【要介護令嬢メロダウナ】いつまでも、人権があると思うな。
「お嬢様、お嬢さま、ああ、おじょうさま!おはようございますお嬢様、もう夜でございますオジョウサマ」
極楽鳥のメイド長、カナリアの芝居がかった朝の挨拶が月明かり差し込む夜の寝室に響く。
家のように巨大なベッドに着いたゴミのように無気力で横たわる我らが親愛なるお嬢様、怠惰の中の怠惰七つの大罪、怠惰担当メロダウナ_は始めから目覚めており、ただ起き上がるのが面倒なまま夜を迎えただけである。
「………(チラリ)」
「ああ!うごいた!!お嬢様が目端でワタクシを見遣った!!!」
半開きの口のまま、クリクリのパッチリお目々で起きとるが?とカナリアに目配せしたのが良くなかった。メロダウナ_の久方ぶりの生体反応にカナリアは我を忘れると、ベッドの端に脚をかけた。
「あ、やめて止めて………」
「今宵は満月!魔王様主催の舞踏会がございますぅううう!!」
メロダウナ_の顔が悲痛に歪み、カナリアの顔が歓喜に染まる。
「はぁああ!参りましょおおぞ!!おじょうさまぁあああああ!!!」
このカナリア、実はメイド長とは名ばかりである。魔族としては弱小種族の鳥人族ハーピーでありながら、先の大戦では一兵卒から最前線で武勲を積み上げ将軍にまで上り詰めた叩き上げで、種族と血筋さえ備えていれば四天王の称号を受けていただろうと豪族達に言わしめる程の武闘派であった。
「………それ以上はイケない。それをやると私は、お前を無礼打ちしなければいけなくなるぅ………」
「はっ!このカナリア、若輩者なれば政治に疎く、妬みを買っては謀殺の刃に倒れんとした所、颯爽と現れたお嬢様に拾って頂いたご恩、片時も忘れた事はありませぬ!!お嬢様が舞踏会へご参加なされるのならこの命、生贄に捧げるは本望でございますっうう!!!」
「命の価値も分からぬ、狂信者め………あやゃや~………」
\\\ドッカ~~(布団が吹っ飛ぶ)~~ン!!!///
魔族の中でも取り分け強い力と権力を持ち、七つの大罪と敬称される王侯貴族の大罪令嬢、メロダウナ_に無礼打ちと言われれば大抵の者は恐怖のあまり失神するか自刃を選び、恐怖を堪えたとしても地に突っ伏して全裸になって許しを請うのが通例であったが、この度、全裸になったのはカナリアにベッドごと足蹴にされたメロダウナ_の方だった。
「あややややややや!!死んじゃうのぉおおお!!!」
吹き飛ぶベッドはメロダウナ_ごと寝室を貫通、石壁に削がれネグリジェは糸クズに、下着を着けるのもめんどくさがったのが悔やまれる中、満月の蒼白い光に横っ飛びで屋敷裏の雑木林に突っ込んでいくメロダウナ_が照らし出される。
「まずはお身体を清めましょう!太陽をここに!!」
綺麗になる前に大体焼き殺すカナリアの浄化魔法、太陽をここにが月の夜空を真昼の晴天に染め上げる程の虹を放つとメロダウナ_を包み込み、めっちゃ爆発する。
「まぁああああああああ!!眩しいのぉおおお!!!」
虹色に輝くメロダウナ_はされるがままである。カナリアが朝から夜までかけて選んだ、聖女の人革を竜の生き血で染め上げた礼装に袖を通して、ちゃんとお嬢様になる。
「ああ!なんと、お美しい!愛らしい!!チャーミングな立ち姿!!!………おっと」
目を瞬かせるメロダウナ_が、何気なく小指を爪弾いたのをカナリアは見逃さなかった。身体を寄せて密着し小指の先を虚空へ向けさせる。
「ぎゃおす………!」
「………まあ、お戯れを………さあ、参りましょう」
些か舞い上がっていたカナリアも、内心ブチ切れているらしいお嬢様の心うちの一端を垣間見て冷静を取り戻した。
連れだって歩く二人の後方、メロダウナ_が戯れに放った悪魔の爪弾きは、空を差す山脈の峰を刺し通し、夜の雲間へ伽藍堂に間を開けて飛んで行き、満月を八つに引き裂いて舞踏会を中止にさせた。
このあと、メイド長の脳がバカ汁を啜ったのは言うまでもない。