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~ 立像 ~


 リリスの策の成否にかかわらず時間は過ぎて行き……そして自身の運命を決めるだろう戦争が迫っているというのに、この時代では男子である俺自身は重宝され過ぎていて何かをするような必要もなく。

 相変わらず暇を持て余した俺は、いつものゲームをしようと思い立ち、「物理的処置済みの全身機械化警護官の体験ゲーム」をプレイすべくB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を用いてゲームを始めた訳だが。


 ──誰もいやしねぇ。


 一人でこのゲームをやったところで、ただ貧弱で生意気な、しかも解像度の悪いただの餓鬼のデータを護るだけという、凄まじく不毛なゲームと化してしまうだけなので、俺は早々に退散し……ようとして、ふと思いとどまる。


「そういや、『お茶会』だったかの招待状、貰ってたっけか」


 あの招待状は別に一時的なモノではなく、いつでも入って来て構わないというフリーパス的なモノだったことを思い出した俺は、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を操作してそちらへと跳ぶ。


 ──っととと。


 システム的にはインターネットのページ移動とそう大差ない筈なのだが、俺の主観的には空間転移とほぼ変わらない所為か、どうしても移動直後は平衡感覚を失ってしまう癖は未だに治らず……俺は2歩ほどたたらを踏んでしまう。

 そうして、ようやくバランスを取り戻した俺が顔を上げた先には……


 ……狂気の世界が広がっていた。


 何しろ、大量にあった機械化された花が植えられていた場所には、ほぼ同数の()が立ち並んでいたのだ。

 しかも、それらの俺は、等しく全裸(・・)である。

 俺が、間違えて狂気の黒魔術師結社の集会に参加してしまった気分に陥ったのも、まぁ、仕方のないことだと思われる。


「あ、あらあら。

 誰かと思ったら『クリ坊』さんですか、久々ですわね」


 そんな中、視界中に広がる狂気の光景に全くもって違和感を覚えていない様子で俺にそう語りかけて来たのは、ここの主でもある『トランプクイーン』だった。


「おお、お前も参加するつもりか、クリオネ様救出作戦にっ!」


 突如現れた俺に対し、特に疑問も抱くことなくそう歓迎してくれたのは、右腕が肥大化した、『ジャバウォック004』である。

 しかしながら、背景の異様さに気を取られていた俺は気の利いた返事すら返せやしない。


「いずれ貴女も飛んでくると思ってたよ、『クリ坊』

 これは、人類全体の危機だからね」


 そうして固まったままの俺に対し、現れるのが当然とばかりの態度で迎えてくれたのは重装甲の『ナイト』である。

 彼女が口にしている大層なお題目については、文言は理解出来ていたものの……残念ながら、内容はさっぱり頭に入ってこなかったのだが。


「ええ、全女性の福音となる男性が現れたんだ。

 女としては、命を賭して尽くすのが本望と言えるな」


 『ナイト』の言葉に続いて俺にそう告げたのは、俺のライバルである『白兎』だった。

 彼女はそう言いながら両手を広げ、恐らくは彼女の背後にも並んでいるその異様な人型を示したのだろうが……生憎と今現在進行形で俺の思考回路の性能を奪っているのは、その視界一杯に広がっている全裸の俺の立像である。


「……何が、一体、どうなって、るんだ?」


 結局のところ、彼女たちが何を言おうとも、俺の頭の中にはソレら(・・・)しか入って来ず……仕方なく俺は周囲を見渡しながらそう訊ねる。

 とは言え、残念なことに彼女たちにとって俺の戸惑いの視線は、性欲に駆られた「女性として当然の行動」としか映らなかった、らしい。


「おいおい、気になるのは仕方ないけど、じっくり見すぎだろ、おい」

「ですわね、如何なる時も淑女としての言動を心がけませんと……」


 『ジャバウォック004』はそんな俺を揶揄して笑い、『トランプクイーン』は落ち着かない俺をそう窘める。

 だが、言わせて欲しい。

 周囲に自分自身の全裸の立体画像が大量に配置されていて……しかも大半の立像は股間がエレクチオンしているこの状況において、周囲を見ずに何を見ろと言うのだろう?

 むしろ、正気の沙汰とは思えないからこそ、俺は硬直してしまい……その肖像権の侵害以外の何物でもないクソみたいな立像共から目を逸らすことすら叶わなかったのだ。


「まぁ、女性ならば目を離せないのは必然だろう?

 貴女たちもそうだっただろうに……」

「まぁ、それもこれも、初夜を公開するなんて義挙(・・)に出た正妻(ウィーフェ)様々ってヤツかな。

 それも自らの市長を護るためってんだから、泣かせる話さ」


 そんなフォローになってないフォローをしたのは『白兎』であり……この凄まじく趣味の悪い最悪のオブジェが造られた元凶は、どうやら我が優秀なる正妻(ウィーフェ)にあると意図せずゲロってくれたのは『ナイト』だった。


 ──どんな手段(・・・・・)を用いてもって言っていたのは、このことかっ!


 俺を護るためなら、どんな外道行為でも……生贄に捧げることで全てが解決するのならば、自都市の市民全てを平然と捧げるだろう我が正妻(ウィーフェ)が、そう強調して語ったくらいだから、余程ヤバい策を講じたと思っていたが……

 コレは、流石に予想外過ぎる。

 とは言え、あれだけ俺のプライバシーを尊重していた彼女が、それでも俺のためにしたことである以上、その策を否定することなど出来やしない。

 ……だけど。


 ──絶対に、後で問い詰めてやる。


 俺からしてみれば、この策がどう必要なのかは分からない。

 だけど人様の全裸を世間一般に流出させるという暴挙を、俺に相談することもなく行ったのだ。

 である以上、それなりの報復が科されるのは覚悟の上だろう。

 そう決断した俺は、自宅へ戻った後で我が正妻(ウィーフェ)に対しかなりどぎつい羞恥系のおしおき(・・・・)を課すことを決意する。

 尤も、俺がそんな決意を抱いている間にも、『お茶会』の女性たちがこの狂気極まりない状況について口々に説明してくれていたが。


「しかし、あの初夜の映像データから瞬時に立像モデル作るんだから、やっぱ技術持ってる連中、すげぇよなぁ」

「しかも、自らの手柄にせず、データ作成料すら貰わず、無料配布(・・・・)してしまったんですから、もう女の中の女、という感じですわね」


 彼女たちの会話から類推するに、どうやら我が正妻(ウィーフェ)様が流出させた初夜の動画から、どっかの模型師……そう表現してしまうのは20世紀後半生まれとしての感覚でしかなく、正確には3Dデザイナーに近いだろうか。

 兎に角、どっかの造形師様がその動画から見事な立像を作成し……しかも、善意100%の無償配布をしてくれやがったようである。

 そうして配布されていたそのデータを、この『お茶会』メンバーが入手してしまい……こうして狂気に陥りそうな光景を作り上げた、のだろう。


 ──恐ろしいのは、こうしているのが確実に彼女たち(・・・・)だけじゃない(・・・・・・)、ってところだな。


 じわじわと戻ってきている感もある記憶の中に、神絵師の描いた少しばかり露出度の高いイラストを収集していた思い出が発掘された訳たが……彼女たちがやっているのは俺のこの行動とそう大差ない代物だろう。

 そう考えると、あの時の俺と同じように……そして俺以外でもあの神絵師が好きだった全員がそれぞれイラストをダウンロードしていたように、この未来社会でもこの全裸の立像が性癖に突き刺さる女性全員がダウンロードし、こうして飾っているのではないだろうか?

 ちなみにではあるが、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を使って検索したところ、この未来社会ではそもそもの動画のデータ自体が基本的に三次元化されており、どんな角度からでも、どれほどの至近距離からでも、俺たちの行為(・・)を窃視できる、らしい。


 ──何なんだよ、それは……


 大昔……まだ20代の頃にAVを見ている最中に、「モザイクを消したい」「もっとアップで見たい」「男の身体邪魔」等の感想を抱いたものではあるが……

 この時代の女性たちが見る動画では、大昔俺が願った通りの機能を既に持ち合わせている、らしいようだった。



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― 新着の感想 ―
この時代では○獣先輩以上の有名人になってそうで
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