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知らぬに、ボス戦に挑みにつき

「簡易テントでもあれは、腰でも落ち着けて、休めるんだけどな。」



「それ以前に、物を入れるものすらないからね。あー、カバン持ってくればよかった……。」




そんなタイミング、どこにもなかったよ。


あえていうなら、一瞬で消し飛んだからな、俺たち。




「アイテムボックスか。確かに欲しいよな。回復が使えないから、ポーションも欲しいし。そもそも、ポーションがあるかも分からないけど。」



「ポーションって?」



「薬だよ。回復できる薬。HPを回復する奴ね。あとは、魔法薬だな。これはMPを回復する奴。ファンタジーではあるあるだ。」



「なしなしかもよ?」



「かもなー。なんにせよ、この世界の人間に会って話を聞かないと何も分からない。ていうか、そういった基礎知識くらいは、誰か序盤で教えてくれてもいいと思うんだけど?ていうか思った!この転生、神サポが薄くない!?加護があるなら、もっとこう全力でサポートしてくれてもいいと思うんだけど?」



「たしかに、欲しいよねー。サポート。」




俺の言葉に、腕を組んで頷く観月は、ふと前に目を向ける。




「……ユーちゃん。あれ、人じゃない?」



「あぁ、出た出た!ご都合主義感ハンパないヤツー!俺たちに説明を施してくれるためだけに現れた人間、ようこそおいでやす~!」



「そ、それは失礼だよ~!」



「大丈夫。男なら、パーティから外れ、女の子なら、パーティに勧誘するだけだから。」



「最低!最低ですよ、この人!いや、この色欲魔王!」



「ふと思ったんだけどさ……。」



「え?なに?急に真剣な顔してどうしたの?」



「“パーティ勧誘”と“パンティ鑑賞”って似てるよな。」



「そんなの、知らないよー!!もう!その変態発言をやめてよぉ!」




真剣に考え込む俺の背中を、観月はポカポカと殴る……。




「パーティ勧誘して、パンティ鑑賞。うむ。気に入った。これからパーティに入ったやつは、みな俺にパンティを献上することにしよう。あ、観月は毎日、献上するんだぞ?」



「うわ……最低だ。この人、本当に最低だ……。」



「では、パンティを迎えに行こうか……。」



「パンティじゃないよ!人だよ!女の子の本体が、パンティだと思わないでよ!?」



「なに!?違うのか!?」



「はぁー……凄いね。幼なじみだからか、本気で言ってるのが伝わって来るから怖いよ……。そんなわけないでしょ。下半身本体のユーちゃんじゃないんだから。」



「ひどい!いくら変態だからって、傷つく時は傷付くんだからね!」




頭を抱えて観月はため息を吐くと、俺の背中を押して、ダンジョンの真ん中に座る人物へと近付いていく。



よく見れば、廊下の先に部屋があるようで、そこに椅子を置いて座っているように見えた。



全身に漆黒の西洋甲冑を纏った人物は、剣を床に突き立て、部屋の入口に立つ俺たちは見つめていた。



凄まじい威圧感に、俺たちは二の足を踏む。



そして何よりも違和感を感じたのは、部屋の中だった。



部屋は相変わらずの石造りだ。



だか、部屋にはたくさんの鎖とお札らしきものと、更には、何十本もの剣が刺さっている。


床には弓やら槍やら、盾もごろごろと転がっていた。



その異様な光景の真ん中に、その人物はまるでそれが当たり前であるように、石造りの部屋の真ん中に鎮座された石造りの椅子に座って、こちらを睨みつけていたのだ。



あ、分かった……。



これ、外に向かってるつもりが、どんどんどんどん誘われるように、ここに向かっていたらしい。



そしてここが……ダンジョンの最深部……。


つまり……。




「あのー、すみません。大丈夫ですか?」



「観月、待て!」




部屋には入り、中の人物に近付こうとする観月を、俺は手で制して止める。




「え?どうしたの?」



「ここはたぶん、ダンジョンの最深部。つまり、ボス部屋だ。」



「ボス部屋??」



「このダンジョンで一番強いやつがいる部屋ってことだよ。」



「え?それじゃあ、あの人が……?」



「人じゃない……モンスターだ!」



『…………!!』



俺の声に反応したのか、はたまた、部屋へ入った俺たちを侵入者として判断したのか、西洋甲冑の黒騎士は立ち上がると、俺たちに向かってズンズンと向かってくる。



しかし、動きが変だ。なんだか、ぎこちない。



中に入っているのは……ちゃんと生きている生物なのか?



想像できる敵といえば、アンデット系の可能性もあるかもな。




ぴちゃ……!ぴちゃん!ぴちゃん!




黒騎士がズンズンと、無言で進んでくると、甲冑の隙間と言う隙間から、透明な液体が伝い落ちして、床に落ちる。



なんだ?汗にしては多いような……。



まるで、水没した甲冑を引き上げて、そのまま使用したようにすら見える……。




「どどど、どうしよう、ユウちゃん!こっち来るよ!」



「……うむ。とりあえず、応戦するぞ!」




幸い、動きは遅い。



振り下ろされる武器もゆっくりしたものなので、近くに落ちていた剣を抜いて、応戦する。



ここに来るまで、魔法をある程度使用し、イメージも肉付けは出来ている。


いくつかのアイコンも解放してある。



大丈夫だ。落ち着いて対処すればなんとか、倒せるはずだ。




「うぅ……!私、剣とか使えないよ……。」



「よっ!なら、その槍は、どうだ?」



「槍かぁ……。分かった、やってみるよ。」




黒騎士の剣を捌きながら、観月の近くにあった槍を視線で示す。



刺さっていた槍を手にした観月は、ガラリと雰囲気が変わり、今までのことが嘘ではないかと思えるほどの落ち着きを見せた。



それでも、その身に宿った闘気までは、かくせず、俺はもとより、黒騎士も思わずたじろいでしまった。



武人らしい、凄まじい威圧感だ。




「やっ!」




俺と交戦する相手を横から切りつけると、黒騎士は槍の軌道を逸らして、僅かに後退する。




「俺も負けてらんないなぁ。はっ!」



『…………!?』




二対一になり、明らかに形勢不利と判断したのか、切りつけられる度に、ジリジリと攻撃を防ぎながら後退していく。



やはり、こいつの動きはおかしい……。


だが、達人以上の索敵能力はあるようだ。



俺たちに応戦しながらも、背後の様子はしっかりと見えているようで、ヨタヨタとしながらも器用に、刺さった剣や転がっている武具を避けて後退していくのだ。



いっそ、剣に引っかかったり、落ちている盾を踏んで、コケてくれれば助かるのに……。




「それにしても、よく防ぐな、お前。だけど……それもここまでだ!」



『っ……!?』




ガキンッ!!




観月を護るように、振り下ろされる剣をしっかりと防ぎ切ると、大きく武器を上にはね上げた。



すかさず俺は、横へと退く。


彼女の邪魔を、しないために!




「観月!!」



「うん!《ぶっ……飛べ!!》」



『……!!?』




武器を投げ捨てた観月は、俺と入れ替わるように駆け出すと、空いた黒騎士の胴体に渾身の一撃を見舞う。




ドオォォーン!




ぶっ飛ばされた黒騎士は、中央の椅子へと無抵抗に叩きつけられた。


そのまま、黒騎士はピクリとも動かなくなってしまう。




「倒せた……かな?」



「いや、まだ気配がある。最後の足掻きが来るぞ……構えとけ。」



「うん……。」




観月は再び、側にあった槍を手に取ると、俺の横に並ぶ。




ゆっくりと近付いて、黒騎士の様子を確認する。




「この距離でも、動かないのか……?」




もはや、目の前。ビンタできそうなくらい近いんだけど……。


してみる?いや、さすがにやめとこうか……。



そんなことを考えている間も、騎士は全く動こうとする様子もない。



全身を強く打ったことで動けないのだろうか?




「一体、どうしたんだ……?」



『……ガクガク!!』



「いっ!?」



「うわっ!?なにこれ!?」




動向が読めず困惑していると、突如、甲冑が震えだし、黒い甲冑の顔や甲冑の隙間という隙間からドロドロとした乳白色の液体が溢れ出はじめた。


なかなかにグロテスクな光景だ……。




「っ……!観月、来るぞ!離れろ!」



「うん!」




観月を後ろ手に庇い、少し離れると、ドロドロと這い出た正体に向けて剣を向ける。



ガラガラと音を立てて崩れる黒騎士の鎧。



俺たちの前に、ベチャリ!とそれは正体を現した……。




『……ぷるん!』



「…………え?あぁ!?中身はスライムだったのか!?」



「なんか、このスライム、今までのより大きくない……?白いし……なんか、大きな真珠みたい……。」




大きさは俺たちの背丈と同じくらいの大きなスライムは、つぶらな瞳でこちらを見つめている。



特になにかしてくる様子もなく、ただ見つめて来るのだ。



さらに場は、膠着状態に陥る……。




『……ぷるん!』



「なに?この状況。」



「なにも……してこないね。」



「いや、油断するな!こうしてる間も、観月を丸裸にして、ハレンチなことをしようとしているのかもしれない!」



「それは確かに嫌だけど……なんか、さっきまでの敵意は感じないんだよね……。」



「言われてみれば……。少し、様子がおかしいな。見てみるか。」




俺は白いスライムのスターテスを覗いてみることにした。



「《|Observation《観察》》」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



Name:NoName


状態:瀕死 + 魅了


種族:スライム


クラス:QUEEN



HP 30 / 1500


MP 800 / 900



補足 》 隷属契約待機中


仲間になりたそうに


こちらを見ている。



▷ 仲間にする。


断る。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「お前、まさか、仲間になりたいのか?」



「仲間に?そんなことあるの?」



「モンスターが仲間になるのは、珍しいっちゃ珍しいが、別にないわけじゃないだろ。こいつらだって、生きてるし、意思だってあるんだから。」



「ぅ……。なんかそう思うと、今まで、倒してきたスライムたちが可哀想に思えるよ。ごめんね。」



『ぶるるるる……!!』




何を言っているか、わからんが、必死に身を振っているから、否定しているんだと思う。



こっちの言葉は分かるんだ……。




『ぶるるるる!』




否定のぶるる……。




「いや、分からんのかい!」




ペチンッ!




俺は思わず突っ込むと、俺の甲に紋様が浮かび、スライムが光輝いた……。




「あ、あれ!?まさか……やっちまった!?触れるだけで、契約できるのか!?」



「え!?ええ!?」



『ぶるるるる!!』




光輝くスライムに、俺たちは困惑していると、やがてスライムの光が収まる。



見ると、スライムはぷるん!ぷるん!と見ていて分かるほど嬉しそうに跳ねていた。




「えー……。《|Observation《観察》》」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



Name:▷名前をつける


状態:瀕死 + 魅了


種族:スライム


クラス:QUEEN



HP 30 / 1500


MP 800 / 900



スキル


溶解液/自己再生/分裂/擬態/超音波/技真似/パペット操作



魔法


アクアLv2


必殺技


クイーンの大号令



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「スターテスウインドが敵から、味方仕様に変わってる……。」




エネミーは簡素な画面だったが、味方の場合は、情報量が増える特性がある。


特に必殺技などが覗けるのも、味方故だ。



つまり、目の前のスライムも、仲間になったということだった……。



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