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その城、魔王の戯れにつき④

「逃げろ!足を止めるな!」


『 オ゛オ゛オ゛オォー……!真実無き者に悪夢をォー!ワタシに真実を示せェエエェー!』



皆で逃げていると、背後の人面壁が急に喋り始める。

駆けながら何事かと肩越しに振り返るが、壁は勢いを落とすことなく背後まで迫ってきていた。

今にも噛み付いて来そうなほど近い。

あんな大きな口で噛みつかれたらと思うと、思わず背筋が凍る……。



「コイツ、壁のクセに喋るのか!?」


『ワタシの名は“真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)”!真実の探求者ァ!さァ!ワタシに!ワタシにィ!真実をォ!!』


「ワケが分からない!魔王の部下か!?」


『然りィ!ワタシは魔王様に創られし、ガーディアン!この城、アスモデウス城の護り手の一人であルゥ!ワタシは“真実”を求める!真実を見せよ!ワタシに真実をォ!!』


「真実ってなんだよ!」


『では、問題ですゥ!答えてみせよォ?』


「「 はぁっ!? 」」



目の前の天使たちを小馬鹿にするような顔で、人面壁は突然、そんなことを言い出す。

急に現れ、急に自己紹介を始め、急に出題されたガブリエルたちは混乱する。



「はぁ!はぁ!今、アイツ、問題とかいってなかった!?」


「言ってたな……!だが、速度を緩める様子は一切ない!立ち止まったら、間違いなくペシャンコだ!走るしかない!」


『問題!』


ー とぅーるん♪


「「なんか、始まった!?」」



突然の効果音に皆、目を丸めて背後を振り返る。



『今からお前たちの前に、階段が現れる。一つは魔王様の元に続く階段。一つは悪夢に続く階段。どちらが正解の道か当てよ。質問は“二つまで”許すが、ワタシが“真実”を述べるとは限らないものとする。』


「えぇー?そんな無茶苦茶なぁ!“真実の口”っていうのなら、真実くらい言えよなぁー!どうしたらいいんだよー。」


「真面目に考えなくていい!きっと、罠だぞ!」


『答えられれば、次の階層への道が開かれるだろゥ。答えられなければ……悪夢を見せよゥ……。こんな風に……ベロり……!』


「ぎゃあああぁ!!?な、舐められたあぁー!!?た、食べられるぅ!」


『ふむ……。柔らかいなァ?こりゃ、楽しめそうだァ。』



含み笑う顔で、人面壁は天使たちを見下ろしながら、僅かに速度をあげる。

ベロりと舌を伸ばして、最後尾の天使の尻を舐めた。

その感触にたまらず天使は叫びをあげると、先を行くミカエルに泣きつく。



「みか、ミカエル様!あ、アイツ!アイツぅ~!ボクのお尻、味見してきましたぁー!最低!殺ってください!粉々にしてくださいー!」


「あ、あはは……。わ、わかったから、そう怒らないで。どうどう。体力、温存しないとね?」


「うぅ~!!」


『さァ?答えは出たかァ?』



追いかけてくる人面壁に問われ、焦る皆の前に人面壁が言う通りの階段が現れた。


一つは白い上りの階段。

一つは黒い下りの階段だ。


“印象的には上!” そう、ガブリエルは思い、上の階段を目指して足に力を込めた。

しかし、すかさずミカエルにその肩を掴まれて引き止められてしまう。



「ガブリエル!待った!安易に飛び込んだらダメだ!飛び込んだ先が行き止まりだったら、それで全員おしまいだぞ!」


「ぐっ!」


『さぁ!勘で飛び込むか?実直に質問するか?それとも……諦めてワタシに身を捧げ悪夢に染まるかァ?選べ、天使たちよ!』



足を止めたガブリエルたちに追いついた人面壁は動きを止めると、ベロりと舌なめずりをして天使たちを眺めた。



「(動きを止めた?ということは、すぐに襲ってこないのか。いつでも食えるという、余裕の表れか?まぁ、今はそんなのどうでもいいか) ……いいだろう、その勝負乗ってやる!質問は二つまでだな?よし!まず1つ目の質問だ!」



足を止めたガブリエルは睨みつけるように人面壁を見上げると、指を差して高らかに声をあげた。

~ 魔王の戯れ① ~


【問題:白黒の階段】


目の前に黒い階段と白い階段がある。

黒い階段は地下に、白い階段は二階に通じるようだ。


片方は生き残ることができ、片方は悪夢に繋がる罠がある。


階段には番人(真実の口)がおり、二つだけ質問が許されている。


番人はYESとNOで返答してくれるが、《《その真偽は定かではないものとする》》


また、番人自身が知り得ないことについては答える義務はない。


アナタは無事に生きる残る道を選ぶことができるだろうか?


尚、生き残ったとしても、この後には魔王が待ち構えているため、その後の生死は不明となる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『と分かりやすく、真実をワタシはまとめてやったぞォ?そのうえで、質問するがいい。さぁ!最初の質問はァ?』


「ちっ!ご丁寧にありがとございますねぇ!それじゃあ、一つ目の質問だ。〈 この白い階段を昇れば、オレたちは全員生き残れるか? 〉」


『……ふむ。それでいいのか?答えは……NOだ。』


「そうか。じゃあ、答えは出たな。下の黒い階段に進もう。」



ガブリエルはホッと胸を撫で下ろすと、踵を返して地下に続く黒い階段の前に歩んで行く。



「ま、待てよ!ガブリエル!本当にヤツの言うことを信じるのか!?アイツは言っていたんだぞ?質問に対する回答は《《真偽は定かではない》》って!アイツが嘘を言っている可能性もあるじゃないか!」


「そ、そうですよ!ガブリエル様!それに見てください!あの黒い階段!電気もないし、真っ暗だし!絶対に罠がありますって!」



ぽっかりと口を開けた黒い階段の前に立ったガブリエルに、ミカエルを始め、他の天使たちもこぞって駆け寄ると腕やら腰やらにまとわりついて引き止める。



「それに比べて、あの白い階段を見てください!明るい調光に加えて、よく磨かれた白い床。絶対にあっちが安全ですって!」


「うっさーーーい!!」


「わ!?わわっ!?うわああぁぁーー!!?」



まとわりつく天使たちを引き剥がすと、一人の天使を引っ捕まえて、階段の下へと蹴り落とす。


天使でありながら、その形相はまるで鬼のようであった。



「うわあぁー!?オレの可愛い弟が落とされた!?この鬼!悪魔!この天使でなし!」


「なんだ、天使でなしって!お前も四の五の言ってないでさっさと階段を下りるんだよ!」


「せ、せめて、黒い階段の方に危険がないか聞いてみないか?」


「聞かなくても、答えは分かってんの!いいから飛び込め!ヤツの気が変わって、いつ襲われてもおかしくないんだからな!ほら!動かないなら押し込むぞ!」


「うっ!?あ、待って!あ、あぅえああぁぁーー!!?」



半ば強引に押し込まれるように、階段に次々と天使たちが入っていく。

絶叫する最後の一人を押し込んだところで、ちらりとガブリエルは人面壁に振り返る。



『本当によかったのかァ?その先は地獄かもしれないぞォ?』


「さっきも言った通り、確証はある。問題ない」


『ほぅ?この問題の解き方に気付いたか。まぁ、わかったところでお前たちの運命は変わらない……。ここで負けていた方がよかったと後悔するほど、この先には過酷な試練が用意されているゥ。』


「この先もあるのか。」


『どうだ?怖気付いたなら、ワタシの口に飛び込んで来てもいいのだぞォ?そうしたら、先に降りたヤツらの内の半分は安全な外に放り出してやってもいい。』



ベロりと舌なめずりをしながら、人面壁はねっとりとした視線をガブリエルに向けて含み笑う。


その視線に身をよじると、ガブリエルは口元に指を添え小さく笑う。



「半数の保身の為に、この身をお前などに差し出せと?冗談でしょ。それにこの身体は“アイツ”の物だ。髪一本だってくれてやらないよ。」



べーっ!と舌を出して悪態をつくとガブリエルは黒い階段をゆったりと降りていった……。


天使が階段を降りたことを確認した人面壁は、階段に近付くと『それは残念だァ……。』と小さく呟いて崩れ始める。


ガラガラと崩れる瓦礫が、階段に流れ込むように入り口を塞いでしまった。


これにより、天使たちは完全に退路を塞がれてしまう。ガブリエルたちには進むしか道が残されてなっていなかった。


少しして、瓦礫の中からむっくりと起き上がる影があった。



「ん……。ふぅー。」



現れたのは、魔王の仲間であるゴーレム少女、ハヤーだ。

人面壁の正体は彼女が擬態したものだったようだ。



「そう。壁の正体は私です。ちなみにモデルはリライアさんづてに教えていただいた、マスターの世界にあるという“真実の口”を参考にさせて頂きました。中々に奇怪さを表現できたのではないでしょうか?まさに芸術。そして、破壊もまた芸術です。」



誰にするでもなく、独り言のように説明を呟きつつ、ハヤーは崩れた残骸を見回した。



「階段の封鎖を確認。任務完了です。」


『お疲れ様、ハヤー。戻っておいで。』


「畏まりました。」



ハヤーは塞がれた黒い階段を一瞥すると、元来た道に足を向ける。


隠された扉を開けると、その先には階段がありハヤーはゆっくりと二階へと登って行った。


ここで観測者の皆は、思ったことだろう。


『なるほど、二階なのか』と。ガブリエルたちが向かったのは『ハズレ』だったんだと。



「いいえ。彼らは見事に正解を選び取りましたよ。その先に進み続ければ、いずれはマスターの御前に辿り着くでしょう。……ただ、それが本当に正解だったのか?それは断言できません。」



閉まる扉の間から見えたハヤーは振り返りざまに不敵な笑みを残し、静かな声でそう呟いた。




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