表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第十八章「都市併合」
138/188

~ 都市併合 ~


 都市『ペスルーナ』……人口2,985人の海上都市である。

 最盛期は人口8,986人を誇ったその海上都市も、高齢となった市長の精力がほぼ枯渇したことと、精子の老化に伴う染色体異常が増えたことにより人口は次々と減じてしまい……人口はもはや3,000を切る始末。

 それでもしっかりとした海上都市の基礎と建物は残されており、都市の縮小を嫌った正妻(ウィーフェ)が資材の売り払いを拒否していた。

 と言うのが、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)から送られてきたその併合を同意した海上都市の詳細である。


 ──人口、俺たちの都市より大きいじゃねぇか。


 もはや併合と言うよりアンコウの雄の如く吸収される側になっている気もするが……実のところ、企業やら国家と違い、この未来社会の都市ではその心配はない。

 何故ならば、都市の根幹は人口や土地、社員や設備ではなく……ひとえに市長の精子だから、である。

 そう考えると未来社会の基盤そのものが歪すぎる気がするが、まぁ、この感想も今さらか。


「ペスルーナ市長は自らの精力減衰を認め、もう都市の維持が不可能であることを明言しました。

 その発言をもって、都市『ペスルーナ』の併合が承認されております」


「……要するに、EDか」


 他人事ではない……文字通り数日前までの俺が悩んでいた症状に陥った先達の決断に、俺は心の中で脱帽して敬礼する。

 認めるのに並々ならぬ苦悩があっただろうと推測できる……事実、俺もこんな弱々しい小学校高学年か中学生入りたてみたいな身体になっていなければ、もっと絶望していたことだろう。


「彼らの主張は、自分たち……市長と正妻(ウィーフェ)恋人(ラーヴェ)の老後の生活費と自宅の留保、そして市民の保護です」


「……正直に聞くが、可能か?」


 2,000人の都市で3,000人の難民を受け入れるような事態に対し、俺は素直にそう訊ねることとした。

 俺のこの思考は、恐らく21世紀に流行った「少子化が進んだ所為で後期高齢者が増加、現役世代による介護負担の深刻化」が気になったから、だろう。

 尤も、食料すらミドリムシ加工の餌と化し、楽しみと言えば仮想現実でのあれこれ、労働力のほとんどを機械化しているこの未来社会で、果たして介護費用とか必要なのかと思ったりするのだが……

 現実問題として、健常者が生きるだけでも仮想現実でのコンテンツ費用や著作権、電力消費量などの費用は確実にかかり……更に老人介護となると仮想力場を利用した介護服や仮想現実に逃げ込んでも身体能力を維持する服など、健常者では不要だった都市機能が必要となり、やはりそれなりの追加費用が発生する。


「可能です。

 ペスルーナ市長と正妻(ウィーフェ)恋人(ラーヴェ)の扶養自体は都市財政の0.1%以下ですので特に問題になるとは思えません」


 とは言え、そんなのが必要なのは市長や正妻(ウィーフェ)恋人(ラーヴェ)までである。

 その費用については、正妻(ウィーフェ)であるリリス嬢が告げた通り……都市全体として考えるとそう大した金額になりはしない。

 ついでに言うと、ペスルーナ市長によって保護を求められた都市に住む女性たちはあくまでも子供を欲する年齢であり、老齢介護が必要な存在ではない。

 実のところ、そんな高齢者はとっくに税金の問題によって都市から追い出されている。


「ペスルーナ市民についても同様で、大きな市税の滞納は見られず……唯一の懸念は、子宮の取り換え手術によって医療課が順番待ちになることですが……」


「何だそりゃ?」


 思わず俺はそう呟いてしまったが、まぁ、我が正妻(ウィーフェ)であるリリス嬢が告げた内容に心当たりがないことはない。

 21世紀だったか20世紀だったか……どっかの誰かが羊水が腐ると放言して大問題になった記憶が微かに出て来るが、実際のところ出産の適齢期は10代後半から20代前半だったか後半くらいまでで、それ以降は卵子の老化が激しく、染色体異常が発生しやすいのは21世紀の頃から通説になりつつあった。

 この未来社会でもそれは同じで……30代後半で出産しようとすれば、受精卵の染色体チェックで潰される可能性が著しく高まってしまう。

 そのため、高齢化した子宮を切除し、万能幹細胞を用いて新たに作成した子宮と取り換えることで、高齢出産をしても染色体異常のリスクを減ずることが可能である。

 ちなみにこのやり方も母体には大きな負担をかけるためあまり推奨された行為ではなく……だからこそ女性よりも著しく体力に劣る男性は手術に耐えられる可能性が更に低く、それ故に睾丸取り換えを行う者はごく少数となっている、らしい。

 後は、新しい睾丸が身体に馴染み精子を生成し始めるまでに精通と同じく一年近くかかるらしく……それを考えると、多少効率が悪くとも古い睾丸で頑張って貰った方が結果として多くの子供が生まれるようである。

 まぁ、そんな事情がなくとも、今のところ健康な俺ですら聞くだけで股間がひゅんとなってしまうので……俺と同じ感覚の男性は多いに違いない。

 ……という情報を、俺はB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)で獲得した俺は、軽く頷くと、正妻(ウィーフェ)の方へと振り向く。


「それに伴う式典等は?」


「発生します。

 基本的な準備は私の方で行っておきますので、また挨拶をお願いします。

 この併合によって都市面積の上限が凡そ人口3万人ほどとなり、都市計画の立て直しが必要となりますので、新たな計画に承認をお願いします。

 幸いにして、元々こちらの都市面積を拡張中であったため、ペスルーナ側の市民が暮らす区域との間に緩衝地帯が生まれ……都市併合で懸念される市民同士の軋轢も少なくて済むでしょう。

 加えて言うならば、ペスルーナで余り気味だった警護官を雇い入れることが可能となるため、人手不足気味だった我が都市にとってはむしろ損失が少ないのが実情です」


「……なるほど、な」


 リリス嬢の告げた内容に、俺は頷かざるを得ない。

 都市面積ばかりが広がって人手やインフラが全く足りていない我が海上都市『クリオネ』と。

 老化によって人口減が著しいものの、人手や施設そのものはまだ余剰がある海上都市『ペスルーナ』。

 要するにこの都市併合は、お互いがお互いの足りないところを補い合う、WIN-WINの関係に基づくものである、らしい。

 

 ──そんなに上手くいくかは分からないけどな。


 それでも、都市の運営実務を担当している我が正妻(ウィーフェ)リリス嬢が進める政策ならば、問題はないだろう。

 まだ一年も経っていない関係性ではあるが、少なくとも俺は彼女に全幅の信頼を……いや、男女関係を除いた彼女の政策能力や人柄は、信頼に値すると思っている。


「よし、その方向で進めよう。

 具体的な手順は任せた」


「はい、市長っ!

 このイベントが完了し次第、併合手続きに入る予定です」


 そんな俺の軽い頷きが、政策決定の最終判断となるらしく……俺の言葉に我が正妻(ウィーフェ)は頷いた後、すぐさま眼前の仮想モニタを開いて何らかの手続きを始めていた。

 俺の軽い言葉一つで簡単に都市運営が決まる事実に多少の怖気を感じつつも……まぁ、俺自身はただのハンコだと思い、その怖気を振り払う。


「……あ、そう言えば」


 ふと現状を思い出した俺が眼前の仮想モニタに視線を落としてみると……そこでは自分たちの行く末が決まったことを知りもしない市民たちが、狂乱状態のまま水鉄砲内部の液体をぶっかけ合う地獄絵図が未だに展開されていたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ