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【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第十六章「復活の日」
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~ 諫言 ~


「ここまでにしましょう」


「……了解、だっ」


 その日はアルノーと運動の日だった。

 勿論、スケジュール的に決まっていた訳ではなく、ただ暇になったのと彼女の非番とが重なっただけではあるが……基本的に真面目であまり休まないアルノーだからこそ、俺は彼女の非番にはなるべく運動を入れてしまう傾向にある。

 そのことについて三姉妹から苦情が入ったこともあるが……まぁ、あいつらは常に何か喋っているので最近は「どうせ大したことは言ってない」とあまり気にしてはいない。

 ちなみに直近の三姉妹からの苦情は、前回の戦闘訓練時に重武装のユーミカさんの尻を触ったことについてで……彼女たち曰く「恋人(ラーヴェ)候補の私たちがミニスカと水着を推しているのに、あんな野暮ったい服の女を触ったら、私たちの発言力が疑われる」だそうである。

 正直に言ってしまうと、さっぱり意味が分からない。

 しかしながら……


 ──やっぱバケモンだわ、コイツ。


 暫くの間、アルノーと一緒に身体を動かしていた訳だが……やはり本職の警護官だけあってか、持久力の桁が違う。

 VR空間を利用しているからこそ出来る『同じくらいの肉体強度』の設定で、同じくらいの時間、同じように身体を動かしている筈なのに、速度でも持久力でも全く敵わないのは、恐らく彼女の動きに無駄が一切ないから、だろう。

 要するに……身体の使い方そのものが違うのだ。

 もしかすると呼吸法すらも違うんじゃないかと朧げな記憶が何らかの知識を送って来てくれるものの、残念ながらその検証法すら思いつかない。


「ですが、市長も動きは良くなっております。

 男性とは思えないほどの精神力です」


「……そりゃどうも」


 アルノーが口にした褒め言葉らしきその一言に、俺は素直に頷くことが出来ないのは、まだ俺が21世紀人の感覚を残しているからか。

 肉体労働は全て女性が行い、スポーツも女性の独壇場と化し、更には男性はただ精子を出すだけの生き物……繁殖後は女性の身体の一部になるチョウチンアンコウにも似た生態となったこの未来社会では、運動能力は全般的に女性の方が高くなっている。

 尤も、そんな社会だろうと、せめて最盛期の身体能力を取り戻したい俺としては、もう少しばかり身体を鍛えようと考えていて……そのためにこうして彼女を付き合わせている訳だ。

 まぁ、彼女も生身の肉体の感覚を忘れないために運動する必要があり、また市長()の覚えもよくなるというメリットがあり……こうしてWIN-WINの関係というヤツを築けている。


 ──せめて、これくらいはなぁ。


 異性の目を気にする様子もなく、スポーツ用だと思われる最低限の面積しかない衣類を身に付け、まるで俺に見せびらかすかのように晒されたアルノーの身体に、俺はそう小さく嘆息する。

 現実問題として、アルノーの実体は鍛え上げられ引き締まっており、隆々とした筋肉が見え隠れする均整の取れた身体をしていて、その姿は筋肉だけを鍛え上げたマッチョの類ではなく、動くための筋肉……要するにスポーツマンとして理想の身体付きと言えた。

 それでいながら、南米系と思われる褐色肌の彼女はその血筋故かなかなか飛び出るところも飛び出ていて……今までの俺ならいざ知らず、性欲を取り戻しつつある今の俺には少しばかり目に毒な代物ではあったのだが。


「……そう言えば市長。

 昨日、あの三姉妹が街中で起こった喧嘩の仲裁中にスタンガンを発射、近隣家屋の壁を破壊しております」


「……またか」


 俺の視線から逃れるため、だろうか。

 アルノーは突如として仕事の話を口にし始め……もしかすると、俺が黙り込んで彼女の身体を眺め始めた所為で居心地が悪かった所為で話題を振ろうとしたのかもしれないが……彼女が語ったその内容を聞いて、俺は溜息を一つ吐き出していた。


 ──あの三姉妹はなぁ。


 やる気はあるのだ。

 少なくとも無遅刻無欠席で働いていて、毎日のように海上都市の上空を飛び回っているのを見かけているのだから、それだけは間違いない。

 ただ、たまに俺の部屋上空にある仮想障壁に腰かけてサボって……いや、休憩している所為で、スカートの中身が丸見えだったり、仮想障壁に張り付いて如何に俺の部屋を覗くかに苦心している姿を見かけたりと……


 ──我ながら言い訳が苦しくなってきたな。


 勘違いとは言え、俺の選択が原因で警護官として雇うことになったのだからと、頑張って自分を騙してあの三姉妹を援護しようとしていたのだが……まぁ、ぶっちゃけた話、あの三姉妹は警護官としてはあまり役に立ってない。

 と言うか、やることなすこと全てがそそっかしいのだ。

 なのでテロリストとの戦いの最中に俺の『自宅』に大穴を開けるような大ポカをやらかしたり、ちょこちょこと失態を重ね続けている、らしい。

 とは言え、その失敗報告は俺のところにはあまり届かないようになっていて……こうして警護官のリーダーをやっているアルノーが俺に口頭で伝えてきたこと自体が異例中の異例である。

 もしかすると、民家にスタンガン撃ち込んだ事件ですら、俺が聞いても起こらない程度の当たり障りのない案件を選んだのかもしれないが。

 ……それほどまでにあの三姉妹のやらかしは積もり積もって、ついに警護官のリーダーとして腹に据えかねた、ということだろう。

 実のところ、とっくにクビになってもおかしくないあの三姉妹が、何故ここまで優遇されているかなんて……答えは一つしかない(・・・・・・)のだが。


「ですが、あの三姉妹はその、選ばれた経緯が経緯ですので……正妻(ウィーフェ)リリスもあまり咎めることが出来ず……」


「……あ~、あ、あ~」


 ……そう。

 俺が迂闊にもミニスカートから覗けるパンツに惹かれて……正確には見てしまった罪悪感でではあるが、性的な好奇心から選んでしまったことで、彼女たち三姉妹は暗黙の了解として恋人(ラーヴェ)候補とされているのだ。

 だからこそ、彼女たちの仕事は基本的に俺の自宅上空のパトロール……当たり前の話であるが、全市民どころか世界中の人間全てにB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)が埋め込まれているこの未来社会では、不審人物という概念はなく、この自宅に近づこうとすると一発でバレる。

 つまりがパトロールなんて「無意味な業務でしかない」のだが、何故あの三姉妹がそんな無意味な仕事を押し付けられているかと言うと、迂闊に働かせると大惨事を招くからというのが三割程度。

 残り七割は、俺に下着がチラッと見せることで、俺の性欲が喚起されて精子の製造能力が増強することを期待されているから、である。

 要するに仕事内容だけを鑑みると、きっちり恋人(ラーヴェ)としての仕事を……市長の精神安定と性欲増進とを担っていると言えないこともない訳だ。


 ──挙句、それを彼女たちも誇りに思っているのが、なぁ。


 ちなみにこれは、平然とサボっている三姉妹を見咎めた俺が、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)経由で業務内容を調べたことがあり……しっかりと『業務として明記されていた』ので紛れもない事実である。

 とは言え、形ばかりとは言え警護官としての業務も行っており、その所為で他の警護官の業務に差し支えがある以上、アルノーとしてはあの三姉妹をどうにか異動させたい思惑があり……

 要するに、彼女はこう言っているのだ。


 ──あの三姉妹相手にとっとと一発ヤッて、恋人(ラーヴェ)にしてくれ。


 ……と。

 まぁ、この未来社会では男性の性事情はかなりセンシティブな問題らしく、正妻(ウィーフェ)でさえも男性に物申すことの出来ない最重要案件なのだが。

 それをこうして暗喩とは言えしっかり口にしてくれるアルノーは、恐らく自らの進退を賭けて言葉にしてくれており……それらの事情を考えると、彼女は文字通り忠臣と言っても過言ではない存在だろう。


 ──折檻諫言、だけっか。


 こういう言葉を何と言ったっけかと思い出そうとすると、突然、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)がそんな故事を引用してくる。

 生憎と俺の記憶では折檻と諫言が分離していたような気がするが……まぁ、耳に痛い言葉を言ってくれる相手を重用しないと、その国が亡ぶことは歴史が物語ってくれているのだ。

 要するに俺も俺で、形式上とは言え市長と呼ばれる立場である以上、暗君にならないよう少しばかりは汗をかかないといけない、ということだろう。


「……まぁ、あの三人と話をしてみる。

 それで良いな?」


「お手数をお掛けしますが、どうぞよろしくお願いします」


 結局、俺はアルノーに対してそう言葉を返し、アルノーは大きく頭を下げることで感謝を示してくれた。

 これは眼前の鋼鉄製の警護官に限った話かもしれないが……俺は600年を超える未来に生きている筈なのに、何故か俺が暮らしていた21世紀から200年以上も昔の、封建時代と呼ばれていた頃の趣を彼女の態度に感じ取ってしまうのは、本当に不思議な話である。


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