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全面戦争勃発につき②

天使であることを明かさぬように、白いローブに身を包んだ大天使ラファは目前の街を眺め、安堵するように小さく息を吐く。



「やっと、着いた……。」



大司教シモンの魔王討伐が決定してから早五日。ようやくディケーナの街に到着した安堵から思わず漏れたのは、そんな疲れに満ちた言葉だった。


目前の街を確認したラファはチラリと後ろの兵たちを振り返るとさらに疲れた顔を見せ頭を抱える。



「(到着はした……。だけど、この数じゃ魔王討伐なんてできるわけない……。)」



背後にいる兵の数は三十程の小隊だった。

百の兵を連れて、意気揚々と進軍していた美神教(カリテス)騎士団だったが、道中様々な“不幸”が重なり徐々にその数を減らしてしまっていた。


王都にほど近い一つ目の街にて、騎士団は宿泊したのだが、そこで出た料理に毒でも混ぜてあったのかと思うほど皆が揃って腹を下した。


ここで重傷者は一時、王都に戻すことを決断。

体調の優れないまま、残り八十五名は最初の難関と言われる山を越えを果たさなくてはいけなくなった。


しかし、ここでもまた新たな不幸が訪れる。

先日、大天使ガブリエルによって壊滅させられた反乱分子の残党が復讐のために待ち伏せていたのだ。


しかも、用意周到に準備をしていたらしく、山の中に仕掛けられた沢山の罠にかかり二十名が負傷する事態となった。


泣く泣く、負傷兵は王都へと戻すことになった。


残党を討伐し、何とか抜け出した先にまた村。


やはりというか、再びそこで問題が発生する。


皆が休んでいる間に、闇に紛れてゴブリンの群れが襲撃してきたのだ。


何とかゴブリンを返り討ちにしたものの、ここでさらに負傷兵によりその数を減らされしまった。


そうして、行く先々で様々なトラブルに見舞われたラファ率いる騎士団はそれからも数を減らし続け気がつけば、三十程の数になってしまったのだ。


有り得ない。こんなこと、絶対に有り得ないことだ。



「(連日のアクシデントに加え、総数の減少に伴う士気の低下。兵たちは皆、顔色が見るからに悪い。この状況、普通なら撤退だぞ……?)」



少し疲れ気味の兵たちに声をかけると、皆はその瞬間は元気そうに振る舞うも、すぐに疲れているような様子が伺える。


口に出ないのは、さすが厳しい調練をされた兵たちといったところか。



「(ガブリエルに撤退を進言したが、すぐに意見は切って捨てられた。今、教会に戻って追加の兵を集めているらしいが……。それでも準備できるのは精鋭から零れた三十弱の騎士見習いくらいなものだろう……。ここにいる精鋭三十人と足しても合計でも六十名。とても勝負になる気がしない……。)」



はぁ……とため息を吐いて、目前の街を眺めるラファ。

この場でというより、美神教(カリテス)で魔王の戦力を目の当たりにしたことがあるのは、ラファだけであった。


僅かな戦闘と会話だけでもその異様さは十分に伝わって来ていただけに、この面々の心許なさは笑えなかった。



「(このまま行っても、間違いなく殺される。せめて、合流するまで待った方がいいか?)」



晴天を仰ぎ、ガブリエルの帰還を待つべきか思考していると、袖を引く感触に目を下ろす。


同じようにローブを被った清潭な顔立ちの青年が自分を見上げていることに気付いたラファは首を傾げる。



「どうしたんだい?ミカエル?」


「……誰かこっちに来てるんですけど~?」


「え?」



間の抜けた声と共に大天使ミカエルの指差す方向に目を向けると、小さな点がこちらに向かって来ているのが見える。


馬に乗っているのだろうか、ヒラヒラとしたドレスを風に靡かせて女の子がこちらに向かって近づいて来ていた。



「女の子かな?なんで、こっちに向かって来てるんだろ。」


「……背中に武器を担いでるし~?」


「武器……?オレたちと戦うつもりか?まさか、魔王の仲間か?」


「……そんなん、知らないし~?一応、こっちも武器構えとく?」


「そうだな……。警戒だけしとこう……。」



天使二人は、馬が側に来るまでその人影の正体に思慮を重ねていたが、結局のところ、二人が答えに辿り着くことはなかった……。


緊張した空気の中、現れた人物は馬から降りると、丸い目をキラキラと輝かせて目の前の大天使に歩み寄る。



「ふふ……!君たちが、美神教(カリテス)の騎士団一行で間違いないかな?」


「……あ、あぁ。そうだけど、キミは?」


「私は勇者ミラウェイド!美神教(カリテス)から要請を受けて来たんだ!よろしくね!」



女の子は腰とその膨らんだ胸に手を当てるとにっこりと笑った……。


その笑顔にラファは思わずドキリとしたが、すぐに違和感に気付き再び怪訝そうな顔で女の子を見る。


肩ほどの緩やかなウエーブのかかった金髪。女の子と見紛うほど可愛らしい顔立ち。

これは、聞いていた噂と間違いない。


だが、問題はその服装と……明らかに女の子と同じ体つきだ。


白いロングドレスは横から胸が覗き、背中は大きく開いているせいで白い肌が露出している。


どこからどう見ても……どこからどう見ても……!



「いやいやいや!女の子でしょ!!?キミが勇者ミラウェイド?待って待って!オレたちの記憶と全然違うんだけど!?そもそも、ミラウェイドは男じゃなかったかな!?」


「……うん。オレもそう聞いてたし~?」



実際に会うのは初めてだが、過去に聞いていた情報とは明らかな差異があった。


『女の子っぽい見た目』ではなく、『紛うことなき女の子』が目の前に立っていたのだ。


何よりの証拠は、自分たちの羽根だ。

この背中の触手が、欲しい愛でたい犯したいと目の前の女の子に反応しているのだ……。


完全に、自身のオスの本能が目の前の人物を女の子として判断しているのだ。



「ふふ!先日、女の子になっちゃって……あはは!」


「いや、女の子になっちゃって、て……。そんなんことあるわけ……。」



ないだろうと、二人は言おうとしてやめた。

背中の聖剣が目に入ったからだ。


彼女が背中に帯刀しているのは、この世に二つとない聖剣。


同じ聖属性であるから分かる。

自分たちとは比にならないその強大な力が側にいて、ヒシヒシと感じられたからだ。


それを持っているということは、目の前の女の子が本物の勇者であることは明白だった。



「経緯が気になるし~……?」


「う、うん。たしかに……。」



ぽつりと零すミカエルに思わず、ラファもつられて頷く。

どうやったら、男が女になるのか……。

そんな話、今まで聞いたこともない。

もしや、呪いだろうか?と訝しむ二人に、ミラウェイドは笑みを浮かべて手を振ると、呪いなんてとんでもない!と答える。



「それはもちろん!恋する力さ!」



そうして微笑んだミラウェイドの顔はまさに、恋する乙女のように頬が赤く染っていた……。


「こ、恋ね……。」


「そう。だから、私に触れるのはやめといた方がいいよ?ふふ!……人の恋路を邪魔する奴はケンタウロスに蹴られて死んじゃうからね。」



クスクスと笑うも、次の瞬間には冷めた目で見つめてくるミラウェイドの視線に天使二人は思わず身を竦める。

明確な拒絶と共に、隠しているはずの背中の羽根を視線で射貫かれたような感じがして、しおしおと羽から力抜けていく。

俗に言う“萎えた”という状態にされてしまった。


我ながら、ここまで萎えたのは珍しいなと、二人とも思いながら苦笑するとミラウェイドに手を差し出す。



「オレたちは“祝福する者”だ。キミの恋が実ることを心から祈っているよ。そのためにも、互いに協力しよう。」


「はは!もちろんそのつもりさ。私は人類の安寧のためにこの身を盾にして、皆を護るよ。」



差し出された手を眺め、にっこりと笑うと手を握り返そうとしてやめた。



「あ、握手はやめとく。この身体になってからまだ慣れてないせいか、力の入れ具合が分からないんだ。さっきも、悪漢の腕を握り潰しちゃったんだよね。あはは……!」


「握り潰っ……えぇ?」


「わーぉ♪試しにラファ、力比べしてみて~?大丈夫、ポーションならあるから~?」


「イヤだよッッ!!」



クシャッ♡という声と共に、可愛らしく笑うミラウェイドにラファは思わずたじろぐが、逃げようとする背中を押してミカエルがニンマリと笑う。

ご丁寧に、その手にはポーションを掲げていた。


腕を握り潰したと笑顔で話すミラ。

彼女の口から出た効果音は明らかにおかしい上に、そもそもだ。腕はそんなに簡単に握り潰れるわけはない。


そんな、紙を握ったみたいな音にはならないだろう……。


とてもじゃないが、そんな化け物と握手なんてできるわけが無い。



「さぁ、やっちゃえ!ミラウェイド!」


「ちょっ!ミカエル!おま、ふざけんなよ!や、やめろ!」



引こうとする手を抑えて、試させようとするミカエルの横腹を殴りながら必死に抵抗するラファ。


そんな和気あいあいにじゃれ合う二人の様子を眺めて、苦笑したミラウェイドは自身の手を見つめる。

少しの間の後にミラウェイドは首を振ると、グッ!と手を握り直し顔を上げた。



「うんん。やっぱり、やめとくよ。この手は、魔王に私の願いをぶつけるためにあるから……。」


「おぉ……!そうだ!ぽっと出の魔王なんて倒そう!私欲に塗れた悪敵など倒して、美神教(カリテス)に未来を!人類に光を与えようじゃないか!」


「ふふ……そうだね……。人類に光と安寧を。それが私の使命だから。」


「ん~。(……なんか~違和感?)」



勇ましく語るミラの姿にラファは感激したのか、共に拳を握りしめ高らかに掲げる。


拳を掲げるラファを見つめるミラウェイド。



「(……まぁ、いっか。)…オレも頑張るし~!」



その視線にどこか違和感を感じたミカエルは目を細めてその正体を探るも、結局のところ気のせいなのだと自己完結させて共に拳を突き上げた。


天使とミラウェイドが話していると、空から杖を持った青年が降りてくる。

風魔法だろうか。フワリと降りてきた青年は皆の前に降り立つと、被っていたローブを取り周りを見る。



「やぁやぁ、待たせたね。」


「おかえり、ガブリエル。」


「身を隠して飛ぶの疲れるわぁ。なんで、天使であるオレが魔法なんかに頼らなきゃいけないんだよ。まったくぅ。」



せっかく自前の羽根があるのに飛ぶこともできず、わざわざ風魔法に頼って移動しなくてはいけないことに不満が炸裂したガブリエルは、ブツブツと呟きながら苛立たち気味に杖を地面へと突き立てた。


“天使”は女神様の御使いとして神聖な存在と人間たちに記憶させているため、簡単に目の前に姿を表すことはできない。


おかげで、騎士団の遠征場所から王都までの往復を魔法を使って移動する羽目になったのだ。


魔力を使う分、その疲労は自前の羽根とは比べ物にならないほどだった。



「仕方ないだろう。オレたち天使の存在は、世界には秘匿されてるんだからさ。」


「分かってるけどさぁ。疲れるんだよ、魔力を使うと。あー!伸び伸び羽を伸ばしたい!」


「魔法が得意な天使でも、やっぱり、王都までの道のりは疲れるか。はは!まぁ、今夜は思う存分飛べばいいさ。」


「あ。今夜、開戦するつもり?」


「あぁ!勇者が到着した!あとは、援軍が来るのを待つだけだ。」


「……あ、あははー。それなんだけど、さ。あのーね?」



勇者と合流できたことで、百人力な気持ちになったラファが興奮しながらガブリエルの前で拳を握る。


その様子を見て、ガブリエルは何かいい淀みながら後方を指差した。


そこには、何も無い無限の平原が広がっている。


この先に来ているのだろうか?



「実は途中まで順調だったんだけど、急に馬小屋の馬が全部逃げ出しちゃって……。王都を出立できないでいるんだ。少なくとも、到着は馬を補填してからになるから五日後になると思う。」


「…………はぁ?」


「マジじぇ~……?」



思わぬトラブル再臨!ガブリエルの報告に頭を抱え、ラファとミカエルは愕然とする。



「いくらなんでもおかしいだろ……。」


「裏で魔王が動いているのかと思うほどだよね~?」


「先回りして、王都の馬まで逃がすことができるなんて……。完全にオレたちの動きがわかった上で先手を打たれてる印象だね。」


「となると、このまま行ってもマズイでしょ〜。どんな罠があるか、わかったもんじゃないし~。」


「うむ……。」



休憩をしている騎士団と勇者ミラを横目に見て、三人は頭を悩ませる。


兵の補充は間に合わない。

騎士団も消耗しており、何より絶対数が足りないのだ。

このまま乗り込んでも、戦いにならないだろう。


唯一まともに戦えるのは、大天使と勇者だけ。



「あ、そうだ!他の天使たちは!?大司教は“全天使と教会所属の騎士団百名で捜索と討伐を行うって”と言っていたじゃないか。世界に散らばった天使が集まって来てるんじゃないか?」


「それなら、この周囲の教会に潜ませているよ。」



答えるようにミカエルは周辺を見回すも、その顔色は優れない。


ディケーナの周辺の教会から関係している人間たちは安全のために王都近くの教会へと移動させている。

その空き家となった場所に天使を入れ替えるように待機させたのだが如何せん、バラバラに過ごすように言われた者たちだ。


顔立ちは天使らしく清楚な見た目をしているクセに中身は荒くれ者と変わりない。


そのため、各教会では出会うたびに掴み合いの喧嘩が起きていた。


皆、マウントを取り合うことに必死になっていたのだ。



「あちこちで“喧嘩”しそうになってたけど、ちょっと指導してあげたから、今は大人しく待ってるよ。でも正直さ、戦闘に参加できるかって言ったら微妙だと思うんだよね……。そもそも、戦闘の訓練なんてしてない子供だからさ。戦力として数えるのは難しいんじゃないかな。」


「たしかに。オレたちみたいな、“四枚羽”の天使じゃないと、魔王相手に戦うのは難しいんじゃないかな~?」



ミカエルもガブリエルの意見に同じだと頷き、腕を組んで首を捻る。


戦力としては、下級天使で対パーティー(三人程)戦闘ができ、大天使で対軍(五十程)、熾天使で対国(千人程)といわれている。


だが、実際はいわれているだけで、本当に戦闘経験があるのは、ここにいる面々だけだ。

兄弟ケンカ程度の争いしかしたことがない下級天使に、一体どれだけの戦力を期待できようか……。


「それじゃあ、魔王をオレとガブリエルと勇者が相手をして、ラファと兵士と天使たちで残りの雑兵を相手するってことでいい?」


「魔王の力はどれくらいか分からないからねー。ガブリエル、もしもの時は“アレ”頼むよ?」


「分かった。アレは天使以外にも影響出るから、使わないに越したことないけど、もしもの時には使おう。」



腰につけたポーチに手を置いて、ガブリエルはミカエルに頷く。


ラファは意図せず割り振られた戦闘配置に、陰ながらほっと胸を撫で下ろした。


一度対面してしたラファとしては、正直なところ、魔王など二度と相手にしたくない相手であったからだ。


今回の作戦だって、不参加にしたいレベルのものだった。


だが自分が大天使である以上、そうも言ってられないのが辛いところである。



「うん。天使たちの指揮は任せてくれ。(まぁ、この二人なら大丈夫だろう。なんたって、この二人は美神教(カリテス)でも一二を争う能力の持ち主たちだ。戦力だけで見れば、オレとは一線を駕しているし。さらにそこに勇者がいるとなれば、負けることは有り得ないだろう。)」



かく言う、ラファも槍術と精神干渉のスキルは美神教(カリテス)でも随一だ。

能力値では、冒険者Aクラスと並ぶ実力は持っていた。


天使たちや騎士たちへバフをかけつつ、自身の槍術を合わせて戦闘を行えば、向かうところ敵無しといえるだろう。


それからしばらく、皆で作戦を詰めていたときだった。大方の作戦が決まり、顔をあげた瞬間、ソレは音もなく現れた……。



『……あ。お話は終わった?それじゃあ、そろそろ、戦闘場所に移動を始めようか?ここだと、何かの手違いで、街に被害が出かねないしね。』


「「だ、誰だっ!?」」



ラファの背後からかけられた言葉に皆は思わず身を固くする。


見ると、そこには女が立っていた。


手に大きな槍を持った女は、赤い鬼面の奥から射殺すような視線をラファの背中に向けている。


服はこの世界には珍しい短いスカート。

痣一つない白い脚が目を引いていた。



「私?私は、ゆ……マオーちゃんのお使いで来たんだよ。なんていうのかな?魔王の使者ってやつかな?ほら、戦闘場所の指定とかしてなかったでしょ?勝手に暴れたら街の人とかに迷惑かかっちゃうからねー。」



鬼面の女は目前に見えるディケーナの街を眺めて苦笑する。


さらりと結った明るい長髪を揺らして、女は天使たちを見ると、懐から手紙を取り出してラファへと手渡す。



「時間は今日の正午でいい?そっちの都合があるなら、合わせてあげるよ。合わせる義理はないけど……。マオーちゃんが“美神教(カリテス)の全力で来れるようにしてあげようって、言ってるからね。”優しいよねー”、マオーちゃん。」



頬に手を当て、ほぅ……///と息を吐く女は続けざまに時間を指定してくる。


ボソリと“今、殺っちゃえばいいのにねー?”と呟いたが、そこには誰も触れなかった……。

否、触れる余裕もなかった……。

声は弾んでいるが、会話の最中も女からは殺気が漏れ出ていたからだ。

気を抜けば、その手の槍で両断されてしまう。

そんなイメージがずっと、頭に浮かんでくるせいで、身動き一つ取れないでいた。



「それじゃあ、場所は少し離れた場所にある平原でね。準備ができたら、みんなで来てね。で、まずは私と戦おう♪マオーちゃんに辿り着く前にみーんな、私がぶっ飛ばしてあげるから♡」


ー 斬ッ!ドオォン!



ブン!と手に持っていた槍を地面に向けて横凪に振るった瞬間、轟音と共に土埃が辺り一面に舞う。



「ぐっ!?」


舞い上がる土埃の中、皆、最大限に神経を研ぎ澄ます。

いつ襲ってきてもいいように、フードの中では触手が四方に向けられていた……。


土埃が落ち着き、気が付けば目の前にいた鬼面の女は居なくなっていた。


ホッと胸をなでおろしたのも束の間、後に残された者たちは女の残した力の痕跡に気付き、思わず絶句する。


ある者は、使者の強力な力を恐れた……。

ある者は、その力を従える魔王の力を想像し震え上がった……。

ある者は、自分たちの行動が漏れていたことに戸惑った……。

ある者は、死地へと誘われていることに絶望した……。


皆が戦意を失い、静かに地面に空いた穴を見つめる。


この穴を開けた存在こそ、未来の自分たちに立ち向かってくる脅威なのだ……。


こんなもの……。



「勝てるのか……?本当に……。」



ラファの呟きに、応える者はいなかった……。



「ふふ……。」



ただ一人、その中で聖剣を背負った女の子だけが少しばかり微笑みを浮かべて鬼面の女が消えた先を眺めていた。


近くの森の中……。


ー キィ、キぃ、きぃ……!さぁ……時が来たぞ、ミラウェイド……。


「うん!楽しみ。」



勇者 ミラウェイドの耳には、たしかに優しき魔王(ケモノ)の声が聞こえていた……。



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