~ 知らぬが仏その2 ~
本日2度目となるテロリストの襲撃を告げる音に、俺は動揺を隠せなかった。
確かに俺の男としての資産価値は他の男性の30倍……要するに俺という男子は、テロリストから見て特上の獲物、なのだ。
21世紀においても、治安の悪い国などでは高額商品を扱う商店がちょこちょこ襲撃に遭っていた事実を考えると、この海上都市『クリオネ』がテロリストの襲撃を受ける頻度が高いことも、そうおかしいことではないのかもしれない。
「……モテる男は辛いぜ」
そうして「自分が狙われてもおかしくない」という理由付けをしてみた訳だが、そんな理由があったところで「自分が今リアルタイムで襲われている」事実を目の当たりにした俺は、そんな寝ぼけた台詞を呟くことで精神の均衡を保とうとしていた。
生憎と俺と通信を行っていたアルノーは、そんな俺の呟きなんて意に介す様子もなく、BQCOを用いてテロリストの情報を集めているようだったが。
「定例文を送れ。
我々は無視する前提で動く。
第二は済まないが、再度の迎撃態勢を整えてくれ」
「……了解、残業手当の用意をしていて下さい」
そんな間にもアルノーは先ほどテロリストを撃退したばかりの第二都市防衛隊にすぐさま命令を送り……彼女たちの方もそんな冗談を返し、またしても戦闘配備に就いて行く。
──またしても、第二が出動するのか?
俺はそんな疑問を抱くものの、BQCOから伝わってきた答えは、「併合時、正妻リリスの提案により、テロに備え最寄りの陸地側に『ペスルーナ』を配備したから」という身も蓋もないものだった。
考えてもみれば、下半身が現役どころか地球圏ナンバー1の男子と、もう老境も終わりを告げ繁殖能力がなくなった老人とのどっちを優遇するかと言われると、この未来社会における精子の価値的に、現役の男子の方に傾くに決まっている。
そんな訳で、彼女たち第二都市警護隊は最寄りの陸地から押し寄せて来るテロ相手の防壁となっており……こうして日に2度の戦闘などという、凄まじい超過勤務を課せられている訳である。
「奴さん、警告を無視して突っ込んで来たぜ。
BQCOによる照合完了。
……『人類博愛主義の集い』かよ、珍しいな」
第二の隊長が声に出した通り……都市の権限を利用した場合、個人個人に搭載されているBQCOによる識別で、テロリストはその個人名から所属まで分かってしまう。
21世紀で例えると……住所と氏名を書いた名札をぶら下げたまま強盗を行いようなものである。
それでもテロに走るのは、本当に将来を悲観して一切の希望が持てないのか、テロを起こして犯罪者となった後の自分を全く想像する知能がないのかのどちらかだろうが……
──しかし、この所属は初めて聞くが……
──どんな連中なんだ?
正直な話、テロリストの思想に耳を傾けるのは下の下だと理解はしていても、僅かでも興味を惹かれた話題に対し、BQCOはいとも容易く回答を寄越してくれる。
便利なのも良し悪し、と言ったところだろうか。
──へぇ、基督教系のテログループなのか……
そうしてBQCOが寄越した情報によると、この『人類博愛主義の集い』は基督教の一夫一妻主義が尖鋭化してしまった過激派であり、現在の都市制度そのものを武力で覆そうとする思想を掲げたテロリストたちである。
当たり前の話であるが、この男女比1:110,721という時代にそんな主義主張が通る筈もなく、語るにも値しない理想を掲げて大騒ぎをする大迷惑集団、として扱われている。
それでもそれなりに支持者がいる理由は、彼女たちの活動の背景には都市に居住できない女性たちの貧困があり……要するに子供の産める連中なんざ全員死んでしまえという僻み根性が根幹にある、という分析が為されている。
幾ら何でも「もう少しこう手加減と言うか……」と突っ込みたくなる報告だったが、彼女たちのやっていることは無差別テロなので、あまり同情は出来ないのだが。
「って、おいおいあんなの、どう相手しろってんだ?」
「……いつも通りだ。
私が電磁加速砲を、お前たち第二は撃ち漏らしを潰せ」
そうして俺がテログループの思想について考え込んでいる間にも、アルノーと第二都市警護隊はそんな会話を交わしていた。
彼女たちが戸惑うのも無理はないだろう。
何しろ今回のテロリストたちの機影はすさまじく多く、しかも……
──連中、なんてモノを持ち出して来てるんだよ。
──アレは、『木星戦記』の人型じゃねぇかっ!
アルノーが見ているのと同じだろうリアルタイムの光景を眼前の仮想モニタに映し出した俺は、思わず内心でそう叫んでいた。
声に出さなかったのは彼女たちの指揮に俺が混じるとろくなことにならないのは明白だったから、である。
──あんなの、どうやって落とす?
──分厚い装甲、高い機動力、強力な重火器、高出力のバッテリーを搭載し、腕に仮想障壁をも備えた、万能兵器だぞ?
『木星戦記』は俺自身も一度はプレイした記憶があるから知っているが……人型兵器はその構造上、数多の武器を手に持つことによってあらゆる戦況に対応出来、また仮想障壁の盾を用いて高い防御性能を維持、内部に収められた高性能のジェネレーターはほぼ無尽蔵とも言えるエネルギーを用いることが可能という、汎用性の高い機体である。
それが、レーダーで数えられるだけで27機。
──こんなの、勝てる訳が……
俺が撤退をも視野に入れ……だけど、素人である俺自身には何一つ出来ることなどある筈もなく……後は天命を待つのみと半ば達観して戦況を見守ると決めた……次の瞬間だった。
「……ぁっ?」
アルノー操る電磁加速砲の一斉射によって、最強の筈の人型兵器はあっさりと2機が爆散、3機が手や脚をもがれたのだ。
『木星戦記』では、あの人型が大型戦艦を単機で落とす映像も流れていたほどであり、完全に予想外だったその結果を前に、俺は思わず小さな声を漏らしてしまう。
「何かおっしゃいましたか、市長?」
「い、いや、簡単に撃墜したなと思って、な」
そんな小さな呟きを耳聡く聞きつけたアルノーの問いに、俺は隠すことなく本音でそう呟く。
実のところ、「あの人型はもう少しばかり頑強であって欲しかった」というゲーマーとしての本音が混じっていたその声は……
「それは、当然でしょう。
仮想障壁を外すように、射撃をしましたので……」
全く感情の込められていない機械音声によってあっさりと一刀両断される。
──そりゃそうだ。
当たり前の話であるが、如何に頑丈な合金だろうと装甲版としては十数センチ程度でしかなく……未来社会でエネルギー効率を凄まじく高めた質量弾の物理的衝撃を防ぎ切れるものではない。
だからこそ仮想障壁が必要となって来るのだが……BQCOに答えを聞くと、アルノーは最寄りの電磁加速砲を囮として仮想障壁を構えさせたところで、その実、射線が通るものの若干射程外だった東側と北側の電磁加速砲を過剰なエネルギーを使って強引に運用し、弾丸を敵へと叩き込んだらしい。
俺の知っている格闘技に例えるならば、わざとストレートのモーションを見せ、相手がガードを固めたところで、強引に腕の軌道を変えフックを叩き込んだ、みたいな感じだろうか。
そうして意識の隙間を狙われたテロリストたちは、一斉射で2機を失い……今も動揺しているのが手に取るように分かる。
一部の人型兵器は仮想障壁の範囲を拡大し……直後、電磁加速砲にあっさりと貫かれ爆散して果てる機体すら現れる始末である。
──そりゃ、人型軌道兵器は、現実では運用出来ないか……
現実問題として何故人型兵器が役に立たないかと言うと、論ずればまぁ色々とあるけれども、この未来社会を生きて来た俺としては、その敵から見た投影面積の大きさ……ゲーマー的に言うと当たり判定の大きさが最大の問題だと思われる。
仮想障壁がその壁を取っ払ってくれることに期待はしたものの、仮想障壁の耐久性はエネルギー的な問題から面積に反比例する傾向があり……人型兵器全身を覆うような巨大な仮想障壁を張ると、ジェネレーター出力の関係から電磁加速砲の直撃に耐えられないのは先ほど目にした通りである。
要するに、だ。
「……ゲームはゲーム、現実は現実ってことか……」
実のところ、『木星戦記』はあくまでもフィクション……現実で実際に戦闘はしているものの、視聴者を沸かすためにわざと人型を取っているのに過ぎない、ということなのだろう。
──木星宙域での戦闘は、交戦規定により銃弾に用いるエネルギー出力を故意に低く設定している。
直後、BQCOが俺にトドメを刺すかのようにそんな情報を送って来てくれた。
ちなみにその理由は「人型が遠距離射撃の一撃で爆散してしまうと、視聴者が楽しめないから」とのことだ。




