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その城、魔王の戯れにつき《GAMECLEAR》

矢を番え、一矢を射るとすかさず距離を離すために下がる。


相手は近距離が有利となる剣。対して、こちらは中遠距離を得意とする弓だ。

距離は可能な限り取るべきだと分かっているが、それは相手も同じことなのだろう。


距離を詰めようと矢を弾くと一足で懐へと飛び込んで来る!

その速さは天使たちと非にならないほどであった。



「とぅおりゃ~っ!!」


『おっ!?早いな!?』


「私は勇者だよ?そこら辺の冒険者と一緒にされちゃ困るな~。」



距離を一気に詰められ、慌てた俺は振り下ろされる聖剣を弓で流しながら矢を番えると、近接などお構いなく矢を放つ。



『 〈 BOMB ARROW 〉 』


「甘いよ!はあっ!」



矢を確認していた勇者は、身を捻り難なく躱すとカウンターとばかりに聖剣を振りかぶった。



『ふふっ。油断するなよ?』


「え?」


ーバンッ!


「きゃっ!?」



瞬間、勇者の後方に着弾した矢が手榴弾のように暴発し、破裂音と共に衝撃が周囲に響く。


突然のことに驚いたミラはチラリと振り返ると、音の正体を探した。



「び、びっくりした……。」


『フフ……!どこを見ている!ミラウェイド!』



俺は意識が逸れたことを確認すると、今が好機とばかりにミラの腹に向けて掌底を打ち出した。



「なーんて!戦いの最中によそ見するわけないでしょ!ハッ!」


『ぬぬっ!?』



剣を握ったままの拳で掌底打ちを払い切ると、そのまま聖剣を振り下ろした。


ー ズバーッ!!



『ぐっ!』



俺の肩口から聖剣が振り抜かれると、俺はその場に片膝を着く。


魔王の鎧を装着しているのに、肩に落石を受けたような衝撃が伝わり、鈍い痛みが肩から胸にかけて広がる……。

痛みで深く息ができない。



「……その、怪我じゃ弓も握れないでしょ?降参したら?」


『ふっ……。片腕さえ残っているなら、弓は弾けるさ。心配はいらない。むしろ、腕一本で調子が出てきたくらいだ。』


「もう、強がりだなぁ。それじゃあ、戦う気が無くなるまで徹底的にやらせてもらうからね!光魔法!|英雄威光《 Hero's majesty 》!」



勇者は俺に向けて手を突き出すと、魔法を発動する。

光の鎖が幾重にも地面から伸び、俺を縛り付けると一切の身動きを封じてしまう。



『む?鎖か……?いや、鎖の感触ではない……。これは……なんだ?』



目の前に確かに《 光る鎖 》があるのだが、鎖独特のジャラジャラとした音もなければ重みも感じない。


『単純に鎖のような何かで拘束され動けない』そういった感じだ。



「ふふ!動けないでしょ?これ、英雄になった者が手に入れるスキルなんだ。それを仲間に頼んで、魔法に落とし込んで、さらに力を強めたモノなんだよ。私だけのオリジナル魔法なんだ!」



『スゴいでしょ!』と勇者ミラウェイドは可愛らしくその英雄級の胸を張った。

ロリ美乳ってやつか……なんとまぁ……。



『ふむ。素敵だな。』


「でしょ♡」



拘束されながら、小さく跳ねる胸を見つめる。

俺は揺れに合わせてフムフムと何度も頷いてた。


ご満悦の様子のミラウェイドは、さらに鼻高々に胸を張って腰に手を当てニッカリと笑った。



『なるほど。拘束するためのスキルか。いい趣味だな。縛りは我も大好きだよ……。ふむ。英雄が手に入れる威圧スキルの派生かな?それを魔法に落とし込み、実態化させることでより強度を増したと?器用なことをするな……。』



四肢を縛られながらも、俺は焦ることなく拘束の具合などを確かめていた。


あまりの余裕ぶりに少し不安になってきたミラは、拘束を重ねがけしようとして手を伸ばす……。


しかし、残念ながら彼女の手から再び魔法が放たれることはなかった。



『ただ……まぁ、我は縛られるよりも《縛られている姿を愛でるのが大好き》なのだ。悪いな。そろそろ、抜け出させてもらうとしよう。』


「あっ!?光魔法、英……『 凍結の鎖(フリーズ)! 』……え!?あぁ!!」



ー ジャラジャラ!!



相手が魔法を唱えるよりも早く、俺のスキルが発動する。


両手両足を拘束され、空中に吊り下げられたミラウェイドは唖然とした顔で俺を見つめ返した。



『さてと、これは邪魔だから解除させてもらうぞ?』



ー パリン!



魔力を流して四肢に力を込めると、威圧スキルを一瞬跳ねあげ、光の鎖を引きちぎった。


かなり荒業なるが、魔法なら魔力を流し込むことで不安定にすることもできるし、実体化しているなら物理的な力勝負もできる。


さらに威圧スキルが素となっているなら、こちらも威圧をぶつければ相殺することはできると思ったが、この対応は上手くハマってくれたようだ。



『ふむ。自由とは実に素晴らしいことだ。そうは思わないか?』



自由になった身体を確認すると、ミラに向けて胸を張ってみせる。勇者にできて、魔王にできないわけがないわ。

魔王舐めんなさんなよ。

まったく、勇者のくせになまいきです。



「ゆ、油断したー……キミも拘束スキルが使えるのかぁ。なんか、一人ではしゃいでた私がバカみたいじゃん。」


『ふふ!男なら一度は夢見る能力だ。持っていないと思う方がどうかしている。さて?それでどうかな?縛られてみた感想は?』


「むぅ……ぷい!知らない!」



逆に拘束仕返されたミラウェイドは、己の失策を呪うように頭を垂れる。


ミラウェイドを拘束し、下から舐め上げるように眺めると目が合った彼女は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。



『ふふ!そう強がるな。鎖の冷たく硬い感触。鎖ゆえに生まれる凹凸な感触。そして、ズッシリと伝わるその重み。どれを取ってもクルものがあるとは思わないか?』


「し、知らないってば!もう!こんな鎖、すぐに引きちぎってやるんだから!」



ージャラ!ジャラジャラ!



「うぅ……!硬い……重い……。」


『君の拘束も大したものが、我の鎖もちょっとした自慢の逸品なのだ。ある《 強欲の王 》から拝借した特別なスキルだ。強欲故に、その束縛も強かろう?』


「強欲の王……?ま、まさか!魔王マモンの力まで持ってるの!?」


『あぁ。彼女の魂と共にな。今では我が大事な妻の一人だ。』


「しかも、前魔王の性別女なの……しかもしかも妻ァッ!?あぁもう、情報が多すぎて頭が混乱してきたよぉ。」



有り得ない現実に目眩を覚えたのか、クラクラする頭を振る。本当は頭を抱えたいところだろうが、生憎と両手両足を鎖で拘束されているためそれは難しいだろう。


確かに、よく考えれば凄い状況だな。


マモンとアスモデウスが共闘して、勇者の前に立ち塞がっているんだもんな。

過去類を見ないほど、稀な事態だろう。



『まぁ、何事も手本通りとはいかないのが、リアルの面白いところだ。』


「……まぁ、たしかに。思い通りにならないことがこの世界は多いよね。昨日まで男だったのに、“ある出会い”のせいで女の子になったヤツもいるくらいだし。本当、人生ってのは物語よりも劇的だね。」


『……そうだな。人生は劇的で悲劇的で、時には喜劇的なもんさ。例えば、そう魔王の知り合いが居なくても、〈その中身〉とは知り合いだったり…してね?』


「え?それって……。」



現段階での勇者と魔王の力量も確認できたし十分かな?

女の子を傷付けるのは、たとえ敵でも気が引けるし、ここら辺で遊ぶのはやめよう。


俺はミラウェイドの前に立つと、小手部分にある“武具収納BOX”に手を触れた。


手にしていた剛弓とアスモデウスの鎧をBOXにしまうと、縛られているミラウェイドと向き合った。


素の【栄咲遊助】として、ミラウェイドと向き合うことに決めたのだ。


武装を解除しあるがままに姿を見せると、ミラは目を丸めて息を飲む。

少しの沈黙の後に、まるで感動に震える少女のように瞳を潤ませて見つめ返してきた。



「あぁ……やっと……」


「はは……。久しぶりだね、ミラくん。」


「やっと、姿を見せてくれた……。」


「その口ぶりは、俺のこと気付いていたようなかんじだね?」


「初めから知ってたよ。ただ、正体を隠したいような振る舞いに加えて鎧を纏っていたから、知らないふりをしていた方がいいのかと思って黙ってたんだ。」


「そうか。気を使わせちゃったみたいでごめんな。君にも色々と都合があったろうに、こちらの都合に巻き込んでしまって申し訳ない。」



彼女を拘束している鎖に手をかけ、力を込めると拘束が解除される。


白く細い腕だ。傷が付いたりしてないといいが……。



「うんん、大丈夫。こっちも同じようなもんだし。むしろ、あれくらい非道に振舞ってくれたお陰で、美神教(カリテス)にバレずに済んで助かったよ。」


「そうか。そう言ってもらえると助かるよ。」



手首に残った鎖の感覚が気になるのか、少し擦りながらも大丈夫だと告げて、ミラは聖剣を背中に担いだ鞘に納刀した。



「ところで、聞かせてもらえるかな?」


「あぁ。なんでもどうぞ。」


「うん。まずはね、皆の行方かな?」



武装を解除し俺の前に立ったミラはニコリと可愛らしく微笑むとさらに一歩踏み出し、マジマジと俺を見上げる。


武装を解除したということは、戦闘の意思はないということだろうが、その目は戦闘していた時以上に輝いているように見えた。

まるで、自信のあるテストの採点を待つ子供のように輝いているのだ……。



「みんなはどこにいったの?」


「ん?みんなって、俺の仲間たちのこと?」


「ふふ!惚けないで。私のツレたちだよ。皆、生きてるんでしょ?」


「……何故、そう思うんだい?皆、沢山の血を流して倒れていたじゃないか。皆あの場で絶命したと考えないのかい?」


「いや?あれは小細工と見てるよ。確かに見た目にダメージはあったけど、その後にはスライムに丸呑みされたり、穴に落ちたり……ふふ!明らかにおかしいじゃない?誰一人として、私の前で《《死んだ瞬間は見ていない》》んだもん。」


「ふふ……。そこに気付くとは、さすが勇者だ。あぁ、君の推測通り皆は生きている。君ならいいだろう、皆のところへ案内するよ。」



俺は感心したように頷くと、ミラを連れて下へと続く扉の前へと歩みだした。


鬼面を着けた観月は、扉を開くと一番に入り軽快に階段を降りていく……。



「ユーちゃん。先に言ってるね?下の二人が心配だから。」


「あぁ。俺はミラくんを案内するよ。」


「うん。私の目がないからって、手を出しちゃダメだよ?ミラちゃんも何かされそうになったら、すぐに突き飛ばして下に逃げて来てね。今は人間の姿してるけど、〈色欲魔王〉なのは間違いないんだから。」


「あ、あはは……。わかったよ。嫌なことされそうな時は全力で逃げることにする。」


「うん!それじゃ!」


観月はミラの言葉に頷くと、そのまま跳ねるように階段を降りていった。

やがて薄暗い闇に飲まれて、足音も遠くに響いて行く。


皆が乗り込んで来るからと、慌てて作り変えてしまったから下の階は結構、深くなってしまったな。


少し薄暗い下り階段のため、自分が先陣を切って歩き出す。


薄暗く不気味に見える階段に、少し戸惑いの色を見せたミラに気づいた俺は小さく笑みを浮かべて手を差し出した。



「少し暗いね……?足元大丈夫かな?」


「大丈夫だ。不安なら俺の手を掴んでいいよ。」


「あ……うん。あ、ありがとう……///」



差し出された手を見て頬を染めたミラは手を握ると、ゆっくりと階段を降りていった。



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