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お花摘み

 ヘレナとカイルは、かごいっぱいに白く輝く花を持って帰ってきた。


「パパ! ママ! ごめんなさい、すっかり忘れちゃってたわ」


 草をかき分けながら、エレナは二人のもとまで駆け寄り、ヘレナに抱きつく。ヘレナは花冠をつけたエレナの髪をなで、「かわいい、冠をつくったのね」と冠をゆびでつつきながら言った。


「かわいいでしょ! みんなかわいいって言ってくれたのよ!」


 ヘレナのお腹に顔を押し付けいたエレナは、見上げ猫のようなくりくりの目をヘレナに向け言った。


 すると、エレナに追いついた、レーン、レノ、ロンはバスケットの中を覗き込み、「何の花なの?」とみんなが疑問に思っていたことをレーンが代弁する。


「シェドゥーブルっていうバラ科の花だよ。お湯で蒸らすと美味しいアロマティーになるんだ」


「へぇ~そうなの」


 再び子供たちはかごの中を見る。

 三人は食い入るようにそのシェドゥーブルという花を見つめた。

 白くて、花弁一枚一枚が、まるで生きているかのように脈打ち、揺れている。


「パパ、ママ、ありがとう!」


 ヘレナとカイルは顔を見合わせ、一緒に微笑んだ。


  *


 家に帰ってきたときには、村中が夕日にそまり、橙色(だいだいいろ)に輝いていた。想像以上に時間がかかってしまった、と思うカイル。


 予定では昼のあいだに、シェドゥーブルを見つけて、湖に行くつもりだったのだが。まぁ、焦ることもないだろう。

 

「それじゃあ、また明日ね~!」


 家路につく、ロンとレンの背中にエレナは語りかけ、手をふった。レーンも手をふる。ロンとレンも姿が見えなくなるまで手をふり続けていた。

 夕日に照らされ大地が輝いたとき、二人の姿は見えなくなっていた。


  *


「あぁ~疲れた~」


 エレナはベッドに倒れ込み、年寄りじみた声を出す。

 

「いよいよ、もうちょっとね」


 倒れ込んだ状態で、レーンの方に顔を向けてエレナはいった。


「なにが?」


「あと少しで、アンジェリーナさんに会えるんだわ」


「あぁ~」


 エレナに協力はしているが、どうしてもレーンはそんな伝説を信じられない。信じられないのに――信じる方がおかしいのに、どうしても否定する気にはなれないのだろう、レーンは自分が不思議だった。


「早く寝ろよ、明日も早起きしなきゃいけないんだから」


「はぁ~い!」


 そう元気にいって、エレナは毛布にもぐりこんだ。しばらくすると、規則正しい寝息になり、寝てしまったことが分かる。僕も疲れた、と大きなあくびをして、レーンも眠りについた。


 *


 翌日、「おはよう!」と朝っぱらから元気な声でエレナに起こされる。どうせ起こされるなら、小鳥のさえずりで起きたかった、とレーンは思う。


 いつもなら、レーンの方が早起きなのだが、今日はエレナが一番だ。こういうときだけ、元気のいいことである。


 しばらくして、カイルとヘレナが起きてきた。


 二人を見つけると、「あら! 今日は二人とも早起きね」と、驚いている様子だった。


 となりから、カイルが、「本当だな。珍しい、雨でも降るんじゃないか」と、茶化しを入れてくる。


 そのたびに、エレナは肩を躍らせ、「私だって早起きぐらいするわよ!」と二人に食って掛かった。

 

 目を見合わせた三人は何がおかしかったのか、笑い合った。

 丁度朝食を食べ終えたころだった。玄関が鳴り、「来たぞー!」とロンが扉のすき間から顔を覗かせた。


「あ! ロン、来てくれたの!」


 椅子から立ちあがり、ロンのもとに駆けるエレナ。

 ロンが扉を開けると、ロンの後ろからレノがあらわれた。


「レノも来てくれたのね!」


 エレナはレノに飛びついた。

 家の奥からヘレナが出てきて、「あら、あなた達も早いわね」といってから少し考え、「うん、そうね。もう準備はできているから、行きましょうか」というと、奥の部屋に引っ込んでいたカイルを呼んだ。

 お茶会に招待してもらう、最後の条件、花摘みである。



 花畑についてみて、レーンも、エレナも、ヘレナも、カイルも、目を疑った。いや、目を疑ったというものではない。いま見ているものが夢か幻か、きっと夢に違いない。


「おー! 来た来た、水臭いじゃないか!」


 そういったのはおじさんだった。おじさんだけではない、手の空いている村人たちが、湖に集まっていた。


 おばさん、おじさん、お兄さん、お姉さん、子供から、老若男女みんなが集まっていた。

 

 あごが落ちるという表現では物足りないぐらい驚いている四人のもとに、一人の少女が駆けてきて、「はい!」と何かを差し出した。


「わあァ! 綺麗」


 エレナは少女から花束を受け取った。


「あ! アンちゃん! どうしてここに?」


 その少女とはエレナと大の仲よし、アンだった。

 そういえば、エレナが行方不明になったとき、心配してくれていた。それなのに、すっかり見つかったことを知らせるのを忘れてしまった。


 悪いことをしたな……とレーンは、「アンちゃん、この前はごめん」という。

 

 アンは意味が分からずに、「え……何がです……?」と戸惑い気味だ。


「あんなに心配してくれていたのに、エレナが見つかったとき、知らせるのを忘れてて……」


「あぁ~」とため息のような声をだし、「そんなことですか、気にしないでください。翌日、ママから教えてもらえましたから」


 レーンとアンの会話にしびれを切らしてエレナは、「どうして、みんながいるの!」と急に割って入った。


 すると、アンは、「ああ~私たちもアンジェリーナさんお茶会に招待してもらおうと思って」と満面の笑みでいったのだった――。

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