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この城、戯れにつき⑥

ガブリエルたちがハグれている頃、先を行っていた勇者とラファ、そして騎士団の皆は扉の前で首を捻っていた。


いくら背後を振り返っても、一向に後続が追いついて来ないのだ。


最初は歩みが遅いだけなのかと、思っていたがいつまで待っても、気配すらない。

いい加減、心配にもなるというもの。



「んー。はぐれたのかな?」


「まさか。だってここまで、一本道だったんだ?そんなことあるわけ……。」



扉に入るなら、可能な限り皆で揃って進みたい。

特によくも分からないところで戦力が分散するなど、あってはならないことなのだから。



「少し待っててくれる?オレ、見てくるから。」



背後を指差し、ラファが確認の旨を伝えるとミラは首を振ってその肩を止めた。



「やめとこう、天使くん。経験上、ここで離れた人はその後に死亡する可能性が高い。」


「そ、そうなの?」


「うん!だいたい、後ろで敵に待ち構えられてるか、襲われてる最中に出会して巻き込まれて死ぬか、だね。」


「そ、そんことあるわけ……。」


「私は勇者だからね、色々と経験豊富なのさ。あの時に止めておけばよかったなんてこともざらにあったよ。」



自嘲気味に笑う勇者だが、その言葉には確かに信じるに値するだけの重さがあった。


勇者として世界を周り、数々の困難を乗り越えて来た中にも、たくさんの後悔も隠れている。そう、その目は語っていた。



「わかった……。それじゃあ、先に進もう。目印だけでも、しておいていいかな?」


「うん。いいと思うよ。」



ラファは壁にチョークで天使だけに分かる印を扉に付けると、中に入るために扉に手をかけた。


ゆっくりと重たい扉を押し開くと、フロアの中を見回した。



「中には……誰もいないみたいだな?」


「罠があるかもしれないよ。慎重に行こう先頭は私が行くから、その後を着いてきて。」


「え?あ、オレが先に行くよ……。」



ラファが先頭を変わろうとするも、『大丈夫だから』とニコリと笑うとミラはラファの前に進んで前に出た。



「ん、んん……。(女の子に先を行かせるのはどうなんだ?いやしかし、相手は勇者だし……。そもそも、元男だし……。)」



ラファは一人、むむむ……と唸りながらミラの後に続く。

見た目は完全にか弱い少女。


手に持つ聖剣がなければ、花売りといっても遜色ない可憐さがあるだけに、男としてラファは複雑な心境に苛まれていた。



「あはは……!大丈夫、大丈夫。私、勇者だから。単純な戦闘力なら、皆より数段上だし。幻想種くらいなら、押さえ込むくらい造作もないよ。」


「そういえば、勇者はドラゴンを召喚できると聞いたことがあるけど、本当なのか?」


「うん!なんなら、呼ぼうか?彼の力なら、ここら辺一帯が更地になる覚悟は必要だけど。」


「い、いや!いい!巻き込まれたら、生きていられる気がしない!」



ガオー!っと茶目っ気いっぱいに笑う勇者に、ラファは冷や汗を流して首を振る。


勇者単体でも対軍並の力。合わせて召喚できるドラゴンは対国レベルの力があるという。


心配するだけ無駄なのだと、改めてラファは実感した。



「んー……。ルート的には、この部屋で間違いないと思うんだけどな……。あ、次の部屋に続く扉だ。」


「なら、さっさと次の場所に向かおう。早く魔王を倒して、このバカげたゲームを終わらせるんだ。」



部屋の奥に続く扉を見つけたミラは安堵したように胸を撫で下ろす。


先に進もうと一歩踏み出した瞬間だった。


ー ゴオォォ!……ガシャン!



「えっ?あ……。」



突如、天井から檻が降ってくると集団から外れて先を歩いていたミラを捕らえてしまった。



「あららー……。やっぱり、罠だったかー。」


「大丈夫か!?ミラウェイド!」


「あー、うん。大丈夫。これくらいの檻なら、比較的簡単に脱出できるよ。少し、離れてもらえるかな?巻き込んじゃうから。」


「え?斬るのか?」


「うん。はい、離れて離れてー。」



目の前の鉄格子を指で撫でながら、太さと硬さを確認したミラは聖剣を肩に担いだ。


腕ほどの太さの鉄格子を切り捨てて、脱出しようというのだ。

どこまでも化け物だな、とラファは呆れた顔を向けると、少し距離を置いて見守る。



「よし!いくよー!せー……ん?なんだ、この気配……。」



周りの安全を確認して、聖剣を振り下ろそうとした瞬間、ミラは得体の知れない気配に思わず寒気を感じ辺りを見回す。



「なんか、近付いて来てる……。みんな!気をつけて!なんか、ヤバそうなのが来るよ!」


「なに……!?そ、総員構えろ!」



ミラの声に騎士団は慌てて応えると、武器を手に四方へと睨みを利かせる。



ー ゴゴゴゴ……!


皆が身構えた瞬間だった。

地面が激しく揺れ、ガラガラと崩れるようにフロアの半分の床が抜け落ちるとそこから、巨大な生物が姿を表した。



「な、なんだ……?巨人か?まさか、オーガじゃないだろうな?」



現れた巨大な上半身は片手を地面に着けて、ギョロギョロした目でラファたちを見下ろしていた。



「なんだあの表面のドロドロしたのは!?皮膚が溶けてるのか!?」



皮膚と呼べるかも怪しいが、粘性の高い液体がボタリボタリと地面に落ちる。

液体が地面に落ちる度に、ジュッ!と明らかに地面を焼くような音と共に辺りに目や鼻に刺激の強い刺激臭が広がる。

かなり強力な酸をあの巨体は纏っているようだ。


あまりにも、おどろおどろしい姿にその場にいた皆が思わず絶句する。



「あの白い液体……どこかで見たような……。」


『ぷー?ぷ!?うー♪うー♪』

(訳)んー?なっ!?おー♪仲間じゃーん♪みんな!なにしてんのー?


『ブッ……?』



ミラウェイドの服の隙間から顔を覗かせた“プチシルク”は、ドロドロとした巨人を見上げると何やら嬉しそうに手?を振っていた。


ギョロギョロした目を勇者に向けた巨人は、ズズズーッ……!と顔を近付けると、檻の中の勇者とプチシルクをじっと見つめる……。



『ぷー!ぷぷ!プルン!』

(訳)私だよー!みんな、奇遇だな!なにしてんの?


『ブッ?ブ……ブウゥゥ……。』

(訳)なに?あ……ハグれたヤツが居たのか。遠くまで、大変だったな?ちょっと、待っとれー?すぐ、片付けっからよぉ……。


ー ズズズズーッ……!



スライムが何かを巨人に向かって話しかけると、じっと見ていた巨人は身を引いて再び、ラファたちに目を向けた。



『 ブ…………ルウウゥゥーーーン!』


「なっ!?腕を振り上げた!?まさか、叩き潰すつもりか!?みんな、避けろ!」



咄嗟に横に避けると、腕を叩きつけた場所に目を向ける。



「あ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……!?」

「ギャッ!?アアア……!!」



反応が遅れ、逃げ損なった騎士団が数名巻き込まれてしまったのか、白い液体を頭から被り、絶叫をあげている。


プラチナ製の高価で機能性も高いプロテクトアーマーにもかかわらず、まるで長年放置されていたように一気にボロボロと崩れ始める。



「う、うわあぁー!?た、助けて!助けてください!ラファ様!このままじゃ、溶かされてしまいます!あぁ!?鎧が!?武器も!?服すらも!?あ、痛い!?皮膚が焼けるようだ!た、助けてください!ラファ様!」



金属も溶かす程の強い酸のせいか、着ていた麻布も溶けだし、甲冑の中身が露出し始めた。


このままでは、服どころか骨まで溶かされかねないと感じた兵士は、助けを求めてラファに手を伸ばす。



「ま、待ってろ!今、助けに……!っ!?」



ー ズドォォーン!


『ブルウゥゥーーン!!』


「ぎゃあああぁぁーー!!」



助けに向かおうと踏み出した瞬間、負傷兵とラファたちの間に再び巨人の手が振り落とされる。


巨大な手は負傷兵を握りしめると、そのままあんぐりと開けた口の中に放り込んでしまった。



「あ……あぁ……。」



その様子を唖然と見上げたまま、ラファと周りの生き残った騎士たちは絶望に染まった顔で佇んでいた。

圧倒的な力の差に、ラファは武器を構えることもできず、その場を逃げ回る。



『ブルウゥゥーーン!!』


「ひぃ!?」


ー ズドォォーン!



三度振り下ろされる腕。

また、数名の騎士が捕まり、ドロドロの巨人の口へと放り込まれていった。



「あの白い液体……そうか。アレの正体はスライムの集合体なんだね?プチの仲間なの?」


『ぷるん♪』


「止めさせられないかな!?こんなのあまりに一方的で残忍すぎるよ!こんなの戦いじゃない!」


『ぷー……?ぷー!ぷんぷん!』

(訳)えー……?いやいや!ソレは違うだろ!


「え?痛っ!」



肩に乗ったプチシルクに、巨人を説得するように頼むが、プチシルクは目を釣り上げるとパチンッ!とミラの頬を引っ叩く。


何やらすごくお冠な様子のプチは、ミラの襟元を掴むと、グイグイと引っ張って鉄格子を指さした。



「きゅ、急になにすんのさ!?やっぱり、プチも魔王の仲間ってことなの!?」


『プーン!?……プン、プンスッ!?プンスッ!』

(訳)はーん!?……てめぇ、何言ってんだコラ!?そもそも!こんな所にいる時点で違うだろ!さっさと外に出て、皆を助けろよ!



さらに怒りに震えたプチは、手?を剣のようなものに変化させて、鉄格子を何度も斬りつける。

当然ながら、ただの擬態の剣では鉄格子に傷一つつけることはできなかったが、プチはつぶらな瞳を少し釣り上げてミラを睨みつけていた。



「早いところ、壊して外に出ろって行ってるのかい?あ、あぁ!そうか、私が勇者なんだから、私が助けるのが筋だって言いたいんだね!?」


『プフ~……!』



スライムは『やっと思い出しのか……』といわんばかりに、大きく息を吐くと腕?を組んで頷いた。



「そうと決まれば!行くよ!プチ!」


『ぷんッ!!』

(訳)よっしゃ、こーい!!


頭にプチを置いたミラは、聖剣を振り上げると易々と目の前の鉄格子を斬り裂いた!


切れた鉄格子の間からミラは抜け出すと、巨人に向かって聖剣を突き付ける。

皆へ向いている注意を一身に引きつけるため、スライム巨人に向かって大声で話しかけた。



「おーい!こっちだ!こっち!【火魔法:ファイアーバード(聖者小鷹)!!】」



聖属性と火炎属性を混ぜたオリジナルの技。

小鷹とは名ばかりの大きな火の鳥を形作ったミラは、巨体に向かって火炎攻撃を放った。



『ブルウゥゥーーン!?』

(訳)え?これ、絶対熱いヤツーーっ!?



火の鳥の接近に気付いたスライムたちは、瞬時にバラバラになると、部屋中の隙間という隙間から逃げ出した。

まだ形を保っていた部分も出てきた床の穴から、スライムとは思えない俊敏な動きで引っ込んでいく。



ー ボウッ……!


「た、助かった……。」



空中で霧散した火の鳥と、逃げ出したスライムたちに唖然としたまま、ラファは崩れ落ちるようにその場に尻もちを着く。


周りを見れば、三十名もいた騎士たちは半数も満たない数になっていた……。


圧倒的な力の差に、ラファは思わず頭を抱える。


「こんなの無理だ。あんな化け物を従えている魔王に勝てるわけなんてない。」


ラファを始め、騎士達にも絶望の色が広がっていく。


ミラはその中を歩むと、部屋の先に続く扉の前に立ち、皆に振り返った。



「みんなはここで休んでて。いつでも、脱出できる状態にしておいてよ。私は先に向かって、魔王に会ってくる。残った皆の命だけは助かるように、お願いしてくるよ。」


「ミラウェイド……。」


「大丈夫!あとは私に任せて。みんなは脱出することだけ考えて。」


「あ……。」



最後にニコリと微笑みを残したミラウェイドは扉を開けると、腰の抜けた皆を残し、単身で魔王の待つフロアへと向かっていった……。


閉まった扉を見つめ、ラファと十名弱の騎士たちは動かぬ足に力を込めて立ち上がる。



「いや、オレたちも行こう。このままここに居ても、あの巨人が帰ってくるだけかもしれない。そうなったら本当におしまいだ。皆で帰ろう……王都に。魔王を倒して、生き残るんだ。」


「…………。」



ラファの声に応えるものはいなかった。

しかし、声はなくとも皆、武器を手に立ち上がると扉に向かって歩き出す。


残っても死。進んでも死。

それがわかっているからこそ、歩みを止めるわけにはいかなかった。


選ばれし騎士としての誇りが、皆をつき動かしていたのだ。



「負けない……。」


「勝つ……。仲間の無念のために……。絶対に……。」



皆は武器を握り直すと、強い意志の篭った目で、扉へ続く道を歩み始めた……。



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