そして勇者は世界を手に入れた
魔王との一戦。
勇者はようやくそこまで来ていた。
魔物と呼ばれる異形の者どもが跋扈するこの世界、彼らは人間世界を脅かす存在だ。
その魔物の総指揮官にして頂点に君臨しているのが魔王。
ゆえに、魔王を排さなければならないとし、世界中から必要な人物が集められた。
この単純なパーティーは、魔王を倒すために数多くの戦いをしてきた。
そして、ついにここまでやってきた。
勇者はその仲間として、魔法使いや、格闘家など、数名を引き連れていた。
魔王がいるという広間の扉を前にして、勇者は仲間に告げる。
「……いろんな思いがあると思うけど、僕は最善を尽くしてきたつもりだ。それは今も昔も変わらない。世界を救うよりも、僕自身が魔王を二度と生み出さないために必要なことだと思って、この戦いは続けてきた。だから、これからもそうつもりだ」
「いいと思うよ、それで」
魔法使いが言うと、ねえみんな、そうだよね、と続けて他の仲間に言う。
そうだそうだと、同意の合唱。
それを聞いて、勇者はようやく決断できたようだ。
「じゃあ、行くよ」
勇者が扉を開けたら数十メートルはあろうかという絨毯が敷かれており、その先に椅子がある。
魔王はずっとそこで座っていたのかもしれない。
立ち上がることもなく、ただ、静かに拍手をした。
「勇者よ、よくぞここまで来た。ここまで人間が来るのは久方ぶりだ……」
「魔王よ、二度と貴様のような者が出てこないことを切に願っている」
「ああ、そうだろうな。人間世界は我にとって邪魔ものにしかならん。ならば人間世界を滅ぼすことは、種の存続としては当然の出来事であろう」
そこにきて、ようやく魔王は提案をしてきた。
「どうだ、勇者よ。我のようなものがでないため、と称したが、ならば一つ提案をしようじゃないか」
「提案?」
「世界を、魔物世界は我が治める。人間世界は貴様が治める。どうだ。悪い提案ではあるまい」
「それは俺にどういうメリットがあるっていうんだ」
「我は魔王。我の配下により人間世界を攻め滅ぼすことはたやすい。勇者なる者ならば、ここまでの戦いによりその力を一身に受けてきたはず。魔王を生み出さないため、というのであれば、我が魔王であり続けるのであれば、魔王は新たに生まれることはないぞ」
「……いいだろう。代わりに一つ、約束をしろ」
ギョッとする仲間の横で、勇者は魔王の提案に乗った。
「なんだ」
「その支配層は必ず生かすこと。魔王も悪鬼羅刹とは異なるだろう。ただ殺戮することはあるまい。人がいなければ我々が生きていくことはできんからな」
「なるほど、そうだな。そうしよう」
「では提案を受ける」
勇者があまりに堂々としていたことで、一瞬仲間らは反応が遅れた。
その一瞬が、彼らにとって命取りとなる。
「きゃっ」
短い声は、すぐさま口をふさがれることによって発することができなくなった。
「こやつらは進撃に不用。牢にでも閉じ込めておけ」
いつの間にか、魔王の配下が辺り一面にそろっていた。
「勇者以外はすみやかに制圧せよ。これは魔王としての厳命である」
「すぐに……」
部下が魔王からの命令を受領し、それを速やかに実行していく。
1年経たず、勇者の力添えもあり、人間世界は全てが魔王の支配下となる。
「このことを祝して、酒宴を開きましょう。全世界が貴方ものだということを知らしめるのです」
「そうだな、それがいいだろうな」
ここに魔物世界と人間世界の王族や代表者らが集められた。
魔物世界は魔会盟、人間世界は人会盟と呼ばれるようになり、その会盟長や幹部、そのほか諸々の数多くの人らが集められた。
勇者はこのときには、魔王の右腕として広く知られる存在となっており、人からも魔物からも疎まれ、恨まれるような人になっていた。
当然、仲間らからもである。
牢から1年近くぶりに出された仲間であるが、見た目だけは健康に見える。
少なくとも虐待は受けていないようだ。
「では各盟会からの就任あいさつは受け取った」
多くの丸机が置かれ、立食パーティーのような形であちこちに人や魔物が入り乱れていた。
上にのせられている料理は双方が食べれそうなものがメインで、部屋の隅には給仕が並んで飲み物を配っている。
魔王は椅子に座り、そのすぐ横に唯一の武器となる刀剣を佩びた勇者が立っている。
「宴がはじまるよりも先に一つ、知らせておきたい」
ざわざわとしている会場が静かになる。
「ここに侍している勇者たる者は、我が死んだあと、この世界を統べる。もっとも、その前に勇者が死ぬだろうがな、寿命でな」
ハハハ、と笑う魔王の横で、勇者は少し笑っているように見えた。
「その言葉、待っていた」
佩びていた刀を鞘から抜き取ると、そのまま横一閃。
魔王は何が起きたかは理解できなかっただろう。
ゴトリと首が落ちると、血しぶきが上がる。
キャアと賓客の悲鳴が聞こえ、ようやく一同が何が起きたかを理解し、後は阿鼻叫喚となる。
そのさなか、冷静沈着を体現したかのような勇者は、死んだ魔王の頭を持ち上げ、全員に見えるように示した。
「魔王はこのように事切れた!今より全ての世界は僕が治める。異存はないな」
異存なんてこの場で言えるはずがない。
「まず初めに、僕はこれから覇王となる。各盟会はそれに従え。魔物も人間も、他の全ては僕に従え。いかなる例外も許さぬ」
覇王となる勇者の声を聴き、誰かが降伏をするかのように両掌を挙げ、従順の意志を示した。
「ば、ばんざーい」
はじめは弱弱しい声だった。
だが、それがいつの間にか大きな流れとなって、万歳の大合唱となる。
そのうちに驚いていた仲間も勇者、新覇王の元へとやってきて声をかけ始めた。
「もしかして、最初からこれが目的?」
「ここまでうまくいくとは思わなかったけどな」
「最初に教えてくれていたらいいのに。1年も牢屋に閉じ込めておくなんて」
「ごめんよ、でも魔王にこの計画がばれたらおじゃんだったから、誰にも話すことができなかったんだ」
万歳が続く中、この場にいる全員は一つのことを理解していた。
勇者は、この世界を手に入れたのだと。
そして二度と魔王なる存在は現れないだろうということを。




