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【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第二十一章「鬼の居ぬ間の」
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~ 人の口に戸は立てられぬ ~


「あの都市で生まれる子供はっ!

 男の子と女の子が、同じ数だという、噂話をっ!」


 『トランプクイーン』がその話題を口にした瞬間、場の空気が一変した。

 事実、どちらかと言うと空気を読むのが苦手だと自覚している俺ですら理解出来るレベルで空気が変わってしまったのだから嫌でも分かる。

 彼女たちは俺の一挙手一投足まで意識を払っているし、俺自身もこの凄まじい重圧の中、息を吸うことすら叶わなくなっていた。

 実のところ、先ほど転んだ『ジャバウォック004』と巻き込まれた『ナイト』の二人が、起き上がる動作すら途中で止めてこちらの回答を意識しているのだから、分からない訳がないのだが。


「……ど、どこからそんな噂話が?」


 そうして注視されている中で、重圧を振り払って俺が最初に行ったのは、噂話の出どころ確認だった。

 彼女たちに嘘を吐きたくないというのが3割、実際に噂の出どころを確かめたかったのが3割……そして残りの4割は、この噂話を肯定して構わないかどうか今一つ判断がつかなかったので話を逸らしたかったから、である。

 尤も、否定しなかった時点で「彼女たちの問いを肯定している」と、俺自身にも分かっていたが。


「……出生補助金の履歴から、です。

 最新の補助金支出予定が海上都市『クリオネ』に集中しておりましたので」


「……バレバレやんけ」


 『トランプクイーン』の告げた答えに、俺は思わず額を抑えて、そう呻いていた。

 現実問題として、この600年後の未来社会においては政府支出は可能な限り透明化されており、誰であってもB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を通じ、政府支出の微細に至るまで閲覧することが可能となっている。

 とは言え、政府支出なんて面倒なコンテンツをわざわざ見ようと考える人なんてそうそういないのが現実だったが。

 21世紀においても、住民は政府・地方自治体に対して開示請求が可能だった訳だが……そのことを知ってはいても、その面倒な手続きを実際に行い権利を行使した人がどれだけいたか、という話でもある。

 勿論、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)によって簡単に閲覧が可能となっているからこそ、政府支出なんざを必死に監視している奇特な人がいてもおかしくは……


「発見したのは連邦政府職員の一人です。

 ……瞬時にその情報は拡散され、お陰であまり世情に詳しくない私たちでも知ることとなったのです」


「……機密漏洩ェ……」


 続けて発せられた彼女の言葉に、俺はまたしても呻き声を上げてしまう。

 仮にも政府職員が率先して情報を漏洩するなんて、職務倫理はどうなっているのか小一時間ほど問い合わせたいところである。

 勿論、それらの情報が誰でも閲覧可能な代物でしかなく、彼女たち職員が守秘する(・・・・)必要すらない(・・・・・・)モノだと分かっていても、だ。


 ──しかし、こんなに早く……


 実際のところ、リリス嬢が休暇を申請してからまだ僅か1日……いや、正確に言うと1晩も経っていないのだから、凡そ8時間強といったところでしかない。

 それでもう情報は世界中の末端まで……あまり情報の最先端とは思えないこんなマイナーゲームの集いでも噂されているのである。

 もう情報は文字通り世界中に広がっていると考えても不思議ではないだろう。

 それほどまでに男子出産予定のニュースは世界中が注目している最もホットな話題なのかもしれないが。


「……ぅげ」


 ふと気になった俺は、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を通じて、海上都市『クリオネ』への移民申請者数を検索し……すぐさまその情報を遮断する。

 知らぬ間に移民希望者が天文学的な数字になっていて……何度確認しても地球連邦に所属している人口の数倍(・・)に達しているのは、恐らく一度落ちた人が諦めきれずにもう一度と申請をしている所為だろう。

 もはや応募者の重複数をソートして、実人数を計測する気力すら湧かなかった俺は、首を振ってそれらの情報を追い払うと、眼前に座る女性たちの方へと視線を向ける。


「……噂は、本当、だった、のか……」


「……神よ……」


 ちなみに先ほどから一切否定をしなかった所為か、『ジャバウォック004』と『ナイト』が中腰の変な態勢のまま、空を仰ぎ始めている。


 ──信仰自体は廃れてないのか……


 この600年超の間に、一夫一妻制度が絶対としていたキリスト教が邪教扱いされているのはどっかで調べたことがあったのだが……そうすると今『ナイト』が祈っている神は一体何なんだろう?

 もしかしたら、キリスト教もイスラム教も大本はそう大差なかった筈なので、時代の流れの中で再統合されたのかもしれない。

 そもそもの話として、その二つ以外の宗教が主流になっている可能性もあるのだが……今は眼前の『トランプクイーン』が放つ眼光に圧されていて、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)で宗教事情について検索をするどころではない。


「で、では……海上都市『クリオネ』は、本当に、空前絶後の男子ブームが訪れている、と?

 も、もしかして、貴女も男子を身籠ったり、とか?」


「……ある訳ないだろ、そんなの……」


 取り合えず絶対にあり得ない仮定を口にしやがった『トランプクイーン』を、俺はやる気なくそう一刀両断してやる。

 しかしながら、人口5,000の都市で220人が妊娠、その約半数が男子を身籠っている訳だから、確率にして都市人口の約2%程度が男子を身籠っている計算となる訳で。

 現状の、男子が生まれる確率0.0009%から考えると、凄まじく高い確率であり……こうして会話している相手が男子を孕んでいるこ事態、あり得ないとは言えない数字なのだろう。

 当然のことながら、その仮定には「俺が絶対に妊娠できない性別である」という根源的な問題が立ちはだかっていたが。


「で、では、ゆ、友人による移民手引きは使えます、か?

 ……その、他の都市ではそういう制度を利用しているところも、あります、ので……」


 今まで口を開かなかった『白兎』が、まるで機を窺っていたかのように唐突に口を開くと、そう言葉を発していた。


「……手引き?」


 俺は全く身に覚えのなかった単語に目を瞬かせるが、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)で検索したところ、どうやら実際に「知人・友人枠として移民を少しでも自都市に引っ張って来る」という制度があり、他の自由意志の移民と比べて若干ながら税制や住居選択等が有利に働くようだった。

 基本的に発展途上の都市だと人口増は切実な願いであり、こういう制度を利用しているのは理解できる。

 ……出来るのだが。


「……だけど、なぁ?」


 俺が友人枠(・・・)を利用してしまうと、市長権限が最優先される都市のシステム以上、彼女たちは現在の希望者超過の状況でも間違いなく移民可能となってしまうのが明白であり……

 俺は彼女たちの望みを叶えてやるのか、それともどうにかその辺りをぼかして彼女たちを宥めるか……その2つの選択肢に頭を悩ませることとなったのだった。



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― 新着の感想 ―
完全に善意だけで考えても、今すぐ彼女たちの移民を許可するのが最善となるか、微妙だからなぁ
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