光の中で
カイルとヘレナは村中を探し回った。
「怪我して動けなくなってるだけだよ……」
カイルは少しでもヘレナの不安を取り除こうと、できる限り明るくふるまう。しかし、怪我して動けなくなっているのだとしたら、それは大変なことではないか。
月明りで見えるヘレナの顔は青白く、正気が感じられない。
「もし……このままエレナが見つからなかったら……」
聞こえるか聞こえないかほどのか細い声でヘレナはいう。
「あなた、ごめんなさい……帰りが遅いとき私がもっと強く……叱っていれば……」
と、いまにも泣き出しそうな声で、「暗くなるまでには、帰るようにもっと強く云っていれば……」と続ける。
言ったのもつかの間、ヘレナは大粒の涙を流し出した。
「君のせいじゃないよ、子供を叱る辛いことを君だけに押し付けていた僕が悪いんだ。本当にごめん……」
カイルは申し訳ない思いでいっぱいだった。
「僕もちゃんと云うべきだったんだ……」
カイルはヘレナの肩を強く抱きしめた。胸の中でヘレナが泣いているのが分かる。
ヘレナの悲しみを取り除くことができるのは、エレナを見つけることだけなのだ。
ヘレナを抱きしめたまま、「村の人にも一緒に探してもらおう」とカイルは提案した。
「ええ、そうね一緒に探してもらいましょう!」
カイルとヘレナは村の家一軒一軒周り、ことの次第を話した。すると村人の口から口へと話は広まり、想定よりの早く村中に拡がることとなった。村の半数以上がエレナ捜索に協力してくれることになる。
*
その頃レーンはエレナが行きそうな場所を精いっぱい、小さな頭で考えていた。村にいないとなると、山か湖しか残されていない。そんなときふと思い出した。
メーガンおばさんが言っていた物語に登場する小さな天使、「アンジェリーナさん、そうだよ! 麦畑だよ!」とレーンは思い当たり急いで麦畑に向かうことにしたのだ。
レーンは自分が空腹なことなど、すっかり忘れていた。頭の中ではエレナのことしか考えられなかったから。
*
ロンの父親からエレナが山の方に向かったということを聞いた、カイルは村人数人を連れて山に登ることにした。
ヘレナ達は湖を捜すことにした。山を捜す者と湖を捜す者に分かれ捜索を開始する。ランプの光が樹々を照し、樹々たちは不気味な影を映し出す。
太陽が昇っているときには分からないが、世界が闇に包まれると普段は気にしない些細な音にも人々は敏感に反応するようになる。
「山の本道をもし外れているんだったら、俺達には捜しようがねーよぉな……」
村人の一人が言った。
それを聞いたカイルは、「…………」ただ黙るしかない。
三十分はど、山を登ったとき、「小さい女の子の足でこれ以上は登れないよ……明日の朝にでももう一度山を捜そう……でないと俺たちまで道に迷っちまう」またも村人の一人が言い出した。
普段はおとなしいカイルだがこのときばかりは、「あの子は、大人が思うほどやわじゃない! 登るつもりだったら、こんな山登り切れる!」と村人に頑として言い放つ。
「…………」
それを聞いた村人は何も言い返さなかった。
いや、言い返せなかった。それからカイル達はどれほど歩いただろう。するとエレナが採りに来た、ベリーの樹をカイル達は発見した。
「おい! あの樹の地面が踏み荒らされてるぞ」
村人の一人が樹を指さしながら言った。総出でベリーの樹に駆け寄る。
しかしエレナがいたはずの樹のそばには、もう誰もいないなくなっていた。
「この近くにいるんじゃないか!」
「みんな! 手分けして探すぞ!」
土が踏まれているのを見た瞬間から、カイルはエレナがここにいたことを確信した。
「エレナちゃん! いたら返事してくれ」
村人たちは総出でエレナの名を呼んだ。しかし帰ってくるのは、反響して帰ってくる自分たちの声ばかり。十人の村人が手分けして近くを隅々まで、捜したがエレナの姿は見つからない。
*
その頃レーンは麦畑に向かっていた。村の家々の玄関先には心配した表情の女の人が、数人立っていた。
今日は満月でランプがなくても辺りを見渡すことができた。
レーンは麦畑に急ぐ、人には説明のできない自信のようなものがレーンにはあった。いうなれば兄妹にしか分からない、不思議な力が強くお互いを導いている。
「はぁー、はぁー、はぁー、はぁー」
レーンは息を吐きながら、麦畑を見渡す。月明りに照らされた麦の穂が不思議なきらめきを発している。
麦畑の夜空を淡く、煌めく結晶が漂っているようにレーンには見えた。レーンは舞い降りてきた星空のような世界を見渡した。
「エレナぁー、迎えに来たよぉー!」
出せる限りの声を出し叫んだ。しかし返事は帰って来ない。レーンは麦畑の中に足を踏み入れた。
麦とレーンの体が触れるたびに、穂から不思議な光が空に舞い上がる。気付けば雲に隠れ月の光は、地上を照らしていなかった。
しかし麦畑一帯は、淡く昼のように明るい。レーンはエレナがいることを信じて、麦畑を突き進む。
レーンは夢中で歩いているので気付いていない。これほどまで、この麦畑は広くないことに。どれほど歩いたことだろうか。稲穂をかき分けた先に、人影が立っているのが見えた。
目を凝らし人影を確かめると、レーンはポツリと言葉をもらした。
「エレナ……」
目の前にエレナが立っていた。
不思議な光が横顔を照らし、幻想的な少女はそこにいた。