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【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第六章「猫耳テロリスト編」
34/188

~ ヘルメットの下 ~


「もらったぁああああああっ!」


「……ちぃいっ!」


 低空を飛行してくるテロリストの姿を見た俺がまず行ったことは、俺の懐で震えていた哀れな非戦闘員(・・・・)を危険地帯から押しのけること、だった。


「ぇ?」


 生命の危機に直面した所為かスローモーションになっていく世界で、未来の正妻(ウィーフェ)であるリリス嬢がそんな間抜けな声をあげていたが……


 ──まぁ、仕方ないよなぁ。


 いくらこの世界が男女比1:110,721というトチ狂った世界であったとしても俺は生まれも育ちも20世紀から21世紀に股をかけた、女子供のためなら男は死ねという価値観の下に育っていた野郎でしかない。

 勿論、職業軍人の女性であれば守られるのも仕方ないと諦められるのだが……生憎と俺は非戦闘員の少女が震えているのに身体を張れないようなクズじゃない。

 いや、まぁ、実際のところそこまで考える余裕があった訳じゃなく、ただ身体が衝動的に動いてしまっただけ、でしかないのだが。

 そして、俺のところへとたどり着いたテロリストは、俺が何一つ反応できないほどの超速度をもって、手に持っていた工具……おそらく6階の天井から7階のバスルームへと大穴を開けた丸鋸を、俺の首筋へと当てていた。


「取ったっ!

 動くなっ、動くなよっ!」


 B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)が、そう叫ぶテロリストの手に握られたその丸鋸が『電磁加速型仮想刃式丸鋸』であると教えてくれるものの……そんな情報などテロリストに生殺与奪の権を握られているこの状況では何の役にも立ちやしない。

 ……そう思っていた時代が俺にもありました。


 ──男性向け安全装置作動中。

 ──何だそりゃ。


 恐らくではあるが、俺に丸鋸を突き付けているコイツはテロリストの工兵……武器で戦う兵士ではなく、工具類を使って仲間のフォローをする役割だったのだろう。

 そして、生憎と彼女の手にしている凶器は、実は武器ですらない工具であり、しかも俺には一切害がないのが実情らしい。

 流石は男女比1:110,721の世界……先進的な科学技術の全てをもってして男性を過剰に保護している感がある。


「……っ、頭部パージ、非常用遠隔モード、開始っ!」


 だけど、その安全装置の存在を俺以外……当のテロリストも、未来の正妻(ウィーフェ)様も、そして警護官のリーダーであるアルノーすらも知らなかったらしい。

 鋼鉄製の彼女は俺が敵の手に落ちたのを視界の隅に入れるや否や、自分の頭(・・・・)放り落とす(・・・・・)し……頭部が外れた彼女の鋼鉄製の身体は一直線にさっきまで撃ち合いをしていたテロリストたちの方へと全力で走り始めた。


「な、こ、コイツっ?」


「う、撃て、うわぁああああっ?」


 適当に仮想障壁を張りつつも身の安全を一切考えずに突っ込んできた鋼鉄の身体に、テロリストたちは当然のように慌て、盾を構えながら銃器で反撃するものの……直後に彼女の右腕から生えたビームサーベルによって盾の隙間からあっさりと貫かれて倒れ。

 もう一人に至っては、至近距離からの射撃でアルノーにエネルギー弾を3発ぶつけ、右腕、右腰部マニピュレーター、右太腿に風穴を開けることに成功するものの、アルノーの左腕前腕部に内蔵されていたチェーンソーを用いた反撃によって仮想障壁ごと切り裂かれ血の海に沈んでしまう。


 ──仮想障壁を破るための、超接近戦、か。


 アルノーの取った作戦は、実のところテロリストが人質を取って要求を言う前に、相手に駆け引きの余地を残さないように全力で叩くという、俺の生きていた21世紀の日本では考えることも出来ないほど荒っぽい代物だった。

 尤も、この未来社会においても、その前時代的な荒っぽい手法の効果は絶大なようで……事実、俺を人質に取ったままのテロリストはただ右往左往するだけで、何一つ建設的な動きをしていない。


「ふ、ふ、ふざけるなぁあああっ!」


 そんな中、階段に残されていた一人が逃げ切れないと悟ったのか、手にしていた拳銃も仮想障壁の盾をも捨てて、近くに落ちてあった赤い斧……マスターキーを手にしてアルノーへと全力でぶん殴りかかる。

 チェーンソーで一人を惨殺したばかりのアルノーの身体にその一撃を避けられるハズもなく、彼女の身体はその一撃を風穴の空いたままの右腕とマニピュレーターの仮想障壁とで防ごうとするものの……マスターキーの一撃はその両者を叩き切った挙句、彼女の身体の肩口からみぞおちあたりまでへと深く突き刺さってしまう。


「アルノーっ、おいっ?」


「大丈夫です、市長。

 何も問題はありません」


 その事態に慌てる俺をその場に留めたのは、アルノーの頭部が発したそんな声だった。

 事実、彼女の動体は完全に致命傷を被っているにも関わらず動きを鈍らせることもなく、眼前のテロリストを両腕で抱き留めていた。

 ……前腕部半ばで切り落とされた機械式の右腕と、変形しチェーンソーが生えた機械式の左腕をもって、渾身の力で。


「ぎゃぁあああがががががぁっ?」


 当たり前の話であるが、戦闘用に調整された鋼鉄の腕で抱きしめられて無事な生身の人間なんている筈もない。

 加えて、片手がチェーンソーになっていれば、その結果ははるかに残酷なものとなる。

 アルノーにマスターキーを叩きこんだテロリストはそのまま胴体半分が千切れ、可動式の刃に抉られ千切られた血と肉と皮膚と臓物とを辺り一面の床へとまき散らす。


「う、うぷっ」


「……ぁあああ、ミーコさんっ?

 なんで、あんたが、何でっ?」


 その人体解体ショーは流石に衝撃が強すぎたようで……俺から少し離れた場所にいる婚約者様は口元を抑えて蹲ってしまい、俺自身に丸鋸を突き付けたままのテロリストは錯乱状態に陥ってしまっている。

 尤も、マスターキーの一撃を食らったアルノーの胴体も当然のように無事である筈もなく、人体を真っ二つにし終えた直後、全身返り血まみれのまま電池が切れたかのようにぶっ倒れて動かなくなってしまったが。


「もう諦めて投降しろ。

 お前は一人きりになっている」


 そんな中、頭部のみとなったアルノーは俺を人質に取ったつもりになっているテロリストに対して冷静極まりない声でそう告げていた。

 事実、彼女の言葉に嘘はない。

 俺の眼前に展開されている仮想モニタでも、ユーミカと相対していたテロリストもトリー・ヒヨ・タマの三姉妹の連携によって頭部を吹っ飛ばされており……B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)が、今現在この人工島内には俺と未来の正妻(ウィーフェ)と5名の警護官以外の人間はたった一人しかいないと教えてくれているのだから。


「ふ、ふざ、ふざけ……っ、そのザマで何が出来るっ!

 お前たちもこの場にはもう戦闘要員なんて……」


 そして、テロリストの少女……フルヘルム越しではあるものの、声は十代後半くらいと思える……彼女が突き付けられた事実に声を荒げたまさにそのタイミングで、トリー・ヒヨ・タマの三人が階段から飛び込んでくる。


「間に合ったぁっ!」


「市長、無事っ?」


「……二人とも、落ち着いて。

 今は絶対に誤射できない」


 ミニスカートの癖に急降下で降りてきた、エネルギー兵器を手にした三姉妹の姿に、俺を人質に取ったままのテロリストはうめき声をあげる。

 実際問題、彼女はこれでもうチェックメイトだった。

 ここへ来た足……輸送機は消滅し、仲間のテロリストたちは全員が射殺されている。

 幾ら希少な男性が人質に取られたところで、丸鋸一つではどう頑張ったところでこの人工島から逃れられる訳もなく……彼女たちの要求が何であれ、ここまで追い詰められてしまっては、彼女の未来はもう閉ざされたも同然のところまで来てしまっているのが明白だった。


「もう諦めたらどうだ?

 ここで投降すれば、命だけは……」


「……五月蠅いっ!

 どの道、私には……私たちには、もう未来なんてないっ!」


 人質として、とは言え会話を交わした相手が死ぬのも忍びないと思った俺は、そう問いかけるものの……その呼びかけに返ってきたのはそんなヒステリックな叫びだった。

 そして、彼女は自分に未来がないと証明するかのように、俺に丸鋸を突き付けたまま、片手で器用にもフルヘルムを外す。


「見なさいっ!

 これで……私たちに未来なんてないと分かるでしょうっ!」


 そう叫びながら悲痛な叫びをあげる彼女……声の通り十代半ばだった彼女のその頭には、人間にはあり得ない……まるで漫画やアニメなんかのような、猫の耳が生えていたのだった。


2022/06/08 21:11確認時


日間空想科学〔SF〕ジャンル12位。

週間空想科学〔SF〕ジャンル5位。

月間空想科学〔SF〕ジャンル15位。

四半期空想科学〔SF〕ジャンル30位。

年間空想科学〔SF〕ジャンル8位。


総合評価 7,444 pt

評価者数 475 人

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4.4

評価ポイント合計

4,164 pt

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! ……おお、スプラッタ。 ンディアナガル殲記の頃よりも磨きが掛かっているかも。 [気になる点] (馬頭鬼さんからいただいた返答について) >「“仮想”障壁」…
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