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【完結済】ぜったいハーレム世代の男子校生  作者: 馬頭鬼
第十五章「勃起祭り」
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~ 勃起祭り ~


 そのお祭りの存在を知った時、まず最初に浮かんだのは「何だこの酷い字面は?」という身も蓋もない感想だった。

 いや、21世紀の日本人であればほぼ全員が同じ感想を抱くのではないだろうか?

 そりゃ勿論、インドの方のリンガ信仰を持ち出すまでもなく日本においてもほだれ祭りとか豊年祭とか……実は今B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)経由でカンニングをした訳だが、そういうお祭りが実在していたのは事実である。

 あの男女比の差がほぼ誤差だった時代ですら子宝に恵まれることを祈るそういうお祭りがあったのだから、この未来社会ではその祈りも真摯なものになるのは理解できる。

 理解は出来るのだが……


 ──正気の沙汰とは思えんな、こりゃ。


 仮想モニタに映る海上都市『クリオネ』の様子を見た俺は、そう胸中で呟くと一つ大きな溜息を吐き出した。

 実のところ、この勃起祭りとかいう狂気の産物はそれほど派手な祭りとは言えないだろう。

 ……少なくとも、本祭扱いとなる精通祭りと比べると、ではあるが、そっちはまだ少々未来の話だろうから置いておくとして。

 さて、この勃起祭り。

 祭り自体は本当に簡単で、ただこの都市の住民が『とあるもの』を手にして街中を練り歩くというだけの代物である。

 勿論、市民がただ歩くだけではデモ行進とそう大差ないので、都市側もある程度は協力するらしく……西暦の時代にあったお祭りという文化の残滓か、無償の菓子や食べ物、飲み物などを提供するようだった。

 尤も、栄養摂取以外の食事を放棄しているこの未来社会であるので、提供されるのは消化吸収されない糖類やでんぷん質を加工した食べ物っぽい何かと、気分は若干高揚するものの知性の働きを阻害しない類の酒類、となっているのだが。

 

 ──それだけなら楽し気なお祭りなんだがなぁ。


 ……そう。

 この勃起祭り……当たり前の話ではあるが、都市の女性たちがただ都市内部を練り歩くだけではない。

 満面の笑みを浮かべ、楽し気に談笑しながら歩く彼女たちは、揃いも揃って手に棒状のモノ(・・・・・)を持ち、頭上に掲げたり振り回したり、悪ノリするヤツに至っては股間や胸の谷間に挟んだりする始末である。

 他にも、その棒状のモノ(・・・・・)と似た形状をした被り物を頭の上に載せた連中や、これは遥か昔の記憶にある何とか祭りであったような、人が数人乗れるサイズの棒状のモノ(・・・・・)にまたがって進む連中も……


 ──いや、いつまでも目を逸らしてはいられない、か。


 彼女たちが手にし、挟んだり被ったりまたがったりしている棒状のモノ(・・・・・)とは、要するに勃起したペニスを象ったものである。

 何でリンガ信仰やら日本の奇祭やらが、この600年も経過した後の海上都市に残されているかと言うと、やはり男子の極小化が進んだ所為だろう。

 もしかしたら600年超の歴史の中で、一度は廃れてしまったのかもしれないし、綿々と受け継がれていたのかも知れないが、この勃起した男性器を祀るというお祭りが男子極小化の影響で世界中に拡散、いつの間にかこの時代における地球圏全体の必須行事にまで昇華されてしまった、らしい。

 その辺りの歴史については全く興味がないので、B(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)で調べようとすら思えないけれども。

 ただまぁ、都市住民の女性たちが……形式上ではあれ、俺の遺伝子を受け継ぎたいと希望を提出している彼女たちが楽しそうなので、こんなお祭りであっても催した価値はあったのだろう。


 ──この俺が関わりさえしていなければ。


 恐らくではあるが、同じ男子たちがこの祭りの存在を俺に教えてくれなかったのは、あまりにも酷い苦行なので存在すら忘れていたか……もしくは、俺の年齢的にとっくに終わっていると思っていたかのどちらかだと思われる。


「そろそろお時間ですが、よろしいでしょうか?」


「……良い訳ないんだよなぁ」


 残念なことにこの祭りはどこか遠くで開催されている奇祭ではなく、我が都市で我が成長を祝うお祭りであって……俺自身も思いっきり関わってしまっている。

 幸いにして俺が行うのは開催の挨拶程度であり、しかも仮想モニタ越し……しかも、その読み上げる原稿にしても我が優秀なる正妻(ウィーフェ)が他の都市の勃起祭りの挨拶分を人工知能により加筆修正したものを読み上げるだけとは言え、だ。


 ──全力で関わりたくないんだがなぁ。


 この卑猥以外の感想を抱けないオブジェを手に、アルコール擬きの所為かそれとも場の空気に酔ったのか、既に出来上がっている若い女性たちに声をかけるのである。

 正妻(ウィーフェ)様の指示により、こういう儀礼用だろう、スーツの雰囲気を何処かに残している、カジュアルな未来の正装を着込まされたのは、合成映像だけでは摂取出来ない何かがある、とかいう俺が生きていた時代の名残だろうか?

 そんな窮屈な格好で、堅苦しいお偉いさんの立場で、ろくに話も聞いてないだろう酔っぱらったアホ共に声をかけるという苦行を行わなければならないのだ。

 せめてこちらも酔っていればまだマシなのだが……


 ──そうか。

 ──俺も、酔っぱらえば良いんだ。


 どうせお祭りである。

 この頭がアルコール……いや、アルコール擬きにやられてイカれた女連中も、挨拶なんてろくに聞きもしないし、もし聞いていたところで覚えてはいないだろう。

 少なくとも俺は飲み会で社長やら副社長やらが語った挨拶なんて翌日の朝どころか乾杯直後にビールを一口飲んだだけで忘れていたという確信がある。


 ──よし、とっとと酔っぱらっちまおう。


 正直、何故この時の俺がこんな短絡的な発想をしてしまったかと言うと、恐らく人前で演説をするというプレッシャーから逃れたかったのだと思われる。

 だからこそ俺はB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を通じた特殊モードを使用……脳内物質を人為的にコントロールすることで、血中アルコール濃度が上昇した時と同じ感覚を作り出した。

 まぁ、要するに「酒も飲まずに酔っぱらった」のだ。

 実のところコレは、男性のみに許された特殊モードであり……精力剤を飲んだ時と同じ状況を作り出して下半身を元気にさせたり、気分でないのに恋人(ラーヴェ)とする約束を取り付けてしまった時などに思考能力を低下させ、酒の勢いで乗り切る時など、色々な用途で使用できる便利なシステムである。

 この特殊モードは、勃起が確認されたことで解禁されており……恐らく正妻(ウィーフェ)も知らない、文字通り男性にのみ許された仕様だろう。

 

「……とは言え、この程度、か」


 そうして正妻(ウィーフェ)様には内緒で酔っぱらってはみたものの、生憎と21世紀で幾度となく意識を失うまで泥酔した経験のある身としては、ビールを一杯ひっかけた程度という感覚がある。

 誰と飲んだとかそういうエピソード記憶は相変わらず吹っ飛んでいるものの、飲み会なんて日常茶飯事の測量屋としては、こういう酔いの感覚は忘れないものらしい。

 それは兎も角。


「……本日の喜ばしき日を迎えたこと、この都市に未来が芽生える日がまた一日と近づいたことを心から市長に感謝いたします。

 そして近い未来に訪れるその日を正妻(ウィーフェ)としても一日千秋の心持ちで過ごしていることを明言するとともに……」


 隣に立つ正妻(ウィーフェ)リリス嬢がそんな独り言を……ほぼ間違いなく仮想モニタで海上都市『クリオネ』全体に生音声で語りかけているのだろうけれど、その様子を横目で見ながら、俺はじわじわと焦りが募って来るのを感じていた。


 ──そういや、貰った原稿、一読もしてないな、俺。


 ずっとこのイベントから逃れたい一心で……そもそも一介の測量屋が大勢の前で演説するような経験などなく、何をどう練習して良いかすら分からなかった、という言い訳が頭に浮かんでは消えていく。

 まぁ、実のところ原稿すら見なかったのは現実逃避に忙しかったからだし、練習すらしていなかったのは全くこれっぽっちもやる気がなかっただけ、でしかない訳だが。

 幸いにしてB(脳内)Q(量子)C(通信)O(器官)を使えばこの手の演説文章なんてコンマ数秒で頭に簡単に入って来て、一発で丸暗記も難しくなく……それこそが今の今まで俺がコレを読んでない理由の一つでもあったのだが。


「……え?」


 そうして文章を脳みそ内部へとインストールした、その瞬間……俺の口からはそんな驚愕の呟きが零れていたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 予想はしていたけど…くっそ頭の悪い祭り出てきたw いやまぁ分からんでもないよ? 真剣に慶事として開催される勃った祭り…酷ぃw
[一言] 予想以上にかなまら祭りだったw スピーチ原稿の内容が猛烈に気になる。
[良い点] まあ想定内のお祭りですね しかしどんなスピーチなんだ? [気になる点] しかし肉体的には昔の人なので この人の精子確立的に 男が生まれる確率2分の一なのでは?
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