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【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第二十一章「鬼の居ぬ間の」
157/188

~ うわさばなし ~


「ようこそ、『クリ坊』さん。

 私は『トランプクイーン』……まぁ、とっくにご存じとは思いますが」


 『お茶会』とやらに招かれた俺が、周囲の異様さに驚いている暇もなく……主催者であるこのゲーム最古参の女性は俺にそう話しかけて来た。

 ……『トランプクイーン』。

 この「物理的処置済みの全身機械化警護官の体験ゲーム」において、何のカスタムもしていない初期装備の雑魚機体で最強を誇る女王である。

 勿論、勝率での最強というだけであって、所詮は初期装備の雑魚機体……スペックにモノ言わせれば俺であってもたまには(・・・・)勝てたりするので、強過ぎて相手するのが嫌、とまではいかない相手である。

 今回も彼女の義体(からだ)そのものは初期設定のまま、ただし衣類すら必要のない筈の鋼鉄の義体に何故かルネサンス辺りの派手なドレスを身にまとっていて……もしかしたら二つ名である女王を意識しているのかもしれない。


「ははっ、まぁ、遠慮するなって。

 ほら、こっちへ座れよ」


 そう言って俺を誘うのは右腕が極端に肥大化し、背中には巨大なブースターを背負い、しかも身体のあちこちに突起が生えているという、非常に私生活が難しそうな義体だった。

 ……『ジャバウォック004』。

 棘は最近、俺の寝技に対抗するために生やした代物であり……それにも関わらず、肥大化し異形と化した右手でカップを持ち、生身と変わらぬ器用さを見せつけながら紅茶を飲んでいるのだ。

 凄まじい習熟訓練の成果と言えるだろう。

 これが実生活で全く評価されない、ゲームをするためだけの技能でなければ、心の底から賞賛を浴びせたいところである。


「はははっ、まぁ、少しだけ話があるだけさ。

 ……頼むから、少しだけ付き合ってくれ」


 そう告げて頭を下げて俺を誘ったのは、最後の一人である『ナイト』だった。

 鈍色の重装甲に身をまとった彼女はその自重の所為で椅子に座ることが出来ないのか、地面に置いた自らの大楯に座り込んでいる。

 そんな彼女もしっかりと重装甲で覆われた極太のアームで軽食……マカロンっぽいお菓子を食べているのだから、本当に彼女たちの熟練度は凄まじいものがあった。


 ──いや、それ以前に……

 ──義体で、飲み食い出来るのか?


 まず俺の脳裏を過った疑問はそんな至極真っ当な、だけどこの場にそぐわない代物だった。

 幸いにして俺がその疑問を口に出すことはなく……便利なB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)君が答えを告げてくれていたが。


 ──仮想現実空間でのみ可能な、飲食可能モード。

 ──現実の場合、完全に義体と化している警護官は、脳を維持する最低限の栄養素で十分であり、食事の必要性は薄い。


 B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)が告げた答えに、俺は「そりゃまぁそうだろう」という感想しか抱けなかった。

 確か以前、脳以外に生身のない警護官が「自分が人間である」という認識を忘れさせないよう、仮想現実空間で飲食を嗜んでいるとか調べたような……恐らくこの「飲食可能モード」は、生身の身体の感覚を捨ててまで警護官一筋に生きようとする女性のための精神安定剤のような効能なのだろう。

 

「で、何なんだ、話って?」


 どう見ても待ち構えられていた様子を見る限り、非常に面倒くさそうな雰囲気なのでとっとと逃げ帰っても良かったのだが……『ナイト』には頭まで下げられているし、それ以外の女性たちとも何度も何度もぶん殴り蹴飛ばし叩きつけ、幾度となく殺し殺された仲である。

 ……今後もこのゲームを楽しみたい俺としては、ここで縁を切るのは少しばかり惜しいと思ったのだ。

 そんな決断を下して席に着いた俺が、仮想現実内のデータとして眼前に現出した紅茶に口を付け、バラの香りの紅茶という今までの人生で全く馴染みのなかった飲み物の、激しい違和感に顔を歪める。

 いや、歪めようとしたものの、顔面も義体であったため、思った通りの表情を浮かべられたかどうかは全く自信がなかったが。

 俺がそうしてバラの香りの紅茶という、我が人生における異物(・・)としか表現のしようのない味わいを楽しんでいる間にも、俺をここに誘った『白兎』が、開いている席に腰を下ろし。

 そして、その着席を合図として、『トランプクイーン』が口を開く。


「あ~、その、えっと、なんと申しますか……その~」


 だけど、彼女の口から放たれた言葉はそんな全く意味をなさないものであり……その様子に「彼女たちが訊ねようとしているのは、非常に口にし辛い質問だ」と悟った俺は少しだけ緊張し、自ずと背筋を伸ばしていた。


「ったく、しょうがねぇな、婆。

 おい、『クリ坊』っ!

 あくまでも予想でしかないが……お前は海上都市『クリオネ』に住んでる、で間違いねぇよな?」


 最年長と思しき女性の歯切れの悪さに苛立ったのか、『ジャバウォック004』が身を乗り出したかと思うと、叫ぶような勢いでそう訊ねて来た。


「……あ、ああ、そう、だが」


 俺としては別に隠していたつもりもなければ、別に住んでいる都市がバレたところで大したことはないと思っていたため、素直にそう頷いてしまう。

 ……それが、間違いだったのだろう。


「うぉっ、訊ねておいて、マジなの……うぉわっ!」


 俺が頷いた途端、聞いてきた本人である『ジャバウォック004』が驚きのあまり身を乗り出し……肥大化した右腕の重量にバランスを崩したのか、それとも右腕の膂力が想定以上に凄まじかったのか、テーブルを巻き込み、ついでに自分の盾に腰かけていた『ナイト』までも巻き込んで転倒してしまう。


 ──もしかしてコイツ……咄嗟の出来事に弱いのか?

 ──だったらだったで、やりようはある。


 次の対戦の際には「意表を突く何か」を用意して来ようと、俺は未来の喧嘩に思考能力の大半を費やしていたのだが……生憎と周囲はそれを許してはくれなかった。


「やっぱりかっ!

 名前から関係者だとは思っていたんだっ!」


 そう告げたのは、『白兎』であり……彼女たちがどうして俺が海上都市『クリオネ』居住者だと突き止めたかを語っていた。


 ──すっげぇ浅い推理じゃねぇか。


 それほどまでに俺のネーミングセンスが適当過ぎるというのもあるのだろうが……この程度の推理を自信満々に語る辺り、俺の最大の好敵手であるこの『白兎』は、実のところ脳みその回転があまりよろしくないのではないだろうか?

 もしくは彼女たち未来人全体が、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)に頼り過ぎていて類推能力が著しく低下しているか。

 どちらかというとこの辺りの考察は、男性権限を用いてようやく閲覧できる学術系の論文に掲載されているとは思うのだが……実のところ、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)による検索結果には似たような論文が38本も引っかかる辺り、俺と同じ疑問を抱いた未来人は幾人もいたらしい。

 ちなみに結論としては不明であり、加えて「今どきの若者は」という趣旨の論文がほとんどで……この辺りはピラミッドに書かれていたとかいう落書きにもあり、600年が経過しようが6,000年が経過しようが、そう人類は大差ないという証拠でもあるようだ。

 閑話休題。


「そ、そんなことよりも……今、流れている噂話は、あの噂は事実なのですかっ?」


 俺のそんな考察を他所に、椅子に座ったままのもう一人の女性……『トランプクイーン』が完全に興奮し、常軌を逸するほど上ずった声でそう訊ねて来る。


「あの都市で生まれる子供はっ!

 男の子と女の子が、同じ数だという、噂話をっ!」


 ……そんな、まだ一般には公表されていない筈の、地球連邦政府破滅の因子とされる情報を。

 


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― 新着の感想 ―
未来になっても 噂は… というか現代ですら噂に振り回されてるしね
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