表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第十二章「都市間戦争」
84/188

~ 雇用方針 ~


 この未来社会で正妻(ウィーフェ)との意見が食い違った場合、男性としてはどうするべきだろうか?

 あのファッカーのクソ野郎ならば怒鳴り散らして相手が意見を引っ込めるまで待つだろうし、他の連中だろうと女性を見下しているあの様子から察するに似たところはあるだろう。

 大人しいアレム先生なんかは理詰めで相手を言いくるめ、俺が暮らしていた時代ではロジハラとかいう訳分からない単語で言い表されそうな行動を起こしそうな気はする。

 理屈が完成していれば、それはただの説得じゃないかと小一時間……B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)によると、正論を叩きつけて反論を許さない類のいやがらせ行為らしいが、そんな昔の造語まで調べられるこのシステムに若干の恐怖を覚えてしまう。

 閑話休題。

 少なくとも俺は、自分を文明人だと思っているし……そして文明人とは言葉を用いて意思の疎通を図り、着地点を模索していく生き物だと思っている。


「も、申し訳ありません。

 すぐにその方向で……」


「いや、お互いに長短を話し合おう。

 少なくともこの一分一秒で戦況が変わる訳でもなし」


 だからこそ俺は、こうして女性側が一方的に意見をねじ伏せられる社会が当たり前とは思わず、土下座しかねない勢いで謝って来た婚約者の言葉を止めて、お互いの意見を討論させることとする。

 たったそれだけの、言語を発する人類としては当然のことで、顔を紅潮させ涙を浮かべ始めたリリス嬢ではあるが……いちいち落ち着かせるのも面倒なので、そのまま話は進めるべきだろう。


「外民を使うと言っていたが、どういう意図なんだ?

 練度の低い兵隊を集めたところであまり意味がないと思うのだが」


 そうして俺が語り始めた途端、リリス嬢の顔は感激する少女のソレから一瞬で実業家のソレへと変貌を遂げていた。

 この切り替えの早さも、11万人に一人という狭き門をくぐりぬけてきた正妻(ウィーフェ)の能力の一環なのだろう。


「まず、基礎資本力が足りませんので、練度と戦闘能力の高い正規兵で全て賄うことは不可能です。

 幸いにして私たちの海上都市『クリオネ』は猫耳族に甘いと見られている前評判がありますので……これを生かし、外民として生きている彼女たちを雇い入れることで数的な互角状況を作り出すことが、現状考え得る最善手と愚考した次第です」


 我が優秀なる未来の正妻(ウィーフェ)様が考えていることはかなり理に適っていて、実のところ俺の考えとほぼ同じ(・・・・)だった。

 現状では、あのファッカーの野郎との戦争では、都市民を総動員したところで100対750と数の差が圧倒的であり、戦いにすらなりはしない。

 だからこそ数の差を埋めるのが最優先。


 ──戦いは数だよ、兄貴、だったか。


 いつ誰が語った言葉だったかは忘れてしまったが、俺の記憶の中から突如としてそんな言葉が浮かび上がり、少なくともそれは間違いではないだろう。

 だからこそ俺は数を埋めるべきだと思ったし、眼前の優秀な少女も俺と同じ考えをしている以上、考え方自体は間違えていない筈だ。


「なので、私の案としましては市民権を与えることで外民を大幅に導入しようと考えております。

 猫耳族を始めとする外民たちは基本、テロリスト予備軍として戦闘訓練を行っており、仮想現実での死傷に忌避は少ないですし。

 勿論、治安の悪化と現市民の方々との軋轢が心配されるところではありますが……」


 ただし……俺と彼女とでは、数の埋め方が全く違う。

 どうも彼女はアメリカの軍人システム……軍に一定年数所属していると市民権を得られるとかいう21世紀であったアレを考えているらしく、それは確かに効果的だと思われる。

 尤も、彼女の語った懸念は間違いなく今後について回る短所そのものであり……外民の人たちが都市に引っ越してきて、一体どこまで規則を守ってくれるか分からないところが、彼女の案を通す不安要素となることだろう。

 実際、彼女はそれを理解した上で……都市運営に瑕疵を残してでも、俺の吹っ掛けた喧嘩に勝とうとしてくれているのだ。


 ──そう考えると、短絡的にぶん殴ってしまったことに、罪悪感が少々……


 ともあれ、そうして彼女が語り終えた後は、俺が自分の考えを伝える番であり……未来の正妻(ウィーフェ)の視線を受け、俺は頭の中を整理しながらゆっくりと言葉を紡ぐ。


「金がなく、数で負けているという基本な考え方は同じだな。

 ただし、俺は兵士を雇うのではなく、市民権で釣るのでもなく……タダで(・・・)来てもらおう(・・・・・・)と考えている」


 俺の説明がそこまで至った瞬間、リリス嬢が目を見開き口を開きかけた……が、男性の言葉を途中で遮るのを躊躇ったのか、彼女の口から疑問の声が漏れることはなかった。

 いや、もしかしたら21世紀の頃と違って、未来の教育では「人の意見を野次や抗議で遮ってはいけません」というディベートの最低限のマナー(・・・・・・・)が教え込まれている可能性もあるのだが……まぁ、今はまだ説明の途中であり、21世紀と未来社会における教育のカリキュラムについて考えている場合ではない。


「俺とあの野郎との喧嘩のいきさつを大々的に宣伝する。

 そして、俺がこれから都市間戦争まで、毎日戦闘参加者と一緒に訓練に参加する。

 これで、どれだけの参加者が集まると思う?」


「……それは、あまりにも、あなたの、そのご負担が……」


 俺の提案はこの未来社会の女性たちにとって非常に美味しい餌になってしまうと理解したのだろう。

 未来の正妻(ウィーフェ)はその策の有益性よりも先に俺への負担を口にする。

 とは言え……


 ──ゲームやるのはいつものこと、なんだよなぁ。


 仮想現実で痛みと疲労を伴う戦闘を毎日行うなんて、VRゲームを知ってから毎日のように行っているし……そもそも俺は毎日毎日やることがなくて困っているのが実情だ。

 未だに記憶の残滓にへばりついているような、絶望と狂気に塗りたくられている労働条件で働きたいとは欠片も思えないものの……それでも多少の義務くらいならば果たしてやろうとは思うくらいには暇を持て余しているのが現状なのだ。

 出来れば本来の義務(・・・・・)の方も頑張ろうと思ってはいるのだが……生憎とまだ我が息子(・・)様が元服なさる日は遠そうだ。

 

「その案を実行するなら、恐らく……外民を入れる必要もない、でしょう。

 残る700名の枠は全て、レイヴンたちで埋まると思います。

 いや、彼女たちは相当の確率で移住を希望することとなるでしょう」


 俺の提案を聞いた未来の正妻(ウィーフェ)様は熟考の上、そう結論を下してくれる。

 彼女の肯定を聞いた俺は、自分の考えが間違っていなかったことに知らず知らずの内に軽く安堵の溜息を吐き出していた。


 ──そりゃそうだろうなぁ。


 とは言え、勝算がなかった訳じゃない。

 この未来社会の女性は、俺の暮らしていた時代ではモテない男性と同等……その中でも不人気なVR戦争ゲームなんかにハマって各地の都市間戦争にまで出入りしている連中は、要するに21世紀で言うところのFPSをやりこんであちこちの大会に顔を出す類の、孤高のゲーマーみたいな連中だ。

 その事実を理解できたのは、「物理的処置済みの全身機械化警護官の体験ゲーム」というマイナーゲームを共にやっている戦友たちと少しばかりおしゃべりをしたから、だった。

 ちなみに彼女たちを雇うことも少しばかり考えたものの……一緒に遊ぶ戦友を部下にしてしまうのは何というか、その、折角の遊び友達を無くしてしまうような気がして、気が引けてしまったことで見送ったのだが。

 それは兎も角として。

 そんな孤高のゲーマー共の集まりに、突如として異性が入り込むと……21世紀の感覚にすると、「野郎共のゲームサークルに、ゲームに理解を示してくれるばかりではなく、明らかに距離感がバグった女性が入り込んできて『一緒にゲームをしましょう』って来たらどうなるか」なんて状況になると、どうなってしまうかなんて考えるまでもないだろう。

 全員が「一緒に遊ぼう」と手を上げてしまい、その内の何割かが迂闊にもあっさり惚れてしまうに違いない。

 これをもし名付けるとするならば、『オタサーの姫』作戦。

 ……異性に飢えている連中が飛びつかない訳がない、その悲しい習性を利用した、アユの友釣りみたいな、本能に訴える系の非道な戦術である。

 先日、自都市で志願兵を募る時にも同じような手法を用いたものだが、あの時は「有効だろう」という程度の感想しか抱いていなかった。

 それが、今日になってようやくこの極悪非道の戦法が一体21世紀でどういう代物なのか、その具体例を思いついてしまい……それを「意図的に自分がやろうとしている」というその事実に、凄まじい自己嫌悪に襲われたのだが。

 それでも、俺はきっちりとゲームを楽しもうと思っていることは紛れもない事実なので……一緒に遊ぶ女性たちも、多少の政治利用くらいなら許してくれると信じたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >正論を叩きつけて反論を許さない  う~ん、それが「いやがらせ行為」扱いで封殺されるとは、立派な言論統制。TRPG「パラノイア」とは方向性がやや違うが。 >絶望と狂気に塗りたくられてい…
[一言] なるほど、どうやって数の差を埋めるんだろうと色々予想してましたがクリオネ君凄い頭回る発想しますね、面白い あと現代人として当たり前の感覚と、この世界の価値観のギャップでクリオネ君が一々呆れる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ