見つけた!
エレナは「わぁぁぁぁー!」という声をあげながら、川辺までか駆けて行った。ロンもレノもエレナのあとを追うように、駆けだした。レーンは一人取り残される。
それを見かねて、「どうしたの? 一緒に行ってきなさいよ」と、ヘレナがレーンの背中を押した。
戸惑いながら振り返ると、ヘレナとカイルがやさしい目でレーンに、「あなたも行ってきなさい。あとは私たちで探しておくから」と語りかけてくれた。
戸惑いながらも、レーンはうなずき、「待ってよ! 僕を置いて行かないでよ!」と三人のあとを追う。レーンの背中を見送りながら、カイルとヘレナは微笑み合った。
*
「ねぇ! 見て四つ葉のクローバーを見つけたわ!」
そういって、エレナは誇らしげに、一本の四つ葉のクローバーを掲げた。クローバーが風に揺れて、踊っていた。
「本当ね! 他にもあるかしら?」
レノは羨ましいそうに、エレナの持つ四つ葉のクローバーを見ていった。
「探せばまだあるわ!」
そういって、草と草をかき分けながら、エレナは四つ葉のクローバーを探す。すると、「ほら! またあった!」ともう片方の手で、今見つけたばかりの四つ葉のクローバーをみんなに見せるエレナ。
エレナは新しく見つけた方の、クローバーをレノにゆずった。
「もらって、いいの?」
申し訳なさそうに、レノがそういうと、「探せばいくらでもあるわ。持って帰ってしおりにしましょ」と三日月のかたちにまぶたを細め、微笑んだ。
はしゃぎまわる三人はすっかり、ここに来た本当の目的を忘れていた。エレナとレノは草冠を編み、ロンは虫を追っている。レーンは楽しそうに遊んでいる三人の邪魔することができず、黙って目的を思い出してくれるのを待つ。
「エレナちゃん、かわいいわぁ~!」
レノは両手をあわせて、エレナを褒める。
む~確かに蓮華の淡い紫とシロツメクサの、やさしい白色がエレナの栗色の髪の毛と引き立って、似合わないではなかった。
と、レーンは思ったが恥ずかしくて、「似合う」とは言えない。すると、虫取りに疲れたロンが戻ってきて、「ぉお~すごい似合っているぞ!」とエレナを一目みたそばから言った。
「な! 似合っているよな?」
ロンはとなりに座っていた、レーンに問う。
「え……あ……うん」
突然のことに反応できず、気の抜けた声をあげ、レーンはうなずく。それを聞いたエレナは、「よかったぁ~」と頬を赤らめ、嬉しそうに言った。それを見て、レーンまで頬を赤らめる。
*
いっぽうその頃、ヘレナとカイルはもくもくと、ある花を探していた。
「本当にこの辺りにあったの?」
疑わし気な声でカイルに訊くヘレナ。
「それが……僕もハッキリとは知らないんだ……」
「どうしてよ……?」
さらさらと流れる、川の流れを聴きながら、「人に聞いたんだ……この山の川辺で見たって……」カイルは声を落として、自信なさげにいった。
「そう! ならきっとあるわね。もうしばらく探してみましょう」
ヘレナはもじもじするカイルの腕を引き川辺を再び歩き始めた。
*
「あ! 忘れてた!」
新しい草冠を編んでいたエレナは突然、大声をあげた。その声に驚き、レノとロンは、「どうしたの?」と同時に訊ねた。
「そういえば、ハーブ探しに来たのよ」
やっと思い出してくれた、とレーンはこのまま一生思いださないんじゃないかと、困り果てていた気持ちから解放された。よかった~。
「あぁ~……本当ね……すっかり忘れてたわ……」
「俺も……」
さっきまでの笑顔を一転させ、三人は気落ちする。
「探しに行きましょ」とエレナは立ち上がったとき、「パパとママが探しておくから、僕たちは遊んでていいって言ってたよ」と、ようやく知らせることができた。
「……でも……」
「今僕たちがここから動いたら、迷子になっちゃうだろ。おとなしくここで待ってないとダメだよ」
レーンがそういっても、三人はまだ、迷っているようだった。僕たちがいま行っても、行き違いになるだけだ、レーンのいうことは的を射ている。
だから、レノとロンは何も言わない。
しかし、エレナだけは申し訳なさそうに、うつむきほっぺたを膨らませる。このままだったら、一人でも探しに行きかねない、そうなったら、僕が止めないと、とレーンが思ったときのこと、「おーい! 見つかったぞー!」とカイルの声がした。
*
川の流れが、森の奥深くへと続く。
開けた原っぱを川辺にそって進んで行くと、川が二股に分かれ片方は鬱蒼と樹々のしげる森に続いていた。さすがに、森の中にはないだろう、とカイルは諦めようと思い始めたとき、「行ってみましょう」とヘレナが振り返り森を指さした。
「え……ここから先は森だよ……さすがに森にはないんじゃないかな~……」
「行ってみなきゃ分からないじゃない」
カイルが言いよどんでいると、「分かったわ、私が見てくるから、ここで待ってて」とヘレナは一人森に入って行った。そんな妻を一人で行かすわけにもいかず、カイルも渋々後に続く。
「川辺から外れちゃダメだよ」
カイルはヘレナが川辺からそれそうになるたびに、注意する。やれやれ、これじゃあ、エレナと変わらない。エレナはヘレナに似たのだ、と思うカイルであった。
またも、川辺からそれそうになったそのとき、「ねぇ……あなた……」ヘレナは間の抜けた声をあげでカイルの肩を叩いた。
カイルは不審に思い、「どうしたんだ……?」とヘレナの横まで歩み寄ると、目を疑った。
ヘレナが指さす先には、外側はピンクに近い白色をし、花弁が淡い黄色を帯び、包み込むよう白く輝く花が川辺に咲き誇っていたのだ――。




