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終わる世界、始まる明日 Act9:信頼

集合した東京駅のホームでも、乗り込んだ新幹線の中でも、トーマは終始無言だった。辻マネは「少しそっとしておきましょう」と肩を竦めたが、あつきは気になって仕方がない。不機嫌、というのとは違う気がしてきたのだ。元気がない、という言葉の方が合うかもしれない。もしかしたら体調が悪いのではないかとあつきは不安になる。


「トーマ、ちょっとごめん。」


軽く詫びを入れて、あつきはトーマの耳の後ろに手を滑り込ませた。窓の外を眺めていたトーマが驚いてあつきを振り向く。


「なんだよ!?」


熱はないようだ。脈拍も正常。


「ごめん、具合が悪いんじゃないかって心配になって。」


謝ったあつきにトーマは微かに眉を寄せる。


「元気だよ。あつきの手の方が冷たいじゃないか。」


逆に不調を疑われて、あつきは引っ込めた手を反対の手で握り締めた。

冷たい手の原因は極度の緊張と晩飯、朝食を抜いたせいだ。とても食べる気になれなかったのが誰のせいだと恨みを言う訳にはいかない。


「心が暖かい人は手が冷たいんだよ。」


子供じみたいいわけをしてあつきは笑ってみせた。だがトーマはそれに応えてくれる気配はない。それでも言葉を交わしてくれた事にあつきはひとまず安心する。


「本当に具合悪くなったら言ってね。これでも国家試験は通ってるんだからさ。」


医大生だったあつきはもちろん医者になるべく国家試験も受験していた。奇跡的に合格したものの、結果が出たその日に恋人である鈴木に音楽との両立は無理だと言われ葛藤の末医者を断念した形となってしまったわけだが。あつきにはまだ多少の蟠りがあるのかその事を口にする事はほとんどなかったが、今日ばかりは明るく言ってみせたあつきにトーマはぼそりと呟いた。


「医者の不養生って言葉があるけどね。」


そんな嫌味にもあつきは笑う事ができた。

大丈夫。

根拠のない自信があつきを頷かせた。



夜。ホテルの各自の部屋に納まってから1時間後、あつきはトーマの部屋を訪れた。

今、話し合っておかないと後々までずるずると引きずりかねないと判断したからだ。

長くこの状況を続けるにはユニットとして有難い事ではない。

それにあつきはこういうはっきりしない状況が好きではなかった。

性格的には外科に向いていたのかもしれないほど、さっさと白黒ハッキリさせたい方なのだ。

躊躇する指を突き出して、トーマの部屋のベルを押す。


「俺だけど。」


誰かを訪ねる声にあつきはそう答えた。

「俺」で分かるのかは疑問だが思った以上に早くドアは開かれて、不機嫌そうな顔のトーマが現れる。


「何?」


いかにも不審気にあつきを見下ろす。


「少しいいかな?話がしたいんだけど。」


一瞬拒絶するような表情を浮かべたトーマに、あつきは慌ててドアの隙間に体を割りこませた。


「お願い。」


トーマは諦めたように身を引いて閉めようとしていたドアノブから手を離した。返事もしないままトーマは部屋の奥へと入っていってしまう。あつきは部屋に上がりこんでその姿を追った。


「何?」


ベッドに腰をかけたトーマは洗いっぱなしの濡れた髪を垂らして視線を隠したまま呟いた。あつきは少し離れて立ったまま何から話せばいいのか迷う。

聞きたい事は多分ひとつだ。

どうして自分を避けるのか、その理由が判ればきっと後は芋づる式に判明する。だがそれを直接聞いていいのか憚られる。


「昨日のラジオの事だけど、かばってくれて有難う。」


よくよく考えれば、ひた隠しにして話さないあつきの恋人をトーマは誰かも知らずにかばってくれたのだ。とりあえずそこから話を始めようとあつきは礼を述べた。

そんなあつきの言葉にトーマの肩が微かに揺れる。


「別に。まさか恋人が付けたなんて言えないだろ。それはカレイド的にマイナスだと思ったから。」

「うん、そうだよね。ごめんね、もう絶対あんなミスしないから。」

「別にミスじゃないだろ?間が悪かったってだけじゃないか。」


決してあつきを責めない。その姿があつきには却って心苦しかった。もっと責めて責めてけなしてくれたら楽なのに、と思う。だがこれが彼の優しさなのだという事は分かっていた。


「トーマ。」


これ以上なんと答えていいのか迷って彼の名前を呼んだ。きっとあつきがこの部屋を訪れた時点でトーマもあつきが何をしに来たか気付いているだろう。目を合わせないのがその良い証拠に。

しかし本題に入る前に俯くトーマの髪からポタリポタリと滴が落ちるのが気になって、ベッドの上に投げ出してあったタオルを拾い上げた。どうやら風呂あがりの所にきてしまったらしい。あつきはトーマの足の間に立つとそのタオルでトーマの髪を拭いてやる。


「ごめん、また間が悪かったね。」

「別に。」


ここ2日間、トーマが口癖の様に「別に」と繰り返すのがなんだか拗ねた子供のようでおかしい。されるがままにあつきに髪を拭かせる姿もあつきをどことなく安心させた。

彼は何一つ変わっていない。いつものトーマなのだ。ただ少し…拗ねているだけ。


「ごめん。」


それが何に対してのゴメンなのかは分からなかったが、言葉は素直に口をついて出てきた。それが今の状況に一番相応しいとあつきは思った。


「謝ってばっかりだな。」

「トーマ?」


トーマが髪を拭くあつきの腕を掴んで止めた。まっすぐにあつきを見上げた瞳がギラギラと光っている。その鋭さにあつきは少し後ずさった。だがトーマはあつきの腕を掴んだまま離そうとしない。つかまれた手首が痛いほどの力強さにあつきは恐怖すら感じていた。


「トーマ、痛いよ。」

「俺はそんなに信用ならない?」


突然問われた疑問にあつきは首をかしげた。 

どこからそんな質問が湧いてきたというのだろうか。質問の意味を廻らせて、もしかしたら足を踏んでまでトーマの回答を阻止した事を言っているのだろうかと思い当てた。


「違うよ。アレはそういう事じゃなくて・・。」

「いつもそうだよな。俺はあつきに信用されてなかったんだ。だからあつきの内側に入れてもらえない。」

「わっ・・・!」


そのまま腕を引っ張られて、あつきはベッドに倒れこんだ。その上からトーマがあつきの体を背中から押さえつける。


「トーマ!ちょっと何やって・・!」


振り向きながらのあつきの抗議はトーマの唇によって塞がれた。鈴木のとは違う激しいキスにあつきは固く目をつぶった。

何が起こったというのだろう。

中学、高校と男子校で、それも全寮制という健全な男子には辛い生活の中でこういった事がなかったわけではない。だがここはどこだ。女性がいない男子校ではない。自分が選んで望んだユニットの相棒の部屋だ。彼は決して男性が好きなわけではない。最近はどうなのか知らないが彼女がいたはずだし、あつきをそういう対象として見たことはなかったはずだ。


「トーマッ!」


あつきはやっと逃れる事の出来た唇で非難の声をあげた。だが彼は執拗に彼の唇を追って背けたあつきの横顔に唇を落とす。耳朶を噛まれて、あつきは頭を振った。


「止めろッ!トーマ!悪ふざけはお終いだッ!!」


もともとトーマの方がガタイが良い。それに付け加えファーストライブで前半飛ばしすぎ、後半バテて悔しい思いをしてからトーマはジムに通っていた。そんなトーマに健全な男子であろうと華奢としか言いようがないあつきが、しかもうつぶせの状態で押さえ込まれてしまえば抵抗しようがない。更に言うならば、昨日からほとんど食事に手をつけていなかったあつきの体力はほとんど残っていなかったのだ。

そんな口で反撃するしかできないあつきの耳もとで皮肉気にトーマが鼻を鳴らす。


「悪ふざけ?あつきが言ったんだよ、俺らはもっと過激な事しよう!フリじゃなくて本当にしよう!ってさ。」

「それはっ!・・いっ痛いってば!」


掴まれていた手首を無理やり背中に回されてあつきは悲鳴をあげた。トーマは馬乗りになってあつきを押さえ込んだまま、あつきの手首を頭に被さっていたタオルできつく縛り上げる。そして掴んだあつきの襟ぐりを力づくで引き下ろした。あつきの体の下で押さえつけられていたボタンが弾けとんで、あつきの白くて細い肩が露になる。


「トーマ!」


振り返って見たトーマの顔は冷笑を浮かべていた。

あつきは絶望すら感じる。

彼はきっとこのまま自分を抱くだろう。彼がふざけてこういう事をしているのではない事は彼の目を見れば分かる。そして彼をここまで追い詰めてしまったのが自分であろう事は予想がつく。


「やめて・・お願いだから・・。」


いつの間にかあつきの言葉は懇願へと変わっていた。


「お願い・・。」


だが彼はあつきの言葉を聞こうともせず、あつきの首筋に唇をうずめた。

先日、鈴木があつきを乱暴に扱ったのとはわけが違う。もしも彼がこのまま止めなかったらカレイドスコープはどうなってしまうのだろうか。鈴木は自分を許してくれるだろう、だがきっとあつきはトーマを許す事は出来ない。これはあつきに対してだけではなく、2人で積み上げてきたカレイドスコープという歴史への裏切りなのだ。


「こんなのは嫌だ・・終わりにしたくないんだ・・。」


悔しさに涙があふれる。だがその涙を唇で掬い上げながら、トーマが耳もとで甘く囁いた。


「もっと泣いてみせて?」


だがそれはあつきにとって恐怖でしかない。ガタガタと体が知らず震える。

自分の言葉はきっとトーマには届いていないのだ。


「もっと怒ってみせてよ。」


下着ごとズボンを剥がれる。ずっと圧し掛かられて足も腕もしびれて感覚がなくなりつつあった。それでもあつきは抵抗しようと足をばたつかせたが、足許に丸まったズボンが却って足枷となって動かない。


「トーマ!嫌だっ・・止めてよっ!こんな事して何になるっていうんだ!」


快楽より恐怖が勝って中心を握られてもあつきの体は反応しなかった。それでもトーマは強引に先へ先へと進んでいく。持ち上げられた尻の谷間に乾いた指を無遠慮に突きいれられてあつきは痛みに背中を反らした。


「痛いっ!止めろッ!お願いだから!」


あつきの中で指が動く度に痛みがビリビリと電流のように体を駆け巡る。


「好きだよ、あつき。あつきを全部見せて。」


吐き気すら込み上げてきて、気を失う事もできない。トーマが熱っぽく囁く言葉が遠くに聞こえる。それでも意味を理解しようとして、狂いそうになる意識の中で一生懸命考えた。抱かれている体は自分のものではないと思い込ませるように、思考に神経を集中させる。

彼が自分の事をそういう対象で好きになったはずがない。

だとしたら、どうしてこんな行為に出たというのか。


「俺だけを見るんだ!」


ヒントを探ろうと昨日からの行動を思い起こしてみる。トーマが自分へ言った一言一句思いだそうとするが痛みが集中するのを妨害した。


「トーマッ・・・トーマッ!」


懇願するあつきの声はすでに叫びすぎて掠れている。そんな弱々しい喘ぎにトーマが唇を寄せた。その表情が鈴木とオーバラップする。罪悪感などからではない。

あつきは悟った。単純に二人は同じなのだと思い至る。さっき髪を拭いてやっている時、自分は彼を『拗ねている』と思った。それはきっと間違いなどではなかったのだ。『信頼ならない?』と聞いた言葉も本心だ。彼はきっとあつきに認められたいと思っていたのだろう。あつきの態度に不安で、不安でしょうがなかったのだ、きっと。もちろんあつきは彼を信頼している。だがそれを言葉にしなかったばかりに、彼は密かに自尊心を傷めていたのかもしれない。

伝えてやらなきゃいけない。彼に素直に気持ちを伝えてやらなければいけない。言葉にしなくては伝わらない事もあるのだ。


「俺はトーマを信頼してる――――ッ!!!」


だがあつきの答えは遅すぎた。

彼の腰があつきの上に圧し掛かって、あつきの中へと押し入ってくる。


「―――――――ッ!!!」


目の前が真っ赤になるほどの激痛にあつきは声にならない叫びをあげた。いくらこういった行為に慣れているからとはいえ、ほとんど慣らされていない状態で受け入れさせられたのには無理があった。熱いとしか言いようのない感覚にあつきはシーツに顔を押し付ける事しかできない。


「あつき、あつき」


そんな囁きを聞きながらあつきは意識を失った。


星は巡り君に降る〜月から陰陽師の家系に転生してきたけど特にそこは役に立ってません。に続きまた強姦。。。好きだなワタシ。。。


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