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【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第二十一章「鬼の居ぬ間の」
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~ 知らぬが仏その3 ~


 当然のことながら、俺がコンテンツ『木星戦記』の裏側情報に愕然としている間にも、戦闘は続いていた。


「……こちら第二、今から突撃を仕掛ける。

 援護射撃は不要っ!」


「了解。

 3秒後の一斉射を最後の援護とする」


 この状況のどの要素を見て判断したのか俺にはさっぱり分からなかったものの、第二都市警護隊の隊長がそう告げ……その無謀とも言える提案に対し、アルノーは全く動揺する様子も見せず、相変わらずの機械的な音声でそう返すだけだった。

 俺としては、人型機動兵器に対し生身で特攻を行うなんて「正気の沙汰ではない」という感想しか抱けなかったが……どうもこの未来社会においては、俺の方が間違っているらしい。


 ──エネルギー効率的に考えると、人間大の兵器こそが最も効率的である、か。


 要するに、兵器の破壊力が極大化し、当たらなければどうということはない理論を突き詰めると、人間が空を飛び回りつつ武器を振り回すのが最も効率的という話、らしい。

 事実、都市攻撃用の武器を持った人型機動兵器は、仮想障壁の範囲外から飛行ユニットの警護官たちに狙われ続けた結果、為す術もなく手足をもがれ、装甲版を剥がされ……じわじわと嬲り殺しに遭っている。

 

「あ、また一機落とされた。

 次は、自滅したか、ありゃ?」


 しかもテロリスト側は混乱し、連携すら取れない中で、混戦に持ち込まれたのだ。

 都市用の武器は人間大の大きさを狙うには全く効果がなく……勿論、当たってしまえば一撃だろうが、巨大な銃器の眼前でいつまでも飛び続ける間抜けなどいない。

 だけど、人型兵器を人間のサイズに落とし込むと、こちらを刺そうと襲い掛かって来る無数のスズメバチを拳銃で撃ち落せるかどうか、という感覚の話である。

 ちなみにではあるが、人型兵器の手足で直接ぶん殴られた場合、飛行ユニットを装備した警護官は自重が軽すぎるため、吹っ飛ばされてしまいダメージは軽微で済んでしまうのだと、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)が教えてくれた。

 ……勿論、脳震盪や衝撃によって戦闘不能には陥るのだが、消し飛んだり即死したりするほどの被害は出ないらしい。


 ──逆に、都市攻略用の武器は、人型自身を一撃で落とし得る。


 大混乱のテロリストたちは、慌てふためき周囲に群がる第二都市警護隊の面々に向けて武器を放ち……同士討ちを仕出かす始末である。

 もはや完全に戦いの趨勢は決まったと言っても過言ではないだろう。


「楽勝、だったか?」


 結果として、テロリストは既にあと3機……対してこちらの警護官は全くの無傷というワンサイドゲームに、俺は思わずそう呟きを零していた。


「……いえ、敵の練度が低く助かりました。

 真っ当な訓練を受けた兵士が乗っていたならば、第二の損害が1割から2割ほど出てもおかしくない戦力です」


 そんな俺の声に、相変わらずの感情を感じさせない機械音声のまま、アルノーはそう水を差す。

 ……そう。

 俺の第一印象が抱いていたイメージ通り……『木星戦記』で用いられる人型機動兵器は本来、全く役に立たない木偶の坊などではない。

 大きなジェネレーターを搭載し、航空機と変わらない機動力を有し、あらゆる状況に対応できる武器を取捨選択できる、万能兵器なのだ。

 尤も、今回のテロリストたちは、練度が低すぎたが故に武器の取捨選択を間違え……都市攻撃用、もしくは同じ人型用の大型・中型兵器ばかりを装備していたが故に、警護官の超接近機動戦に一方的に落とされる羽目になった訳だが。

 その辺り、大艦巨砲主義の時代の大型戦艦が、大量の艦載機による攻撃を受け、為す術もなく沈められる様子にも似ている。


「何と言うか……杜撰だな?」


 あれだけ目立つ兵器を用い、真正面から突っ込んできて、都市攻撃用の大型兵器をばら撒いた挙句、当たり前のように爆散させられる。

 元々テロリストはあんなものかもしれないが、銃器を所持して都市の警戒空域へと無断で侵入し、あっさりと正当防衛の餌食になったその結末は、人の命がかかっているにしてはあまりにもあっけなさ過ぎる。


「いえ、あの攻撃も、恐らくはデモンストレーションの一種でしょう。

 型落ち機体だろうと数を揃えて見栄えを良くし、活動実績を積むことで資金源から融資を受ける。

 適当な構成員と引き換えに資金を獲得……よくあるパターンですね」


 俺の抱いた感想に、アルノーは静かにそう反論する。

 相変わらず感情を感じさせない彼女の言葉は確かに理に適っていて……言われてみれば確かに『木星戦記』の人型は非常に見栄えが良く、宣伝目的にはちょうど良いだろう。

 尤も……


 ──構成員を平然と切り捨てる人間性があればこそ、使える手段だが。


 まぁ、その辺りがテロリストということなのだろう。

 しかしながら……


「無駄に命を捨てて何になるってんだ……」


「それは、言っても仕方ありません。

 ……我々は、彼女たちの迂遠な自殺(・・・・・)に巻き込まれたようなものです」


 テロリスト構成員の考えがさっぱり分からなかった俺はそう呟くものの……全身機械化された彼女の口から放たれたのは、そんな同情の欠片もない言葉だった。 

 確かにアルノーの言いたいことは分からなくはない。

 俺自身はただテロリストに狙われただけの被害者でしかなく、現実からの逃避に宗教の主義主張を使った挙句、人様に迷惑をかけて派手な自殺を実行した彼女たちに同情をしたところで、何の得にもならないどころか思い悩むだけで害悪でしかないのだから。

 とは言え、それでも全く理解できない思想・思考を前にしてしまえば、苛立ちが募るのを止めることは出来ないのだが。


 ──宗教を盲信したい連中は、まぁ、21世紀(むかし)にもいたけれど。

 ──俺なんて、北極の海底に沈んででも生きようとしたくらいなのに……


 俺はそう内心で呟き……


「……何、だ?」


 ふと過去の記憶を……自分自身が北極の海に沈んでいたことを、実感として(・・・・・)思い出した俺は、そこで不意に硬直してしまう。

 己のルーツを……自分が何故北極に沈んでいて、サトミさんに復活させられたのか、その理由を(・・・・・)今まで(・・・)考えないように(・・・・・・・)していた(・・・・)事実に、気付かされたから、だ。


「……市長?」


 B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を用いた回線でとは言え、全身を機械化されたアルノーが珍しく気遣ったような声を発しているが、俺はそれすら気が付かず、そのまま自問自答を続ける。


「……そういや、俺って何故北極なんかに……?」


 尤も、思い返そうとしても、冷凍保存されている間に大部分がぶっ壊れてしまったのだろう俺の脳みそは、過去の記憶を都合よく思い出させてはくれないらしい。

 ついでに言うと、流石のB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)とは言え、連邦政府のデータベースに入っていない情報は検索など出来る筈もなく……俺はすぐさま頭痛を覚え、その追憶を強引に断ち切っていた。


「よぉ隊長、こちらは殲滅完了したぜ。

 これから帰還する」


「了解、第二はしばらく休暇に入ってくれ。

 待機していた特務は海上の残存勢力の探索及び掃討に取り掛かるように」


 気付けば『人類博愛主義の集い』による人型兵器は、知らぬ間に全機爆散させられていたらしく、アルノーがそんなやり取りをしている声に俺はふと我に返る。


「げぇ、ゴミ攫いかよ」

「待機命令だったから待機してただけじゃん?」

「……危険は少ないのに手当は出るから、受けるべき」


 アルノーの命令はどうやら特務……と言う名の隔離を申し付けられていた三姉妹警護官への言葉だったらしく、頭上の彼女たちから不平不満が聞こえて来る。

 尤も、最年少のタマだけは渋々ながらも働こうとしていたようだが……どうやらこの恋人(ラーヴェ)候補として扱われている警護官三姉妹の勤務態度は、日頃からここまで酷い代物だった、らしい。

 ……そりゃアルノーが特務なんて名前で隔離する筈である。


「良いのか?

 この通信は市長も傍聴しているんだが?」


 とは言え、本日の警護官のリーダーにはそんな伝家の宝刀があり……


「げぇっ、りょ、了解しました」

「私は命令と市長に忠実は警護官です」

「……常日頃からそうすれば……特務、任務に入ります」


 アルノーの言葉を聞いた……俺の存在を認知したトリーとヒヨは言い訳を口にし、タマはすぐさま了解の意を唱え。

 俺は「日頃からの習慣と言うのは非常に大事なんだなぁ」と妙な蒙を啓きつつ、三姉妹のあまりのらしさ(・・・)に思わず吹き出してしまっていた。


 ──えっと、何を考えていたっけか?


 その所為だろう。

 先ほどまで頭の中でぐるぐると回り、他のことなんて一切考えられないほど圧迫していた記憶を失う(・・・・・)前の自分自身(・・・・・・)のことについて、もう少し余裕をもって考えることが出来たのだった。

 そういう意味では、彼女たち三人は確かに「市長の心を慰める」という恋人(ラーヴェ)としての庶務を果たしたと言っても過言ではないだろう。


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― 新着の感想 ―
そう言えば謎ですね もしかし他にも男埋まってる?
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