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【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第十六章「復活の日」
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~ 資材調達 ~


 結果として、一晩寝ただけで資材調達の目途は立ったらしい。


「……済まないが、もう一度言ってくれないか?」


「ですから、人口減が著しい都市に向け資材の売買を持ちかけただけです。

 都市の縮小自体はそこまで珍しいことではありませんので」


 これは彼女が魔法を使った訳でも奇跡が起きた訳でもなくて……正妻(ウィーフェ)リリスが一晩でやってくれました、というヤツだ。

 実際のところ、俺がB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)で検索したところによると、昨晩の内に正妻(ウィーフェ)リリスから52都市への通話記録が行われている。

 ファイル付きのメールに至っては17件で、それらの添付ファイルは主に「都市縮小補助申請一式」「資材売買の基本額」「解体工事計画」である。


 ──これ、要するに他所の都市の仕事……


 早い話、我が正妻(ウィーフェ)様は、資材を持っている他の都市に売り込みをかけたのだ。

 流れとしては恐らくこうだろう。

 「貴女の都市は人口減が進み維持費が嵩んでいますよね」と他都市の正妻(ウィーフェ)に連絡、政府の補助金つきの都市縮小計画と共に、資材の販売ルートと適正価格を提示……その上で「この都市ならばこういう工事を行えば良いでしょう」という素案まで付けたのだろう。

 いくら進んだ科学技術によって仕事の効率が上がっているとは言え、彼女は自分の管轄以外の仕事まで引き受けたのだから、つい「そこまでやるか?」と言いたくなる。

 そして……それらのメールを見て一つの事実(・・・・・)に気付いた俺は、それを切り口に彼女の『働き過ぎ』を咎めることにした。


「メール送信時間が業務時間外なので、罰則適用だな。

 これでまたご褒美が遠ざかりました」


「……そんなー」


 資材調達に一晩で目途を立てた彼女の功績は認めてはいるものの……正妻(ウィーフェ)様の超過労働が確認されたので、罪は罪として処理させてもらうことにする。

 簡単に言うとご褒美を与えると約束していた人口14,641人が、1割増の16,105人になってしまっただけの話である。

 当のリリス嬢は酷く悲しそうな顔をしてこちらを見つめているが……残念なことにこればっかりは譲る訳にはいかないのだ。

 何しろ、正妻(ウィーフェ)たちは「愛に殉じた奴隷」なんて異名があるほどに労働が好きな傾向にあり……放っておいたら真面目に愛に殉じて過労死しかねない。

 残念ながら俺は、正妻(ウィーフェ)を過労死させて次々若い女を囲うような趣味はない以上、もっともっと長い間リリス嬢には頑張ってもらわないといけないのである。


「それで、相手方はそれを受け入れたと?」


「え、ええ、ええ、勿論です。

 自分たちという売り手がいる今、資材価格はある程度高値で固定されておりますので……彼女たちの都市の財政事情を考えると飛びつかない訳がありません」


 俺の問いに対し、正妻(ウィーフェ)様が得意気にそう答えるのを眺めつつ……俺はとある一つの疑問を抱かざるを得なかった。


 ──確かにリリス(この子)は有能だ。

 ──だけど、取引相手も正妻(ウィーフェ)だろ?


 正妻(ウィーフェ)とは現人類の上澄み……11万人に1人だけがなれるという超特権階級であり、それは美貌のみならず頭脳も交渉力も持ち合わせている存在である。

 そんな優秀な存在が、自らの経営する都市が財政難に陥っている状況にありながら、リリスがたった一晩で仕上げるような書類や計画を作り上げられないものだろうか?


 ──何か、裏がある、のか?


 取り合えず困った時はB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)に頼る。

 コンマ数秒でその結論に至った俺は、順当にこの未来社会に適応し始めていると言えるだろう。

 ……このことが思考力や記憶力の低下を意味しなければいいのだが。

 そんな要らぬことを考えつつ、俺はB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)で検索し終えた内容を吟味し、息を呑む。


「……そりゃそうだ」


 先ほどB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)経由で俺が手に入れた情報は、言ってしまえば実に簡単な話だった。

 幼少期、凄まじい努力を重ね競争を勝ち抜くことによって、正妻(ウィーフェ)たちは素晴らしい能力を有し、男性の隣に侍ることとなる。

 それらの努力全てが、ただ「男性の近くで働きたい」という一心からだ。

 ……だけど。

 当の正妻(ウィーフェ)になれたとしても、男性からの寵愛を受けられるのは3割程度……しかもそれすらも基本一度妊娠するまででしかない。

 男性はそもそも女性を嫌っているし、正妻(ウィーフェ)の働きを認めてくれる男性なんてろくにいない……その上、性行為どころか会話もない環境下で、果たして優秀な正妻(ウィーフェ)たちは優秀さを保っていられるだろうか?


 ──答えは、否、だ。


 男性のために必死に頑張ったのに、当の男性からの寵愛を受けられないことでやる気を完全に失ってしまった正妻(ウィーフェ)たちは、恋愛や創作、食事を始めとする仮想の世界(・・・・・)にのめりこみながら正妻(ウィーフェ)として最低限の義務だけを果たす存在に……優秀ではあるけれど最盛期より格段劣り、しかもやる気すらない存在へと落ちぶれてしまうのだ。

 ついでに言うと、そうなり果ててしまったことで、男性から「見る価値なし」と判断され、ますます関心から遠ざかり……という負のスパイラルに陥っているようである。


 ──哀れな話だ。


 俺は軽く目を閉じると、愛に殉じようとしたのに全く報われない彼女たち正妻(ウィーフェ)という存在に黙とうを捧げる。

 かと言って、彼女たちを助けるために人妻を片っ端から寝取るような真似なんざ、しようとは思わないけれども。

 ……やろうと思えばできそうなのが怖いのが、この男不足の未来社会ではあるのだが。

 それは兎も角、そうして最低限の義務だけ果たしている中、中央政府への補助申請やら何やら、要するに面倒ごとを一手に引き受けてくれる存在が出て来たとしたら、それは飛びつくことだろう。

 結果として、我が正妻(ウィーフェ)はたったの一晩で資材不足に悩む我が都市の問題を解決してしまった、という訳である。


 ──それが本当に良いことなのかは、まだ疑問なんだけどな。


 実際の話として、俺自身はこれ以上海上都市『クリオネ』の人口が増えることをそれほど望んではおらず……ついでに言ってしまうと、我が正妻(ウィーフェ)がこれ以上仕事を増やすことにも反対しているのだから。

 まぁ、それでも……こんな俺の子供を産みたいと言っている女性たちを待たせるのも、あまり良い気分ではないのだから、彼女の頑張りについて表立って反対する気もないのだが。


「なら、暫くは都市の開発を見届けるだけになるってことか」


「はい。

 計画上では、あと20日ほどの間、資材調達と海中部分の建造を進めます」


 俺の呟きに、我が正妻(ウィーフェ)は眼前に仮想モニタを展開し、現在の都市と都市の未来予想図を重ね合わせた画像を見せつけてくれた。

 実際の写真データを張り合わせた立体画像が現在の都市で、ほぼ実際の写真と大差ないものの透過しているのが未来の計画図……そして赤く点滅している箇所が現在工事中の場所、という意味だろう。

 どの建造物がどういう意味を持っているのかや、どういう工法で造られているのかなんて専門的な知識はさっぱりではあるが……いまだはっきりとしない過去の経験からか、図面の見方くらいは直感的に理解できた。


「また、都市の電力量が不足する恐れがありますので、新たな発電所を一基設置する計画ですが、こちらは必要資材を衛星軌道上から投下するだけです。

 既に衛星軌道上の都市に発注を終え、部品等はほぼ完成しております」


「……投下、ねぇ。

 よくぶっ壊れないものだなぁ」


 正妻(ウィーフェ)の告げた、未来社会の想像を簡単に超えて来る無茶苦茶な物資輸送法に、俺はただそう呟くことしか出来なかった。

 ちなみにB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)が勝手に検索してくれた内容ではあるが、水の抵抗を中和しながら海中を運んだり、のんびり陸上やら海上やらを輸送したりするよりも、抵抗のない衛星軌道上で凡その位置を決めた後、基本は自由落下に任せつつも重力緩和装置で速度をある程度に抑え、更に仮想障壁を使って資材の破損を防ぐ方が、エネルギー的な消費は少なくて済むし、時間の圧縮も可能……要するにトータルコストはかからない、とのことだった。

 詳しい話や細かい技術なんかはさっぱり分からないものの……『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』のを、またしても見せつけられた瞬間である。


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