異常事象管理局 abnormal occurrences management bureau
宇宙の法則、世界の常識、既成の概念、この世の安寧を維持し安定を保存することが異常事象管理局の存在理念です。
異常事象を発現、または内包する物品、生物、地域、その他準ずる全ての存在、及び非存在を管理、状況により排除し、社会的正常性を確保し続けることを責務としています。
敵対的異常事象への暴露が想定される事案に対しては、自己責任のもと異常事象内包物品による武装が認められています。
友好的異常事象に対しては社会的正常性を侵害しない限り、その自由意思は最大限尊重されなければなりません。
時任アサミはIT系の孫請け企業に勤めるしがないOLである。1日20時間、週に7日、月に30日のプログラミング作業は歴戦の兵でさえ明日をも知れない戦場で、部長の精神崩壊を皮切りに次長の幼児退行、課長の若年性認知症、係長の自殺未遂、主任の失踪、同僚若干名の退職代行サービス発動と怒涛の人事が行われた結果、勤続半年足らずで課長職という大出世を果たしていた。しかし、どれだけ肩書きが変わろうとやることは変わらない。日々クライアントが望んでいるであろうものを組み上げるだけである。
今日も今日とて深夜のオフィスでパソコンカタカタ、濁った瞳を血走らせブラインドタッチ、ナイアガラの滝と揶揄されるタイプ速度は4つ腕のインド神すら舌を巻く人外技だった。アルファベットの擦り切れたキーボードを叩きながら1部キーのレスポンスが悪くなっているのに気付く。このキーボードに換えてから3週間、持った方だなと考えていると、引っ込んで戻らなくなったキーが連打され画面が埋め尽くされて行き、発狂!キーボードを掴み上げ配線コードを前にいつ切ったか忘れるほど長く伸びた爪で引き千切る。キーボードを大上段に構えこれはまずいと大きく深呼吸、平静を取り戻し連打入力されたキーをマウスでドラッグ&デリートして保存、バックアップもたくさん作成、今なら終電に間に合うかもと壊れたキーボードを引きずりながらオフィスをひとり後にした。
駅前のコンビニで1番値段の高いサラダと悪魔のアルコール飲料ストロングφ555mlを3本買う。もはや顔なじみの駅員に急かされ最終電車に滑り込む。生きながらにしてお仕事とアルコールの亡者と化したサラリーマンとOLに混じり、ストロングφのプルタブを引く。炭酸の弾けるこぎみいい音、さわやかにたちこめる柑橘系(無果汁)の香り、そしてツンと鼻をつくアルコール9.99%!!グビッとやるとたちまちせかいがかがかがやきだしゅたのだたっ。。。
どれだけ疲れていようと、どれだけ爆睡していようと、たとえ泥酔状態であったとしても社会人と言うものは最寄り駅に着くと覚醒するのである。幼少期に観たCMのフレーズをバグったように繰り返し改札を抜ける。道路の白線もパリコレのランウェイになる。自販機横のゴミ箱にストロングφをダンクシュート。マンション前で少女っぽい悪魔か悪魔っぽい少女に話しかけられたが相手にしない、相手にならない。アルコール9.99%×3でこの世のすべては絶好調なのだ!
約400階建て超々高層集合住宅の特価区画の部屋へ戻ると、オータムガールとか名乗る悪魔少女を無視して風呂場に直行、ドアノブに掛けて置いたハンガーにスーツを掛ける。ふと流し鏡の自分と目が合う。学生時代はどちらかと言えば不良より、茶髪にピアス、あるか無いかだった眉毛も就職活動時に量産型へと矯正され以来のファッション、就活生お馴染みのリクルートスーツ、切る暇が無いので黒髪ロング伸ばした前髪は片耳に掛けアダルトお姉さんに、学生時代予備で使っていたクソださ黒縁メガネを現役復帰、平均より高めの身長にグラビアに収まらない爆乳、これのおかげで就活は瞬殺だったがブラックだった。
ぐうたまに役立つ脂肪の塊も私生活においてはただの枷でしかなく、いっさい皺なく引き伸ばされ悲鳴を上げるブラウスを脱ぐのにも気合いがいる。大きなため息が艶っぽく出てしまう。なんで服脱ぐだけなのにあえぎ声が出るんですかね?と言うオータムガールの発言は存在ごと無視される。温めのシャワーで身体を洗いついでに歯磨き、ドライヤーもそこそこに生乾きの髪のままベッドイン、まどろむ間もなく熟睡する。
「え〜そんな〜、起きてよー」
淡く緑色掛かった水色、秋のパーソナルカラーピーコックブルーの肌に、無邪気で大きな瞳は白眼が逆転し真っ黒、黒眼は膿のように黄色く鮮やかで、菱形に抜けた真珠色の瞳孔を際立たせる。髪は艶やかなオレンジカラーのお姫様カット、頭頂部から一対の短く二股に分かれた角が生え、背中には肩甲骨の下辺りから蝙蝠のような羽が、お尻には尻尾が生え先端には矢印のような突起の付いた典型的な悪魔っ子、デザスタウォッチのオータムガールは異常事象管理局矯正特課の秘蔵っ子、ようやく見つけだした異常事象内包管理対象人物の大物っぷりにたじたじだった。