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その城、魔王の戯れにつき⑧

勇者たちが扉を抜けて廊下を歩いていると突然、床が抜けて三名が脱落した。


残りの騎士が十名を切り、いよいよ騎士たちの間で敗戦の文字が鎌首をもたげ始めた頃だった。


扉を抜けて入ったフロアで、ソイツは待ち構えていたのだ。



地面に石突と呼ばれる刃とは逆の部分を地面に打ち付けて、槍を手に持ち仁王立ちで立つ鬼面の女性。


勇者たちが入ってきたことに気付いた鬼女は、拍手を送ると一人ひとり指を差しながら人数を数え上げていく。



「兵隊さんが九人、天使が一人、勇者さんが一人。全部で十一人かー。こうして見ると結構、減ったんだね。いやー残念だね、本当。」


「こいつ……!なにを、他人事のように!お前らが、やったんだろうが!!」



白々しくも皆の不幸を惜しむような声に、怒りが湧いてきたラファは堪らず叫びをあげる。



「やだなー。何怒ってるの?あ、あー。もしかして、私が貴方たちのお仲間の不幸を悼んでるように感じちゃった?あははは……!」


「こ、こいつ、まだ笑って……。」



ラファの勘違いに気付いた鬼面の女は、口元に手を当て腹を抱えて笑うと、急に冷たい声で『そんなわけないだろ、バカが……。』とポツリと呟いた。



「っ!?」



あまりに声から伝わる温度差に思わず、ラファを始め、騎士たちはたじろぐ。

声だけではない。冷たく氷で貫くような視線と共に、殺気がその場の皆を包み込んでいた。



「私が悼むって?お前らを?畜生のお前たちの不幸なんて、毛ほども同情する気にならないんだよ。私を侮辱するのも、大概にしろよ!」



ガツンッー……!とかなり強く石突を地面に打ち付けられたせいで、地面に敷きつめられたブロックは鬼娘を中心に叩き割れてしまった。


その怪力と怒号に皆、身が竦んでしまった。



「私はね……怒ってるんだよ。美神教(カリテス)と、それに与するヤツら全員が許せないんだ。でも、マオーちゃんは優しいから……みんなを救い、世界を正しい姿に戻そうと努力してる。天使だろうが騎士だろうが、みんなを正気に戻そうと頑張ってる。それを知らずに、お前たちは自身が正義だと宣い、武器を手にマオーちゃんの命を奪おうとしてくるんだ……。許せるわけないだろう!?」



鬼面の女が腹から怒りの訴えを叫ぶと、ひび割れたブロックはさらに亀裂が走り、粉々になっていく。

目の前の存在が放つ怒気だけで、この威力だ。


もしも、あの偃月刀の間合いに入ってしまったら、二合と武器を合わせることなく、絶命するだろうことはゆうに予想出来た。



「天使くん、どうする?この状況は限りなく最悪に近いと思うんだけど。」


「あぁ……最悪だ。」



頭を抱える大天使と勇者。

その前では、確かめるように偃月刀を振り回して構えた鬼娘が、気合十分に言葉を続ける。



「さぁ、始めようか。」



何処からでもかかって来いというように微動だにしなくなった鬼娘に、誰も飛びかかる勇気はなかった。


鬼娘の気迫に、騎士たちは完全に戦意を喪失していた。大天使であるラファですら、勝てるイメージが全く湧いてこない。


その中で動けるのはやはりというべきか、彼女一人だけであった。


聖剣に手をかけ、前へと歩みだしたのは勇者 ミラウェイド。


鬼娘の威圧など意にも介さないほど、落ち着いた足取りで皆の前に出た。


その顔には今から戦闘を行うというような緊張感もなく、ただ口元に笑みを浮かべているだけだった……。



「それじゃあ、私がお相手するよ。」


「あー、勇者さんはお呼びじゃないんだけどなぁ。マオーちゃんから、通すように言われてるし。なんなら、そのまま通っていいよ?」



皆の期待を一身に背負い名乗り出るミラだったが、鬼娘は首を竦めて首を振る。


チラリと後ろを振り返る鬼娘の視線の先には、次の部屋に続く扉があった。


ご丁寧に《 EXIT 》と看板に書かれた扉だ。



「え?そうなの?それじゃ、お言葉に甘えようかな?」


「どうぞどうぞ。」



視線を天使たちに向けながら、鬼娘は扉の向こうへとミラを誘う。


ミラの後に続きたいラファたちだったが、鬼娘の視線はしっかりと皆の動向を捉えており、今の場所を一歩も動くなといわんばかりの圧をかけていた。



「私が先に行ったら、残りの人たちはどうなるのかな?」


「……それは、勇者さんには関係ないことだよ。まぁ、少し痛い目にあってもらおうかな?二度と、刃向かう気すら起きないようにね。」



そう不敵に微笑む横顔に、彼らの未来を見たミラウェイドは武器を構えて鬼娘に向き直る。



「……どういうつもり?」


「私は勇者だよ?手の届く場所で、誰かが傷付くなんて許すわけないでしょ?抜けるなら、皆も一緒にこの部屋を抜けるよ。」


「なるほど……。つまり……貴女も私の敵になるってこと……だね?フッ!」



ー ブンッ!ガキンッ!



言うが早いか、鬼娘はミラの首目掛けて偃月刀を振り抜く。

対して、ミラは予想していたように落ち着いて偃月刀を聖剣で受け止めると、後方で動けずにいた皆に叫ぶ。



「ここに居たら危ない!皆、早く先のフロアへ!」


「だ、だけど、このままじゃお前が!」


「大丈夫!私は勇者だよ?皆を見送って、この人を倒したら必ず追いつくさ。ほら!先に行って!」


「ぐっ!くっ…………あ、あぁ!わかった!」



偃月刀を防いで、先に向かうように指示を出すミラ。


ラファは助太刀しようと身構えるも、離れていても伝わってくる二人の闘気に思わず二の足を踏む。


このままでは、足でまといにしかならないと判断したラファは他の天使たちと合流すべく扉へと向かって駆け出した!



「……いやいや、ダメダメ。せめて、騎士は置いていってもらうよ?」


「させない!くらえぇー!」


「なっ!?邪魔しないでよッ!」



駆け出したラファと騎士たちに手を向けて、魔法を放とうとする鬼娘に対して聖剣を振り下ろすミラ。


ギリギリのところで躱すと、鬼娘は苛立っているように偃月刀を振り回して距離を取る。



「今は貴女の相手をしてる場合じゃないんだよ!あいつらをさっさと粛清しないと、マオーちゃんに怒られるの!」


「ふふ!威勢のいいこと言ってるけど、あんまり対人の戦闘経験はないみだいだね?動きが少し固いみたいだ。そんなんじゃ、私どころか、大天使たちも倒せないよ?」


「あ?貴女、バカにしてるの?いいよ!だったらまずは、貴方から倒してあげる!」



振り下ろされる偃月刀を避けながらも、挑発するように軽口をたたくミラに腹が立ったのか、風を斬る音を響かせて偃月刀を振り回しながら鬼娘は駆け出した。


その隙を見逃すラファではない。

せっかく勇者が作ってくれた隙だ。


皆を鼓舞し、全力で扉へと向かって駆ける。



ラファが一番に飛びつくように扉を開け放つと、僅かに遅れた皆に向けて飛び込むように手招きする。



「急げ!」


「あっ!いつの間に!?さ、させるかー!」


【疾風撃!!】

ー ザンッ!


風魔法を纏った斬撃が、波刃となって逃げる騎士たちの背中に向かって飛んでいく。



「くっ!魔法は得意じゃないが、四の五の行ってられない!」


聖魔法 天の盾(アークシールド)!!】



すぐ近くまで迫る波刃に向けて、魔法による防御を展開するラファ。


ーバキン!


しかし、得意ではないというだけあって、一撃で防御壁は粉々に砕けてしまう。



「うっ!……だ、だけど、時間は稼げた!」



防いだことで、最後尾の騎士も無事に扉に飛び込んで行けたことを確認するとラファは小さく笑みを浮かべる。


残りは勇者とラファだけがこの部屋に残っていた。


戦略的撤退というにはあまりに不格好だが、騎士たちを先に送り届けるという点では見事に達成できたと言えるだろう。



「ふふ!残念だったな、女!」


「も~~っ!!あんたたちのせいで、また マオーちゃんに……マオーちゃんに~~!」



騎士たちを取り逃し、目的を果たすことができなくて悔しそうに地団駄を踏む鬼娘。


自分が扉に飛び込めば、あとは勇者だけ。


置き土産にと、最後に少し鬼娘を挑発して隙を作って去ろうと考えた瞬間だった。


目の合った鬼娘は顔をゆっくりとあげると、口元に満面の笑みを浮かべて一言『《《褒められちゃう》》♡』と、不吉な言葉を呟いた……。



ー ブシャッ!



「っぎゃっ!?」



自分が飛び込もうとした扉の中から、短い叫びと共に飛沫が吹き上がる。


鬼娘に気を取られていたラファは、頬に感じた生暖かい液体の感触に驚きつつ拭って確認すると、その顔をみるみる驚愕の色に染めていった。


ラファの頬を濡らしたもの……手に着いていたものは紛れもなく……血であった……。




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