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【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第六章「猫耳テロリスト編」
32/188

~ 侵入者 ~



「何考えてんだ、あのバカはっ!」


 直下から響いてきた衝撃に動揺していた俺を現実へと引き戻したのは、アルノーのそんな叫びだった。

 その肉声から……肉片の一欠けらもない彼女の声から不思議と動揺が伺えるのは、素晴らしく進んだ科学技術のおかげなんだろうなぁと俺は少しばかり現実逃避してしまったが、生憎と今はそれどころじゃない。

 とは言え、心臓まで鋼鉄で造られている彼女が動揺しているのも無理もない話だろう。

 何しろ同僚であり仲間であった筈のトリーのエネルギーバズーカが誤射した所為で、この自宅(・・)を覆っていた仮想障壁に大穴が空いたばかりか、外壁がぶっ壊れ……その空いた穴からテロリストたちがこの自宅(・・)内部へと侵入してきたのだから。


「くそったれ、穴は5階かっ!

 ユーミカ、どこだっ?」


「5階っ、防衛課管制室っ!

 壁が、いきなりっ、吹っ飛んでっ!

 もうっ、目の前に敵っ!

 何なんですかっ、これはっ!」


 俺の目の前でアルノーは仮想モニタ越しにユーミカさんと会話をしているようだが、38歳の彼女は必死に声を荒げており、余裕は欠片も見受けられない。

 それもその筈で、テロリストの来ない5階で防衛のための管制……要するに裏方の情報伝達程度に考えていたら突如として最前線に放り込まれたのだ。

 慌てるのも仕方のないことだろう。


「アホ共がやらかしたっ!

 死んでもそこで食い止めろっ!」


「無茶苦茶っ、言わないでっ、下さいっ!

 向こうさんが、階段側なんですよっ!

 10近くも入ってきて、追撃するのも大変でっ、よしっ1撃破っ!」


 魂まで鋼鉄で出来ているかのような冷酷なアルノーの指示に対し、仮想モニタの向こう側のユーミカは悲鳴を上げながらも、それでも必死に戦闘を続けていた。

 彼女は三人娘と違ってしっかりとした戦闘訓練を積んでいるらしく、突如として遭遇したテロリスト相手に動揺しつつも応戦し、戦果までしっかりと上げているようだった。


 ──状況、どうなってるんだ?


 仮想モニタ越しに続けられる報告を聞きながら、俺がふとそう考えた瞬間だった。

 いきなり新たな仮想モニタが眼前に開き、それに目を向けて見れば、敵味方が色別に分かれてマークされた5階の地図が映し出されている。

 昔やったゲームのような表示方式を取っているらしく、8つの赤マークの敵を、1つの青マークの味方が追いかける図式になっていた。

 その仮想モニタを見る限り、6階へと上がる階段へ向かおうとするテロリストの眼前に隔壁が落とされて足止めをしているものの……敵も馬鹿ではないらしく2体のテロリストがユーミカの足止めとしてその場で応戦し、残り6体が隔壁に取り掛かっているようである。

 また、別の仮想モニタで見る限り、ユーミカさんが追撃を開始した後にこの自宅(・・)に入り込んだ2体のテロリストが、自宅そのものを盾にする形でトリー・ヒヨ・タマの三人を相手に足止めを続けていた。

 エネルギーバズーカの威力があり過ぎる所為か、トリーは誤射を恐れて躊躇い続けており、ヒヨもビームマシンガンを乱射しているものの飛行ユニットを持つテロリスト相手にはそうそう当たるものでもなく、また当たっても携行型仮想障壁に弾かれて有効打を与えられずにいる。

 近接武器と仮想障壁メインのタマは防御に徹していることもあり、自宅外部での戦闘は完全に膠着状態になっている。

 

「……ちっ。

 突破されるな、これは」


 俺と同じ情報を得てるのだろう、アルノーのそんな呟きにふと俺が疑問を抱くと、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)が気を利かせてくれたのか、眼前にまた新しい仮想モニタが開き……その中ではフルヘルムとパイロットスーツに身を包み、風貌すらも伺えないテロリストたちがドアに張り付いて赤い手斧で何やらやっている様子が目に入る。


「赤い斧?

 何やってんだ、あれ」


「マスターキーです、市長」


 ふとした俺の疑問に、アルノーが迷いなく答える。

 マスターキー……ホテルで閉じ込められた際に無理やりドアを破壊する工具だったか。

 何故こんなものをわざわざ防衛課に置いてあるんだと疑問を抱いた瞬間、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)が「男性が閉じ込められる犯罪を回避するため、隔壁で閉鎖される空間内には最小一つのマスターキー設置が法で義務付けられている」との答えを瞬時に返してくれた。

 法で決められているなら仕方ない……俺がそう嘆息している眼前で、どういう構造になっているのか、赤熱化したマスターキーによって隔壁がじわじわと破られていくのが目に入る。

 「緊急事態なんだから、法律ももうちょいと融通が利いてもいいだろうに」なんて俺が考えている間にも隔壁は見事にロの字に焼き切られ、フルヘルムのテロリストたちは6階への階段を上がり始めていた。

 L(ラーヴェ)の住む区画である7階はまだ何もないのだから、テロリストたちはもう目前に迫っていると言える。


「あ、ああああ、あなた、わ、わわわ私の後ろに……」


「……あ~、W(ウィーフェ)様、市長と一緒に下がってくださいな。

 こういうのは私の仕事ですんで」


 その状況を理解したのか、我が未来の妻であるリリスが震えた声ながらも勇ましくそう告げ……アルノーに嗜められる。

 実際問題、この凄まじく優秀な婚約者様はこういう荒事になってから一切の役に立っていない。

 当たり前の話であるが、プロのサッカー選手相手だろうと測量の勝負を仕掛ければ俺でも勝てる訳で……人によって得手不得手があり、役に立つ場面と立たない場面が出てくることはある意味仕方のないことだろう。

 勿論、これだけで彼女を見限ろうとは思わないが……未来の正妻(ウィーフェ)様は少しばかりそのことを気に病んでいるようだった。


「では、戦闘準備……テロリストの排除を開始します。

 隔壁閉鎖、仮想障壁展開」


 アルノーは恐れる様子もなくそう告げると、俺とリリス嬢の部屋だった和風の家屋(・・・・・)から()へと無造作に踏み出す。

 直後、庭園にあった6階へと通じる階段が隔壁に封鎖されると同時に、何の役にも立たない非戦闘要員である俺と未来のW(ウィーフェ)がいる和風家屋の周囲に仮想障壁が展開される。

 どうやら彼女は自身の身体をもって最後のバリケードとするらしい。


「市長、くれぐれも隔壁と障壁はいじらないで下さい」


 ふと背後を振り返りながらアルノーがそう呟いたのは、この緊急事態であっても男性権限をもってすれば、上位権限扱いで隔壁や仮想障壁に手を加えることが可能だかららしい。

 

 ──緊急事態を悪用した、男性監禁事件ね。

 ──男性を護るべき警護官がやらかしてしまった、と。


 その権限に対してふと疑問を抱いた俺へ、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)が伝えてきたのは過去にあったそんな事件の概要だった。

 俺が解凍されてから暮らしているこの時代、大体の性犯罪は女性がやらかしている気がする今日この頃である。

 まぁ、男女比が1:110,721なんてふざけた時代なのだから、そうなるのが当然の時代なのだろうけれど。


「アルノー。

 ……頼んだ」


 そういう背景を知りつつも、この状況では俺が言えることはたったのその一つであり……アルノーにとってその一言にどれだけの価値があったのかは分からない。

 ただ俺の声を聴いたアルノーの両脚太腿が変形し、何やら銃器らしきものが2丁現れた……まさにそのタイミングで、眼前の隔壁から赤熱化した斧(マスターキー)の切っ先が突き出されたのだった。



2022/06/06 20:21現在


日間空想科学〔SF〕ジャンル2位。

週間空想科学〔SF〕ジャンル10位。

月間空想科学〔SF〕ジャンル27位。

四半期空想科学〔SF〕ジャンル34位。

年間空想科学〔SF〕ジャンル9位。


総合評価 7,410 pt

評価者数 471 人

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― 新着の感想 ―
[良い点] 適当に護衛を選んだツケが一瞬できてて草 どこかから今がチャンス!みたいな情報がもれてたりするかも?
[良い点] >「アルノー。 > ……頼んだ」 アルノー、すっごい頼れる。 (他の護衛も決して役立たずではないのだが) [一言] 続きも気にしながら待ちます。
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