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魔王に敗北すること、につき②

…… 暇だ。


部屋から追い出され、やがて一時間経つだろうか。

カーテンの向こうが随分と、騒がしくなっているが声はまだ掛からない。

次々と天使達が覚醒したのか、その度にカーテンの向こうでは歓喜の声や絶叫が聞こえている。


実に騒々しい……。


なんか、ボッチくらっってる気分で面白くないが、女の子のミラがいうのなら何か意味があることだと思うので、ここはぐっと我慢しているところである。



「観月。」


「ん?どうしたの?」


「暇だからパンツ、見せてくれないか?」


「おー、どしたー?鎧の中が暑くて、頭がおかしくなったんかー?」



傍らでシルクと遊んでいた観月に話しかけると、普段はクリクリとした丸いお目めを細めて呆れられてしまった。


ひどい……。



「シルクー、暇だ。お兄ちゃんに胸を揉ませてくれ。」


「ふっ……。」



鼻で笑われた。


ひどい……。



「ハヤー……。」


「…………。」



無視かよ……。


ひどすぎる……。



「いや、酷いのはユーちゃんの頭だよ。」


「うー(ソレな。)」


「ソレな。」



俺の心を呼んで観月が、呆れたように呟くと同調するようにシルクとハヤーも頷いていた……。



「俺の妻たちが冷たい……。」


「冷たくないよ。ちゃんと、ムードを考えて誘ってくれたら私たちもちゃんと応えるってば。ていうか、今のは本気で言ってないの分かるし。」


「はは……。まぁ、そうだけどね。それにしても、時間かかるな。これからどうなるんだ?“アイツ”は悪いようにはしないって言ってたけど、何がどうなっているのか分からないんだけど。」



アイツ、とは言わずもがな、悪魔アスモデウスの事だ。

アレだけ苦労して、悪夢をみせて、トラウマ植え付けました、はい終わりじゃ何も変わらないと思うんだけどなー。



▷ふふ……!御安心ください。カーテンの向こうを監視している限りでは、ちゃんと成果は出ているみたいですよ?間もなく、天使と騎士団たちの悪夢が終わるようです。皆が目覚めたら、状況を確認したウリエスさんが報告にくると思いますよ。



「そうか……。カーテンの向こう、大分、騒がしいもんな。どうなってんだろ。」


「うん。みんな、〈人生変わっちゃった〉のかな?」


「だといいけど……。」



俺たちは騒がしさの消えないカーテンの向こうから、二人の声がかかるのを今か今かと首を長くして待っていた。


やがて全員が目覚め、状況確認も終わったということでウリエスがカーテンの向こうから帰ってきた。


手には一人一人の記録だろうか。名前と容態の書かれたカルテのようなものを持っている。まるで病院だな。



「ふぅ……終わったぁ……。」



白衣の天使ならぬ、ガチの天使は少しお疲れ気味の様子で凝った肩を回していた。

まぁ、大人数と対話したらそうなるよな…… 。



「魔王くん。全員の覚醒と確認が終わったよ。」


「任せっきりになって悪かった。大丈夫だったか?起き抜けに変なことされたりしてない?」


「ふふ!心配してくれるんだ。初めの頃とは大違いだね。」


「色々あったけど、今では志を同じくする仲間だ。仲間を心配するのは当たり前の事だよ。」


「仲間か……。ふふ!うん!ありがとう!」



仲間と言われて、嬉しく感じたのか顔を綻ばせながらウリエスは頷く。

不思議と相手は男だというのに、その笑顔が可愛く見えてしまう。

他の天使では、まずもってそんなことはないんだけどな……。

なんで、ウリエスだけは拒絶反応が出ないんだろう……?

何か特別な天使なのだろうか?



「とりあえず、無事でなによりだ。」


「武器も回収されてるし、傍らには勇者が立ってたから、皆大人しいもんだったよ。お喋りは凄かったけどね。」



まぁ、気持ちは分からなくもない、とウリエスは頷くとカルテを手渡しながらため息を吐いた。



「まぁ、分からなくもないよ。だって、ねぇ?あの【 悪夢装置⠀】にあんな効果があるなんて、誰が予想したと思う?私はもちろん、当人達だって……魔王に負けた結果、こんな“悪夢のような結末”を迎えるなんて予想すらしてなかったと思うよ。」


「ふむ……。一体何があったんだ?」


「それは……自分の目で確かめて欲しいな。そして、その結末をしかと受け止めて、“彼らの人生を変えた責任”を果たそう。」



サーッと滑らかにカーテンレールを滑る音と共に、ウリエスの手によって俺たちを隔てていた仕切りが開かれる。


その向こうには沢山の天使と『うら若い乙女』たちが、驚いた顔で立っていた。


まさか、すぐ向こうに俺たちがいるとは思っていなかったようだ。


急にシン……と静まり返るフロア。



『はぁ……なるほど。』



俺は状況を瞬時に理解すると頭を抱えて、甲冑から盛れるほど大きく吐いたため息が響く……。


こりゃ……確かに責任重大だ……。



ーーーー

ーーー

ーー



『ふむ…………。』



静まり返った部屋へ入ると、俺はゆっくりと皆を見回す。


どこを見ても……女の子、乙女、少女、淑女、女性、女性、女性……。


目に見えて分かるのは、騎士団だった者たちだろう。

屈強な漢たちはその面影など一切無くなり、グラマラスな素敵な女性へと変貌してしまっていた……。


明らかに別人だ……。もしかして、ドッキリ?ヤダー!カメラどこ!?って、んなわけないか。


みんな、目が本気ですもん。怖いくらい。


天使達も同じように性別が変化をしているかもしれないが、元々が中性的な顔つき……どころか女性よりな顔つきだったために見た目に変化はさほど見られなかった。

でもたぶん、この流れはみんな女の子だ。


天使はどうにも分かりにくい。

同じ人間なら瞬時にわかるんだけどなぁ……。



『ふぅむ…………なんだこれは。楽園か?』


「「っ……!?」」



ぽつりと零れた言葉だったが、思いの外声が響いたのか、目の前の女性たちはそのボディラインを隠すように捩ると顔を赤らめて、睨みつけてきた。



『コホン……。』



とりあえず、ここにいる皆に理解してもらいたいことがあるため、リーダー格となる人物を探す。


天使はとりあえずいい。日頃、単独行動を好む連中だ。統率はあってないようなものだろう。


問題は、騎士団……人間の方だな。

コイツらは数多の戦士から選び抜かれた精鋭達だ。

騎士としての誇りもある。簡単には耳を貸さないだろう。



ー ま、魔王だ……。

ー ボクたちはどうなるんだ?



現に少し騒ぎ始めたのは天使たちだけ。


口々に皆、恐怖や怒り、絶望や怯えなど様々な感情を剥き出しにして目の前に現れた俺たちに向けてくる。



ー 殺される!今度こそ、殺される!

ー うぅ!助けて!助けてください!



本当、思い思い喋るな天使たちは。


喋ってないと落ち着かないんだろうな。

そりゃ、これだけ劇的に変わってしまったら、気持ちは分からなくもない。



「…………。」



一方、人間たちは少しの緊張は見て取れるものの静かに、それでいて強かに反撃の機会を伺っているようだった。


目が完全に諦めていない。命ある限り戦い続ける、そう瞳の奥で騎士の魂が燃え盛っているのが見えた。



「(アイツが魔王アスモデウス……。近くで見てもなんて魔力だ。武器もない今では、傷一つ付けれないか。どうにか、ここから皆で反撃する好機を……いや、せめて脱出するだけでも……。)」


『おい、そこのキミ……。』


「わ、私……?」



目の前で睨むようなキツめの視線を俺に向けて、今にも噛み付いて来そうな人間へと声をかける。


変化で急に伸びた髪が煩わしかったのか、明るい髪色の髪を後ろでまとめていた。前髪から覗く目が俺をしっかりと捉えて離さないのは、少しでも隙を逃すまいとしているのだろう。


とても、清潭な顔立ちだが、反抗的な目付きだけは歴戦の戦士のそれと同じだ。


囚われの女戦士みたい……。


あーこれ、ヤバいな。

全国のアスモデウスさんが、大好物のシチエーションだ。


思わず、ゾクゾクとする殺気に俺は甲冑の中で興奮気味に舌なめずりをすると、女戦士(仮)を下からねっとりとした視線を送る。



『とても、いい殺気だ。キミがこの騎士団の団長か?』


「あ、あぁ……。美神教(カリテス)騎士団団長は私だ。」


『名を聞いてもいいか?』


「私は、スラオシャだ。」


『スラオシャ。スラオシャ……善神に同じ名前の者がいたな。その名は〈聞くこと〉を意味し、“聴取”と“従順”を守護するという。確か、“苦しむ人々の声を聞くこと”を使命としているそうだな。ふふ……。』


「そうだ……。私の母と父がつけてくれた誇り高き名だ。人々を苦しめる諸悪の根源である魔王には到底理解などできない『良い名だ。』……なに?」



相手の話を遮るように、俺は率直な感想を返すと、怪訝そうな顔で見つめてきた。



『ふふ……。そう怖い顔をするな。素直に、お前の名を良いと思っただけだ。苦しむ人々の声を聞く。聞くだけではなく、護れるような立場に立てるよう日々努力したのだろう。だからこそ、お前はここに居る。この魔王アスモデウスを前にしている今も命ある限り、人々の盾として己の使命を全うしようとしている。実に素晴らしい。名に恥じぬ生き様を貫いているのだな。気に入った……。』


「魔王に気に入ったと言われても……べ、別に嬉しくはないが……。」


『ふふ……。そうだな。だが、素直に受け取っておけ。敵から賞賛されることなど、そうそうないことだ。それだけ、お前は努力し己を貫いて来たということだ。だからこそ、お前の後ろにいる騎士達も着いてきたのだろう。周りも認めている……。誇っていい。』



複雑な顔を浮かべる騎士団団長スラオシャに、賛辞を送ると俺は指を鳴らして、簡易の玉座を作り上げる。


どっかりと腰を下ろすと、肘掛に片肘をつき頬杖をつく。


かなり偉そうに見えるだろ?

ふふ……すまんね。

今日は長ーく鎧を着てるからさ、いい加減、ちょっと疲れちゃったのよ。

ちょっと、休ませて……ていうか、そろそろ脱がせて欲しい。



『さて、まずはキミに、いや、ここに居る全員が分かっているとは思うが、改めて言おう。キミたちは、我に負けた。故にキミたちは我の捕虜だ。誰一人として我に逆らうことは許さん。』


「捕虜……か。」



代表であるスラオシャに軽く指を向けると、現在の状況を相手が分かりやすいように端的に述べていく。


分かりやすく、相手の状況を噛み砕いて説明し……そして、その上でこれからどうするべきなのか、何をさせたいのか、事の責任者として示していこう。


捕虜とは、武力紛争において敵の権力内に陥った者を指す。


捕虜は、それを勢力下に入れた勢力によって随意に扱いを受け、奴隷にされたり殺されたりした。一方、能力を認められた者は厚遇して迎え入れられることもあった。


つまり、ここに居る全員は俺との戦に負けたのだ。どう扱おうが自由ということになる。


これは、事前に我が秘書二人に確認もしてある。


この世界では、こういった場合は通常なら、相手方への要求への交渉材料にするか、または武力の見せしめとして首を送るのがセオリーとなっているようだ。



「捕虜・・・。ということは、見せしめのために私たちは殺されるか、美神教(カリテス)への交渉材料にされるということか?」


『・・・はは!そうして欲しいのか?その願いが心からのものなら、我は断腸の思いでそうするが?』


「・・・なに?違うのか・・・?」


『安心しろ。殺しはしない。交渉材料にもしない。逃げるなら逃げろ。なんなら、我が仲間に出口まで案内させてやってもいいぞ?』


「・・・な、何を言ってるんだ?」



俺は椅子に座ったまま後ろに控えている皆に向けて手を挙げる。

ハヤーが応えるように一歩前に出ると、モゾモゾと自身の服を漁り、小さな手旗を取り出した。


〈 アスモデウス城 観光ツアー 〉と書かれた手旗だ。ん?いつの間にか、着替えてるし。

元ネタはツアーガイドさんか?



『(この世界にもバスツアーとかあるんだな・・・ってあるわけないか!)』



また、魅玖か!人の記憶を盗み見たんだろ!

だが、今回は許す!ガイド服がハヤーによく似合ってるからな!



『ふむんふむん!可愛い・・・可愛いなぁ、ハヤーちゃんは♪』


「ありがとうございます、主様。では、皆さんは私が出口まで案内しましょう。着いてきてください。」



パタパタと旗を振って、ハヤーがこっちに来いと呼びかけるが、誰一人として足が動かない。

声すらあげない・・・。


なぜだ?せっかく、念願の逃げ道を作ってやったのに・・・。


ハヤーと共に首を傾げていると、目の前のスラオシャが小さく含み笑う。



「ふふ・・・魔王よ。私たちはここまで来るのに、何度も煮え湯を飲まされてきたのだ。流石に罠だと、バカでも気付くぞ!残念だったな!何が目的か知らないが、私たちはその者に着いていくつもりは無い!」


『・・・え?あー、ふむ。では、誰もこの城から出るつもりはないということでいいのか?』


「外には出たい!だが、罠かもしれない相手に着いていくバカはいない!私たちは、私たちの意思で外に出る!」


『そうか・・・。残念だ。では、ハヤー交通は今日で倒産だな。』


「くっ!?この意気地無しども!そんなんだから、モゲチ〇するんですよ!モゲ〇ン騎士団が!」


「も、モゲッ!?痛たっ!?」



バキッ!と音を立てて、手旗をへし折るとモゲチ〇騎士団団長に投げつける。

ハヤーは肩を怒らせながら、ズンズンと足を踏み鳴らし元の位置に帰って行った。



『は、はは・・・。(すっげー怒るじゃん・・・こわー。)』



へし折られた手旗がスラオシャに当たり、物悲しげにその足元に転がっている。


それを見て、少し不安げな顔になったスラオシャはおずおずと俺に問いかけてきた。



「も、もしかして・・・?」


『あぁ。本当に外に案内するつもりだったんだぞ、勿体ないことしたなぁ。落ち着いてよく考えてみろ?キミたちは今、何か大きく変わっただろ?』


「お、女になった・・・。」


『そう。見た目がまるっきり別人だろう?天使ならともかく、人間の君たちは最早、誰が見ても過去の君たちとは認識してくれまい?なら、殺して国に送ろうが、交渉材料にしようが相手は見向きもしないだろう。そもそも、君たち自身も胸を張って故郷に帰れるのか?屈強な男性が、次の日にはうら若い乙女になってるんだぞ?家族に会ったとて、冗談として笑われるだけだ。』


「あぁ・・・なんてこと・・・。」



自身の姿を見て、頭を抱えるスラオシャ。

その後ろ姿を見て、残りの人間たちも自身の姿を再度確認して絶望の声を漏らしていた。



「な、なら、私たちはどうなるんだ?このままずっと、ここにいろというのか?」


『好きにしろと言っているんだ。自国に帰り、無意味に本人であると名乗り続け、精神病患者として拘束されるのも一興だ。』


「一興って・・・ふざけたことをいうな・・・!」


『それが嫌なら、これまでの生活を捨て、新たな人生を歩め。幸い、見た目が変わっただけで、経験やスキルはそのままなのだ。騎士団に選出されるだけの実力があれば、冒険者としても十分にやって行けるだろう。この近くの、ディケーナにも大きなギルドがある。頼るといいのではないか?』


「冒険者・・・。くっ!我らは誉れ高き騎士団だぞ!冒険者などやってられるか!バカにするなよ!」


『冒険者“など”だと・・・?驕るなよ、スラオシャ。』


「え?」



冒険者と聞いて、明らかに蔑むような発言をするスラオシャに俺は立ち上がると、目にも止まらぬ速さで、弓を構えて一矢を射る。


スラオシャの頬を掠めた矢は、そのまま遥か後方の壁に突き刺さり壁に大きな亀裂を生み出した。


つー・・・とスラオシャの頬から血が流れる。


スラオシャ自身、矢が掠めたことに気付くのに少しの時間を要した。


目に捉えられない程のスピードで矢は射られたのだ。



『お前の頬に傷をつけた矢。武器はなくとも、上位の冒険者なら軽く躱して反撃の体勢に移れるぞ?』


「あ、あれが見えるのか・・・?」


『彼らは常に死線と隣り合わせの戦場に立っている。目の前の脅威から民を守るため、武器を手に果敢に魔族や魔物退治に勤しんでいるのだ。彼らは、我ら魔王にとって脅威以外の何物でもない。そこいる勇者ばかり皆の目が向きがちだが、日々死線の中で切磋琢磨する冒険者たちこそ、有事にはかなりの障害になると我は常日頃から考えている。』



ギルドに所属し、早半年。


側で見てきたからこそ分かることもある。

彼らは依頼にはいつも真剣で、自身の全力を出して挑み、日々様々な経験を積んで帰ってくる。それをギルド内でちゃんと共有し、次に活かしているのだ。


そこで養われた地力はいざという時には、必ず発揮される。

冒険者。彼らこそ、魔物や魔族のもたらす脅威に対抗する人類の最初の盾であり、最も早く届く刃であるのだ。


熱くなった頭を冷ますように、俺は一度大きく深呼吸をすると・・・静かに玉座に腰を下ろす。


し、しまった・・・。捕虜とはいえ、女性に対して武器を向けてしまった。なんだか、間接的に現場で頑張っているリアさんや、ミルナン達をバカにされたみたいで腹が立ってしまったのだが、それでも武器はマズイだろう。


俺も・・・まだまだ青いなぁ・・・って言っても、俺は十代ですけどね!



『すーーぅ・・・はぁ・・・。すまなかった。少々、熱くなりすぎた。我は力ある者が大好きなのだ。力ある者たちは、強くなる為に相応の代償を払って日々を生きている。我は心からそういった彼らに敬意を払うことを忘れない。故にそういった者たちが、侮辱されるのは例え敵であろうと許せない。訂正してくれ。』


「こちらこそ、すまなかった・・・。深く知らず、愚弄してしまった事を心から謝罪する。」



失言だと理解してくれたのだろう、スラオシャは素直に頭を下げる。

心根まではどうか分からないが、少しは伝わってくれると嬉しいな。



『悪かった・・・。傷を付けてしまったな。これで治してくれ。』



懐から回復薬を取り出すと、シルクに持っていかせる。

シルクが回復薬から液を取り出すと、化粧水をつけるように、スラオシャの頬に塗り付けた。


たちまち傷は塞がり、見た目にも何事も無かったようになっていた。



「うー!」


「ん・・・。ありがとう。って!これは、ハイポーションじゃないか!?」


『(ハイポーション・・・。へぇ。これ、ハイポーションなんだ。どおりで高いと思ったわ。)』



はい。もう、お気づきの方もいるだろう。


ダンジョンで倒れた彼らはこの部屋に来た際に、回復薬の風呂にボトンボトンと投げ込まれた。その後に悪夢装置に運ばれ、性転換手術を受けたわけだが・・・ここで問題。


ここに居るみんなの怪我を治療するために、用意された回復薬の出処はどこでしょうか?


正解はこちら!



「(まぁ気にしないどこ!なんせ全部、ギルド持ちなんですから笑笑笑笑笑!!)」



作戦前にディケーナの町中の回復薬を買い占めました。


100mlの小瓶で150ギル。で、お風呂くらいの量・・・およそ600Lを溜めたのです。惜しげも無くぶちまけたので・・・まだ浴槽には回復薬が溜まっています。


ですが、もう使いません。捨てます。だって、男たちの出汁が出てそうだもん。

シンプルに不快。


つまり・・・ふ、ふは!ふははは!


【⠀圧・倒・的!無駄使い! 】



またしても、請求書を手にしたギルマスの怒り顔が目に浮かぶようである。


まぁ、日頃から無理難題をこなしてるんだし、これくらい大目に見て欲しいよね。


というか、一矢報いたいよね。


つまりは、単にパワハラ上司への嫌がらせである。


う~ん!スッキリだ・・・!



さて、冗談はさておき話を戻そうか。



「頬の傷くらいで、なんて贅沢な・・・。」


『贅沢・・・?おいおい、スラオシャ。自分の顔を鏡でよく見てみろ。そんな、数多の男を虜にするような美貌をしていて、何を言っているんだ?傷くらい・・・ではない!大事(おおごと)だぞ!?綺麗な顔に傷など残すわけないだろう!むしろ安いくらいだ!』



脇から大きめの鏡を取り出すと、照らすようにスラオシャを初め、全員の顔を写していく。


否が応でも、自身が女であることを自覚させられてしまった騎士たちは真っ赤になって俯いてしまった。


スラオシャももちろん・・・



「び、美貌など・・・強さにはなんの価値もない・・・だろ・・・?べ、別に・・・放って置いていいんだ。ほっとけば治る・・・と思うし・・・。」


『いいわけあるか!こんなに綺麗なんだぞ!?いい女なんだぞ!?もっと、自分を大切にしろよ!もっと、自分に価値を見い出せよ!お前は美しい!女になったことを誇れよ!ほら!褒められたらなんて言うんだ?なんて言うんだぁ?』


「あ、ありがとう・・・?」


『そう!それでいい!女性とは、かくも美しく!かくも儚く!それでいて強かに!全てが素晴らしいものだ!我は叫びたい!女性こそ宝!世界の至宝であると!声を大にして!声を大にして言おう!女性こそ我が存在の『うっさい!!』痛だだっ・・・!?』



謙遜かはたまた卑屈なのか、自信の無い様子のスラオシャに向けて、全身から溢れんばかりのエールを送る。


あまりに大きい声で熱弁する姿が暑苦しく感じたのか、ブレーキの壊れた俺を止めるために観月とミラが得物の腹で俺を背中から殴りつけ吹っ飛ばした・・・。


腰、腰フツーに痛いんですけど・・・。



「マオーちゃん、話が脱線しすぎ!女の子大好きなのは分かったから、話の続きしようよ!時間ないよ!」


「マオーくん。遊んでないで、みんなに事情を説明した方がいいよ。世界の安寧のため、ここにいるみんなの協力が不可欠なんだから。」



俺を窘めるように、観月とミラが説教混じりに俺をどつく。

君たち、我を誰と心得る!?

我こそ無敵のアスモデウス様だぞ!



『あい、すみませんでした・・・。』



まぁ、女の子にはてんで弱いんですけどね・・・。


俺は痛む腰を庇いながらゆっくりと起き上がると、呆気に取られた様子の皆に向き直る。



『ということで、捕虜諸君。君たちに、重大な話がある。特に天使たちは、今後を大きく左右することになると思い、しっかりと聞くように。・・・まずは、我が武器を取り、美神教(カリテス)と戦うことを決めた理由から話していこう。』



俺はそこから、ゆっくりと時間をかけて、今までの起きたことを話していった。


時に、スラオシャや天使たちから質問があがったが、それにもできる限り丁寧に答えていった。証拠もある程度、揃っていることで十分に説得力は得られたようだ。


皆、美神教(カリテス)の隠匿してきた情報に驚きや嘆き、同時に天使たちへの批難なども当然あがった。

だが、全ては教育を施した美神教(カリテス)が問題なのだ。


天使たちは、悪くない。その点は強く刷り込むように訴えた。


明らかな悪事を、正義だ大義と教育した美神教(カリテス)に問題があるのだと。

それも、一部の王都貴族や美神教(カリテス)の一部の人間の利益のために行われたもの。実に馬鹿らしいことに、お前たちは巻き込まれているのだと、俺は捕虜にした皆へと訴えかけた。


そんなもの許せるはずもない。

それを是とする人間は当然ながら、この場には一人としていなかった。


天使もまた、自身の行いに明らかな過ちがあったことを認め、悔い改めていた。



「宗教に入った者達を騙して、繁殖の道具に仕立てあげる。私たちは、気付かぬうちにそんな馬鹿げたことに協力させられていたのか。は、はは・・・。さながら、我ら騎士団は、畑を守るためのカカシのようだな・・・。なんと愚かな・・・。」



滲み出る程の悔しさを込めて、拳を握りしめたスラオシャと仲間たちは下を向いて奥歯を噛み締めていた。


その周りでは天使たちが、存在を否定された子供のように泣き咽びながら頼る相手もなくただ絶望に打ちひしがれていた。



『恐らく近く、美神教(カリテス)の悪事は暴かれる。我らのもたらした情報が世界を駆け巡り、美神教(カリテス)とそれに連なる者たちの存在も表舞台に引きずり出されるだろう。だが安心しろ、天使たちよ。お前たちは今日、真実を知り、悔い改めることを誓った。ならば、あとは償いを重ね、人々から信頼を取り戻し人間の社会に受け入れられる存在となればいい。』


「で、でも、もしもそうならなかったら?人間たちに捕まって、みんな、処刑されちゃうんじゃないの?」


『・・・ふむ。それで人間たちの気が収まるのなら、それを受け入れる必要も出てくるだろうな。それだけのことを、お前たち天使はやってしまったんだから。』


「うぅっ・・・!そう、だよね・・・。よくも知り もしない他人の子供を妊娠させてしまったんだ。大切な人生を奪ってしまったんだ。ボクたちは、償わなくちゃいけないよね・・・。」


『だが、天使という存在は・・・何故か、公の場には登場していないそうじゃないか・・・?なら今から、〈本当の天使〉が登場したらどうなるかな?ふふ・・・!』


「え・・・?」



俺は含み笑うと、天使たちに向けて悪魔の囁きとも呼べる最高に最悪の、実にシンプルかつ効果テキ面な作戦を提案した。






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