その城、魔王の戯れにつき②
仲間と思っていた天使たちに、深淵に落とされた天使たち。
十人の天使たちは、深い深い穴へと落ちていた……。
自分たちは死ぬのだ……。
そう悟りながら、叫びをあげて迫る衝撃に身を固くする。
「うわああぁああぁ……!!」
ー うわあぁー!た、助けてえぇぇ!
ー死にたくない!死にたくない!
ーごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!
ーいや!いやああぁああぁあー……!!
落ちていく。落ちていく。
どこまでも深く、たくさんの天使が絶叫しながら落ちていく。
皆、自身の無力を嘆きながら、仲間であった天使たちに恨みを吐きながら、死を恐れながら……。
「美神教なんて……女神様なんて……信じなきゃよかった……。」
絶望と共に吐き出された言葉が、妙に耳に残るのを感じた瞬間、それは目の前に現れた……。
「それは、よかった……。そう思ってくれて、ボクは心から安心したよ……。」
目の前を羽根を広げた天使が、ニコリと微笑みを浮かべて自分たちと共に落ちていた。
「 〈 ライト〉 」
天使の唱えた光魔法の効果か、柔らかで温かな光が落ちていた皆を包み込む。
ハッキリと見えたその天使の顔には、全くといっていいほど恐怖の色はない。
むしろ、笑顔で今の状況を歓迎しているようだった……。
「てわけだけど、マオーくん?いいよね……?」
『あぁ、合格だ。君たちこそ、我の待ち望んでいた者たち。生きろ、キミたちは美しい……というやつだ。』
「また、変なこと言って……なにそれ?」
『知らないのか?なら、今度読み聞かせしてやろう。“大きな白狼と女の子と呪いを受けた青年の話”だ。』
「うっ……なんだろ、ちょっと惹かれるものがあるなー……。」
『いい話だぞ?っと、それよりも今は……〈 風王の息吹 〉!』
「あ……。」
フワリ……と暖かな風が落ちていた身を包みこむと、先程までの転落の勢いは無くなり、ゆっくりとした降下に変わっていた。
「大丈夫。落ち着いて。深呼吸して。ゆっくりでいい。態勢を整えて、羽根を出してごらん。身体が強ばってたら、羽根を動かせないよ?羽根の先まで意識して……。ゆっくり、ゆっくりでいいから……。」
「あ、あぁ……。はー……ふー……はー……ふー……。ん、んん!」
落ち着きを取り戻した天使たちは、一人また一人と羽根を広げ、自身の力で飛べるようになっていく。
「あ、ありがとう。き、キミは誰?落とされた天使じゃないよね?」
「ボクも君たちと同じ天使さ。名前は“ウリエス”。……美神教に牙を剥く魔王の手を取った……カリテスでいうところの【堕天使】さ。」
「堕天使!?で、でも、キミの羽は黒くない……。全然その……真っ白で……綺麗なままだ……。むしろ、ボクたちよりも、少し虹色がかって綺麗な色をしてる……。」
「ふふ!そんなに褒められると、少し照れちゃうな……///でも、ありがとう。堕天使といっても、勝手に自分で名乗ってるだけだから。まぁ、美神教に歯向かうのなら魔族や堕天使と変わりないかな?って、勝手に名乗ってるんだ。はは……!」
堕天使と自ら名乗るウリエスは、まるで天使と変わらない柔らかな笑顔で答えると手を差し出す。
「キミは美神教と敵対してるの……?」
「うん。間違いに気付いたから。君たちも、同じだろ?」
「っ……!」
そういうウリエスの目は、強く意志の篭っていた。
仲間に裏切られ、保身のために切り捨てられた自分たちには最早、あの場所の何処にも居場所がないだろう。
そうだ……。
“異分子の烙印”を押された自分たちに居場所はない……。
「魔王はね、今までしてきた美神教の間違いに気付いて、修正してくれてるんだよ。今の美神教を壊滅させて、“新しい世界”を創ろうとしてるんだ。」
「新しい世界?」
「そう。ボクたち天使が、闇に隠れることなく、大手を振って……羽根を広げて、青い大空を飛べるようなるような世界さ。」
「青い大空を……飛べるような……世界……。」
目を輝かせ、両手を広げた堕天使ウリエスは光魔法以上に輝いて見えた。
虹色の後光すらも差して見えるほど、天使たちの心を強く揺さぶる。
「でもきっと、そこに至るまでにたくさん、たくさん、た〜くさん!辛いことがあると思う……。キミたちは、数多の試練に付き合う覚悟はあるかい?」
「…………。」
「でも、きっと……それを乗り越えた先の世界は眩しいくらいに輝いてるよ。皆が笑顔で、心から沢山の人々に歓迎されるそんな世界になるはずだ。」
「ボクたちが、歓迎される世界……。」
人間の死角に隠れるんじゃない、目の前に立って、手を取り合って、目を見つめあって言葉を交わして。互いが困った時に助け合う……。そんな……優しい世界……。
「見てみたよね?そんな、優しい世界!」
「見てみたい……ボクも見てみたい!!」
そんな夢物語のような話を、目の前の虹色に輝く堕天使はキラキラとした瞳で話すのだ。
次第にその温かな空気は全体を包み込み、皆が手を取り合っていく。
気付けば、輝かしい光をその瞳と羽根に宿して、皆が笑いあっていた。
「よーし!それじゃあ、行こうか!美神教ではない、“真の導き手”の元に。マオーくんに会いに行こう!」
「……う、うん!」
「やっぱり、怖い人だよね?」
『ん?そりゃ、怖いよ?だって、魔王だもん。』
不安げに零す天使の言葉に答えるように、何処とも分からぬ闇の中から魔王の声が響く……。
突然聞こえた威圧の籠った声に、その場の天使たちは思わず身を寄せ合い震え上がった。
「うぅ……。やっぱり、ボク……。」
「こーらー!マオーくん!バカ!怖がらせてどうすんのさ!」
『えー?だって、威厳て大事じゃん?一応、イメージってあるわけだし?まぁ、なんだ、とりあえず、みんな上がっておいで。ウリエスが裏道を知ってるから。逸れないようにね。』
茶目っ気いっぱいなのに、威圧感のある渋い声が見事に仕事をしている。
もしかしたら、すごくいい人なのでは?と、その場の皆が考えた時、ウリエスはニコリと微笑み肯定するように頷いた。
「そう。実は良い奴なんだよ、この魔王。」
「そうなんだ……。」
「さぁ!行こうか!いつまでも、こんなところにいても始まらないしね!みんな迷わないように、ボクに着いてきてね!」
ウリエスに手を引かれ、十人の天使が地中を重力に逆らって飛び上がる。
それは、新たな十人の“堕天使”たちの物語の始まりであった……。




