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家族の絆

 それから、しばらくしてロンのお母さんが帰ってきた。後ろから、ヘレナが走ってくる。誰よりも速く、エレナのそばに駆け寄りエレナをきつく抱きしめた。 


 ヘレナは嗚咽をもらしながら、泣いている。レーンはヘレナが泣いている姿を初めてみた。子供の前ではいつも、強い母であったヘレナがこんなにも、感情を表に出して泣いている。


 悲しいから泣いているのではない、辛いから泣いているのではない、嬉しくて泣いているのだ。わが子が無事だった喜びから、泣いたのだ。


 エレナは苦しそうに、体をもぞつかせているが、ヘレナは離さない。


 もう二度と離さないのではないかと思うぐらい、ヘレナは長い間エレナを抱きしめていた。

 エレナは我慢できなくなり、「苦しいよ……」とヘレナの背中を軽くたたく。


 我に返ったヘレナは、「ごめんなさい」と慌てて放した。

 エレナも母の泣いている顔を初めてみたようで、何を言っていいのかわからない様子だ。


 ただエレナは黙っていた。ヘレナは少し険しい顔に戻り、いう、「何で帰って来なかったの、どこで何をしてたの、みんなを心配させて!」そうヘレナはまくし立てた。

 

 しかし、どこかいつもの叱り方ではないことをレーンは見抜いていた。怒った声音のなかにもやさしさがひそんでいる、母親の叱り方だ。


「山にベリーを採りにいったら、くらくなちゃって……帰り道が分からなくなったの」


 エレナは自分の靴を見、泥や草のしみが付いた靴はまるで今のヘレナの気持ちを反映しているようにエレナには思えた。


「何で一人で山にいったのよ!」


 エレナの目をまっすぐ見るために、ヘレナはしゃがんだ。エレナとヘレナの身長が重なり合う。


 しかし、エレナは目を合わせようとしない、いや合わせる顔がないのかもしれない。そのままエレナは黙り込む。


「みんな、みんな、みんな、あなたを心配してたんだから……」


 そういい、ヘレナはまた涙を流す。ほおを流れる涙はとまることを知らず、ヘレナの顔は涙と鼻水でくしゃくしゃにした。

 

 そんな母の顔を見たエレナは、「ごめんなさい……もう泣かないで……」といいヘレナに抱きつき、背中をさする。ヘレナもエレナを同じように抱きしめた。


 あたたかい、母の温もりをエレナは久しぶりに感じた。


 それから、しばらくしてカイルがやってきた。後ろからは、エレナを捜すために山に入った村人たちもかけてくる。


「エレナ、無事で本当によかった」


 目をうるませながら、カイルが言った。


「パパ……ごめんなさい……」


 カイルは何もいわない、ただ大きく首を縦にふるだけだ。

 まるで涙をがまんしているかのように、なんども大きく首をふる。そして、カイルはエレナを抱きしめた。それに答えるように、エレナもカイルの首に手をまわし再会を確かめた。


 エレナは昔よくおんぶしてもらった父の大きな背中を、再び感じながら首に強く抱きついた。


 エレナを一緒に捜してもらった村人たちにお礼を言って、エレナたち家族は四人ならんで家への帰宅路についた。


 思えばエレナを捜す、一夜のことだったのだが、レーン、ヘレナ、カイルからしたら果てしない時間に思えた。家につき最初に言葉を発したのはレーン。


「お腹すいたよ、朝ごはんにしよう」


 そういいお腹をさするレーン。言われてみれば、夕食をたべないまま、カイルは山に登り、ヘレナは湖を一晩中、捜したのだ。エレナも一晩中、暗い山を歩いた。

 みんな、空腹のはずだがほとんど考えもしなかった。


「そうね、昨日の夕飯を温めなおすわ!」


 さっそくヘレナは昨日の夕飯を温めなおした。緊張がとけ、椅子に座り込むカイル。 


 疲れがカイルを襲ったが、この疲れもいい思い出になるとカイルは確信していた。ヘレナは温めなおした、料理を手際よくテーブルに並べた。


 朝食を食べ終わり、こんなにおいしいご飯ははじめてだと、ヘレナは思った。お腹が空いていたのもあるが、やっぱり家族みんなで食べたからおいしかったのだろう。

 

 そのことを家族は再確認した。

 そのあとエレナは怒られた、いつもはヘレナが叱るのだが今回はカイルが積極的に叱った。普段おとなしい、カイルが怒ったのは強烈だったようで、いつもは懲りた様子のないエレナも今回ばかりは心の底から反省したようだ。


 レーンは悪いことなどしていないが、今後カイルの逆鱗に触れないように気を付けようと心に刻んだのであった。


 そして、何で山に一人で登ったのかヘレナとカイルで問い詰めたところ、お茶会に招待してもらうためとエレナはいった。

 

 最初はカイルもヘレナも理解しなかったが、エレナが嘘をついているようには見えなかったし、エレナが噓をついたら、すぐに分かる。嘘をついたら、目を合わせないのだから。


 だからエレナが語った話は噓ではないと、誰もが思った。お茶会というのは、メーガンが語ったことと関係があるのだろうか、とレーンは考える。


「麦畑の天使に会うために、お供え物を採りに行ったの」


 エレナは意を決して話始めた。スカートの裾をつかんで震えている。また叱られると思いながら話していたからだ。こんなに震えるエレナを初めてみた。


「メーガンおばさんからこの村に住むっていう、天使のお話を聞いてから……どうやったら会えるか私なりに考えて……そたら、前にお兄ちゃんたちとベリーを取りに行った、あの場所を思い出して……」


 声が震えていた、か細く目に涙を浮かべながら必死に涙を堪えている。そしてエレナは小さな天使のことを語りだした、メーガンから聞いた小さな天使のことを――。

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