~ 迎撃 ~
そうして三姉妹警護官のスカート中身へとちらちらと視線を向けつつ、彼女たちの存在意義について思考を巡らせている間にも、戦局は変わっていた。
「……っと、もう一機墜落、か。
圧倒的だな」
当たり前の話であるが、テロリストの突発的な攻撃如きでは都市の防衛機能を破ることすら叶わないらしい。
もう一機の輸送船が前面に展開していた仮想障壁が、電磁加速砲の飽和攻撃に耐えられなくなったらしく、次の砲火は胴体に直撃……この機体の乗組員たちは飛行ユニットでの脱出すら間に合わなかったようで、テトリスとたちは輸送機と運命を共にし、そのまま爆散してしまう。
「おっし、あと一機っ!」
「けど、コレ……あたしたちの見せ場がなくね?」
「……私たちはあくまでも最後の砦。
出番がない方が良い」
頭上では欠片も出番がなかった警護官たちがそんな会話をしていて……彼女たちも自分たちの存在意義について思考を巡らせているようだったが。
まぁ、そんな不本意にも恋人候補になっている連中のことなんて、今はどうでも良くて。
「後は消化試合、だな」
当たり前の話であるが、3機の輸送機相手に分散していた都市沿岸の電磁誘導砲が1機に集中した時点で、火力が今までの3倍となる。
そもそもの話、輸送機が搭載しているバッテリー程度では、都市の持つエネルギーと真正面から競り合って勝てる筈もないのだ。
そうして都市の火力を真正面から受けた最後の一機は瞬時に穴だらけになり……爆散して果てる。
……だけど。
「適性勢力、散開を確認っ!
第二は各個で撃破をっ!」
この機体に載っていたテロリストたちは少しばかり練度が高かったようで……もしくは爆散まで少しばかり時間があったか、それともただ1機目2機目の撃沈を見て備えていただけかもしれないが。
兎も角、彼女たちは緊急離脱が間に合ったようで、俺のBQCOによって眼前に投影された仮想モニタには、小さなテロリストのマークが12個ほど散らばったのが見えた。
当然のことながら、アルノーはその事態も予期していたらしく、すぐさまBQCOを通じた命令が下され……
「第二、了解っ!
飛行ユニットでの交戦に入る」
そして、これまた当然のように第二都市警護隊もその命令が下ることに備えていたらしく、アルノーの命令が下った2秒後には湾岸部から彼女たちが飛び立つ様子が見えた。
そんな第二都市警護隊の隊員数はざっと見ただけでも30名ほどであり……
──いつの間に、警護官ってこんなに増えたんだ?
彼女たちを見た俺は、そんな今さらながらの疑問に首を傾げる。
尤も、俺がただ知らなかっただけであり……都市人口がゼロの頃から警護官は5人も雇っていたほど都市の防犯意識は高く、都市人口5,000人にもなった今となればそれに比例した数の警護官を雇っていてもおかしくはない。
ちなみに、21世紀における警察官の人口比は凡そ1/500……21世紀と同等の比率とすれば、現在の人口が5,000人を超えた海上都市『クリオネ』では、警護官が100人くらいを雇っている計算となる。
ついでに言うと、『ペスルーナ』を併合した関係で、少しばかり警護官に余剰が出ているという話だったので、我が都市は他の都市よりも少しばかり多めに警護官が常駐している筈である。
「しかも、現在進行形で鋭意募集中だからなぁ」
今は休暇中ではあるが、あの優秀な正妻のことだ。
俺の精子作成能力が明るみに出た段階で、こうしてテロリストの襲撃を受けることも予期し、警護官の増員を進めているに違いない。
あの金髪碧眼の少女の優秀さ、卒のなさについては、今までの実績から口に出さなくても十分に信頼している。
実際にBQCOを使って調べてみると、確かに警護官の募集は行っており……移民募集よりも遥かにすさまじい倍率で競争が為されていると分かる。
……命懸けの労働さえすれば確実に精子を手に入れられる警護官に対し、移民よりも応募者が殺到するのは、ある意味では仕方のないことなのかもしれない。
「お~、やっぱ第二は手堅いな、数を生かして上手く追い込んでる」
「そりゃ、元々『ペスルーナ』のベテランたちよ、上手いに決まってる」
「……経験の差」
そうして俺が検索結果を脳みそで処理していたところ、頭上で三姉妹が交わしている会話が耳に入って来る。
どうやら第二都市警護隊と言うのはどうやら併合した海上都市『ペスルーナ』の警護官だったらしい。
そして彼女たちが口にしている通り、手堅いベテランの戦い方をしているのだろう。
正直に言って、飛行ユニットを用いた三次元戦闘については、戦術すらさっぱり分からないのだが……うちの警護官たちが上手く連携し、数の差を生かして戦っているように見える。
──今度、ゲームで使ってみるか。
そうして眺めている間にも、数と練度に勝る第二都市警護隊とテロリストとの戦いは純粋なパワーゲームの様相を見せ始め……数が多い方が一方的に押し切るという面白くもなんともない展開が待っていた。
結果、3分もしない内にテロリストを示す識別信号は俺のレーダーから消失し……戦闘は終了したらしい。
「あ~、終わった終わった」
「これで待機解除か。
休暇中も遠慮なしだからなぁ、テロリスト共」
「……それが仕事、待機中でも給与は出る」
適性勢力が消失し、頭上の3姉妹警護官が武装を下ろしてそんな軽口を叩き始めた時点で、気付けば俺は大きく安堵の溜息を吐き出していた。
この場が都市で最も安全な場所だったとは言え、そして防衛戦力が十分にあると理解していたとは言え……我が身が狙われていたという事実は、それなりにストレスを与えるものらしい。
「……しかし、テロリストの襲撃なんていつ以来だ?」
以前の猫耳族テロリストを思い出した俺は、何となく感傷的にそう呟いて見せる。
事実、あれからそれなりの月日が経過しており……
──ん?
その瞬間だった。
またしてもBQCOが気を利かせたらしく、俺の脳裏へと「海上都市『クリオネ』の防衛記録」という情報が入って来たのである。