助かる。


恐らくは、戦闘で倒れたこの集団のものだろう。

そのために、中の容量もかなりのものだった。


肩からかけて、俺たちは互いを見る。


ほぼ、学園の登校風景と変わりない・・・。



「実は狙ってんのか?」


「と思うくらい、ピッタリだよね。ふふ・・・でもこれで、お化粧もお着替えも、お弁当も持ち歩けるし、怖いものなしだよぉー。」



本当に嬉しいのか、観月は鼻歌混じりに、クルクルと回る。


スカートひらひら・・・。

んー。俺はムラムラ・・・。


よし。宿に着いたら、ハレンチだ。


観月との関係を着実に推し進めて行こう。



「ゾクッ!?ん?なに?すっごい寒気がしたよ!?」


「どうした?」


「んー、んー?なにかな?分かんない・・・。」



キョロキョロと辺りを見回す観月に、俺は素知らぬ顔で近付く。

あぶない、あぶない。

バレては元も子もないからな。



「そっか。風邪じゃないといいけどな?とりあえず、最後の鑑定してしまおう!早く宿に向かおうじゃないか。こっちこーい。」


「う、うん。」


「《鑑定(Appraisal)》」



俺は近付いてきた観月の肩を抱き寄せると、甲冑に向けて鑑定を行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


【 魔装具 煉獄の鎧 】


ランク S


攻撃 1

防御 1

魔力 1



特性

異常耐性(大)/移動速度アップ/基本スターテス強化(倍化)/ スキル強化 / 呪い無効


備考

かつて、魔王が装備せし鎧。その装甲はドラゴンの牙をも砕き、速さは自身の影をも置き去りにしたという・・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーー



「はいきたー、チート防具!なんで、こんな冒険の序盤に、Sランクが落ちてるんだよ・・・。」


「魔王の防具ってことは、つまり、この人達は、魔王討伐のためにここに集まったってことだね。どおりで、数が多いと思ったよ・・・。」



周りの武器を眺めながら、当時の様子を想像した俺たちは思わず呻く・・・。


神様は朽ちた遺跡と言っていたが、まさか、過去に討伐された魔王の墓所だとは思いもしなかった。


とりあえず、着ることはないにしても、売れば、当面の生活費は稼げそう。

信頼できる防具屋でも見つけたら、売ってみよう。



防具を鞄にかざすと、吸い込まれるように中に入っていく。


さすが、軍用バック。

容量はまだあるようだ。



ところで携帯食糧って、期限ないのか?

確認しようと取り出すと、乾パンのような物が出てきた。



「《Appraise(鑑定)》。あ、これ、期限も保管されるのか。魔法って、なんでもありだな、本当。」



俺は苦笑すると、横でボー・・・としているスライムを見る・・・。


先程、シルクから分裂したスライム。

言わば、プチシルクだ。


ふっ・・・・・・。



「ちょっと、こっちおいで。」


『ぷ?ぷ!ぷ!ぷ!』



手を差し出すと、スライムが俺の手にちょこんと乗ってくる。


ひんやりとして、心地いい。


俺はスライムを鞄に掲げてみる。



『ぷ?』


鞄からは何の反応もなく、スライムが吸い込まれていく、なんてこともなかった。


「なるほど・・・アイテム以外は、収納不可ね。ま、当然か。」


「まさか、バックで生物の運搬が許されるなら、女の子を手軽に持ち歩けるのに・・・とか、考えたりしてないよね?」


「はは!そりゃ、思いつかなかった。確かに

、それができるなら、いつでも女の子を愛でられるかもしれないけど、まぁ、必要ないな。」


「あれ?なんか意外・・・。女の子をフィギア感覚で持ち歩けるなんて、変態さんからしたら、万々歳だろうにね?」



俺の返答に、心底驚いた様子で、観月は目を丸めるとスライムを受け取り、小さな観月にに擬態させる。


おぉ、観月フィギアだ。



「わざわざ、持ち歩かなくても、俺には、いつも側に、いつまでも愛でていたい女の子がいるからな。」



観月からフィギア擬態のスライムを受け取ると、その頭を指先で撫でて、小さく笑った。



「それって・・・も、もう!こういう時だけ、調子いいんだから!」



観月はほにゃりと、照れたように笑うと、頬に手を当て俯いた。


俺も微笑むと、なんとなしに、フィギアを見回す。どこから見ても、小さな観月だ。

驚くべき、擬態の力だな。



「・・・むっむむ!?おい、プチシルク!パンツ忘れてるぞ!?縦スジが、丸見えじゃないか!」


「ちょっ!?え!?丸見え!?え!?ダメ!!み、見ないで!」


観月は俺の手からフィギアを奪い取ると、スカートの中を見て、絶叫していた・・・。



「・・・み見たの?」


「見たな。悪い・・・バッチリ、見た。」


「うぅ・・・うぅううう・・・!!」



バシバシと、俺の肩を叩くが、それほど力は強くない。

顔は真っ赤だが、無言で耐えているようにも見えた。



「うぅ~!!はぁ・・・まぁ、仕方ないか。確認せずに渡した私が悪いし、何より、変態のユーちゃんに渡したらどうなるかくらい、分かっとくべきだったよ。」


「フィギアのスカートの中を覗くのは、男なら、当たり前の行動だからな。仕方ない。恐らく、フィギアを手にした全男性がやることだ。」


「男って、本当、なんなの!?最低だよ!」


「フィギアが売れる理由の半分は、パンツだと、俺は確信している。」



うんうんと、俺は頷くと、明後日の方を見ながら、親指を立てた。


なっ!キミも・・・そう思うだろ?

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「さて、鑑定も終わったし、手頃な武器を手にしたら、遺跡を出るか。神様がいうには、近くに村があるらしいし。」


「そうだねー・・・。はぁ。いよいよ、外の世界か・・・。怖いなー。」


「まぁ、確かにな。だけど、俺たちならやれるさ。どんな窮地に陥ろうとも、俺はお前を守り抜くよ。」



立ち上がり、観月の手を取ると、ゆっくりと立ち上がらせる。


観月は笑みを返すと、小さく首を振った。



「守られるだけなんて嫌だよ。私もユーちゃんを守りたい・・・。だから、二人で助け合おう。どんな窮地に陥っても、諦めず、手を取り合っていこうね。」


「・・・あぁ。二人で助け合っていこう。」



俺は握る手に力を込めて、しっかりと頷く・・・。


真っ直ぐに見つめ微笑む彼女の言葉は、とても、温かく力強いものだったから。


彼女となら、どんな窮地も乗り越えられる。そう、心から俺は感じていた。



「俺たちの絆に誓って・・・。」


「私たちの絆に誓って・・・。」



同年月日、同刻に産まれ、同年月日、同刻に死んだ二人。


そして、同日に転生した、奇跡の幼なじみ。


願わくば、同年月日、同時刻に死せん奇跡を、ここに願う・・・。



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