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【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第十一章「戦前交渉」
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~ 戦前交渉その1 ~


 宣戦布告の翌日に行われた、都市間戦争を行う前の交渉……この未来社会で言うところの『戦前交渉』は、当然のように仮想空間で行われることとなった。

 感染症や拉致など、男性が一か所に集まることによる喪失を危惧するこの未来社会においては、学校すらも仮想現実で行う風習があり……この措置はある意味では当然のことなのだろう。

 しかも、都市間戦争を行うほど憎み合っている両者が顔を突き合わすのだ。

 現実で迂闊に顔を合わせ、もし片側が激高して殴りかかってしまい、男性が頭を強く打って死亡してしまえば……いや、そこまではいかなくとも蹴りの一発が迂闊に股間に直撃し、生殖能力の喪失という羽目に陥ってしまえば、それはもう社会的な損失と言えるのだから、周囲がそんな配慮をして仮想現実での交渉を義務付けるのは、至極当然の結果と言える。

 そうして都市運営の実務担当……正妻(ウィーフェ)を伴って仮想現実空間の交渉の席へと赴いた俺だったが……


 ──殺風景なところだな。


 まぁ、これから都市間戦争を始めようとする両者が顔を突き合わす場を、そうそう派手で賑やかにする訳にもいかないのだろうが。

 それでもこの、どっかの漫画で見た地平線まで一面真っ白で空も白く、ただ机と椅子が並んでいるだけという空間はあまりにも殺風景すぎると思われる。

 そんな異様の景色から視線を正面に向ければ、眼前には既知の一人の青年と一人の少年……そして見知らぬ一人の少女が立っていた。


「やぁ、クリオネ君、よく来たね。

 僕がこの戦争の裁定者をさせて頂くことになったんだ」


 青年は既に二度は顔を合わせたホモ=セクシャルの教師こと、アレム先生その人だった。


「……裁定者?」


 この場所に出て来るとは思ってもいなかった第三者と、彼の口から放たれた聞き慣れない単語に、俺は思わずそう鸚鵡返しに呟いてしまう。


「要するに、男同士の喧嘩を見届ける第三者、みたいなものさ。

 君は僕の教え子だけど、彼も昔、僕の教え子だったからね」


 俺の疑問を耳にしたのだろう。

 アレム先生は俺が胸中で抱いていた二つの疑問(・・・・・)双方に答えるようにそう告げ……穏やかな口調ながらも気配りの聞いたその回答に、「相変わらず性癖以外は完璧な教師だなぁ」などという感想が口から出かかった俺だったが、流石にソレ(・・)を口にしない程度の良識は備えていた。

 何しろ彼は、整った顔立ちにスラリとした体躯、穏やかな物言いに聡明な頭脳、完璧な気配りに加えて男性特有の驕った様子も見られないのだ。

 これで真っ当に異性愛さえ兼ね備えていれば、もしかしたら彼の都市が世界を征服していたかもしれない……そう思いたくなるほどの完璧超人である。

 そんなアレム先生から視線を外すと、机を挟んだ反対側にこの戦争の原因である少年……ファッカーとかいうふざけた名前のアホと、そのアホよりも少しばかり年上のような、金髪碧眼で白い肌の、見知らぬ少女が寄り添うように並んでいた。


「都市ファッカーの正妻(ウィーフェ)であるイヴリアと申します」


「……ふんっ」


 その見知らぬ少女は案の定、眼前でふてくされているクソ野郎の正妻(ウィーフェ)だったようで、あまりにも礼儀正しいその様子が隣の野郎と非常に対照的だった。

 若干怯えた様子なのが気になるが……まぁ、ファッカーのヤツがこれだけ男尊女卑を極めた思想を振りかざし、しかも癇癪持ちのクソ野郎なのだ。

 そんなヤツと正妻(ウィーフェ)として付き合っていくなんて、色々と大変だろうことは容易に想像できる。

 しかしながら……


 ──コイツ、金髪碧眼性癖だよな、絶対。


 持って生まれたモノなのか、育った環境の所為かは分からないものの……眼前のイヴリアさんも俺の正妻(ウィーフェ)となったリリス嬢共に金髪碧眼の有能そうな女性であり、恐らくどちらも遺伝子適合率が高かったのだろう。

 要するに、遺伝子レベルで求める女性がこういうタイプという訳であり……まぁ、この辺りは同じようにリリス嬢と適合率が高かった俺が言う台詞ではないが。


「都市クリオネの正妻(ウィーフェ)であるリリスと申します。

 この度はよろしくお願いします」


「これはご丁寧に。

 お互いに全力を尽くしましょう」


 我が正妻(ウィーフェ)であるリリス嬢が何処となく嘘くさい挨拶を口にし、同じように相手方の正妻(ウィーフェ)であるイヴリアさんも嘘くさい笑顔でそう告げる。

 口調は穏やかで笑みも浮かべているというのに、視線だけで喧嘩している……隣から漂ってくる張り詰めた空気から、何の根拠もないけれどそんな印象を受けてしまう。


 ──顔見知り、なんだろうなぁ。


 正妻(ウィーフェ)候補というだけで11万人に一人という超エリートなのがこの未来社会である。

 しかも両者とも、同じような色の肌と髪と瞳をしているのだから、もしかすると彼女たちは同じ都市で生まれ育った……俺の常識で言うところの異母姉妹(・・・・)と言えるかもしれない。


「では、都市戦争協定に基づき、戦前交渉を開始します。

 両者ともに、ご着席を」


 そんな空気を読めなかったのか、もしくは意図的に無視したのか……アレム先生はそう俺たちに呼びかけ、俺は素直に、ファッカーのクソ野郎は同じ席に座るのも忌々しいとばかりに吐き捨てながら、そして二人の正妻(ウィーフェ)は張り付けた笑みを浮かべたままに楚々として椅子へと腰を下ろす。


「ええと、初めて都市戦争を行うクリオネ君もいらっしゃいますので……取り合えず、戦前交渉の作法をお教えしましょう。

 まずは6枚のカードを配ります、はい、どうぞ」


 アレム先生のその呼びかけと同時に、俺とリリス嬢との眼前に仮想モニタで描かれた6枚のカードが浮かび上がる。

 その中にはそれぞれ、簡略化されたイラストと共に『人数制限』『武器制約』『戦場選択』『勝利条件』『痛覚設定』『特殊ルール』とある。


「お互いに、それらの条件を1枚ずつ突き合わせ……両者が出したのが違うカードであった場合は望む条件でそのルールが適用できます。

 しかしながら、同じカードであった場合、条件を折衝し決定していくこととなりますので注意をお願いします」


「……なるほど」


 アレム先生の説明と眼前に並ぶ6枚のカードを見比べて数秒後……俺は都市戦争の基本的なルールを大雑把ながらに理解出来た。

 そして、何故それらの条件をこうして決めるかも含めて、だ。

 そもそも大多数の兵士を相手に少数では勝てる筈もなく。

 だけど、人数が幾ら多くても地の利がなければトラップで一網打尽にされて終わるだろうし、勝利条件が男性の撃破などであれば一発の狙撃で片付いてしまう可能性がある。

 兵器に制限がなければ都市一つを一撃で破壊する大量破壊兵器をどちらが先に使うかという一発勝負に成り下がってしまう……等々考えるほど戦場のルールが如何に大切かが分かる。


「よくできてる、な」


 俺は未来社会の洗練された戦争……少なくとも強者が弱者を一方的にねじ伏せるだけではない、競技としての戦争(・・・・・・・・)にそんな感心の言葉を漏らすのだった。


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