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~ 妊娠その2 ~


 誤解がたったの100秒で解けたのは、恐らくユーミカさんの年齢がこの未来社会においても少しばかり(・・・・・)妊娠には(・・・・)適していない(・・・・・・)から(・・)、だったのだろう。

 勿論、生物学的においても技術的においても不可能ではない。

 ただし40歳が近くなった子宮から作られる卵子は染色体異常を発生しやすいと統計にあるらしく……結果として、染色体異常を起こした受精卵は事前の染色体調査で弾かれてしまう。

 だからこそ、子宮の交換をしてもいない、適齢期を超えた女性に対して精子が提供されることは珍しく……これも考えてみれば当然であり、都市側からしてみると、高額納税者から順に精子を配るとは言え、配った精子が無駄に廃棄されるよりは、きっちりと受精・妊娠・出産をして貰いたいからだ。


 ──いや、違うか。


 純粋に都市の損益だけを考えると、費用のかかる出産育児をされるよりも、精子を配って税を払ってもらった上で、子供が生まれない方が利益は最大化する。

 だからこそ、適齢期外の女性に対して精子提供が遅くなるのは、都市側の意向ではなく……同じ女性からの意見が原因、である。

 これはB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)で検索した結果であるが……「あんな女に精子やって無駄にするくらいなら若い私に寄越せよ(意訳)」という意見が多いとのことである。

 ちなみに提供元である男性の意見はもっと身も蓋もなく、「どうでも良い」が殆どらしい。

 そもそも男性からしてみれば、大半の女性は性犯罪予備軍の汚らしい存在だから、まぁ、こんな意見になるのも仕方ないのだろうけれども。


 ──昔も、一部女性がこんなんだったっけなぁ。


 女性の敵は女性である、だったか……そんなことわざがネット界隈で流れていたような覚えがあるのだから、600年余りの月日が経過した程度では人間はそう大きく変わっていないというだけの話ではある。

 閑話休題。


「で、妊娠の話だったか。

 えっと、俺が知りたいのは……」


「いえ、理解しました。

 正確には、冷静になったので理解出来たというべきですが」


 ちょいとばかり変な聞き方をしてしまった所為で流れ始めた微妙な空気を取り繕うように、俺は会話を元の流れに引き戻す。

 幸いにしてユーミカさんも混乱からは復帰してくれていたようで、そんな前置きと言うか、先ほど混乱していた言い訳を口にすると、すぐさま俺の知りたい内容を語り始めてくれた。


「基本的には人工授精となります。

 妊婦の身体から一度摘出された卵子に対し、精子を受精させることで受精卵を生成、細胞分裂開始を待って子宮へと戻します。

 このタイミングで、染色体調査を行い、異常がないかと判定しているようです」


 そう語るユーミカさんの背後には、どこまで見たことあるような模式的な精子と卵子が浮かんできていて……何となく俺は「子供用の教科書みたいだな?」と感じていた。

 事実、直後にB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)によって、この語り口と教材が、女子児童が小学生低学年辺りで脳へと直接インプットされる教材だとネタバレされてしまう。


 ──顔、赤い訳だなぁ。


 彼女の主観を21世紀の事例に当てはめてみると、性に興味が出始めた十代前半の男子()に向けて、モテ経験ゼロの40手前処女OLが保健体育を教えているようなものである。

 外観上は年齢差があり過ぎて自分が射程圏内にないと悟っていても、妙に意識してしまうのは避けられない、という感じだろうか。

 頑張っている彼女には悪いが、ぶっちゃけた話、こうして彼女から話を聞く必要なんて欠片もなく、妊娠についての基礎知識なんざ、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を使えばコンマ一秒で脳みそへと直接転記されるのであるが。

 ……だけど。


 ──羞恥系OLは大好物なので、このまま聞かせて貰うとするか。

 ──実年齢的には、新人OLどころかお局様に近いものはある訳だが……

 ──仮想現実内では若い姿……新人OLに見えるから、良しとしよう。


 ……そんな俺の邪悪な内心に気付くこともなく、と言うか説明にいっぱいいっぱいで俺の内心どころか、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を使えば済むという簡単な事実に気付く余裕すらないユーミカさんは、必死に説明を続けていた。


「受精卵はその後、子宮内に戻されます。

 技術的には、保育カプセルでの成長も可能なのですが……子宮に戻される際、仮想空間内ではありますが、市長と、その、子供を授かる行為を行う夢を見ることが出来るのです。

 ソレは、本来ならば使用者の精神を護るため、リミッターが設けられている仮想現実の、リミッターが唯一合法的に外れる、凄まじい快楽を伴う行為とのことで……その、一度経験するともう一度を望む女性は多いと聞きます」


 ユーミカさんはあまりにも必死で説明し過ぎたのだろう。

 どうやら彼女は受精卵を胎内に戻す際の、あまり市長側に教えるべきではない女性側の特権まで口にしてしまった模様である。

 何しろ彼女が口にした言葉を要約すると「これから妊娠する私は、仮想現実内であなたをおかず(・・・)にします」と堂々と宣言したのと同義なのだから。

 まぁ、21世紀男子である俺としては、別に自分がそういう行為に使われたところで気にもしない訳だが……この時代の男子だと嫌悪感しか覚えないのではないだろうか?

 ちなみに、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)で検索してみると、女性の間で『一夜の夢』という隠喩で呼ばれているらしく、当然のように男性に聞かせるのは厳禁との注意書きもあったが、そこには目を瞑っておくとして。


 ──仮想現実にリミッターがあるってのは理解出来るな。

 

 人間とは、良くも悪くも慣れる(・・・)生き物だ。

 そして快楽に対してはとことん貪欲で……仮想現実内で好き勝手出来るのなら、要求がどんどんエスカレートしてしまうのは目に見えている。

 事実、21世紀で聞いたことのある話……記憶がほぼ吹っ飛んでいる俺にしては珍しく、具体的に思い出せるけれど思い出したくない話なのだが、快楽を得る行為が徐々にエスカレートした結果、肛門科にあり得ないレントゲン写真を撮られるような真似を仕出かす、と聞いた。

 だからこそこの未来社会においては、仮想現実で得られる快楽に一定のリミッターを設け、使用者の保護をしているのだろう。

 閑話休題。


「とっ、兎に角、そうして胎内に受精卵が定着させることで、女性は妊婦となる訳です。

 この時点で男女どちらかは分かっておりますので、妊娠出産一時金が都市から提供されるようになりますね」


 口を滑らせたと実感したのだろう。

 ユーミカさんは咳払いと共に、話を強引に方向転換させてしまい……その勢い任せの口調からはすっかり恥じらいは消えてしまっていた。

 もう少し恥じらう様子を眺めたかった俺として若干残念に思うものの……どうやら『一夜の夢』と口を滑らせたことに気付いて血の気が引いてしまい、恥じらいどころではなくなったのが真相らしい。

 まぁ、それはそれとして。


 ──受精卵をわざわざ胎内へ戻す、のか?

 ──不合理極まりない気がするが……


 最年長警護官の説明を受けても、その一点に納得のいかなかった俺は、顔に出さないよう気を付けつつも、内心で首を傾げるのだった。


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― 新着の感想 ―
どこのバ○・ライ○イヤーとブラギ○スなんだ全然わからないぞ(棒)
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