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白い少年

 エレナは泣くしかなかった。ベリーの樹の下で、エレナは泣いた、涙が枯れるのではないかと思うぐらい泣いた。


 泣いちゃだめだと思いながらも、涙は止まらなかった。

 なぜなら、辺りにはエレナしかいないのだから。 

 いつも一緒にいてくれたレーンは近くにはいないのだから。心細くてならない。


 そう思うと、どうしようもなく悲しくなる、エレナは膝に顔をうずめた。何も見えない、ただ風の音と虫の鳴く声しか聞こえない。


 暗いということは、人をより孤独にするものだ。

 普段は気にしない些細な音も今のエレナには何倍にも増して聴こえる。

 

 このまま、死んでしまうのかとエレナが思ったとき、「こんなところで、何をしてるんだい?」とどこからともなく声がした。 


 エレナは聴き間違えだと思った。だってこんなところに、人がいるはずがないのだから。もしいるのだとしたら、私みたいに道に迷った人か、この世のものではない者だろう、とエレナは思う。


「こんなところで、何をしているんだい?」


 聞こえてなかったと思ったのか、もう一度その声は聞いてきた。今度ははっきりと聞こえた、確かに人の声だ。


 しかし、エレナは顔を上げるのが怖かった、そこにいるのがおばけだったらどうしよう、という理由で顔を上げないのではない、自分の妄想が引き起こす幻聴だとしたら、顔を上げて誰もいなかったら、その方がエレナは怖かった。


 希望から絶望へ落とされる孤独と恐怖……。

 

「こんなところで、何をしてるんだい?」


 三度目、幻聴ではないとエレナは確信した。確かに、顔を上げれば目の前に誰かがいる。絶望に沈んでいたエレナの心に光が差した。

 

 エレナはゆっくり、ゆっくりと顔を上げ、涙で真っ赤になった目を声のする方に向ける。そこにいたのは、辺りは暗くこんなにはっきり、人物など見えるはずはないのにその人物の周辺は光っていた。 


 だからはっきり見える、そこに立っていたのは、白い男の子だった。レーンよりも少し年上に見える白い男の子。


「んっ……お兄ちゃんっ……だあれ?」


 エレナは過呼吸で訊ねる。

 心の底で自分は救われたと思った。


「僕かい? 僕はこの村の周辺を見守る天使さ」


 そう平坦な声でいいながら、その少年は微笑んだ。


「天使? お兄ちゃんはっ、天使なの!」


 まだ過呼吸が治まらない様子で、言葉を発すのがつらそうだ。


「君こそ、ここで何をしてるんだい?」


 その少年は鼻が詰まったようなしゃべり方をするなと思ったがエレナはいわない。これが地声らしい。


「私は……迷子になっちゃったの……帰り道が分からないの……」


 そういうと、いったんは止まっていたはずの、涙が瞳の奥から湧いてくるのが分かる。


「ベリーの実を採りに来たら……村への帰り道が分からなくなって……」


「そうなのかい、なら僕が村まで案内してあげよう」


 白い少年はエレナに優しく語りかけるようにいった。白い少年が最後まで言い切らないうちから、さっきまでの悲しみ、孤独感が嘘だったかのようにエレナの心から消えていた。

 

 しかし、安堵感からまたしても涙があふれてくる。泣くエレナを白い少年は何も言わず、ただ優しい目で目守っていた。


 少年が歩く道は、まるで朝の光に照らされているかのように明るい。後ろを振り返って見ると、少年が通り過ぎた道は徐々に明るさを失っていく。


 まるで少年との別れを寂しがっているかのように暗く悲しくエレナには見えた。


「君はなんで、こんな山奥に、一人でベリーを採りに来たんだい?」


 エレナからは少年の顔は見えない、しかし不思議と思っていることは分かる気がする。エレナは話そうか迷っていた。

 

 しかし命を助けてもらったんだ、話さないと失礼という気持ちが勝り、少年の背中に語り始める。


「私が住んでる、村でもうすぐお茶会が開かれるの、それで……そのときに食べる木の実を採りにここまで来たのよ」


 少年は振り向かず、前だけをむいて、「お茶会ね、それは楽しそうだなぁ」といった。


 だいぶん、歩いただろう、見覚えのある道になってきた気がする。来るときは、あんなに怖かった道も二人だと怖くない。


 そんなことを考えながら、エレナは歩いていた。すると、目の前にはエレナたちの住む村が見えた。


「あと、もう少しだよ」


 少年はエレナの顔をみて、やさしくいった。


「お兄ちゃん! 本当に本当に、ありがとう!」


 満面の笑みでエレナは少年に感謝の気持ちを伝える。

 しかし、どれだけお礼の言葉を紡ごうと、この気持ちは伝わらない。一回だけでは伝わってないと思ったのか、何度も何度も感謝の気持ちを伝えた。そうこうしてる内に、エレナたちは村に着いた。



 ちなみに、その頃カイルとヘレナは、エレナを捜しを続けていた。村人たちみんなでエレナを捜していたはずなのに、なぜ誰も見つけられなかったのだろうという、という話をレーンと(のち)にすることになる。しかしその話はまだまだ先のこと。

 

 山に登る道を左に反れたところにエレナがよく遊びに行く、麦畑がある。


 村に戻るのであれば、反対の道だ。しかし少年の背中はついて来いと物語っていることをエレナは感じた。少年の後ろに付いていくと、空から雪のような光が降ってきた。

 

 エレナは手を空にかかげ、「わぁー、綺麗ぇ~」とはしゃいだ。少年はエレナを見ながら微笑み、無言で麦畑の中に入っていった。


「あっぁ、お兄ちゃん待ってよ!」


 舞い降りる光に夢中になっていたエレナは、先に行っている少年に気付かなかった、慌てて少年の後を追いかける。広大な麦畑のちょうど真ん中に来たとき、少年はふりかえりいった。


「ここまでだ。もうすぐお兄ちゃんが迎えに来るよ。それじゃあね、エレナ、また会おう」


 そう言い残し白い少年は消えた。そのときふと気づいた。少年に名前を教えていなかったことを。なぜ私の名前を知っているのだろうとエレナは不思議に思った。


 だが、すでに少年はいないから訊ねることはできない。

 消えた少年と同じくして、空は明けた。

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