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【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第二十一章「鬼の居ぬ間の」
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~ 知らぬが仏その1 ~


 ──『男子解放連合』東方分隊、輸送機3機及び55名都市外にて処理完了。

 ──『男女同権党』太平洋支部、船舶1隻及び20名都市外にて処理完了。

 ──『遺伝子共有連盟』56名、都市外にて処理完了。

 ──無所属7名、都市外にて処理完了。

 ──『男子解放連合』東方分隊、輸送機1隻及び15名都市外にて処理完了。

 ──『都市スペーメ愚連隊』強襲隊、潜水艇5隻67名都市外にて処理完了。

 ──『男女同権党』太平洋支部……等々。


 B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を通じてそれらの情報を確認した俺は、思わず手を口元へと当て、大きく溜息を吐き出す。

 これは我が海上都市『クリオネ』の防衛記録であり、それらを一つ一つ過去へと遡って読み解いているものの……俺が覚えている猫耳族のテロリストへは全く行きつく気配が見当たらない。

 要するに……俺が今まで全く知りもしなかっただけで、この都市は延々とテロリストによって狙われ続けていた、ということであり。

 そして、俺を護る警護官たちが次々と人を殺めていた、という証明でもある。


 ──命の価値がどうのこうの言うほどの子供でもない。

 ──護られている身で、そんな餓鬼みたいな文句を言うつもりはないが……


 それでもせめて、「狙われていた事実くらいは教えて欲しかった」と思ってしまうのは21世紀人のエゴだろうか?

 当然のことながら、身の危険を感じた男子がストレスで委縮し、精子作成能力を喪失しないようにとかいう、この時代ならではの配慮、なのだろうけれど。


「……確か、危険を感じた方が、生殖本能は活性化する筈なんだが……」


 俺は自分の感覚をそう語ってみるものの、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)が返してきた回答はそうは言っていなかった。

 十数件の具体例と共に、生存が脅かされたストレスによって一時的とは言えEDに至る男子が20%に及んだことから、男子一人当たりの精子作成能力が1割程度増えたところで、総合的に考えるとマイナスでしかない計算となり。

 結果として、テロリストから狙われている事情は基本伏せることが現代の都市運営の基本として周知されている、らしい。


 ──野郎の精神が、耐えられない、のか……


 希少化し過ぎた所為で、持ち上げられ煽てられ過保護にされ過ぎた男子たちは、生命の危機に奮起する精神力すらも失ってしまったのだろう。

 確かに考えてみれば彼らは、21世紀ではただの一般人でしかなかった俺の、たったの1/30程度の生殖力しか持っていないのだ。

 21世紀的な感覚で言うならば、80~90歳くらいの老人に相当する。

 そんな彼らに対し「命の危険が迫っているからハッスルしろ」と言われて、いざ出来るかと言うと……余命を全て燃やし尽くしてもナニすら勃たないのが関の山に違いない。

 そうして色々と調べていく内に専門家に話を聞きたくなった俺は、すぐさまB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を用いて通信を試みる。


「……済まんが、話を聞かせてくれ」


「これは、市長。

 ……はい、何なりと」


 当の専門家……警護官のリーダーたるアルノーは、戦後処理の最中だというのに何の文句も言わず、事前連絡すらなかった俺の通信に応じてくれた。


「ああ、済みません、二つほど。

 第二っ、電磁加速砲の弾丸補充を30分以内にっ!

 あと海上の残骸は始末しておくようにっ!」


 それが恐らく戦後処理なのだろう、アルノーは別回線で指示を下していた。

 どうやら俺の通信は緊急回線扱いだったらしく、彼女と第二都市警護隊との回線もまだ健在で……だからこそこんな電話時代みたいな混線した状況が訪れたのだろう。

 実際のところ、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を用いれば回線を完全に分けながら通信も可能なのだが……残念ながら人間の脳が同時に二人と会話が出来るほど発達してはいないらしい。

 閑話休題。


「で、市長。

 どのような御用件で」


「いや、防衛の指揮と電磁加速砲の操作、見事だった。

 礼を言わせてくれ」


 アルノーの問いに、俺はまず礼から入ることにした。

 彼女たちにとって都市防衛が幾ら仕事だろうとも、助けられた身である以上、一言礼を言うくらいはしても罰は当たらないと思ったのだ。

 だけど、どうやら俺の言葉は彼女にとっては非常にあり得ない代物だったらしく……全身が機械化されている筈の彼女が、動揺で呼吸を乱すという珍しい光景を目にすることが出来た。

 これは文字通りの話で、俺は通信が繋がった時点でアルノーの姿が見えるよう、眼前に仮想モニタを展開している。

 尤も、彼女側からはこちらが見えない設定にしているため、彼女と視線が合うことはないのだが。

 そんなアルノーの姿は、相変わらずの全身金属製で……金属製の棺のようなカプセルのような未来的な何かに横たわっている。


 ──しかし、防衛してたんだよなぁ、コレでも。

 ──いくら脳みそだけが動けば良いとは言え……


 寝そべったまま戦闘指揮をしていた彼女の姿を、不真面目と感じてしまうのは21世紀人特有の感性なのだろうか?

 実際のところ、人体というのは非常に不安定なモノであり、立っているだけで体力と集中力をある程度使ってしまうし、それは座っていても同じだと言える。

 そして、仮想現実のゲームは寝転んでプレイするのが当然の時代なのだから、寝転んだまま戦闘指揮を執ったり電磁加速砲の操作を行うことは、そんな無駄を省き脳みそのエネルギーを集中できるという意味では、理に適っていると言えるのだが……


 ──それでも、なぁ?


 そんな要らぬ古代人の感覚に悩んでいる俺が不思議だったのだろう。


「……あの、市長?」


 何も言いだそうとしない俺に、アルノーはそう問いかけてきて……俺は要らぬ思索を放り投げ、すぐさま聞きたかった言葉を口にした。


「テロリストたちの狙いは、やっぱり俺か?」


「……え、ええ。

 その市長はここ数日で、価値を上げておられますから……」


 俺の問いに対するアルノーの答えは、幾分躊躇いながらではあったが、俺の問いを是とするものだった。

 返答を躊躇ったのは先ほどの……狙われているという生命的危機感が精子作成能力に対する云々というアレだろうか?

 

 ──数日っていうと……どれだ?


 俺の精子作成能力がこの時代の男子の30倍ほどと判明した件だろうか?

 それとも俺の遺伝子が男女比1:1を実現してしまうという……まだ噂段階ではあるが、世間一般に静かに浸透して行っている情報のこと、だろうか?

 どちらにしても狙われる心当たりしかなかった俺は、溜息を大きく一つ吐き出すことで、憂鬱になりかかった気分を切り替える。


「ここ数日は、2日に1度のペースで襲撃があります。

 当然のことながら、テロリスト程度に破られる都市防衛システムではありませんので、全て撃退しておりますが」


「……マジか」


 俺が思っていたよりも遥かに凄まじい襲撃ペースに、俺は思わずそんな呟きを零していた。

 実際問題として……幾らテロリストとは言え、命懸けで襲撃して来ているのである。

 たかが精子に、と考えてしまうのは俺の感性がこの未来社会に追いついていないからだとは言え……それでも、だ。


「しかし、それなら散発で襲って来ずに、連携すれば良いものを……」


「残念ながら、テロリストに合理性や計画性を求めても無駄かと。

 彼女たちは自らの人生すら計画的に組み立てられず散漫に過ごした所為で教養も技能もなく、誰かと連携するほどの人脈も存在しておりません」


 俺のぼやきに対するアルノーの回答は非常に辛辣なもので……その言葉は21世紀で何の計画もせず日々を過ごし、教養も技能も存在していなかった自分にまで突き刺さっていた。


 ──いや。測量士の資格くらいは、あった筈、だよな?


 まぁ、そんな俺のあやふやな記憶の、あったかどうか分からない資格にしがみついてなけなしの自尊心を守ろうとする心の働きはどうでも良くて。

 実際問題、アルノー警護官リーダーの語った通りなのだろう。

 基本、この未来社会のテロリストたちとは、前に猫耳族の時に調べた通り、基本的に誰もが都市外の生活者であり……彼女たちは貧しく、税を払えないが故に子供を産むための胤にありつくことすらもできやしない。

 女性だからこその一発逆転……要するに「男児を授かる」というシンデレラコースに乗る夢すら抱けないからこそ、子供の()を求めるがあまり、暴力という原始的な仕組みに飛びついてしまっているのである。


 ──夢も希望もありゃしないな、相変わらず。


 とは言え、考えてみれば21世紀でも既に安い賃金で働いて家庭を持つ将来像すら見えず、自棄になって犯罪に走る、所謂「無敵の人」は幾らでも存在していた。

 要するに彼女たちはそういう存在なのだ。

 だからこそ、強盗やら暴動やら……21世紀でも普遍的に存在していた犯罪行為に、彼女たちは飛びついて、そのまま海の藻屑へと消えて言っているのだろう。


「……救えねぇなぁ」


 この辺りの背景が、今は眠りについている正妻(ウィーフェ)リリス嬢が『人類救済計画』なんてものを書き上げていた、その理由なのだろう。

 今更ながらにそれを実感した俺は、再びの溜息を吐き出した……その時、だった。


「警報っ?」


「テロリストっ、またかっ!」


 その警報はまさに本日2度目のテロリスト襲撃を告げる音だった。



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