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【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第十二章「都市間戦争」
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~ 都市間戦争その1 ~



「ここは……」


 突如スタート時点に転送……VRだからこそ出来る「位置情報の書き換え」を実行された俺は、たたらを踏んでよろめいた後、周囲をすぐさま見渡す。

 周囲には同時に配置(ポップ)されたのだろう754名の女性兵士たちが揃っており……勿論、しっかりと数えた訳ではないが、それくらいの大勢が並んでいて、その全員が俺と同じく転送の影響を受け周囲をきょろきょろと見まわしている。

 ……流石に脱ぐヤツはいない。

 数度の訓練で公平な査定を行いちゃんとハグと握手をした結果、脱いでアピールするよりもきっちりと命令に従った方が得をすると理解したレイヴンたちは、俺の忠実な私兵団と化していた。


 ──ここが、海中都市『イポコンプ』。


 転送後、周囲の地形をざっと確認し終えた俺は、小さくそう呟く。

 事前にB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)で地図はしっかりと脳みその内部に落とし込み終えているから分かるのだが……この都市の最大の特徴はやはり海中都市ならではの「外殻」の存在だろう。

 と言っても、俺が確保された後に入院させられていた海中都市『スペーメ』と同様に、空の景色を人工的に映し出している所為で、空にある金属製の外殻フレーム以外には、海中という実感はないのだが。

 その海中都市『イポコンプ』は残念ながら『スペーメ』とは違い、外殻内部全体を立体的に利用するほどの人口は存在しておらず……中心部の断面積半分くらいを都市として利用するばかりの、平面状の都市構造になっている。

 ……正直、立体化されると位置の把握が非常に面倒であり、そういう意味では初心者向けの都市が上手くランダムで当たったんだなぁと感心してしまう。


「初期地点A-6っ、マニュアルのプランA-6で各班単位で行動っ!

 これは実戦であるっ!

 動けっ!」


 そうして俺が周囲を見回している僅かな時間に混乱から立ち直り、最初にそんな声を上げたのは、我が正妻(ウィーフェ)たるリリス嬢であった。

 命令し慣れたその声に、転送経験豊富な所為かとっくに混乱から回復し手元の武器を確認していたレイヴンたちは瞬時に指定された方向へと走り去っていく。


「セオリー通り、か」


 散って行くレイヴンたちの行動に、俺は小さくそう呟く。

 都市間戦争でまず行うべきは、地の利と電源の確保である。

 前者は簡単で、身を隠せて射線を通せる適当な建物や家屋があれば良いし、罠を仕掛けたりするための位置に前もって到着すれば良い。

 実際、あちこちで爆破音が響いているのは、防衛のために不要な橋や、射線を通すのに邪魔なビルを破壊しているのだろう。

 ……仮想空間ならではの好き勝手ではあるが、都市間戦争の戦場に選ばれてしまえば大体がこんな感じなので、自分の都市に愛着のあるだろう市長からも抗議の声すら上がらない。

 こればっかりは嫌なら見るなの精神が定着し切っているとも言える。


 ──そして、『電源』確保も大事な要素、と。


 俺は近くに転がってあった自動車……目的地を入力すれば勝手に進む車両を強奪もとい、拝借……いや、徴発(・・)すると最前線の『電源』地点へと向けて走り出した。

 『電源』とは即ち、軍事用電力供給地点のことである。

 以前、うちの都市が狙われた猫耳テロリスト事件において、トリー・ヒヨ・タマが有線で接続してエネルギー砲を撃ちまくっていたアレのことである。

 都市間戦争では取り合えずフリー電源としてどちらの陣営の誰でも使用可能となっており、最初にその電源に接続できた人間が自軍用のコードを打ち込み暗号化する、という手筈となっている。

 その場を取れば、エネルギー供給がバックパックに依存されなくなるため、エネルギー弾の使用と仮想障壁による防御……要するに、シールドと弾無限状態となるのだ。


 ──いや、無限は言い過ぎか。


 あくまでも『電源』を抑えた時点で定量のエネルギー供給が可能となるのみであって、仮想障壁の出力限界を超えるダメージを一度に食らってしまうと、障壁は破られ人体にダメージを受けてしまう。

 また、バックパックに再充電することも可能ではあるが、充電中はその拠点から動けなくなってしまうデメリットがあり……

 結果として、『電源』を中心に据えた防衛陣を構築しながらも、前線から遠い『電源』でエネルギーを充電し前線に送る補給路の確保を行い、また前線には可能な限り多い人材を放り込んで敵陣の『電源』を確保する戦略が求められ……俺の感覚で分かりやすく言うと、『電源』とはシミュレーションゲームで言うところの拠点に近い。

 守りに徹すればユニット単位では強くなるものの、ある程度前線に集中しないと数で押し切られて負けてしまうのだから、その辺りの采配が都市間戦争の醍醐味である、らしい。

 今回が都市間戦争デビュー戦である俺としては、あくまでも付け焼刃……B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)による一夜漬け以下の知識でしかない以上、どう語っても伝聞形になってしまう。


『1班は私と共に最前線拠点の確保を。

 2~4班は『電源』確保に動けっ

 充電が終われば、防衛班を残して作戦通りにっ!』


『了解、こちらは補給を中心に動く。

 全体的な指示をお願いしますっ』


 正妻(ウィーフェ)であるリリスの命令を受け、最前線の細かい指揮はアルノーが行い、ユーミカさんは補給へと回るとの情報が、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を通じて音声という形で俺の頭へと流れ込んでくる。

 尤も、今回の戦争に限って市長である俺は『玉将』ではなく、最前線で戦う『歩』でしかないので、これらの情報すらもただ右から左へと聞き流すだけに過ぎないのだが。


「トリー・タマ・ヒヨの三姉妹は上空へっ!

 上手く隠れててっ!」


「了解っ」

「外殻ギリギリでの目視観測を実施しますっ」

「……通信妨害はそちらで対応を」


 三姉妹に課せられたのは上空からの監視であり、これは手柄に結びつかない地味でありながらも必要不可欠な役割で……ご褒美(・・・)に関係ない彼女たちだからこそ、可能な配置とも言える。

 何故、有視界での観測が必要かと言うと……レーダーは簡単にジャミングが出来てしまうからだ。

 勿論、仮想モニタを用いたデコイや幻影なんてのも可能ではあるが、基本的にその手の映像は真正面からしか写さない、もしくは近距離を誤魔化せれば良いと割り切った使い方しかしない。

 それもこれもバックパックを経由したエネルギーの節約がネックとなる所為なのだが……だからこそ、上空からの目視観察は地味ながら必要不可欠な要因となる訳だ。


 ──勿論、やろうと思えばそれも誤魔化せるのだが。


 B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)への通信妨害、偽情報の流布などなど。

 流石は未来社会と言えるほど、戦術戦略は多岐に渡っていて、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)で知識を転写されただけの俺なんかでは、考えれば考えるだけその対策と傾向を練られてしまい、策士策に溺れるだけに終わってしまうだろう。


 ──だからこそ、俺の()が有効なんだが。


 俺を載せた自動車は、海中都市『イポコンプ』のど真ん中少し北よりにある広場の中心部で止まり、俺はすぐさま飛び降りるとその『電源』とバックパックとを有線で繋ぐ。

 それと同時に、都市中から見渡せる大きさの仮想モニタを表示……光り輝く巨大な『♂』の模様を現出させた。

 ……そう。

 俺が閃いた策の第一弾は、この世界の女性ならば誰しもが絶対に避けられない、単純極まりない馬鹿みたいな……だけど本能という誰しもが逃れられない欲求に基づく凶悪極まりない戦術。


 ……俺自身を()とした、囮作戦である。


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